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進行性核上性麻痺

公開日:2016年7月25日 13時00分
更新日:2019年2月 7日 18時36分

進行性核上性麻痺とは

 パーキンソン症候群の一つであり、歩行障害や眼球の運動障害、認知症、嚥下障害などの様々な症状を呈します。特に、歩行の際のすくみ足や立ち直り反射障害、突進現象の出現により、転びやすさが目立つようになって発症に気づくケースが多いようです。

 進行性核上性麻痺はパーキンソン病と比べて進行が早い上、現在のところ根本的な治療法は確立されていません。

 発症は40歳代以降で、多くは60歳代で発症しています。男性の方が多い傾向にあり、日本における有病率は人口10万人当たり10~20人程度で、増加傾向にあります。

 2003年よりパーキンソン病関連疾患として、厚生労働省特定疾患治療研究事業に指定されています。

進行性核上性麻痺の症状

 進行性核上性麻痺の症状には、転びやすさの他に、眼球の運動障害、頚部後屈などの姿勢異常、パーキンソニズム、構音障害、嚥下障害、認知機能障害などがあります。

転びやすさ、歩行障害

 進行性核上性麻痺に最も特徴的なのは、初期の段階から何度も転倒を繰り返すという点です。しかも、転倒時にとっさに手で支えるという反射が起こりづらくなるため、顔面や頭部などに大きなケガを負ってしまうこともあります。さらに、注意力や危険認知能力が低下することにより、何度も転倒を繰り返しやすくなります。

 進行性核上性麻痺の歩行障害としては、歩行しようとしても足がすくんで前に出しづらくなる「すくみ足」や、歩いているうちにスピードがどんどん速くなってとまれなくなる「加速歩行」などがありますが、こうした歩行障害の出現も転びやすさの原因となっています。

眼球の運動障害

 垂直性核上性麻痺という病名の由来ともなる「垂直性核上性注視障害」と呼ばれる眼球の運動障害が出現します。上下方向、特に下方への眼球運動が障害されることによって、さらに転倒のしやすさを引き起こします。

 進行するにつれて左右の眼球運動も障害されるようになり、やがて眼球は正中位から動かせなくなくなる「固視」という状態になります。

パーキンソニズム

 パーキンソニズムとは、パーキンソン病の主な症状として出現する固縮、動作緩慢、姿勢反射障害などの症状のことを指します。

 進行性核上性麻痺におけるパーキンソニズムは、パーキンソン病で出現する症状とは少し異なるのが特徴です。例えば、パーキンソン病における固縮は、四肢の関節が固くなるのに対し、進行性核上性麻痺では頚部体幹に強く発現し「体軸性固縮」と呼ばれます。パーキンソン病と同様に、動作の緩慢さや無動等の症状がみられますが、進行性核上性麻痺の場合、動きが止まった状態から突然立ち上がったりすることもありますので、注意が必要です。

構音障害・嚥下障害

 進行性核上性麻痺では初期の段階から構音障害によるしゃべりづらさ、発音の聞き取りづらさなどが見られます。

 ものが飲み込みにくくなったり、誤嚥を起こしたりする嚥下障害は、発症後3~5年程度で出現するとされています。

認知障害

 進行性核上性麻痺における認知障害は、物忘れを中心とするアルツハイマー病による認知障害とは症状が異なり、前頭葉性の認知障害を中心とした症状が出現します。例えば、声掛けに対する反応に遅れが生じたり、情動や性格に変化が生じることで無気力・無関心になったりします。

進行性核上性麻痺の原因

 脳内の特定の部位(黒質、中脳、淡蒼球、視床下核、小脳歯状核)の神経細胞が減少し、神経細胞の中に線維状の塊ができる「神経原線維変化」が出現します。しかし、なぜこのような変化が起こるのかについての原因はまだ解明されていません。

進行性核上性麻痺の診断

 頭部MRIにおいて、脳幹(特に中脳被蓋部)や前頭葉の萎縮を認めます。

 脳血流シンチでは、前頭葉の血流低下が描出されます。

進行性核上性麻痺の治療

 進行性核上性麻痺の根本的な治療はまだありません。

 パーキンソン病の治療薬や抗うつ薬が効く場合もありますが、一時的な効果しかないことがほとんどです。

 進行性核上性麻痺の症状の軽減や進行予防のためには、リハビリテーションが有効です。

理学療法

 関節の拘縮予防や転倒予防、筋力の維持といった身体的な能力の維持向上をはかります。

作業療法

 日常生活における動作指導や環境調整、役割の楽しみの提供などの支援を行います。

言語療法

 嚥下障害に対して食事の形態の工夫(刻み食やミキサー食など)や、経管栄養(管を通して直接胃腸に栄養を入れる方法)の指導、嚥下体操の指導などを行います。構音障害に対しては発声訓練などを実施します。

進行性核上性麻痺の予後・ケア

 進行性核上性麻痺は進行が速く、発症後2~3年で車椅子、4~5年で寝たきり状態になると報告されています。個人差もありますが、平均的な生命予後は5~9年程度とされており、肺炎や痰による窒息などが死因となるケースが多いようです。

 進行性核上性麻痺のケアのなかでも重要になってくるのは、環境調整です。転倒予防のためには、ベッドの周辺の環境を整えたり、ベッドやトイレなどに手すりを導入したりといった配慮が必要となります。

 また、進行性核上性麻痺の死因の一つともなる肺炎を予防するために、誤嚥を防ぐことも大切です。嚥下の状態に応じて食事形態を変更したり、水分にとろみをつけたりすることで誤嚥が予防できます。痰の窒息を防ぐために、痰の吸引などのケアも必要となることがあります。

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