健康長寿ネット

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将来、ロボットと人間が共存する社会に(高橋 智隆)

写真1:第21回対談風景写真。祖父江理事長と高橋智隆氏

シリーズ第21回 生き生きとした心豊かな長寿社会の構築をめざして

 わが国がこれから超長寿社会を迎えるに当たり、長寿科学はどのような視点で進んでいくことが重要であるかについて考える、シリーズ「生き生きとした心豊かな長寿社会の構築をめざして」と題した各界のキーパーソンと祖父江逸郎・公益財団法人長寿科学振興財団理事長との対談の第21回は、高橋智隆・株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授をお招きしました。

ロボット技術の発展が高齢社会を支える時代になるか

祖父江:これからの日本には少子化と高齢化の2つの問題があります。働き盛りの人口がだんだん減っていき、高齢者の比率が非常に高くなる。20~30年後には高齢化率35%を超えると予想されています。2~3人で1人の高齢者を支える時代がもう目の前に来ているわけで、介護に必要なマンパワーをどのように確保するのか、増え続ける認知症高齢者にどのように対応していくのかが問題となっています。

 そのような中で、ロボット時代の到来が高齢社会に大きく関わってくると思います。そこで、ロボットクリエーターの高橋智隆先生に、ロボットの介入でどれくらい高齢社会に対応できるのかについて伺いたいと思います。

高橋:ロボットやAI(人工知能)が「健康的で文化的な生活」に貢献できるところは大いにあると思います。ただ、われわれは高齢者だけを対象にロボットを開発しているわけでなく、「ロボットとともに暮らす社会」をつくることによって、高齢になっても抵抗なくロボットを使い続け、高齢者を抱える世帯はロボットの助けによって、結果的に介護に時間を割きやすくなると思います。

 ロボット技術の発展と私たちの暮らしの中にロボットが"文化"として入ってくることの両輪を、時間をかけて進めていくことによって、高齢社会の問題は解決とまではいかなくても緩和するのではないかと思います。

祖父江:最近はAIの発達がめざましく、また筋肉労働をサポートするロボットなど、いろいろなロボットが私たちの生活に入ってきました。ロボットと人間が共存する時代が間もなく来るのではないか。アンドロイド型の人間そっくりのロボットにあまり違和感を覚えない時代が来て、ロボットが人間の話し相手になったり、作業のサポートをしてくれる可能性が十分にあるのではないでしょうか。

高橋:十分あると思います。ただ、アンドロイドのような人間そっくりなロボットができるとは思ってはいなくて、また、それはあまり必要がないと思っています。ある程度、抽象化したロボットのほうがよいと考えていて、実際に小型でロボットらしさを残したもので十分にコミュニケーションが取れていると思います。

 一方で、作業ロボットとしては、掃除は掃除するロボット、防犯は警備システム、食器洗いは食洗器というように、こうした作業は作業ロボットや家電製品が分担して担っていくのだろうと思います。

写真2:ROBI(ロビ)の写真

人とロボットの信頼関係をどう築いていくか

祖父江:高齢社会でロボットに期待するのは特に介護分野で、今後どのような役割をロボットが担うことができるのか。さらに技術が進めば、医療の分野にも介入できるのでしょうか。

高橋:医療においては、レントゲン、MRI、CTの画像解析で病気の変調をみつけることに関しては、AIは人間よりも優れています。今後、患者さんのふるまいをビデオに撮り、それをもとに病気を推定することもできると思うので、医療現場でロボットが活躍する場があると思います。

 ただし、介護についてはむずかしいでしょう。介護現場で活躍する人工知能を入れたロボットとなるとハードルが高いのが現状で、作業を伴うところにロボットは未熟な面があります。入浴介助などにおいてはロボットというより、人の作業の補助装置といったものが有効なんだと思います。

 同じように、認知症の患者さんとのコミュニケーションに関してもむずかしい。ではロボットに何ができるかというと、認知症にならないように予防的にコミュニケーションを取っていくことなのではないかと思います。

祖父江:将来的にも認知症の人とのコミュニケーションはむずかしいでしょうか。

高橋:会話がどれくらい正確で長続きできるかという技術的な問題と、もう1つは「人とロボットの信頼関係・友人関係をどう築いていくか」という問題があり、これは必ずしも技術的な問題とイコールではありません。

 それからもう1つ、今の介護現場において認知症患者さんにロボットを導入することは、私はむずかしいと思います。なぜなら、今までの生活の中でロボットを使った経験がないからです。ですから若いうちからロボットを使い続けて、ロボットとの関係性が築けて、その方々がお年を召されたときにロボットが活躍していくというのは十分可能なシナリオだと思います。それは、高齢になってからスマートフォンを使うのはなかなかむずかしいのと一緒で、若いうちから使い慣れていれば何の苦もなく使うことができます。

写真3:高橋智隆氏の対談風景写真

ロボットが得意で高コストな作業から代替していく

祖父江:少子高齢化の社会において、いろいろな作業の一部をロボットに担ってもらい、マンパワーをセーブしていくことを期待しますが、この点はいかがでしょうか。

高橋:みなさんが期待しているよりも実際は遅れていると思います。メディアが先走っている部分もあるし、われわれ開発者も「こんなすごいことができる」と言ってしまいがちで、期待をあおるような状況になっているように感じます。

祖父江:しかし、急激に最近ロボットのことが話題になって、将棋の対決でAIが名人に勝ったなどを含めて、関心が高くなってきたことは事実ですね。

高橋:そうですね。部分的に人間の知性を超えてきているけれど、囲碁の世界チャンピオンを破ったから人類よりもすべて賢くなったというと全然そうではなくて、囲碁では強いかもしれないけれど、他のわれわれが当たり前にやっていることが何もできなかったりします。

祖父江:人間の場合は万能性があるが、ロボットはある部分の特殊な能力に長けているということですね。

高橋:ロボットや人工知能にも得意なものと不得意なものがあって、囲碁、将棋、レントゲン写真の判別、税金の計算、司法判断など、そのあたりは得意なところです。逆に洗濯物をたたむといった単純なことがロボットにはむずかしい。

祖父江:ロボット導入はコストの面で見合うのですか。ロボット制作に多額の費用がかかるなら、マンパワーセーブのためにロボットを利用する意味がなくなると思います。

高橋:おっしゃるとおりです。まず1つは、「ロボットにとっては簡単だけど、人にとってはむずかしく、コストをかけて行っているもの」から代替していくことです。税理士、弁護士を雇えば高価なので、それをロボットが代行すればコスト的に見合う。

 逆に、多くの家事労働は、コストは低いけれどもロボットにとってはとてもむずかしい作業であって、そこをロボットが代行するのは意外とむずかしいと思います。ただ、市場は大きいし、日常生活の中でロボットを使ってもらうと、その周辺のサービスがいろいろ出てくる。たとえば、ロボットを使用する中で日用品や音楽の楽曲を購入できたり、そういった周辺のビジネスにつながっていくと、ロボット本体の価格を押し下げます。

 つまり、コストがかかるロボットでも、ぐっと値段を下げて普及させて、その周辺のサービスからお金を回収するという方法もあると思います。

祖父江:まずはロボットの需要がどんどん増えることがポイントで、台数が増えれば、現在よりはコストは下がるということですね。そうすると、そういう段階までいかないと、本当の意味での人間とロボットが共存する社会がつくれないかもしれませんね。

高橋:そうですね。「ロボットが高価だから普及しないという問題」と「普及していないから高いという問題」と、どちらが先か。そこはとてもむずかしいところです。誰かが先に資金を投じてロボットを安価に普及させる方式など、何かうまいビジネスの仕組みを考えないと行き詰まってしまいます。

人より正確なロボットがミスしたとき社会は容認できるか

祖父江:スーパーマーケットの店舗で膨大なストックの中から商品をピックアップする場面では、ロボットがかなり役に立っていると聞きます。

高橋:倉庫の中で活躍するロボット、たとえばアマゾンという通信販売の会社はそれを使っています。倉庫の中で活躍するロボットを開発した会社を700億円ほどで買収しました。その金額にも驚きますが、その会社をアマゾンが買収したことによって、他の会社がそのロボットを使えなくなってしまって、さあ困った、となっています。それほど倉庫内の商品管理の分野ではロボットはなくてはならないものになっています。

祖父江:製品の管理などはロボットがかなり担っているようですが、今後、医療の世界ではロボットによる薬品管理が注目されているようですね。種類が増え続ける薬品を薬剤師など人間の力で管理しているのですが、これをロボットができるのではないか。ただ、1つ間違いが起こると、薬ですから大変なことになるので、ロボットがどれだけ正確に作業をできるのかが問題になるわけですね。

高橋:それは自動車の自動運転の問題と一緒で、おそらく薬剤師さんが行うよりも、コンピュータのほうが正確です。それでも100%ではないので、ミスが起きた場合に誰が責任を取るのかというところで、その合理的な判断を社会が支持してくれるのなら、自動化するべきだと思います。

祖父江:ロボットが製品管理をする場合にミスは起こらないですか。

高橋:人間が行うよりもはるかにミスを起こす確率が低いですね。たとえば、自動運転。人間が自動車を運転すれば、うっかりミスを起こすわけです。その人がそそっかしいというだけでなくて、事故が起きやすい交差点、事故が起きるパターンが決まっていて、それは避けられない。しかし、それはロボットによってすべて回避できるわけで、事故率としてはすでに低くなっているのではないかと思います。

 人間よりも事故率が低いのであれば、自動運転がいいのではないかと思いますが、自動運転で人身事故を起こしてしまったとなれば、社会的に容認されないでしょう。もう少し技術が進歩してより明確に事故率が少ないと数字で差を示すことができれば、自動運転に移行できるのではないでしょうか。

写真4:祖父江理事長の対談風景写真

人工知能はクリエイティブに進化して"考え始めた"

祖父江:医学は情報科学です。診断をする場合には、今までのいろいろなケースを分析し情報を集めて、あらゆる可能性をチェックしながら、その人が今どういう病気にかかっているのかを決めていく。そういう診断はロボットができるのではないかと期待しています。しかし、今までそのような診断機器がたくさん世の中に出回ったのですが、すべてうまくいきませんでした。

高橋:今の人工知能が過去の人工知能と違っている点は、たとえば「熱は何度ですか?」「おなかは痛いですか?」「どのあたりが痛いですか?」など、人間が考えて設問を設定していたのが、これからの診断システムにおいては、その設問自体を人工知能がつくっていけるというところです。

 たとえば、全然関係のない質問をして、そのときのリアクションから何かを読み取るなどです。今までのようにアンケートのチェックシートを機械(ロボット)に代行させるという考え方でなく、何を聞くべきか、どういう順番で聞くべきか、こう答えたら次は何を聞くべきか、そしてどういう質問項目を考えるべきか、そこから何を読み解くかを、人工知能が自分で編み出していくならば、ひょっとすると人が問診していく以上の情報が得られ、精度の高い判断ができると思います。

祖父江:AIがデータを集めながら、AI自身が"考えながら"次の質問に移っていくところが、進化したポイントですね。"考えること"は人間にしかできない特長だと思っていましたが、変わってきたということですね。ロボットが考えることができる時代になってきた。ディープラーニングが可能になったということですね。

 囲碁や将棋もそうですか。打っていく中で考えていくのですか。

高橋:今まで人間が打ったことがない手を考える。プロの棋士が逆にコンピュータが打った手を学ぶ。今までは過去の対局で指された有効な手を皆が勉強していた。ある意味、ロボットがクリエイティブになったということです。

祖父江:クリエイティブの範囲はさらに広がると思いますか。

高橋:そう思います。ただ、「こんなすごいことができるのか」と思う一方、「こんな簡単なこともできないのか」と、がっかりする部分もあります。得意なところもあれば、不得意なところもある。

祖父江:ロボットが人の表情や目の動きを絶えずキャッチして、そこで得た情報を過去のものとかけ合わせて、相手の考えを推定できるのか。相手が次に何をしたいのかというところまでを想像できるのか。ロボットはそこまでいけるでしょうか。

高橋:いけると思います。今できていることとしては、歯が見えているから笑っているだろうと推定はできます。こんな表情をしているから「悲しんでいるのだろう」など、過去の対話や人の動画を見てロボットは学習しています。

 しかし、感情が推定できても、それに対してどのような言葉をかけるべきかは、また別問題です。「この話をして相手が喜んだ。では次にどんな話の展開をしよう」というのは、過去の人の会話から学んでいきます。たとえば、挨拶の後には天気の話をする可能性が高く、「暑いですね」の後には「夏休みはどこかに行かれるのですか」などのよくあるパターンがあります。そのような膨大なデータを学習していき、そのときの相手の表情や言葉からどのような話の展開に持っていくべきかを判断して、次の言葉を紡ぎ出せるようになると自然な会話が実現します。

人の生活に入り込むことでロボットは進化する

祖父江:ロボットが人間の生活に入り込むには、ロボットの機能がそこまで向上しない限りむずかしいように感じます。

高橋:そうですね。しかし一方で、人間の生活に入り込まないとロボットの機能は向上しないわけです。現状でそこまで機能が高くなくても生活に取り入れて使い始めてもらって、その中で進化させていく。ロボットのハードの部分もソフトの部分も次の世代に向かってどんどん進化し、ロボット自体がデータをどんどん蓄積して学習していく。そういう意味で、今の不十分なロボットをいかに生活に取り入れていくかに尽力しなければなりません。

祖父江:最後に、ロボット開発者の立場から高齢社会に対して何か提言をいただければと思います。

高橋:高齢者向けの介護ロボットが開発されて、高齢者の方々に役立つロボットがどんどん生まれてくるのかというと、それはむずかしい話です。しかし次の世代、さらに次の世代にはもう少しロボット技術が進歩していくだろうと、そのくらいのタイムスパンで考えています。認知症の特効薬が今すぐにできないのと同じで、時間をかけて何世代もかけて、少子高齢化の問題や認知症の問題に貢献できるロボットは開発できると思います。

 医療も同じだと思います。今、有効な治療法がない病気でも、次の世代にはその病気はさほど脅威ではなくなっているかもしれません。

祖父江:今後、ますますロボットが普及して、人間とロボットが共存する社会が来ると思いますか。

高橋:そう思っています。それは特別なものでなく当たり前のものとして普及すると思います。インターネットが当たり前になったのと同じように、ロボットが当たり前になる社会が来ると思っています。

祖父江:本日はお忙しいところ貴重なお話をありがとうございました。

対談者

著者写真:高橋智隆氏

髙橋 智隆(たかはしともたか)

1975年生まれ。2003年京都大学工学部卒業と同時に「ロボ・ガレージ」を創業し、京大学内入居ベンチャー第1号となる。代表作にロボット電話「ロボホン」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」、デアゴスティーニ「週刊ロビ」、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。ロボカップ世界大会5年連続優勝。米TIME誌「2004年の発明」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定。(株)ロボ・ガレージ代表取締役、東京大学先端研特任准教授、大阪電気通信大学客員教授、グローブライド(株)社外取締役、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.84
Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.84(新しいウィンドウが開きます)

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