健康長寿ネット

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身体機能とフレイル

新開 省二(しんかい しょうじ)

地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究部長

フレイルとは

 フレイルは、加齢に伴いさまざまな要因が関与して生じ、多臓器にわたり生理的予備力が低下するため、ストレスに対する脆弱性(vulnerability)が増し、負の健康アウトカム(adverse health outcomes;転倒、障害、施設入所、死亡など)を起こしやすい病態と理解されている1)。一言でいうと危ない(ハイリスク)状態であり、また、一端状態が悪くなると回復力が弱いため、坂を転げ落ちるように悪化していく。さまざまな要因が関与して起こり(multifactorial)、共通した一群の症状を呈する(syndrome)、多要因症候群(multifactorial syndrome)である。

簡易版虚弱指標

 フレイルをどう定義するかについてはいまだコンセンサスがないが、これまで最も使われてきたのはFriedらの定義2)である。われわれはFriedらの定義に準拠してフレイルを定義し、それを簡便な質問紙でスクリーニングする指標3)を開発している。15項目の質問からなり、それぞれ「はい」か「いいえ」で答える。ネガティブな回答に1点を与え、合計得点を算出する(得点範囲:0~15点)。得点が高いほどFriedらのフレイルに該当する確率が高くなる。3/4点をカットオフ・ポントとし、4点以上をフレイル、3点以下をノンフレイルとみなすと、Friedらのフレイルを感度70%、特異度90%で予測する。一致率は88%であった。

 また、4点以上の人を追跡していくと、のちに介護認定に至ったり、死亡したりするリスクが3点以下の人に比べて極めて高い。2年後および4年後にADL障害を発生するリスクはそれぞれ7.58倍、4.97倍であった。同指標は特別な検査(握力、歩行速度あるいは身体活動量の測定など)を必要とせず、短時間で容易に回答できることから簡便で汎用性がある。われわれは長年にわたって同指標を用いてフレイルの疫学研究を行ってきた。

フレイルの特徴4)

 図1は、群馬県草津町に在住する70歳以上の全高齢者1,039名のうち、訪問面接調査(2001年)に応答した916名(88.2%)における、性・年齢階級別のフレイル出現頻度である。男性は80歳以降、女性は75歳以降にフレイルの出現頻度が急増する。全体では29.3%の出現率であった。

図1:性・年齢階級別のフレイル出現率を表す図

分析対象:草津町の70歳以上高齢者916人(対象年齢人口の88.2%)

図1:性別・年齢別にみたフレイルの出現率4)から引用、一部改変

 表にフレイルな高齢者が持つ特徴をまとめた。対象者は、草津町および新潟県旧与板町で70歳以上住民を対象にした会場型健診を受診した1,005名である。この集団におけるフレイルの出現率は13.1%であり、上記訪問面接調査でのフレイルの出現率(29.3%)よりもかなり低い。健診を受診する高齢者は未受診者よりも機能的健康度(functional health;身体機能や生活機能などの水準)が高いものが多い。健診でみられるフレイルと訪問調査でみられるフレイルはその程度が異なることに注意が必要である。概して「健診でみられるフレイルは程度が軽い」とはいえ、健診では訪問調査で入手困難な客観的な健康情報(体力測定や血液検査値など)を入手することができる。

 そこで、健診受診者において簡易版虚弱指標でフレイルと判定された128名(男性48名、女性80名)とノンフレイルと判定された846名(男性344名、女性502名)とを比較しフレイルの特徴をまとめた(表)。

表:フレイルの特徴
特徴男性女性
聴力障害(あり)
総合的移動能力(レベル2以下)
階段昇降(難儀・できない)
外出介助(必要)
多剤服用(5種類以上)
BMI(18.5未満)
握力
歩行速度
既往歴(脳卒中)
既往歴(糖尿病)
血液検査(随時血糖)
血液検査(HbA1c)
動脈硬化指標(ABI)
動脈硬化指標(baPWV)
高次生活機能(IADL)
高次生活機能(知的能動性)
高次生活機能(社会的役割)
健康度自己評価
抑うつ(GDS短縮版6点以上)
認知機能(MMSE総得点)
認知機能(言語流暢性再生語数)
喫煙習慣(あり)

参考文献4)に基づいて作成。

同性のノンフレイルと比較し、年齢、地域、ADL障害の有無、複数罹患(comorbidity)の有無を調整してもなお統計的に有意差(p<0.05)があった項目。

ノンフレイルと比べて↑は多い(高い)、↓は少ない(低い)を表す。

ABI;ankle-brachial index, baPWV; brachial-ankle pulse wave velocity, GDS; geriatric depression scale.

 男女で若干傾向が異なるが、共通した特徴としては、1.階段昇降が不自由、総合的移動能力が低い、外出介助が必要であるなど移動能力障害を有するものが多い、2.高次生活機能(IADL、知的能動性、社会的役割)の自立度が低い、3.健康度自己評価や抑うつ度で評価される心理機能が低い、4.MMSEや言語流暢性検査で評価される認知機能が低い、5.脳卒中(男)や糖尿病(女)の既往が多く、ABI(足関節上腕血圧比)値が低くbaPWV(上腕足首脈波伝播速度)が高いなど、潜在的な血管障害がある、6.握力が低く歩行速度が遅いなど身体機能が低いというものであった。

 これらの結果からもフレイルはmultifactorial syndromeであることがわかる。フレイルの特徴は、身体的、認知心理的、社会的な機能(functioning)全般が低い状態ということができる。

フレイルと身体機能

 握力や歩行速度などの身体機能(physical function)が低下すると、身体を移動したり階段を上り下りする移動能力に障害が生じやすい。移動能力障害(mobility-related disability)は、のちにIADL障害(外出、買い物、調理、金銭管理などの生活機能ができなくなること)、さらには基本的ADL障害(トイレ、入浴、屋内移動、食事、整容などの身の回り動作が自分でできなくなること)へと進展しやすい。

 フレイルの高齢者は身体機能が落ちている。したがってフレイル対策では、身体機能の低下を防ぐ、あるいは先送りすることが極めて大切である。一般的に高齢期に身体機能が落ちる原因を整理すると、1.疾病要因、2.栄養要因、さらに3.フレイル・サイクルの3つにまとめることができる。

 疾病要因には、中枢性(脳血管障害、認知症など)、脊椎・脊髄性(変形性脊椎症、脊柱管狭窄症など)の他、末梢性[変形性膝関節症、加齢性筋肉減少症(サルコペニア)など]の疾病がある。

 栄養要因には、高齢期の低栄養が挙げられる。これはタンパク質を中心としてさまざまな栄養素が不足することを特徴としており、いわゆる食事の量自体が少ない「少食」から生じることが多い。したがって、低栄養対策としてタンパク質のみの摂取量を増やすだけでは不十分であり、多様な食品を摂取することがポイントと考えられる。われわれは、高齢者の食品摂取の多様性を評価する尺度として『食品摂取の多様性スコア』を開発している5)。図2、3は、一般高齢者を対象とした調査から、食品摂取の多様性スコア(4分位;Q1~Q4)と体組成(除脂肪量および脂肪量)および身体機能(握力、歩行速度)との関連を調べたものである。多様な食品を摂取していると、体脂肪量は増えないが筋肉などの除脂肪量は増える、握力が強く歩行速度が速いなど身体機能が高いことがみてとれる。このことからフレイルになる前から日々の栄養の取り方に注意が必要といえる。

食品摂取の多様性と体組成との関連を表した図

解析対象: 草津町および鳩山町の在宅高齢者1,063名

多様性得点(DVS)4分位:Q1=0-2点、Q2=2-4点、Q3=4-6点、Q4=6点以上

データ:性、年齢、地域、BMIで調整した平均値±標準誤差

図2:食品摂取の多様性と体組成(未発表データ)
食品摂取の多様性と身体機能との関連を表した図

解析対象、多様性得点(DVS)4分位、データ:同上

図3:食品摂取の多様性と身体機能(未発表データ)

 3番目の要因として、フレイル・サイクル(図4)がある。このメカニズムは、廃用性機能障害のそれとほぼ同じである。フレイルは、「動きにくい→動かない→廃用性機能低下→動けない」という流れで軽度な状態から次第に重度化していく。

軽度な状態から次第に重度化していく悪循環を表すフレイル・サイクルの図
図4:フレイル・サイクル2)を金美芝が改変

 なお、フレイルの廃用性機能低下には、サルコペニア(加齢性筋肉減少症)や低栄養が深く関わっている。身体活動が不足したり低栄養傾向があったりすると筋肉が減少し身体機能も低下しやすい。それが身体活動や摂取エネルギーの低下につながり、さらに筋力や歩行能力といった身体機能の低下に拍車がかかる。したがって、こうした悪循環(これをフレイル・サイクルとよんでいる)をいかにより早期の段階で断って身体機能や生活機能を回復させるかが鍵となる。

まとめ

 フレイルは、身体、認知心理および社会的機能が全般に低下している状態である。身体、認知心理、社会的機能の低下は、それぞれが原因となり、あるいは結果となって相互に影響し合いながら(=足を引っ張り合いながら)進行していく。そのプロセスにおいて身体機能、特に移動能力に関係した身体機能(筋力や歩行能力)が極めて重要な役割を果たしており、高齢期の身体機能の維持・改善に向けた対策はまさにフレイル対策の柱であるといえよう。

参考文献

  1. Walston J et al : Research agenda for frailty in older adults: toward a better understanding of physiology and etiology: summary from the American Geriatrics Society/National Instituteon Aging Research Conference on frailty in older adults. J Am Geriatr Soc. 54, 991-1001, 2006.
  2. Fried LP et al : Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 56A, M146-M156, 2001.
  3. 新開省二ら : 『介護予防チェックリスト』の虚弱指標としての妥当性の検証. 日本公衛誌. 60, 262-274, 2013.
  4. 西真理子ら : 地域在住高齢者における「虚弱(Frailty)」の疫学的特徴. 日老医誌. 49, 344-354, 2012.
  5. 熊谷修ら : 地域在宅高齢者における食品摂取の多様性と高次生活機能低下の関連. 日本公衛誌. 50, 1117-1124, 2003.

筆者

筆者_新開省二先生
新開 省二(しんかい しょうじ)
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究部長
略歴:
1984年:愛媛大学大学院医学研究科博士課程修了、愛媛大学助手(医学部衛生学教室)、1990年:カナダトロント大学文部省在外研究員、1991年:愛媛大学助教授(医学部衛生学)、1993年:同大学助教授(医学部公衆衛生学)、1998年:東京都老人総合研究所地域保健部門室長、2005年より現職
専門分野:
老年学、公衆衛生学。医学博士

※筆者の所属・役職は発行当時のもの

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団 機関誌 Aging&Health No.72 2015年1月発行

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.72(新しいウィンドウが開きます)

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