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笑いがもたらすリラクセーションの効果

公開日:2018年5月25日 08時00分
更新日:2019年8月 6日 14時55分

池田 由紀(いけだ ゆき)
名古屋市立大学看護学准教授

はじめに

 携帯電話やインターネットの普及により私たちの生活は便利になった。しかし、一方で対人関係は希薄となり、孤立化が進んでしまった。特にその影響を受けているのが高齢者である。

 高齢化社会が進む中、独居高齢者や老夫婦だけの高齢世帯、また家族と暮らしていても孤立した生活を余儀なくされる高齢者が増加している。家族である子供も孫もそれぞれの生活に精一杯で忙しく、毎日のリズムや時間がバラバラで家族が一緒に楽しい時間を過ごす機会が少なくなっている。加えて、生理的には高齢になるにつれ、視聴覚器官の機能や認知機能の低下も伴ってくることから、高齢者は家族や他者とのコミュニケーションが取りづらくなる。このように、現代のわが国において高齢者は社会的にも機能的にも孤立化しやすい存在といえる。

 人との関係や環境により生じる不安・緊張の多いストレス社会の中で、次第にリラクセーション(Relaxation)が求められるようになり、特に笑いに注目が集まってきている。笑いには心身をリラックスさせる生理的効果や心理的効果のほか、社会的効果などがあるといわれている。

 本稿では笑いとリラクセーションの関係、笑いがもたらすリラクセーション効果を考察し、高齢者や家族にもできる笑いを用いたリラクセーションの方法の一部を紹介する。

笑いとリラクセーションの関係

 リラクセーションとは、広辞苑によると「心身の緊張をときほぐすこと、リラックスすること」、医学大辞典によると「一般的に息抜き、くつろぎ、休養、骨休め、気晴らしなどといい、また筋肉にかかる緊張やストレスを取り除くために行う運動を指したり、心身のコントロールを図ることを意味する」とある。また、ハーバート・ベンソン1)は「リラクセーション反応は、闘争・逃走反応によって生ずる交感神経系の興奮を鎮め和らげる」としている。

 このように、リラクセーションの概念は幅広く、中北2)は、「ストレスと相対する概念で、緊張状態へ働きかけることによって生じる心身の反応や効果であり、バランスの取れた望ましい状態への変化」と定義。平井3)もリラックス状態とは、「完全に眠っており何もしない状態や弛緩した状態ではなく、緊張と緩和の間の一番最適な状態・位置・場に自分自身をおくこと」としており、リラックス状態の効果として、身体的には筋肉などの過剰な緊張状態を軽減すること、心理的には安定した精神状態を獲得しやすいこと、としている4)。リラクセーションの方法は、呼吸法、漸新的筋弛緩法、自律訓練法、系統的脱感作法など多数の方法がある。

 では、笑いはどういうものなのだろうか。井上5)は、「笑いは身体・心的エネルギーの放出」だという。笑うという行為は、何かしらの面白い・おかしいといった刺激となることに対して、その刺激を受けて「ははは」と声を発し息を吐くと同時に、筋肉に緊張が起こり息を吐き終わる頃に筋肉の緊張が緩んでいる状態。この身体エネルギーの放出が筋肉の緊張を弛緩へと導き、筋肉の過剰な緊張状態を軽減するというリラックス効果となる。

 心理的には、笑いはある現象に対して面白い、おかしいといった情動の動きが起こり、その面白さ、おかしさに意識が集中し「ははは」と笑う。そして、その間は笑いに集中していて、何も余計なことは考えない。息を吐くときに溜めていた心的エネルギーを放出し、心を無にする。

 このように、笑うという行為自体にリラックス効果があることがわかる。笑いは、身体的には筋肉の緊張状態を軽減し、心理的には余計なことを考えさせない、つまり心を無にすることを促す。笑うことで、内から新しいエネルギーを汲くみ出し、安定した精神状態を獲得することができる。

 また、一般的にリラックス状態を獲得しやすい要素には、

  1. 精神的手段
  2. 受動的態度
  3. 筋弛緩
  4. 環境設定

の4つが含まれる1)4)。この4つの要素は笑うことにおいても認められる。1.精神的手段では、日常生活の忙しさ、気になることから切り離した一定の刺激として、面白い、おかしいといった笑いの素があり、その刺激に集中する。2.受動的態度では、自然発生的に笑うという行為自体が、その人のあるがままの状態となる。3.筋弛緩では、笑うという行為が終わった後、筋肉が弛緩することで、心も無となっている。4.環境設定では、笑いが発生するその場が笑ってもよいという安心・安全な環境である。

 人は健康に生きるために笑いの能力を自然力の一部として保全し受け継いできた5)。しかし、その潜在的にある笑いの能力の顕在化に当たっては、個性もあるが、個人がどんな環境で生きているかにも影響する。社会・時代の文化によって笑いの現出に差があるのは、そうした異なった環境条件との相互作用によるものと考えられる5)。笑いの能力を顕在化するには、まずはその人の個性や置かれている環境がどのようなものかを十分に把握し、その上でリラックス状態を獲得しやすい要素を整えることが必要である。

笑いがもたらすリラクセーション効果

 リラクセーション効果として表れる心身の反応は、生理学的、神経疫学的、主観的評価など、さまざまな指標で測定され評価されている。たとえば、ストレスの軽減や緊張の緩和(血圧や唾液中のコルチゾールやクロモグラニンAやアミラーゼ活性などの値、筋肉の硬化度)であったり、不安の軽減などの心理的効果の測定できる質問紙調査であったりする。以下に、笑いがもたらすリラクセーション効果が示された先行研究を報告する。

 大平ら6)は、成人と高齢者を対象に不安・緊張に対する笑いの効果を検証するため、落語を聴く前後で主観的ストレス評価、客観的評価として唾液中のコルチゾールとクロモグラニンAを測定した。その結果、主観的ストレスは軽減し、コルチゾールとクロモグラニンAはともに有意に低下し、特に普段落語を聴く頻度が多い群、声を出して笑う頻度が多い群において著しいコルチゾールの低下を認めた。

 小林ら7)は、32~81歳の22人に対して「笑い誘発プログラム」を実施し、その前後で収縮期血圧、拡張期血圧、脈拍、唾液中のアミラーゼ値の測定、うつ・不安の質問紙および自覚的な身体変化に関する質問紙調査をした。その結果、脈拍の平均値の減少、肯定的気分の上昇、抑うつ気分が有意に減少した。

 高齢者を対象とした研究としては、福島ら8)は笑いヨガを用いて20人の高齢者に介入したところ、唾液中のコルチゾール値が有意に低下したとする報告がある。Hae-Jin9)は、地域の65歳以上の高齢者を無作為に2つのグループ分け、笑い療法を実施し、うつやQOLなどについての効果を検討した。その結果、笑い療法を受けたグループにおいてうつの改善がみられたと報告している。橋元10)は、60歳以上の11人の高齢者を対象に、笑いのアクションをグループで実施し、セッション前後の血圧、脈拍、筋肉のリラックス効果と筋硬化度、心理的気分等を測定した。その結果、すべての指標においてリラックスの効果があったと報告している。

 以上のように、笑いがもたらすリラクセーション効果は有効な結果が報告されてきている。高齢者を対象とした研究では、高齢者の生きてきた時代背景や個性によってさまざまであり、また視聴覚機能や認知機能の低下などの理由で、一方的な笑い刺激(ユーモア、落語や漫才、またお笑いのDVD鑑賞など)に対する反応の難しさがあり、研究報告は少ない。今後は笑いの能力を顕在化させた研究が期待される。

QOLを高めるリラクセーション法

 笑いがもたらすリラクセーションの効果は明らかで、高齢者に積極的に笑いを用いたリラクセーションを実施することが、高齢者の健康維持やQOL向上に寄与すると考える。

 そこで、筆者も実践している、誰でもが実施できる笑いを用いたリラクセーション法の一部を紹介したい。

1.顔ジャンケン

 門川11)は、笑顔には多くの効用があるとしている。笑うには表情筋が動くことが必要で、その表情筋のトレーニングの1つに顔ジャンケンがある。顔ジャンケンのルールは笑うと勝ちで、指ジャンケンの「グー」「チョキ」「パー」を顔の表情だけで表現する。高齢者同士、高齢者と家族、高齢者と介護者といったペアでのコミュニケーションにも使用できる。集団で何かを始めるときの準備体操としても用いることができる。

2.笑いヨガ

 笑いヨガは1995年インド人医師Madan katariaによって創案された、笑いの体操とヨガの呼吸法を組み合わせた方法。2007年、インドで企業人200人を対象に介入研究が実施され、生理学的・生化学的・心理学的試験においてストレス緩和、ストレス対処能力の向上効果が実証された12)

 笑いヨガは、誰でもできる笑いの健康体操である。通常、笑うには「おもしろい」「楽しい」といった感情が必要だが、笑いヨガは「笑う」という動作の体操・呼吸法なので感情が伴った笑いである必要がない。運動能力や経験に関係なく、車椅子生活の人でも障害を持った人でも問題なく行うことができる。ただし、子どものような遊び心が必要となる。笑いヨガは1人でもできるが、グループで実施することで、互いに笑いを伝染させ合い、楽に笑えるようになるのが特徴である。以下に示したように基本のステップを順番に行いながらさまざまな笑いの体操へとつなげていく。笑いヨガは深呼吸などを行いクールダウンで終了となる。

笑いヨガの4つのステップ

ステップ1 手拍子とかけ声

 両手の指をびんと伸ばして1,2、1,2,3というリズムに合わせて手拍子します。それに加えて、ホッホ、ハハハ、とお腹から声を出しかけ声を出します。

ステップ1:手拍子とかけ声
ステップ2 深呼吸

 身体を前傾させながら、しっかり息を吐きます。徐々に上体を戻しながら鼻からたっぷり空気を吸い込み、両手を上にあげ3秒以上息を止め、ハハハと声を出しながら吐きます。

ステップ2:深呼吸
ステップ3 子どもに返るおまじない

 「いいぞ、いいぞ」と手拍子をしながら左右に体を振り「イエーイ!」と両手をあげて伸び上がります。

ステップ3:子どもに返るまじない
ステップ4 笑いの体操

 動き回りながら(または椅子に座ったまま)いろいろな状態で笑いの体操をします。イラスト例:ライオンの笑い

ステップ4:笑いの体操

おわりに

 笑いがもたらすリラクセーション効果は、高齢者はもとより、高齢者を見守るすべての人々にとっても元気をもたらしてくれる。人は誰もが笑う能力を自然力として有している。したがって、誰もが笑う能力を生かして自身の内なるエネルギーで、心身ともに元気で生活していけるようになる可能性は十分に考えられる。

参考文献

  1. ハーバート・ベンソン著(中尾睦宏・熊野宏昭・久保木富房 訳):リラクセーション反応. 星和書店. 東京. 55-59, 2001.
  2. 中北充子:「リラクセーション」の概念分析 産後早期の女性を対象としたケアへの適用の検討. KEIO SFC JOURNAL. 10(1),57-69, 2010.
  3. 平井久:座談会 リラクセーションとは何か. 現代のエスプリ.311, 13-14, 1993.
  4. 五十嵐透子:リラクセーション法の理論と実際 ヘルスケア・ワーカーのための行動療法入門. 医歯薬出版. 東京. 2001.
  5. 井上宏:笑い学のすすめ. 世界思想社. 京都府. 38-46, 2004.
  6. 大平哲也 ほか:不安・緊張に対する笑いの効果についての研究 森田療法の予防医学への応用に関する検討. メンタルヘルス岡本記念財団研究助成報告集. 15, 19-22, 2004.
  7. 小林淳美 ほか:笑い誘発プログラムの短期効果. 日本看護医療学会雑誌. 14(2), 23-34, 2012.
  8. 福島裕人 ほか:高齢者向け健康教室における笑いヨガの効果に関する研究. 日本笑い学会. 9, 2009.
  9. Hae-jin Ko & Chang-Ho Youn:Effects of laughter therapy on depression, cognition and sleep among the community-dwelling elderly. Geriatr Gerontol Int. 11, 267-274, 2011.
  10. 橋元慶男:【シンポジウム】笑いと脳活性化─高齢者のための笑いと健康─.催眠と科学.26(1),2011.
  11. 門川義彦:笑顔のチカラ. アルマット. 東京. 129-152, 1999.
  12. Chaya M et al., :What are the effects of laughter yoga on stress in the workplace ? SVYASA, University Recerche, 2007.

筆者

筆者_池田由紀先生
池田 由紀(いけだ ゆき)
名古屋市立大学看護学准教授
略歴:
1978年:三重大学医学部附属病院、1996年:三重県立看護短期大学、1997年:三重県立大学で勤務。その後、2002年:大阪教育大学大学院教育学研究科修士課程を修める。2003年:大阪府立看護大学、2011年より現職。日本笑い学会理事。
専門分野:
慢性看護学。教育学修士

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.68

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