貢献寿命延伸への挑戦:社会実装
公開日:2025年7月18日 10時00分
更新日:2025年7月22日 16時38分
秋山 弘子(あきやま ひろこ)
東京大学名誉教授
東京大学未来ビジョン研究センター客員教授
東京大学高齢社会総合研究機構客員教授
本誌2021年第30巻第3号で提唱した「貢献寿命の延伸」の社会実装を試みた。地方自治体をフィールドに誰もが何歳になっても社会とつながり、役割をもって暮らすコミュニティの実現をめざしている。その過程で現実が見えてきた。都市部の定年退職者の多くは、早朝に家を出て夜帰宅する生活を40年余り続けた後に住まいのあるコミュニティで日々過ごすようになる。地域に知り合いはいないし、まちの様子もわからない。名刺もなく外に出てどのように口をきけばよいかわからない。課題は地域の情報がない、一歩踏み出すきっかけがない。
そこで、地域の仕事、ボランティア、趣味、学習、イベントなどの情報を提供して、様々な地域活動と参加希望者のマッチングを支援するウェブアプリ(GBER ジーバー)を導入した。高齢者が地域活動に参加できるプラットフォームである。スマホやパソコンで簡単に使える。多くの人にとって最初は仕事ではなく、興味のある講座や単発イベントのボランティアなどが入りやすい。そこで同じ関心をもつ人と知り合い、徐々につながりが広がり、地域の情報も入るようになる。ここはあなたの出番と背中をおされる。
定年後のセカンドライフの設計と舵取りは本人次第。働く、学ぶ、遊ぶ、休むの4つをうまく組み合わせて設計するとよい。加齢に伴う心身や周囲の状況の変化に合わせてセカンドライフを柔軟に舵取りできるツールとなるようGBERにAIの導入を計画している。
また、貢献寿命の延伸は退職して初めて意識するのではなく、若い頃からの積み重ねが望ましい。小学生から高齢者まで住民全員で「1か月に1時間、住んでいるまちのために働こう」という運動を推奨したい。忙しい受験生でも通勤者でも、1か月に1時間の余裕がない人はいない。住民全員が毎月1時間働けば、まちはずいぶん変わる。住民が皆で支えるまちはいきいきとしてくるだろう。人のつながりができる。家族だけでなく、まちで子育ても虚弱高齢者の見守りもできる。こうして若い時からまちのために働いてきた人たちは、定年退職してまちに帰ってきた時に、何をしてよいかわからず時間と能力をもてあまして虚脱感に襲われることはない。まちには小学生にも90歳のお年寄りにもできることがいくらでもある。貢献寿命の延伸はまちぐるみで若い頃からの積み重ねが最も効果的である。
筆者

- 秋山 弘子(あきやま ひろこ)
- 東京大学名誉教授
東京大学未来ビジョン研究センター客員教授
東京大学高齢社会総合研究機構客員教授 - 略歴
- 1984年:イリノイ大学Ph.D(心理学)取得、1985年:米国国立老化研究機構(National Institute on Aging)フェロー、1987年:ミシガン大学社会科学総合研究所研究教授、1997年:東京大学大学院人文社会系研究科教授(社会心理学)、2009年:東京大学高齢社会総合研究機構特任教授、2020年より現職
- 専門分野
- ジェロントロジー(老年学)
- 過去の掲載記事
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