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健康長寿のための食事と栄養

公開日:2018年1月15日 11時16分
更新日:2019年8月 6日 14時22分

横山 友里(よこやま ゆり)
東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム研究員

はじめに

 ヒトが胎児期から高齢期に至るまで生涯を通じて健康であるために、日々の食事は重要な役割を担っており、各ライフステージに応じて食事の量や質を工夫することが必要である。特に高齢期では、疾病予防のみならず、加齢に伴う心身機能の低下を遅らせるフレイル予防の観点から、良好な栄養状態の維持を図ることが重要である。

 本稿では、高齢期のフレイル予防における食品摂取の多様性の意義に着目して、健康長寿のための食事と栄養について概説する。

地域高齢者を対象とした栄養疫学研究

 食事・栄養が健康にどのように関連するかについては、主に人(集団)を対象とした栄養疫学的手法を用いた研究により明らかにすることができ、世界各国でさまざまな研究が進められている。健康長寿に関わる食事と栄養を明らかにするためには、高齢者を対象とした栄養疫学研究が必要不可欠であり、アウトカムである「健康」や、曝露要因である「食事」の評価を目的に応じて適切に行うことが重要である。

 高齢期の健康は、疾病の有無のみならず、機能的な健康が重視され、近年「フレイル」という概念が注目されている。フレイルとは、高齢期に生理的予備能が低下することで種々のストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などさまざまな負の健康アウトカムを起こしやすい前障害状態のことである。

 曝露要因である「食事」の評価については、従来の栄養疫学研究では、個々の栄養素・食品群に着目した研究がほとんどであったが、日常生活下ではこれらを組み合わせた「食事・料理」として摂取していることから、現在では、食事の質やパターンの分析を用いた研究も盛んに行われている。フレイルと食事・栄養の関連についても、食品レベル・栄養素レベル・食事レベルでの検討が行われ、Lorenzo-Lópezらが報告したシステマティックレビューにおいては、19本の観察研究のエビデンスがまとめられている1)

 このように、フレイルと食事・栄養の関連に関するエビデンスは着実に蓄積されているものの、本システマティックレビューに含まれる研究のほとんど(19本中12本)が食文化の異なるアメリカおよびヨーロッパでの研究であるため、日本人高齢者の食事の特性をふまえたエビデンスを構築することが喫緊の課題となっている。

国民健康・栄養調査からみた日本人高齢者の食物摂取状況と栄養状態の現状

 われわれは、日本人高齢者の食物摂取状況や栄養状態の現状を把握するため、2003~11年までの国民健康・栄養調査における65歳以上高齢者22,692名のデータを用いて検討を行った。その結果、日本人高齢者では年齢階級が高くなるほど、1.エネルギー摂取量の減少をはじめ、多くの栄養素や食品群の摂取量が減少すること、2.低栄養傾向の高齢者の割合(BMI 20kg/m2以下、アルブミン 4.0g/dL以下を低栄養傾向と定義)は増加することが明らかになった2)。これらの結果は、高齢期はエネルギーをはじめ、数多くの栄養素や食品群の摂取不足が問題となる可能性があるとともに、その予防・改善に向けては、特定の食品群や栄養素ではなく、食品摂取の質に着目する必要があることを示唆している。

食品摂取の多様性得点の栄養学的特徴

 国民健康・栄養調査から示された結果をふまえ、われわれは高齢者の食事を評価するにあたり、「食品摂取の多様性(Dietary Variety)」に着目した。食品摂取の多様性の評価法は世界各国でさまざまな方法が開発されており、評価に用いる構成食品や得点化の方法はそれぞれ異なるが、その多くは摂取した食品数を考慮するというシンプルな方法であることが特徴である。

 当研究所では、熊谷らが「食品摂取の多様性得点(DVS)」を開発しており3)(図1)、主食や嗜好品を除き、日本人が普段食べる主菜・副菜・汁物の約80%(国民健康・栄養調査に基づく摂取重量ベース国民健康・栄養調査 厚生労働省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます))を占める食品群として、肉類、魚介類、卵類、牛乳、大豆製品、緑黄色野菜類、海藻類、果物、いも類、および油脂類の10食品群の1週間の食品摂取頻度から評価する。各食品群に対して、「ほぼ毎日食べる」に1点、「2日に1回食べる」、「週に1、2回食べる」、「ほとんど食べない」の摂取頻度は0点とし、その合計点をDVSとするものである。

図1:肉類、魚介類、卵類、牛乳、大豆製品、緑黄色野菜類、海藻類、果物、いも類、および油脂類の10食品群の1週間の食品摂取頻度から評価する表
図1:食品摂取の多様性得点3)

 DVSが高いということは、どのような栄養学的な特徴を反映しているのだろうか。このことを明らかにするため、当研究所では、成田らが地域高齢者におけるDVSと栄養素等摂取量との関連を検討している4)。DVSの分布から、0~3点、4点、5~6点、7~10点の4区分に分け、栄養素等摂取量は3日間の自記式食事記録(目安量法)を用いて評価した。その結果、DVSの区分が高くなるほど、エネルギー摂取量は変わらないものの、体重当たりのたんぱく質摂取量が有意に増加し、穀類エネルギー比は減少傾向であった。また、ビタミン(ビタミンK、ナイアシン、パントテン酸)、ミネラル(カリウム、マグネシウムなど)、食物繊維量など種々の栄養素との関連がみられた。

 以上の結果から、DVSが高いということは、主食を控えめに、たんぱく質やビタミン、ミネラルを多く含むおかずを中心とした「栄養素密度の高い食事」を反映していることが示唆された(図2)。

図2:栄養素密度の低い食事、高い食事を説明する図
図2:食品摂取の多様性得点の特徴4)

食品摂取の多様性得点と筋量、身体機能との関連

 DVSを用いて高齢期の健康との関連を検討した研究では、高次生活機能との関連などが報告されている3)。われわれは、フレイル・サイクルの中核として位置づけられているサルコペニアに着目し、地域高齢者(約1,000名)のデータから、筋量と身体機能との関連を横断的・縦断的に検討した5)6)。その結果、横断研究により、DVSが高いほど、筋量が多く、身体機能(握力、通常歩行速度)が高いことが示された(図3)。また、4年間のコホート研究により、DVSが高いほど、四肢骨格筋量の低下リスクが抑制される傾向がみられ(P for trend=0.068)、握力の低下および通常歩行速度の低下リスクが有意に抑制された( 握力:P for trend=0.043、通常歩行速度:P for trend=0.039)(図4)。

図3:食品摂取多様性得点が高いほど、筋量、身体機能(握力、通常歩行速度)が高いことを示す棒グラフ
図3:食品摂取多様性得点と筋量、身体機能との横断的関連5)
図4:食品摂取多様性の得点が高いほど、四肢骨格筋量の低下リスクが抑制される傾向がみられることを示す
図4:食品摂取多様性得点と筋量、身体機能との縦断的関連6)

 以上の結果から、多様な食品を摂取することは高齢期のサルコペニア予防に防御的に働くことが明らかとなった。DVSを構成する10食品群のうち、肉、魚、卵、牛乳、大豆製品は筋たんぱく合成に関わるたんぱく質を、野菜、果物は酸化ストレスや炎症抑制に関わる抗酸化ビタミンを豊富に含んでいる。したがって、これらの栄養素の複合効果によって筋量や身体機能の低下が抑制された可能性が考えられた。

食品摂取の多様性に影響する要因

 高齢期は加齢に伴うさまざまな要因(咀嚼機能の低下、買い物の便・不便の問題、配偶者との死別など)が食品摂取に影響を及ぼすことから「」7)8)、これらの要因への配慮も必要である。食環境の整備では、2017年、厚生労働省が国としてはじめて配食事業の栄養管理のあり方を整理し、事業者向けのガイドラインを作成・公表し9)、地域高齢者の健康支援における配食の役割が期待されている。高齢者の食・栄養の課題は今後ますます増加することが予想されるが、高齢者の食を取り巻く状況をふまえて、解決に向けた対応策を検討していく必要があるだろう。

まとめ

 本稿では、地域高齢者を対象とした栄養疫学研究の知見をもとに、食品摂取の多様性に着目して、健康長寿のための食事・栄養について概説した。メタボリックシンドローム予防を中心とした中年期とは異なり、高齢期は健康づくりの重点をフレイル予防にシフトさせ、食事の量や質を工夫することが必要になる。多様な食品摂取を確保することは、多様な栄養素の摂取や筋量・身体機能の低下抑制に関わることから、食・栄養面からのフレイル対策において食品摂取の多様性の意義は大きいと考える。

 今回研究に用いた食品摂取の多様性得点は10の食品群の摂取頻度から簡便に評価できることが特徴であり、チェックシートによるセルフチェックや栄養教育を通じて改善可能であることも示されていることから10)11)、エビデンスに基づく地域高齢者の健康支援策として今後、実践現場で活用されることが期待される。

参考文献

  1. L orenzo-López L, Maseda A, de Labra C, et al(. 2017)Nutritional determinants of frailty in older adults: A systematic review. BMC Geriatr. 17, 108.
  2. 横山友里,北村明彦,川野因,他:国民健康・栄養調査からみた日本人高齢者の食物摂取状況と低栄養の現状.日本食育学会誌.Inpress
  3. 熊谷修,渡辺修一郎,柴田博,他.(2003)地域在宅高齢者における食品摂取の多様性と高次生活機能低下の関連.日本公衆衛生雑誌.50, 1117-1124.
  4. 成田美紀,2.食べよう!いろいろな食材,1)食材食品摂取の多様性スコア(DVS).東京都健康長寿医療センター研究所健康長寿新ガイドライン策定委員会編著.健康長寿新ガイドラインエビデンスブック.P.6-8. 社会保険出版社(東京),2017.
  5. Yokoyama Y, Nishi M, Murayama H, et al.(2016) Association of dietary variety with body composition and physical function in community-dwelling elderly Japanese. J. Nutr. Health Aging 20,691-696.
  6. Yokoyama Y, Nishi M, Murayama H, et al.(2017) Dietary variety and decline in lean mass and physical performance in communitydwelling older Japanese: A 4-year Follow-Up Study. J. Nutr.Health Aging 21, 11-16.
  7. Kwon J, Suzuki T, Kumagai S, et al.(2006)Risk factors for dietary variety decline among Japanese elderly in a rural community: a 8-year follow-up study from TMIG-LISA. Eur. J. Clin. Nutr. 60, 305-311.
  8. 吉葉かおり,武見ゆかり,石川みどり,他.(2015) 埼玉県在住一人暮らし高齢者の食品摂取の多様性と食物アクセスとの関連.日本公衆衛生雑誌. 62, 707-718.
  9. 厚生労働省. 地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理(2017年10月31日アクセス)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  10. Kimura M, Moriyasu A, Kumagai S, et al.(2013)Communitybased intervention to improve dietary habits and promote physical activity among older adults: a cluster randomized trial. BMC Geriatr 13, 8.
  11. Seino S, Nishi M, Murayama H et al.Effects of a multifactorial intervention comprising resistance exercise, nutritional and psychosocial programs on frailty and functional health in community-dwelling older adults: A randomized, controlled, crossover trial. Geriatr Gerontol Int, in press.

筆者

横山友里先生

横山 友里(よこやま ゆり)
東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム研究員
略歴:
2014 ~ 16 年:日本学術振興会特別研究員(DC2)、2016 年3 月:東京農業大学大学院修了(農学研究科 食品栄養学専攻)、2016 年4 月より現職
専門分野:
栄養疫学、公衆栄養学。博士(食品栄養学)

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.84

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