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健康長寿新ガイドライン─健康長寿のための12か条

公開日:2018年1月16日 09時00分
更新日:2019年8月 6日 14時18分

新開 省二(しんかい しょうじ)

東京都健康長寿医療センター研究所副所長

なぜ「新」ガイドラインなのか

 東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター研究所)では、1990年に東京都小金井市で、1991年に秋田県内外村で、それぞれ65歳以上の地域高齢者を対象に前向き研究を開始し、2001年までの10年間、死亡やADL(Activities of daily living ;日常生活動作能力)障害の発生を追跡し、健康長寿の要因を調べた。

 その成果は、長期プロジェクト研究報告書「中年からの老化予防総合的長期追跡研究」(略称TMIG-LISA)としてまとめられ、Geriatrics Gerontology International の第3巻Supplement に関連する12個の学術論文が掲載された。また、報告書の内容を平易にまとめ、小冊子『サクセスフルエイジングをめざして』を発刊するとともに、健康長寿を達成するための「元気で長生きする十か条」を策定した。これらがわが国における元祖、健康長寿ガイドラインである。

 以来15年以上が経過した。この間の国内外における健康長寿の研究の進展はめざましいものがある。例えば、PubMedで健康長寿に相当する"healthy aging"をキーワードにして検索すると、2000年以降、健康長寿に関する研究報告は飛躍的に増えてきている。また、扱われる領域も広がり、分析の深化がみられるなど、健康長寿に関する研究は、質・量ともに充実してきている。

 わが国においても、近年、国立長寿医療研究センターがフレイルや認知症をターゲットとした大規模な疫学研究を実施し、また、JAGES(日本老年学的評価研究)などの社会疫学研究が発展し、それぞれ大きな成果を上げつつある。

 一方、東京都健康長寿医療センター研究所においては、第2期TMIG-LISA(2001~08年)が終了したのち、2009年からは研究目的や研究地域が異なる4つの長期縦断研究が並走しており、それらを統合した研究も成果を上げつつある。いずれも健康長寿に資する研究という点で共通している。2000年以降のこうした国内外の疫学研究の進展とその成果をふまえた、健康長寿に資する新しいガイドラインが求められていた。

新ガイドライン策定の経緯

 こうした背景のもと、東京都健康長寿医療センターの井藤英喜理事長から筆者に「新ガイドライン」を作成するよう指示があった。そこで、まず、2016年6月に健康長寿ガイドライン策定委員会(委員長:新開、事務局:横山、本川)を立ち上げ、新ガイドライン策定に向けて、検討すべき課題や策定に向けたプロセスを検討した。

 また、第1回健康長寿ガイドラインでは、その成果物が十分普及しなかった点を反省し、ユーザー目線を十分意識し、できるだけ平易な内容かつユーザビリティーの高いものにすべきと考えた。そこで、健康教育の教材づくりで実績のある社会保険出版社に参画してもらい、「新ガイドライン」のもろもろの成果物を作成していくことにした。

 検討会は、2016年8月5日の第1回(テーマは食・栄養)から月1~2回のペースで合計12回開催した。検討会では、策定委員会から指名されたコーディネーター(所内研究員)のほかに、3~5名の専門家(所内外から招聘)がテーマに関連した研究報告をしたのち、コーディネーターが進行役となって質疑およびまとめを行った。検討会での研究報告および議論は、その後のパンフレットづくりに生かされ、また「健康長寿のための12か条」に集約していった。

 さらに、全12回の検討会が終了したのち、各回のコーディネーターおよび研究報告を行った専門家に依頼して、ガイドライン項目と実践目標およびそれらの根拠をできるだけ平易にまとめてもらい、これをエビデンスブックとして取りまとめた。

 こうして、2017年6月に「健康長寿のための12か条」(図1)、「健康長寿新ガイドライン エビデンスブック」(図2)、「各論パンフレット」(図3)が完成した。筆者らは、これら3つを総称して「健康長寿新ガイドライン」と呼ぶことにした。

健康長寿新ガイドライン3部構成

健康長寿のための12か条

 検討した12の課題は以下である。

  1. 食生活
  2. お口の健康
  3. 体力・身体活動
  4. 社会参加
  5. こころ(心理)
  6. 事故予防
  7. 健康食品やサプリメント、
  8. 地域力
  9. フレイル
  10. 認知症
  11. 生活習慣病
  12. 介護・終末期

 それら課題ごとに、一般の高齢者にこころがけてもらいたい要点/合言葉を示したものが、「健康長寿のための12か条」である(図1)。

図1:健康長寿の為の12か条を示す図
図1:健康長寿のための12か条
  • 健康長寿のための12か条
    1. 食生活:いろいろ食べて、やせと栄養不足を防ごう!
    2. お口の健康:口の健康を守り、かむ力を維持しよう!
    3. 体力・身体活動:筋力+歩行力で、生活体力をキープしよう!
    4. 社会参加:外出・交流・活動で、人やまちとつながろう!
    5. こころ(心理):めざそうウェル・ビーイング。百寿者の心に学ぼう!
    6. 事故予防:年を重ねるほど増える、家庭内事故を防ごう!
    7. 健康食品やサプリメント:正しい利用の目安を知ろう!
    8. 地域力:広げよう地域の輪。地域力でみんな元気に!
    9. フレイル:「栄養・体力・社会参加」3本の矢で、フレイルを防ごう!
    10. 認知症:よく食べ、よく歩き、よくしゃべり、認知症を防ごう!
    11. 生活習慣病:高齢期の持病を適切にコントロールする知識を持とう!
    12. 介護・終末期:事前の備えで、最期まで自分らしく暮らそう!

 いずれも重要な課題ばかりであるが、このうち「食生活」、「体力・身体活動」、「社会参加」の3つは最も重要な基本項目と考えており、筆者らは「健康長寿の3本柱」と呼んでいる。

健康長寿新ガイドライン エビデンスブック

 検討会で報告され議論された内容をベースにして、12のもとになった学術的知見(エビデンス)や具体的目標値・目安が示された冊子である(140ページ)(図2)。

図2健康長寿新ガイドラインエビデンスブック表紙
図2:健康長寿新ガイドライン エビデンスブック

 読者対象として自治体や地域で働く専門職(保健師、栄養士、医師、理学療法士など)や老年学・老年医学の教育者・研究者・学生を想定して作成したが、一般の方にも十分活用いただけると考えている。

各論パンフレット

 一般の方(特に高齢者)向けに、ふだんからこころがけていただきたい日常の過ごし方や健康管理の方法をわかりやすくまとめた(図3)。主に自治体、保険者、高齢者団体が住民・加入者・会員向けに啓発用教材として利用することを想定している。

健康長寿新ガイドラインの各論パンフレットの図
図3:各論パンフレット

 なお、「健康長寿のための12か条」(ポスター)、「健康長寿新ガイドライン エビデンスブック」、「各論パンフレット」(12種類)は、それぞれ社会保険出版社1)より販売されている。

新ガイドラインの特徴

 当センター研究所は、1972年の設立以来、疫学研究を重視し、都内外で大規模な長期縦断研究を行ってきた。その目的は、健康長寿の要因の解明とその延伸手法の開発である。

 健康長寿の疫学研究では、地域在住の大勢の高齢者に参加いただき、さまざまな健康に関連するデータを集めるとともに、参加者のその後の健康状態の推移を前向きに調査していくものである。追跡していく過程では、要介護状態となる人もいれば、長く元気を維持される人もいる。その差がなぜ生じたのかを、当初集めたデータにさかのぼって比較分析するのである。

 そうした研究から、元気で長生き、すなわち健康長寿を実現できるかどうかは「機能的健康度」に最も大きく左右されることがわかってきた。機能的健康度とは、心身機能、生活機能、社会機能の3ドメインにおける機能の高低をさす(図4)。そして、この機能的健康に影響を与える二大要因は、中年期以降次第に増えかつ重症化してくる疾病と、75歳以降顕著になってくる心身機能の加齢変化である(図5)。したがって、健康長寿を達成するには、中年期以降疾病の予防や管理をしっかり行うことはもちろん、高齢期における心身機能の加齢変化を抑制する生活習慣を身につけることが重要となる。

機能的健康の3つのドメインを説明する図。機能的健康度とは、心身機能、生活機能、社会機能の3ドメインにおける機能の高低をさす
図4:機能的健康の3つのドメイン
図5:機能的健康に影響を与える二大要因は、中年期以降次第に増えかつ重症化してくる疾病と、75歳以降顕著になってくる心身機能の加齢変化であることを説明する図
図5:機能的健康を低下させる医学的二大要因

 しかし、疾病の予防や管理のための生活習慣と、心身機能の加齢変化を抑制する生活習慣とが必ずしも同じとは限らない。また、中年期ではなく高齢期にふさわしい生活習慣、欧米の高齢者ではなくわが国の高齢者にふさわしい生活習慣とは何かを明らかにする必要がある。

 さらに、機能的健康度は(家族を含めた)個人側の要因のみでなく、個人を取り巻く地域環境によっても影響される。例えば、私たちの研究によれば、ソーシャルキャピタルが高い地域に住んでいる高齢者ほど、心理的健康や身体的健康が良好なのである(図6)。

図6:ソーシャルキャピタル(信頼感)が高い行政区ほど健康状態が良いことを示す分布図
図6:ソーシャルキャピタルと健康(地区レベルの分析)

 「健康長寿新ガイドライン」では、こうした問題意識をベースにし、それに2015年に発刊されたWHO world report on ageing and healthの中で提案された"Healthy Ageing"の枠組みを加味して、わが国の高齢者の健康余命をさらに延伸するうえで重要と思われる12の課題を取り上げ、それぞれに対する「処方箋」を示した。その「処方箋」の根拠の多くは当センターで得られたものであるが、研究が手薄な課題については外部の専門家の力を借りて検討した。

 初回のガイドラインがTMIG-LISAという1つの研究プロジェクトの成果に基づいてつくられたのに対し、「新ガイドライン」ではその後15年間の当センターや国内のさまざまな研究成果を反映させ、具体的な目標値や対処方法を示したほか、フレイルや認知症、介護・終末期といった今日的な課題にも挑戦し、現時点での「処方箋」を提示した。したがって、まったく新しいより広範で実用的なガイドラインができたと考えている。

まとめ

 いわゆる医学的ガイドラインは、無作為化比較試験、メタ解析あるいはシステマティックレビューなどを行って、統計学的に有意差のみられたエビデンスを中心にして作成される。国内の研究報告が少ない場合も多いため、欧米の研究を含めて検討されるのが常である。

 しかし、欧米の研究成果をそのままわが国にあてはめることはできない。彼我で、遺伝的背景、社会・経済・文化的背景が大きく異なっており、欧米人にあてはまっても、日本人にはあてはまらないことが少なくない。健康長寿に関する要因においてもしかりである。

 今回のような健康長寿ガイドラインの策定においては、できるだけ日本人を対象にした研究成果に基づいて作成することが望ましい。2000年以降、この分野でのわが国の研究は著しく進展した。この度公表した「健康長寿新ガイドライン」は、これら国内の質の高い疫学研究(コホート研究および無作為化比較試験)の成果に基づいており、信頼性と応用性が高いものである。

参考文献

  1. 株式会社 社会保険出版社 TEL 03-3291-9841(代)

筆者

新開先生

新開 省二(しんかい しょうじ)
東京都健康長寿医療センター研究所副所長
略歴:
1984年:愛媛大学大学院医学研究科博士課程修了、愛媛大学助手(医学部衛生学)、1990年:同講師、1991年:同助教授、1992年:同助教授(医学部公衆衛生学)、1998年:東京都老人総合研究所地域保健部門研究室長、2005 年:同社会参加とヘルスプロモーション研究チーム研究部長、2009年:東京都健康長寿医療センター研究所社会参加と地域保健研究チーム研究部長、2015 年より現職
専門分野:
老年学、公衆衛生学。医学博士、公衆衛生修士

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.84

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