健康長寿ネット

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高齢者対応の住まい

公開日:2017年6月 8日 15時44分
更新日:2019年8月 6日 11時24分

吉村 直子(よしむら なおこ)

株式会社長谷工総合研究所上席主任研究員

はじめに

 高齢期にも安心して生活するための選択肢の1つとして、高齢者向けの住宅や老人ホームなど高齢者対応の住まい・居住の場(以下、高齢者住宅)に住み替えるという方法がある。2000年に介護保険制度がスタートしてからは、介護サービスへの関心や理解も深まり、高齢者住宅で生活する人も確実に増えている。

 しかし、高齢者住宅にはさまざまな種類があり、関連する法律や制度も複雑なため、「それぞれの特徴や違いがわからない」、「自分や親にとってどの高齢者住宅がふさわしいのか判断がつかない」、「どのように探してよいかわからない」といった声が高齢者やその家族から多く聞かれるのも事実である。高齢者住宅は、超高齢社会を迎えるにあたって重要な住まいの選択肢となっているにもかかわらず、適切な高齢者住宅を選ぶためにどうすればよいかといった情報は、一般の人には必ずしも十分に行き渡っていない。

高齢者住宅の種類と機能

1. 高齢者住宅の体系

  現在、わが国には多種多様な高齢者住宅がある(表)。国の福祉政策・住宅政策の中で制度化されてきたものが大半であるが、シニア向け分譲マンションなど民間事業として独自に供給されている(福祉・住宅政策の中で固有の制度として位置付けられていない)ものもある。

 厚生労働省所管の高齢者住宅は、医療法、老人福祉法、介護保険法によって規定されている。主に日常生活支援や介護、長期療養などを必要とする高齢者を対象としており、生活支援や介護などの諸サービスは事業主体によって提供されるのが普通である。

 一方、国土交通省・厚生労働省共同所管の高齢者住宅は、高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)、住生活基本法、公営住宅法によって規定されている。自立度の高い高齢者だけでなく、要支援・要介護の高齢者を対象とするものもあり、特徴は高齢者住宅によってさまざまである。生活支援や介護などは、居住者が自ら外部の介護サービス事業者などを手配し利用するという場合が多いが、高齢者住宅事業者がサービス提供を行う例もある。

 近年課題となっているのは、中堅所得・資産階層向けの高齢者住宅の供給である。この層は人口のボリュームが大きく、また高齢者人口の増加、とりわけ都市部での単身や夫婦のみ高齢者世帯の急増を考えると、中間層向けの高齢者住宅の整備を急ぐ必要があるといえる。

表:高齢者住宅の種類と概要
表:高齢者住宅の種類と概要を示した表。カテゴリーとして介護保険施設、居住系施設、賃貸住宅がある。

2. 介護保険制度と高齢者住宅の関係

 介護保険制度と高齢者住宅の関係については、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)は施設サービスおよび地域密着型サービスとして、介護老人保健施設と介護型療養病床(介護療養型医療施設)は施設サービスとして、それぞれ介護保険の給付対象となる。特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護型療養病床は「介護保険施設」とも呼ばれる。

 また、有料老人ホーム等(特定施設入居者生活介護の提供施設)は居宅サービスおよび地域密着型サービスとして、認知症高齢者グループホーム(認知症対応型共同生活介護)は地域密着型サービスとして、それぞれ介護保険の給付対象となる。有料老人ホームやグループホームは自宅ではない居住施設だが、そこで提供される介護は施設サービスではなく、居宅サービスとして位置付けられている。

地域包括ケアシステムと高齢者住宅

 住み慣れた地域での継続居住を実現するためには、高齢期にも安心して住まえる住宅の提供とともに、変化する高齢者のニーズを適切に把握した上で、個々に合ったケアを提供し、最期まで生活を保証する仕組みが必要となる。わが国では、その人らしく自立した日常生活が送れるように、地域のさまざまな社会資源を活用し、適切に組み合わせる「地域包括ケアシステム」の推進をめざしている。

 2010年4月に公表された「地域包括ケア研究会報告書」1)によれば、地域包括ケアシステムとは、「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めたさまざまな生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」のことであり、概ね30分以内に必要なサービスが提供される圏域として、具体的には中学校区を基本単位とするとしている。

 地域包括ケアシステムでは、介護保険施設などの整備もさることながら、サービス付き高齢者向け住宅など、近年新たに制度化された高齢者住宅の整備が一層重要になる。長く住み続けられる良質な高齢者住宅が各地域で整備され、高齢者の状態変化に応じて、必要かつ適切なケアを効率的に組み合わせて提供する体制が整えば、エイジング・イン・プレイス(Aging in Place、住み慣れた地域で暮らすこと)を実現することができる。

「住まい」と「ケア」の関係と高齢者住宅

 高齢者住宅は、介護サービスの提供の仕方という観点から「介護一体型」と「介護選択型」の2つに区分できる。

 「介護一体型」の高齢者住宅は、居住の場と介護サービスがセットで提供されるという形態であり、生活支援や介護サービスは、事業主体によって24時間365日保証されている。特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護型療養病床、認知症高齢者グループホーム、特定施設入居者生活介護の指定を受けた施設(介護付有料老人ホーム、ケアハウス、一定の要件を満たしたサービス付き高齢者向け住宅)などが該当する。一事業者から居住の場の提供とケアを併せて受けられ、介護サービス費用は基本的に定額制であるという点に安心や利便性を感じる利用者も多い。今後も高齢化・長寿化の進展に伴う要介護高齢者の増大により、供給の必要性は継続するだろう。

 一方、「介護選択型」の高齢者住宅は、居住の場と介護サービスの提供者が同一でも別々でもどちらでもよく、個々の入居者が自分に必要なサービスを自由に選択する。生活支援サービス費は自己負担、また介護サービスは介護保険の区分支給限度基準額の範囲内で訪問介護や訪問看護、通所介護などを利用し、使った分を支払う積算制である(区分支給限度基準額を超えた場合の上乗せ部分は、全額 自己負担)。特定施設入居者生活介護の指定を受けないサービス付き高齢者向け住宅やケアハウス、住宅型有料老人ホームなどが該当する。

 地域包括ケアシステムを推進しようとする動きがある中で、高齢者住宅については、居住の場とケアがあらかじめパッケージになっている「介護一体型」ばかりを供給するのではなく、両者を柔軟に組み合わせることができるように「住まいとケアの分離」も進めるべきであるとの意見がある。分離が進むとすれば、住居とサービスの提供者が別々でもよく、個々の入居者が自分に必要なサービスを自由に選択できる「介護選択型」の高齢者住宅の整備が一層進むものと思われる。

 ただし、住まいとケアを分離してもきちんと機能する高齢者住宅を整備するためには、医療・介護・予防・生活支援のサービスが地域で一体的かつ、まんべんなく提供される体制が整っていることが大前提となる。

 介護保険法の改正により、2012年度からは24時間対応の定期巡回・随時対応型訪問介護看護や、小規模多機能型居宅介護と訪問看護を組み合わせた複合型サービス(2015年度からの呼称は看護小規模多機能型居宅介護)も新たに始まった。訪問介護や訪問看護、通所介護など従来の居宅サービスに加えて、こうしたサービスが多くの地域で展開されるようになれば、自宅や「介護選択型」の高齢者住宅においても、「介護一体型」と同様の24時間体制の安心を得られることになる。

高齢者住宅選びの基本姿勢

1. 入居の意思や家族の思いを確認する

 高齢者住宅選びでは、多種多様な住宅やサービスの中から、入居する人の希望に最も合ったものを選ぶことが大切である。そのためにはまず、入居する人は高齢者住宅に何を求めているのか、本人の希望や意向を明確にすることから始める。次に、住み替え先でどのような生活を送りたいのか具体的にイメージしてみる。どのような高齢者住宅であれ、自分の生活を事業者側のルールに合わせて窮屈な日々を送るのではなく、自立であっても要介護であっても自分らしい生活を送ることができる住まいを選ぶという視点が不可欠である。

 自ら高齢者住宅を探している高齢者の場合、自分が決めることだから特に問題はないだろうと思っていても、子どもなど家族とのコミュニケーションや意思疎通が十分に取れていないと、家族の反対にあうこともあり得る。家族の側からすると、自分の親を自分でみられないことに少なからず罪悪感を持っていたり、親戚や近所の目を気にしたり、また金銭面で不安があるといったことがその背景にある。入居する本人の意思に加えて、家族はどう思っているのか、その両方をしっかりと確認することが大切である。

 一方、子どもなどの家族が親のために探している場合、高齢者本人の性格や価値観、希望、趣味などを十分理解しながら、自分たちは高齢者住宅での親の生活にどのような関わりが持てるのかを考えてみる。お互いによく話し合いながら、希望や不安に思うことなどを見極めていくことが重要である。実際には、本人の意思を確認しないまま家族だけで話を進めているというケースも少なからずあり、入居先を決めた最後の段階で、本人の猛烈な抵抗にあうということもないわけではない。

 高齢者本人と家族との間で住み替え検討に対する熱意に差がある場合はうまくいかないことが多い。高齢者自身は前向きだが家族が納得してくれない場合、その原因は何なのか。また、家族間では話が進んでいるが高齢者自身は納得していない場合、本人はどのような気持ちでいるのか。面と向かってはなかなか話しにくいということもあるが、お互いが率直に話し合うことが何にもまして重要である。

2. 入居者の身体状況を的確に把握する

 親のために高齢者住宅を探している家族に意外にもありがちなのが、親の心身の状況を正しく把握していないということである。特に離れて暮らしている場合、日々間近で見守ったり観察したりできないために、勝手な思い込みやイメージで判断しているというケースも少なくない。親自身、子どもに心配をかけまいと、自らの不調や問題を正直に伝えていないということもあり得る。

 特に、介護や医療サービスを希望して高齢者住宅への住み替えを考える場合には、入居する高齢者の身体状況を正しく把握することから始めなければならない。介護サービスの必要度はどの程度か、ADL(日常生活動作)はどうかなどを的確に把握したい。また、高齢期には慢性疾患を抱える人も多くなるため、日常的に必要としている医療や現在の診療状況などについても確認することが必要である。本人がすでに入院している場合は、家族の想像と本人の現況が乖離している場合もあるため、医療機関側にも相談し、正確な状況を把握することが重要である。

高齢者住宅選び10のポイント

 高齢者住宅を検討する上で留意すべき点は多々あるが、以下に10のポイントを挙げたい。高齢者や家族が自分たちの意向を明確に捉えることはもとより、医療・介護の現場の専門家に対しても、これらの視点を持ちながら、相談者や患者の住み替え検討について適切に助言したり支援してくれることを期待したい。

  1. 事業者の高齢者住宅に対する思いや経営理念に共感できるか。
  2. 「建物設備3:人とサービス7」の比率で検討する。
  3. さまざまな規模(建物規模・居住者数)の高齢者住宅がある中で、自分に合う生活サイズを見つける。
  4. 自己完結型(サービスや人的交流が高齢者住宅内で閉じている)ではなく、地域社会とのつながりや交流があるか。あるいは持とうとしているか。
  5. レクリエーション(行事・イベント)カレンダーから事業者の価値観を推し量る。
  6. 「食」の質や環境づくりにこだわっているか。
  7. 看取りや認知症ケアに対して明確な姿勢を持ったところか。
  8. 終末期の希望をきちんと聞いて、対応について丁寧に説明してくれるところか。
  9. 職員が誇りを持って働いているか。
  10. 事業者は危機管理対応や情報開示に積極的か。あるいはそのための仕組みやルールを有しているか。

専門家の連携によるワンストップ型の相談対応を

 高齢者住宅への住み替え検討では、住み替え先の高齢者住宅の情報だけではなく、介護・医療サービスの利用、成年後見人制度の活用、生活資金に関すること、終末期の対応など、さまざまな分野の異なる問題が複合的に絡んでくることが多い。検討内容が複雑であればあるほど、1つの問題に対処できたとしても、必ずしも全体の解決に至るとは限らない。このようなことが想定されることから、各分野の専門家の協力や参加を仰ぎ、ワンストップで相談対応できる仕組みを構築することが効果的と考えられる。

 高齢者やその家族に接する機会の多い介護支援専門員やメディカルソーシャルワーカー、医師、看護師、保健師などは、相談者や患者の住み替え検討に絡む現状や課題を的確に理解した上で、公正・中立性を確保しながら、必要に応じて地域の相談機関・窓口(行政機関、公的団体、民間の相談機関など)につなぐといった役割も担えるようになれば、相談者にとっては大きな安心感につながるだろう。

参考文献

  1. 地域包括ケア研究会、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「地域包括ケア研究会報告書(平成21年度老人保健健康増進等事業による研究報告書)」、2010年3月

著者

著者写真:吉村直子

吉村 直子(よしむら なおこ)
株式会社長谷工総合研究所上席主任研究員
略歴:
1992年:奈良女子大学大学院家政学研究科住環境学専攻修了、株式会社長谷工コーポレーション入社、1994年:株式会社長谷工総合研究所へ出向、2012年より現職
専門分野:
住居学(高齢者居住、高齢者住宅・施設)。家政学修士

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.74

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