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介護者、認知症本人を地域から孤立させない─ケアラーズ&オレンジカフェ みちくさ亭(千葉県柏市 NPO法人ケアラーネットみちくさ)

公開日:2022年1月14日 09時00分
更新日:2022年1月17日 11時48分

写真1:ケアラーズ&オレンジカフェみちくさ亭の外観写真。
写真1:田園風景の中の一軒家「ケアラーズ&オレンジカフェ みちくさ亭」

母が暮らした一軒家を地域に開かれた居場所へ

 千葉県柏市の東武鉄道・逆井(さかさい)駅から歩くこと17分。田園風景の中に平屋の一軒家「ケアラーズ&オレンジカフェ みちくさ亭」が見えてくる(写真1)。ここは、介護者や認知症の人などの要介護者が地域から孤立しないよう、家庭的な雰囲気の中で交流できる居場所である。

 「ケアラーズカフェ」は、介護者(ケアラー)が介護の不安や悩みを共有する息抜きの場。「オレンジカフェ」は、「認知症カフェ」とも言われ、認知症の本人や介護家族が、医療や福祉の専門職に相談したり、地域の人と交流したりする場である。

 「ケアラーズ&オレンジカフェ みちくさ亭」(以下、みちくさ亭)は、介護者や認知症の人だけが利用する場ではなく、地域に開放していろいろな人がつながる場である。ランチの提供もあることから、一般のお客さんも訪れるカフェとしても賑わいを見せている。

 月1~2回開設のオレンジカフェやケアラーズカフェが多い中、みちくさ亭は常時オープン型であることが特長だ。コロナ禍で中止を余儀なくされるカフェが多い中、感染防止対策を取りながら活動を続けている。

 みちくさ亭を運営するのは、NPO法人ケアラーネットみちくさ。みちくさ亭は、もともとNPO代表の布川佐登美(ぬのかわさとみ)さん(写真2)のお母さんが住んでいた一軒家だった。みちくさ亭開設の背景には、布川さんがお母さんの介護を1人で背負い込み、精神的に追い込まれたという苦しい経験があった。

写真2:NPO法人ケアラーネットみちくさ代表の布川佐登美さんの写真。
写真2:NPO法人ケアラーネットみちくさ代表の布川佐登美さん

介護で苦しんだ自分の経験を誰にもさせたくない

 20年ほど前、ここで(現・みちくさ亭)、1人暮らしをしていた布川さんのお母さんに認知症の症状が現れ始めた。当時布川さんは東京から2時間かけて遠距離介護をしていた。お母さんが介護認定を受けたのは、介護保険制度創設の2000年。当時、認知症は「呆け」や「痴呆」と呼ばれ、病気への理解が進んでおらず、偏見も少なくなかった。次第に認知症の症状が進行していくお母さん。「娘がお金を持っていった」など"物盗られ妄想"も出るようになった。

 介護に疲れきった布川さんは介護者家族会に参加した。「講師の先生の『認知症の人の寿命は7年』という言葉を受け入れることができませんでした。"物盗られ妄想"は典型的な認知症の症状で、親(ちか)しい人に対して出るとわかっても、とても苦しかった。そういう介護だったので、母に優しくなれないことが多くありました」と布川さんは言葉を絞り出す。

 「母からの呼び出しの電話は、たいてい夜中です。週に3~4回、2時間かけてここに来て、寝かしつけて、また2時間かけて帰る。朝自宅に着いたら子どものお弁当をつくり、自宅で仕事をする。育児と仕事と介護のかけもちで、睡眠をとらなくても平気な体になっていました」

 次第に布川さんの心身に異変が起きてきた。うつ病を患い、入退院を繰り返した。そんな中で精神的な支えとなったのが同じ柏市に住む叔母さんだった。つらい症状が出た時には「大丈夫だよ」と常に側にいてくれて心強かったという。

 「治療に専念して少し前向きになれた頃、なぜこれほどまでに追い詰められたのか振り返ってみました。それは、"介護を1人で抱え込み、話せる人がいなかったから"でした」

 その後、布川さんは大学で介護を学ぶことを決意。介護福祉士の資格を取得して、改めて気がついたのは、要介護者の背景には介護を担う家族の存在があり、その介護者たちは孤立状態なのではないかということだった。

 お母さんはとても社交的で、認知症になるまでは自宅にたくさんの人を集めていたという。「母の亡き後、この一軒家を再び人が集まる場所にしたい」と布川さんは強く思うようになった。

 「母は認知症になったとたんに人との付き合いがなくなりました。時代もあったのでしょうが、ご近所からは頭がおかしくなったと見られることもありました。母は生きづらさを感じていたと思います。周りに理解してくれる人がたくさんいれば、認知症になっても地域の中で自分らしく生活できる。そんな地域をつくりたいという思いでみちくさ亭を始めました。それで、ここを介護者だけでなく、認知症の人も集まれる、地域に開放する場にしたかったのです」

 2013年に千葉県柏市のボランティア登録団体に介護者支援団体みちくさとして登録し、「みちくさ亭」を開設。2016年にはNPO法人として再スタートを切った。

ランチはご近所さんにも人気地域住民と認知症の人が自然に過ごす

 みちくさ亭開設初期の頃は、布川さんがみちくさ亭に住みながら地域に場を開放していた。野菜を100円で売りながら、「介護者や介護を必要としている人の居場所です」とチラシを配った。みちくさ亭は県初のケアラーズカフェで、当時はその取り組み自体がほとんど知られていなかった。しかし、この地域には介護者家族会がほとんどなかったこともあり、介護者が次第に集まるようになっていった。さらには、「私も介護をしていたの。手伝うよ」という仲間も増え、現在16名のボランティアさんがみちくさ亭で活躍している。

 毎週火曜~木曜の日中はケアラーズ&オレンジカフェとして、介護者や認知症本人に限らず、地域の誰もが息抜きや会話を楽しめる場としている(写真3)。介護者サロンは月1回土曜に開催。介護を1人で抱え込まないよう介護者同士で情報を共有し合い、おしゃべりできる場となっている。

写真3:みちくさ亭で介護家族、認知症の本人、地域の人が集まって息抜きや会話を楽しむ様子を表わす写真。
写真3:みちくさ亭では、介護家族、認知症の本人、地域の人が自然に関わる

 「コロナ禍でふらりと立ち寄る人は少なくなりましたが、介護家族がいて、認知症の本人もいて、一般の人も関わって、自然なやり取りがみちくさ亭のスタイルです」

 専門職への相談の場も設けている。看護師相談、栄養相談、ケアマネ相談など内容は多彩だ。毎週月曜・水曜の「健康マージャン」や、さまざまなレクリエーションの「いきいき元気くらぶ」は元気シニアの介護予防につながっている。

 「ランチを提供したことが大きかったです。ご飯を食べに行こうと誘うことで、認知症の人を外に連れ出すきっかけになりやすいです」と布川さんは自身の経験からこう語る。

 ランチの提供は火曜~木曜で、栄養バランスの取れた彩り豊かな食事をカフェ風に盛り付けている(写真4)。これで500円とは、ボランティアさんの工夫なしでは実現できないだろう。この彩りランチは近隣の一般客にも大人気。

写真4:みちくさ亭で提供する栄養バランスのとれた彩り豊かなランチの様子を表わす写真。
写真4:栄養バランスの取れた彩り豊かなランチ

 「コロナ禍前のデータでは、ランチ利用者の56%は一般のお客さんです。そうすると、一般のお客さんにとっては、普通の場所に認知症の人がいらっしゃるわけです。介護者が認知症の家族にご飯を食べさせている姿を一般のお客さんが見て、最初は見慣れない光景で驚いていても、だんだんと馴染みの関係になり、旅行に誘ってくれることもありました。認知症の人が生活者として自然にコミュニティの中で過ごす。予想もしていなかったことでしたが、めざすはそこだと思いました」と布川さんの言葉に力が入る。

 認知症の人がみちくさ亭を訪れる際には、その人のできることを探して一緒にボランティアに入ってもらうこともある。包丁研ぎを手伝ってもらったり、料理経験のある人には調理を手伝ってもらったり、認知症の人が今持っている力を最大限に引き出すのがみちくさ流の関わり方である。

もっと多くの人に利用してもらうためにみちくさ亭がさらに進化

 みちくさ亭は最寄り駅から徒歩17分ということもあり、遠方から車で訪れる利用者が多い一方、徒歩圏内の近隣住民の利用が少ない状況だった。そこでさらに近隣地域に開かれた空間にしたいと、2018年にみちくさ亭の改修工事を行った。千葉大学と筑波技術大学の教員と学生、地元の工務店の協力のもと、介護者や認知症本人を含む近隣住民参加によるセルフリノベーションである。

 玄関間口を広げて開放感をつくり、玄関には高齢者に配慮してベンチを設置。車椅子でも訪れることができるようスロープや手すりを取り付けた。庭には誰でも訪れることができる「コモンガーデン」を造作。庭づくりのアイディアを地元の小学生たちに出してもらい、庭づくりにも協力してもらった。

 改修後は徒歩や自転車で訪れる人が増えたが、近隣の30~40代の若い世代の利用は増えていなかった。そこで、みちくさ亭の道路向いの農家の協力を得て「みちくさファーム」を開設(写真5)。野菜オーナー制度をつくり、野菜づくりを通して若い世代の親子のファンを増やす取り組みをしている。

写真5:みちくさファームで野菜作りを通して地域の住民が集う様子を表わす写真。
写真5:野菜づくりを通して地域がつながる「みちくさファーム」

 「たくさんの子どもたちにみちくさ亭を利用してもらいたいです。今は子育てをしながら介護をする時代です。子どもを通して、子育て世代にもこういう場があることを知ってもらいたい」と布川さん。介護に関わるようになってからみちくさ亭を知るのではなく、元気なうちからここを利用してほしいという願いからだ。

コロナ禍だからこそ新しいサポート孤立防止対策とフレイル予防

 年に4,000人もの利用者があったみちくさ亭だが、コロナ禍の2020年は2,500人にまで減り、2021年はさらに減っているという。一方で、介護者からの相談依頼は年100件ほどが、コロナ禍ではここ10か月で272件と増え、中でも電話相談が増えたという。

 コロナ禍での外出自粛による孤立やフレイルが懸念される中、みちくさ亭では新しい取り組みでサポートを始めている。「弁当の宅配」と「生活サポートサービス」、「屋外での介護予防教室」である。

 2020年2月末、感染拡大防止の観点から市からカフェ開催中止の通達があり、中止を余儀なくされた。そこで、介護者や認知症本人とのつながりを断ち切ってはいけないと、弁当の宅配を始めることにした(写真6)。この宅配は見守りも兼ねていて、高齢者が脱水状態になっていないか、冷暖房が適切であるか、ケアマネジャーと連絡を取りながら行っている(写真7)。

写真6:宅配弁当を作るボランティアさんの様子を表わす写真。
写真6:ボランティアさんによる弁当づくり
写真7:認知症の方の見守りも兼ねて弁当の宅配を行う様子を表わす写真。
写真7:弁当の宅配は見守りも兼ねている

 「宅配は1軒に10分ほどかかり、負担は大きいですがやりがいがあります。1日20食ほどだったのが、コロナ禍で40食に増えました。宅配は期間限定と考えていて、コロナ収束後は居場所としての役割に力を入れていきたいです」

 もう1つ出向いていく支援として始めたのは、「みちくさ生活サポート ささえ〜る」。介護保険サービス外での生活支援サービスを有償で提供している。たとえば、家事支援や通院の外出同行、認知症の人の見守りや介護者の支援など。サポート担当の人材育成も必要なことから、今はカフェを利用している人のみ10人ほどに限定しているが、その半数を24時間で対応している。

 「24時間対応は大変ではないですか」という問いに、布川さんは「認知症の本人というよりも、介護者が困っていることがあまりに多く、何かあったときの"一番の相談者"としていつでも対応したい」と言う。

 2021年には「休眠預金活用・新型コロナウイルス対応緊急支援助成」を活用して、ガーデンテラスを設置した。テラスはランチスペースに使用されるほか、近隣の高齢者を対象にした「あおぞら健康講座@ガーデンテラス」の開催場所として使用されている(写真8)。

写真8:屋外で開催するあおぞら健康講座ガーデンテラスの様子を表わす写真。
写真8:「あおぞら健康講座@ガーデンテラス」。屋外での講座は感染防止対策にも最適

 「あおぞら健康講座」は、歯科医師、理学療法士、管理栄養士監修の本格的な介護予防教室である。「フレイルチェックと目標設定」、「免疫力アップの食事」、「お口の健康と認知症」など、6か月間、全12回の講座で、定員8名と少人数制。1人ひとりの健康ノートをつくり、それぞれの目標を設定して進行状況をチェック。半年後の講座修了時に振り返りをし、さらに今後の目標設定につなげる。

 「87.5%の参加者にフレイル予防で維持または改善の効果が出ています。講座を聴くだけでなく、目標を設定したことでモチベーションアップにつながりました。2022年もこの講座を継続していきたいです。今後はほかの団体などでも健康講座の開催ができるよう、講座のパッケージ化を考えています」と布川さんは意欲を見せる。

(2022年1月発行エイジングアンドヘルスNo.100より転載)

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.100(PDF:6.8MB)(新しいウィンドウが開きます)

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