健康長寿ネット

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高齢社会の「部分最適」を「全体最適」に(渡辺捷昭)

写真1:第22回対談風景写真。祖父江理事長と渡辺会長

シリーズ第22回 生き生きとした心豊かな長寿社会の構築をめざして

 わが国がこれから超長寿社会を迎えるに当たり、長寿科学はどのような視点で進んでいくことが重要であるかについて考える、シリーズ「生き生きとした心豊かな長寿社会の構築をめざして」と題した各界のキーパーソンと祖父江逸郎・公益財団法人長寿科学振興財団理事長との対談の第22回は、渡辺捷昭・トヨタ自動車株式会社顧問、長寿科学振興財団会長をお招きしました。

多岐にわたる長寿科学へのアプローチ

渡辺:私が長寿科学振興財団の会長になって6年。その経過をみると、いろいろな角度からの長寿へのアプローチが増えましたね。以前は医学や介護のテーマが多かったのが、今は社会学的なアプローチがものすごく増えました。

祖父江:そうですね。これはすべて社会構造、人口構造の変化・転換によるものが大きいですよ。

渡辺:日本は少子高齢化の先進国ですから、そういう意味では日本が貴重なケーススタディになる。そういう社会構造の変化にどう対応していくか世界が注目していますね。

祖父江:今一番困っているのは中国です。日本の長寿社会への対応を調査するためにたくさんの人が来ているようです。今後、中国の少子高齢化は間違いなく大変なことになってきます。高齢者が2億人を突破して、日本以上に急速な高齢化が進んでいます。2016年まで実施されていた「1人っ子政策」で出生率が下がって、今は5人で1人の高齢者を支えているところが、2040年になると2人で1人を支える形になると予測されています。

渡辺:総人口13億人のうちの2億人が高齢者ですか。先生がおっしゃった高齢者とは何歳ですか。

祖父江:65歳です。

渡辺:そろそろ70歳からが高齢者になるでしょうね。

祖父江:そうですね。75歳からと考える人も増えてきているようです。ここ何年かの間で「高齢者の定義」を見直すように気運が高まってきましたね。

渡辺:国の政策的にもそうでしょうし、周りの見る目が変わってきました。同時に元気な高齢者が多くなりました。97歳で現役の祖父江理事長はその典型でしょう。

祖父江:これからアクティブな高齢者がどんどん増えて、さらに次の時代は高齢者がもっとアクティブになります。「ともかく高齢者になればいい」という時代は過ぎて、「質的にアクティブな高齢者が増える」という時代に変わってきました。

渡辺:医学の進化もあると思いますが、健康長寿の一番の要素とは何でしょうか。

祖父江:一番大きい変化といえば、やはり「栄養」でしょうね。特に良質のたんぱく質を食べるようになったことが大きいでしょう。「動く」という点では明治時代の人のほうがよく体を動かしていました。高齢者には運動が大切といいますが、明治時代のほうがよほど体を動かしてきました。それでも早死にしている。ということは、戦後、平均寿命が延びたのは、やはり「栄養」が大きいのです。欧米式の食事と日本式の食事をミックスして摂るところに、長寿に至る栄養学のベースがあると思います。

渡辺:良質のたんぱく質とは具体的にいうと何ですか。

祖父江:やはり肉や魚です。動物性たんぱく質ばかりではなく大豆などの豆類も大事です。やはり植物からも摂らなくてはいけません。

渡辺:もう1つ、私は社会環境がよくなり、住みやすい環境になったことも大きいと思います。家もそうでしょうし、車もそのうちの1つです。栄養や食事と同時に、やはり環境の変化も大きいと思います。

写真2:祖父江理事長と渡辺会長の対談風景写真

世界的なモータリゼーションの進展

祖父江:世界的な流れですが、車社会が実現しました。私は昭和29(1954)年にアメリカへ留学して一番驚いたのが、「車社会」でした。アメリカは広大な土地ですから、車がなければ生活ができないという状況がありました。しかも、非常に大きい車に1人で乗っている。アメリカ人自身も「こんなに大きい車に1人で乗るのはもったいない」とよく言ったものですよ。その後、日本でも同じように車社会になるとは思いもしませんでした。

渡辺:私は昭和39(1964)年にトヨタ自動車に入社したのですが、祖父江先生がアメリカに行かれた10年後です。当時、日本ではモータリゼーションはまだまだでした。ですから、ゼネラルモーターズ、フォード、クライスラーは企業としてはもう殿上人(てんじょうびと)で、われわれは追いつこうという以前に、「アメリカにはすごい会社がある」という感じでした。

 昭和39年当時は、日本の自動車メーカーが1年間に生産する車の台数が約110万台、ひと月に9万台でした。トヨタは日本で1年間43万台(3.6万台/月)生産していました。それが今や1年間で1,000万台弱を生産しています。世界市場でいうと、新車は年間9,400万台ほどが購入されています。違う言い方をすると、世界の人口74億人で、世界で走っている車の台数は約13億台。それくらいにまで増えました。

 私が社長の時代(2005~2008年)は、中国は13億人の人口で車の保有台数は7,900万台といわれていました。それが今は倍の1億6,000万台にまで増えています。

 日本はといえば、人口1億2,000万人で、保有台数は7,500万台。1.6人~1.7人に1台で、1人1台は持っていません。一方、アメリカは1人1.1台~1.2台で、1家庭に2~3台ある計算になります。

祖父江:私がアメリカに行った当時でも1家庭に車1台は必ずありましたね。

渡辺:世界の人口74億人で、車の台数は約13億台。世界の人口の1/4を占める先進国に、3/4もの車が集中しているのが現状です。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれる新興国やアフリカなどには、まだ車が十分普及していませんので、そういった国がどんどん発展していけば、台数も確実に増えていくでしょう。

環境、エネルギー、安心、安全、快適な車への転換

渡辺:しかし、今の車のまま台数だけを増やしていくことは、絶対によくありません。車の開発の軸は「環境」「エネルギー」「安心」「安全」「快適」です。

祖父江:今は技術が進化して、それが実現しつつあるのではないですか。

渡辺:おっしゃるとおりです。トヨタは今後、ハイブリッド、水素自動車、電気自動車に転換してきています。「環境」の問題では二酸化炭素(CO2)とハイドロカーボン(HC)、窒素酸化物(NOX)を出さないし、「エネルギー」の問題では電気を使えば石油を使わない。同時に「安心」「安全」の問題でいえば、安全装置が付いて、エアバッグ、自動ブレーキ、今や自動運転にまで及んでいます。そのように転換していけば、自動車はさらに普及するし、世のため人のための車になる。これからの車は、負の部分を限りなくゼロにする「快適」な車でなければならない。

 世界もだんだんそういう方向になってきていると感じます。最近では、中国が環境問題を考慮して電気自動車にシフトしようとしています。これから社会環境・社会構造の変化に伴って、車は徐々に電気自動車、水素自動車、ハイブリッドに移行していくでしょう。

写真3:祖父江理事長の対談風景写真

社会構造の中に車をどう存在させるか

祖父江:みんなマイカーを夢見て、1人1台とまではいかなくてもある程度は実現しました。日本ではマイカー時代はもうピークに来たと思っていいでしょうか。

渡辺:今では「マイカー時代」はある意味、終焉しています。私が入社した1960年代は「マイカー時代」といわれ、サラリーマンの目標は車を持つことでしたが、日本ではもうすでにピークアウトしました。日本の新車購入総数のピークは1990年で780万台。それが今は500万台強です。まあ、それがたぶん正常な数値でしょう。今後780万台をつくる時代はこれからはないと思います。

 だからこそ、使い道によって、個人の生活パターンによって、あるいは社会の要求レベルによって、移動手段は間違いなく使い分けられる時代なのだと思います。「車の使い方の多様性」は間違いなく起こってきます。最近、普及している「カーシェアリング」。1台の車を何人かで使い分ける。今後はもっと広まっていくでしょう。

 さらには交通網が進化して発達していますから、車を持たなくてもいい。そういう意識の変化もある。国土の問題、地域の問題、公共交通機関の発達度合いもある。社会の変化や意識の変化でも変わってきます。

祖父江:リニア新幹線もできますし、これから公共交通機関がもっと発達するでしょうね。

渡辺:新幹線、飛行機、そのうちにリニア新幹線など、「公共の交通機関と車の使い分け・棲み分け」が必ず出てきます。だからこそ、社会環境をどう整備していくか、街づくりをどう整備していくかが大切で、「車でござる」の時代はもう街の中にはない。そういう意味では、「社会構造の中に車をどう存在させるか」、「街の中に車をどう存在させるか」を考えなくてはならない。そういう街づくりをしなくてはならないと思います。

祖父江:街づくりは10~20年、50年、100年先を見据えていかなくてはなりませんね。

渡辺:「車を中心に街をつくってください」ではなく、歩く空間と車で動く空間、遠距離の場合は鉄道やバスなどの交通機関とどう組み合わせをしていくか。街へ買い物に行くだけなら、小さな1~2人乗りの環境にやさしい電気自動車で十分です。街の中には大きな車を走らせないようにして、通過交通は街の外を走らせるように道路を整備する。そういう街づくりです。使い方によってベストな車や交通手段を選択していくことが大事で、そういう時代になりました。

祖父江:その多様性を理解しながら、街づくりとマッチするような社会構造をつくる。

渡辺:おっしゃるとおりです。ですから、その前提として、「環境」「エネルギー」「安心」「安全」「快適」な車をつくらなくてはならない。それが社会の中にスーッと入っていくような形にしていく必要があると思います。

技術革新に対する"教育の一様化"

祖父江:自動運転の開発も進んでいるようですね。

渡辺:自動運転においては、われわれは安全に重点をおいて開発してきたのですが、社会は変わってきていますから、高齢者向けのもの、あるいは体が不自由な方にとっての移動手段としての自動運転の開発は、今後ますます重要になってきます。

祖父江:AI(人工知能)の開発が進んで、今や次の新しい技術革新の時代が来ています。しかし、急速に技術が発達して、マシンが人より先を行くような時代になっているように感じます。

渡辺:「科学技術の進歩」と「人間の進歩」と「機械の進歩」の関係からいくと、特に最近は情報通信の技術の進化がものすごい。ビッグデータやそれを解析するコンピュータ技術、IoT(Internet of Things)、AI(人工知能)がどんどん進化してきています。情報通信は手段ですから、それを人がどのように使いこなして社会の役に立てるのか、われわれの開発や生産にどのように役立てるのか、まだまだこれから進化するところですね。まだ緒に就いたところで、これから進化のスピードがもっと速くなる。

祖父江:人間がその技術の進化に追いついていない。本来は人がマシンを使いこなす時代に変わらないといけないと思うのです。これは技術革新に対する「教育の一様化」が進んでおらず、理解している人としていない人が混在しているからです。IT時代が一様化するまでにはあと30~50年はかかると思います。逆に今それをやろうと思ったら、むしろ混乱社会になってしまいます。

渡辺:高齢者は特にそうでしょう。一方で平成に生まれた人にとってはIT時代は当たり前です。

祖父江:車社会も同じだと思います。AIを導入した自動運転の車も、今の社会では一様化するのはむずかしい。

渡辺:そうですね。歴史的にみても、徐々に進展していくのが一番自然ですね。急激に変わるのはむずかしいし、危ないこともあります。一様化するまで時間は相当かかりますが、できればその時間を短縮するように持っていく。

祖父江:それには教育ですね。

渡辺:やはり人あっての技術ですからね。

祖父江:私のように100歳近い人間は技術の教育を受けていませんから、コンピュータを使えと言われてもすぐにはできません。同じように自動運転の車が出まわってきても、高齢者にはなかなか使いこなせないでしょう。

渡辺:おっしゃるように、自動運転の車ができたとしても、使いこなせるかの問題があります。それでも私は「誰でも使える車をつくりたい」と言ってきました。自分が加齢で運動神経が鈍くなり力が弱くなったときに、どのような車をつくるのかという問いかけをずっとしてきました。

祖父江:一方で、世界に遅れをとらないように開発はやらなくてはいけない。新しい技術を入れていくのにも段階性が必要ですね。

渡辺:われわれはハイブリッド車を十数年前に開発して世の中に送り出しました。急速には普及しないと思っていましたが、やはりそのとおりで徐々に普及しました。

 活力ある高齢者が生き生きとして暮らせる社会環境をつくっていく中の1つの要素として、「移動手段としての車」が大変意味を持ってきていますので、「誰でも使える車」の開発は必ず必要になってくると思います。

写真4:渡辺会長の対談風景写真

高齢社会は「心身ともに改革」する時代に

渡辺:今後、ますますアクティブな高齢者が増えてくる中で、高齢者が活躍する場所、働く場所をどのようにつくるかがとても大事になってきますね。私は元気でアクティブな高齢者の共通点をみつけています。それは「明るい」ということです。

祖父江:確かに「明るい」「楽観的」など心の要素は大きいと思います。それと同時に人との関わりやコミュニケーション能力が大切なのではないかと思います。

渡辺:前々号(2017年7月号)の本誌『エージングアンドヘルス』の特集は、「高齢者の孤立を考える」でしたね。あのテーマは非常に考えさせられました。

祖父江:「高齢者の孤立」には社会構造の変化が深く関係しています。核家族化が進んで、三世代同居がほとんどみられなくなりました。住居のマンション化も孤立社会に拍車をかけていますね。

渡辺:やはり、60歳、65歳で定年退職して、その後何もしないと孤立につながりますよね。

祖父江:特に、男性の定年後のセカンドライフのあり方の問題はよく言われますね。日本人はコミュニケーション能力が低くて、なかなか地域社会に溶け込めない。社会参加の機会を自治体やNPOや地域でつくってはいるのですが、参加できない人が多い。高齢社会になったから、「今すぐコミュニケーションを取ってください」と言われてもできるものではありません。

渡辺:意識改革が必要ですが、これはむずかしいですね。国の政策として、どこかの地方自治体がモデル事業として行うなど、真剣に考える首長が出てこないといけない。

祖父江:例えば、千葉県柏市では東京大学とUR都市機構と自治体が一緒になって、21世紀型の都市の街づくりを進めていますね。しかし、気持ちの改革をどうするのかというと、また別の問題です。高齢社会の問題は、医療・介護、衣食住の他にも心の問題など多岐にわたっています。

渡辺:それぞれを「部分最適」で対応していて、「全体として最適化」するという発想が少ないように感じます。「全体最適」を考えたうえで「部分最適」させるか、もしくは「部分最適」で1つひとつきちんと対応して、それらを集合させて「全体最適化」するか。今のやり方は後者ですね。

祖父江:やはり両方からのアプローチが必要なのではないでしょうか。

渡辺:そう思います。そこにはビジョンがなくてはいけない。ビジョンに向かって「部分最適」をきちんと行う。

祖父江:高齢社会は「心身ともに改革」する時代に差しかかってきています。今はまだ長寿社会に対する考え方がばらばらなので、それらを1つにまとめて広い観点で物事を考える方向に持っていかないといけない。これからの車社会にもいえることですね。

渡辺:車も絶対にそうです。もともと複雑系を一緒にまとめていますから。車の材料には鉄もアルミも樹脂もあるし部品もたくさんある。これをどのように集めてうまく車に仕立てるかということで、チームプレイが比較的上手です。そこにIoTやビッグデータ、AIやロボットが加わって、「環境」「エネルギー」「安心」「安全」「快適」な車づくりはもっと進化していきます。

祖父江:それで今の時代は第4次産業革命と言われるのですね。

渡辺:そうですね。これからIoTやAIやロボット技術が社会システムとうまく融合して、経済成長や人の豊かさにつながっていくということでしょうね。

 少子高齢化に向けて対応しなければいけない課題はたくさんありますが、まだまだ「部分最適」であるという感じは否めません。われわれの財団は「元気で明るい高齢社会」をつくるために、さらにがんばらなければいけませんね。

祖父江:まだまだ取り組むべきことがたくさんありますね。本日はどうもありがとうございました。

対談者

写真:対談者 渡辺捷昭

渡辺捷昭(わたなべかつあき)

1942年三重県四日市市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1964年トヨタ自動車工業株式会社(現在のトヨタ自動車)に入社。1992年取締役、1997年常務、1999年専務、2001年副社長を経て、2005年社長、2009年副会長、2011年相談役、2016年より顧問。2010年より長寿科学振興財団会長。2009年から日本経済団体連合会副会長を務め、2012年から首都高速株式会社取締役会長を務めた。2009年11月、藍綬褒章受章。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.85
Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.85(新しいウィンドウが開きます)

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