健康長寿ネット

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長寿科学研究は社会に深くコミットしていくこと(鈴木 隆雄)

第25回対談風景写真。祖父江理事長と鈴木隆雄氏。

シリーズ第25回 生き生きとした心豊かな長寿社会への構築をめざして

 わが国がこれから超長寿社会を迎えるに当たり、長寿科学はどのような視点で進んでいくことが重要であるかについて考える、シリーズ「生き生きとした心豊かな長寿社会の構築をめざして」と題した各界のキーパーソンと祖父江逸郎・公益財団法人長寿科学振興財団理事長との対談の第25回は、鈴木隆雄・国立長寿医療研究センター理事長特任補佐、桜美林大学老年学総合研究所所長をお招きしました。

国を挙げて長寿医療研究の推進

祖父江:鈴木先生は国立長寿医療研究センターの研究所長を務めた後、現在は理事長特任補佐をされています。国立長寿医療研究センターは6つあるナショナルセンター(国立高度専門医療研究センター)の6番目として、平成16年(2004年)に設立されました。国立長寿医療研究センターの取り組みを紹介いただくとともに、今日本が抱えている少子高齢化の問題についてお話を聞かせていただきたいと思います。

 昭和の終わり平成の始まりの頃、これからますます進む高齢化の問題にどのように対応するか盛んに議論されるようになり、長寿医療を研究するナショナルセンターをつくるべきではないかといわれるようになりました。

 愛知県大府市には旧結核療養所の国立療養所中部病院がありました。私は名古屋大学を退官後、中部病院長を務めたことがあります。もう結核の時代は過ぎ、これからの長寿医療時代に対応するため、ここを長寿医療研究のナショナルセンターにしていこうと国に働きかけ、それが実現し国立長寿医療研究センターができ、長寿医療研究の方針や進むべき方向を示すことになったのです。

鈴木:私が国立長寿医療研究センターの研究所長として着任したのは2009年です。日本での老化や長寿の研究は、1972年にできた東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター研究所)があり、日本で唯一の長寿研究機関でした。その後、国が本格的に長寿研究・老化研究を進めないと今後の高齢社会に対応できないということから国立長寿医療研究センターをつくったわけですが、これは非常に高い見識だったと思います。

 私が着任した当時から、長寿医療に関する研究、特に高齢者の心身の特性に応じた病気や障害にどのように対応していくかという研究はきわめて重要だと思って取り組んでいました。高齢者になると慢性期医療が多くなっていきます。急性期も大事ですが、慢性期にいかによい医療とケアを提供できるのか。医療と介護の連携に関しては今盛んに国がリードして進めていますが、当時から国立長寿医療研究センターの病院では、医療と介護の連携を1つの大きな課題と位置づけて取り組んでいました。

 特に高齢者医療の面で重要なのは在宅医療です。在宅医療についても国立長寿医療研究センターが最初に「在宅医療支援病棟」をつくって、在宅医療を「救急から看取りのケアに至る全て」に対応できる支援をしています。そのような支援がないと介護家族のレスパイトケアもできませんし、在宅医療に携わる先生方のご苦労も大きいので、それをサポートする。そういう意味で高齢者医療についてはかなり先進的に進めていると思います。

 一方、センター全体が関わる研究の面で一番大きい課題は認知症の問題です。研究所では開設当時からアルツハイマーを中心として認知症に関するさまざまな研究、中でも分子生物学的な研究が中心に行われてきました。しかし社会科学研究は必ずしも盛んではなく、社会的な課題にわれわれセンターがどうコミットしていくか、どういった研究成果を社会で実証していくのかという点は十分ではなかったと思います。私が一番気をつけたのは、基礎的医学研究も大事ですが、社会科学研究で少しでも実際の社会でお役に立てればということです。

 そういう中で、「老年学・社会科学研究センター」という1つの総合的研究ユニットをつくり、高齢社会におけるさまざまな問題に、自然科学にプラスして社会科学的な側面からのアプローチをしていこうと考えました。現在では高齢者の「社会参加」、「自立支援」、「社会支援」、「社会福祉」、「在宅医療」、「地域包括ケア」をキーワードとして、高齢者に関わる施策や法制度、経済的な視点も含めて問題解決型の社会的な面での実証研究を進めています。

祖父江:大事な領域ですね。長寿科学研究は社会を抜きにしては成立しませんからね。

個々の長寿研究を統合し実社会に役立てる

祖父江:私は40年ほど前に長寿科学研究について世界各国を訪問し状況を調べましたが、しっかりとした長寿医療センターは意外に整備されていませんでした。国が本腰を入れてやっていない印象でした。アメリカの国立長寿医療センターといえばNIA(米国国立老化研究所)で、NIH(米国国立衛生研究所)の傘下になっています。当時の研究はまだ乏しかった記憶がありますが、先生はどのように感じていますか。

鈴木:NIAは老化の基礎研究の中心ですね。老化のメカニズムは非常に大事ですが、実際には私たちは毎日社会の中で生きていることを考えると、社会科学的な研究も大事であると思います。NIHの資金がたくさんの機関に出ていて、ミシガン大学など他のいろいろな大学や研究機関の研究を担っている。必ずしも国がすべてをコントロールしているわけではないと思いますが、老化に関するオールラウンドな、あるいは包括的な研究への資金面でのサポートは大きいと感じています。

 日本ではいろいろな機関で切磋琢磨して研究を進めることはいいことですが、長寿科学研究を「統合」していくことが必要になると思います。日本で行われている老化に関する縦断研究の1つひとつを見ると、2,000人とか3,000人単位です。一方、アメリカがすごいのは、統合して数万単位のデータを出してくることです。

祖父江:いわゆるビッグデータですね。

鈴木:そうですね。ビッグデータを使っている。これが日本には乏しかった点です。日本の個々の長寿研究を尊重しながらもうまく統合し、それをどう実社会に役立てていくか、対象者数を多くしてビッグデータで新たに何が浮かんでくるのかを見るのは、やはり国立の機関が責務としてある程度イニシアチブを取っていくべきではないかと思っています。そういう意味では、国立長寿医療研究センターは非常にいい機能を持っている機関ではないかと思います。

祖父江:国全体を俯瞰することによって、新しい局面が浮かんできます。まずは疫学です。高齢者はどのように活動しているのか、その実態をつかむことが重要だと思います。

鈴木:高齢社会において、病気や生活や介護の問題と直結するのは、まさに疫学です。国立長寿医療研究センターにはNILS-LSA(国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究)という世界に冠たる長寿疫学研究があります。平成9年(1997年)から縦断研究を行っていて、毎年1,200人ずつ2年間、2,400人を繰り返し見ていく。同じ人を長期にわたって繰り返し調査することによって、老化の過程や認知症、骨粗鬆症などの多くの老年病の発症の要因を明らかにして、それとともに予防法を見つけ出すための研究です。

 当時から最新最先端の機器を使ってデータを分析していますから、今までに出たNILS-LSAの研究成果は膨大な数になっています。そういう意味では、日本における疫学研究、特に老化研究、長寿に関する疫学研究では一番すばらしい研究であると思います。

日常の記録から見える新しく意外なもの

祖父江:老年医学研究の先駆者といえば、浴風会病院の初代院長の尼子富士郎先生(1893-1972)です。先生がこつこつと高齢者の剖検例を集めて研究に励んでいました。東大の脳神経内科の人たちが剖検例の整理をしていたといいます。それが神経疾患の発展にも大いに役立ちました。

鈴木:ブレインバンクといえば、東京都健康長寿医療センターの研究所の中に高齢者ブレインバンクという部門があります。ブレインバンクが一括して剖検例を管理しています。おそらく2,000 ~3,000例といった相当な数になっていると思います。

祖父江:愛知医科大学の加齢医科学研究所でもブレインバンク活動をしており、高齢者に限らず若い人のブレイン(脳)の剖検例もストックしています。これは疫学データの基本中の基本ですから、続けていくことによって貴重な財産になると思います。

鈴木:アルツハイマー病の研究で一番インパクトがあった研究の1つにアメリカの「ナン・スタディ」(The NunStudy)があります。ノートルダム教育修道会の修道女の日常の生活のすべての記録と、お亡くなりになったときの脳の剖検記録です。脳の中ではアルツハイマー性の病変、すなわちアミロイドβ蛋白が蓄積し老人斑ができ、病理像を見る限りではアルツハイマー病だけれども、日常生活においては認知症の症状がまったくなかった方が何人もおられた。100歳のシスター・マリーが大変有名ですね。

 ああいった日常の記録や社会的な生活の記録と、病理学的あるいは自然科学的、医学的なものをドッキングすることによって、新しく意外なものが見えてくる。それが科学のおもしろさだと思います。

祖父江:生前の活動状況、生活習慣、疾患のデータを克明に記録する必要がありますが、これが意外にむずかしい。限られた集団であれば可能ですが。

鈴木:そうですね。ナン・スタディのような修道院やキリスト教の一派であるアーミッシュなど特有のライフスタイルを保持している集団ですね。そういった人たちであれば生活記録と剖検例との関連を結びつけられますが、確かに一般の方ではむずかしいでしょう。

祖父江:生前の記録は大事ですが、疫学の中では意外にその点が抜けています。データの整理と保存は日本人の苦手なところですね。そのあたりはアメリカはうまい。アメリカではデータを整理・保存するための予算をたくさんとっています。

鈴木:見習わないといけない点ですね。今後ビッグデータはいろいろなデータが連結していく可能性があります。今の段階ではデータ数は多くても質が担保されていないものがありますが、質も量も担保されるようになれば、新しい科学の切り口ができるという期待感を持っています。

祖父江:今までのデータはでこぼこが大きすぎて、質の統一性という面で十分ではないですね。だから研究データを統合してビッグデータにすることがむずかしい。

鈴木隆雄先生の対談風景

「整理」と「統合」をして何が見えてくるのか

鈴木:今のビッグデータには疫学でいう交絡要因(調査しようとする因子以外で、結果に影響を与える因子)がまったく取られていないものもあります。二者の関係・相関関係しか持っていないデータがあり、2つの相関に関与する交絡要因がまったく取られていないデータが多いのが実状です。今の段階のビッグデータには使えない部分もありますが、今後、交絡要因もきちんと取ることが標準化されれば、非常に有用なデータになると思います。

祖父江:ビッグデータをめざすためにデータをどのように整理していくか。研究のあり方を考える必要がありますね。

鈴木:今のお話の中で大事なのは「整理」と「統合」。統合したときに何が見えるのかということですね。われわれはあるものが老化に対して有効かどうかを確かめるときにランダム化比較試験(RCT)を行いますが、RCTは1つの研究だけでは結果は出ません。RCTをたくさん集めて対象者数を多くして差異分析する、いわゆるシステマティックレビューとかメタアナリシスといわれる方法ですね。このようなメタアナリシスはやはりパワーが全然違いますし、医療において最も質の高い科学的根拠の1つとなります。

 1つひとつの研究はもちろん大事ですが、それらをどう統合して統一したスタンダードな枠組みの中で評価できるかというやり方が、今後はもっと大事になっていくだろうと思います。さきほども触れましたが、日本全国で走っている老化の個々の疫学研究は非常に大事ですが、それぞれの数が少ないときには国や国立長寿医療研究センターがそこをうまく接着させる、全部統合していくことが求められると思います。

祖父江:過去にスモン(亜急性脊髄視神経症)という病気があって、日本各地でばらばらに発生したのですが、調べてみると集団発生でした。ビッグサイエンス的に大きな数で見ると、個別に見た中ではわからなかった点が浮き彫りになる。そこに集団医学の大きな利点があります。高齢社会の問題は、殊に「社会」の問題です。高齢医学は1人ひとりの臨床データと社会全体としてのデータの両方を合わせて見ていくことが大切でしょう。

祖父江理事長の対談風景

思い切った服薬基準をつくるべき

祖父江:これからは高齢社会の問題を整理・分析し、新しい提案が必要だと思います。これは高齢医学、長寿関連の学会のひとつの使命ではないでしょうか。

鈴木:そういう意味では、日本老年医学会が果たしている役割は大きいと思います。高齢者医療は若い人の医療と違うという点がはっきりしています。たとえば、日本老年医学会で最初に明確にしたCGA(高齢者総合的機能評価)という指標。「高齢者の医療は若い人と違ってホリスティック(包括的)なアセスメントも必要だ」ということを提唱しています。そういう考えは今日では臨床の医師にかなり浸透していて、昔は「病気だけを診ていればいい」、「高齢者でも若い人でも病気は病気」という感覚でしたが、今は高齢者を診るときに、病気を治した後の生活まで医療の側は考えていると思います。

 その他にも薬物治療に関するガイドラインやフレイル・サルコペニアに関する問題、高齢者の医療に関わる問題、生活に関わる問題などがあります。薬物療法も6剤、7剤になると効果よりもむしろ有害事象が多くなる場合があると明確に情報を発信しています。

祖父江:高齢者の薬物療法の問題はよく取り上げられますね。いったん薬を飲み出すと長い間飲み続ける。本当にそれは必要なのか。薬物治療の指針がつくられていません。

鈴木:これは高齢者の薬物治療という領域の問題を超えて、日本の医療制度の枠組みに関わる問題だと思います。

祖父江:高齢者の薬物治療なり、高齢者のリハビリテーションも含めて治療をどこまで行うのか、あるいはどこを治癒とするのか。それが明確ではありません。

鈴木:平成30年度から厚労省で後期高齢者医療制度の見直しがありました。医療のかかり方の適性化。要するに「ドクターショッピング」といわれるたくさんの医師に罹り、重複投与、多剤投与を受けてしまうことを是正する点。もう1つは残薬の問題点です。薬の飲み忘れや飲み残しによって捨てられる薬剤は年間でも数千億円といわれています。

祖父江:特にこれから認知症の人も増えてくると、飲み忘れは当たり前になってくる。それにどう対処するのかです。

鈴木:後期高齢者医療には完全でない部分があり、プラス認知症の問題があるので、問題はさらにむずかしくなります。

祖父江:服薬基準を検討する必要があると思います。急性と慢性はまったく違います。現在は予防投薬が多く、治療投薬か予防投薬なのかはっきりしていない。一部の医療機関では患者さんを引きつけるために薬を出すといった、薬が媒介役をしている側面もあるようです。アメリカでは受診の際に患者さんに残薬を持ってくるようにお願いしますが、日本もそのようにするべきだと思います。

 人間には通常の忘却があり薬の飲み忘れは当然あるが、それをどこまで許容するのか。もう1つはどこで薬を止めるのか。ここが日本の医療のウィークポイントです。ですから、思い切った服薬基準をつくらざるを得ないのではないでしょうか。それにはビッグデータなどによって実態をつかまなくてはならないと思うのです。

高齢者に大事な要素として「生涯学習」

鈴木:祖父江先生は医師の側からの考えを話してくださいましたが、私は患者さん側の健康に対する意識も重要だと思っています。たとえば認知機能を保つとか、いつまでも健康増進のための保健行動を保ち続けるなど、いわゆる生涯教育が大事です。高齢期になってからいかに頭を使うか、いかに勉強して刺激を受けるか、このことが高齢者に一番大事なことだと思っています。一般に高齢者に大事な要素といわれる「運動」と「栄養」に加えて、「生涯学習」です。

 先ほどのナン・スタディのシスター・マリーのように詩を書き続けるとか、聖書が日常の中でどのような意味を持つのか毎日ディスカッションすることによって、「脳の可塑性(かそせい)」や「認知予備能」をできるだけ維持していく。これが高齢期を生きていくうえで一番の大事なポイントになると思います。

祖父江:私がドクターになって70年以上になりますが、過去を振り返ってみても患者さん側の意識はかなり変わってきていると感じます。

鈴木:長期縦断研究からみても患者さんのヘルスリテラシー(健康意識)が非常に高くなっています。団塊の世代が後期高齢者になる頃には、それなりの教育レベルの方が中核を占めるようになりますので、ヘルスリテラシーはもっと高くなると思います。

祖父江:高齢社会の問題は国民全体の問題です。当事者意識を持っていただくためにも、これからは高齢社会に対するシステマティックな成人教育が必要だと思います。

 最後になりますが、これからの少子高齢社会について提案をいただけますか。

鈴木:少子高齢化は今後も確実に進みます。前期高齢者よりも後期高齢者のほうが増えていきます。後期高齢者は心身の機能の低下は避けられませんので、介護の担い手が必要になりますが、生産年齢人口だけではとても補えない。たとえばアジア諸国から介護を専門にできる人に来てもらうのも1つの策ですし、ロボット技術を使うというのもあります。介護する人が装着型の筋力補助装置をつけることで、今の10分の1の筋力で今と同じ仕事ができる。そうすれば介護の一番の問題の腰痛などが減る可能性があります。そういった新しい医療・介護の分野でのテクノロジーの開発と効果的な利用への期待はあるかと思います。

 もう1つは、国民の皆さんのヘルスリテラシーも上がり、前期高齢者の健康度が高くなります。そうすると元気な高齢者が増えますので、マンパワーとしても前期高齢者の力は大きいと思います。しかし、義務ではなく有償・無償のボランタリーにやっていけるような社会の情勢や仕組みをつくること、それをよしとする社会のあり様をつくることが大事だと思います。

祖父江:貴重なお話をありがとうございました。これからも鈴木先生には高齢者の力を底上げする長寿科学研究を盛り立てていただきたいと思います。

対談者

鈴木隆雄先生
鈴木 隆雄(すずき たかお)
1951年北海道札幌市生まれ。1976年札幌医科大学医学部卒業、1982年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了(理学博士)、1988年札幌医科大学助教授、1990年東京都老人総合研究所研究室長(疫学)、1996年同研究所部長、2000年同研究所副所長、2009年国立長寿医療センター研究所所長、2015年より現職。著書に『超高齢社会の基礎知識』(講談社現代新書)、『からだの年齢事典』(朝倉書店)、『骨から見た日本人』(講談社学術文庫)など多数。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.88

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.88(新しいウィンドウが開きます)

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