健康長寿ネット

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フレイルと疾患―認知症とうつ

小川 純人(おがわ すみと)

東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座准教授

秋下 雅弘(あきした まさひろ)

東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座教授

はじめに

 高齢者のフレイルは「加齢に伴う種々の機能低下を基盤とし、種々の健康障害に対する脆弱性が増加している状態」とされるが、ADL(Activities of Daily Living)・QOL(Quality of Life)や生命予後に及ぼす影響がきく、その予防対策はわが国において重要な課題となっている。認知症やうつについても、フレイルと密接な関連を有する疾患として理解されてきており、フレイル・サイクルで示されるような身体機能低下と精神心理的問題との相互連関に加え、フレイルの概念の中に従来から知られている身体的因子に社会的・精神心理的因子も含めるという最近の考え方にもつながっている。

 また、加齢に伴う生殖内分泌器官の機能低下により、男性ホルモン(アンドロゲン)や女性ホルモン(エストロゲン)をはじめとするホルモン動態にも変化が認められ、フレイルや認知機能低下・うつなどの発症・進展にこうした性ホルモンが関与している可能性も示唆れている。

 本稿では認知症・うつとフレイルとの関連性について概説する。

認知症・うつの関連性と性差

 認知症は、「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障を来たすようになった状態」として理解されている。わが国における65歳以上の認知症有病率は15%に上り、推定認知症有病者数は462万人(2012年)と増加の一途をたどっている。認知症の内訳として、アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)が最も多く、血管性認知症も合わせるとその大部分を占める。アルツハイマー病の入院受療率はどの年齢層においても男性に比べて女性に多く、血管性やその他の認知症についても特に80歳以上では、女性の罹患率が高くなる。

 うつの有病率については、75歳以上を対象としたメタアナリシスによると大うつ病の有病率は7.2%、小うつ病の有病率は17.1%とされている。わが国においてうつ病や躁うつ病などの気分障害で受診した患者総数は、厚生労働省・患者調査によれば2008年に約104万人、2013年に約95万人と、1996年と比較して約2.2倍に増加している。うつ病や躁うつ病の割合は、女性の方が男性よりも約1.6倍高く、男性では40歳代が最も多いのに対して、女性では30~40歳代、60~70歳代にピークか認められた。高齢者については、女性の患者数が男性に比べて多い結果となった(図1)。

うつ病疾患で受診する患者数の年代別・男女別による比較を表した図
図1:わが国のうつ病疾患(気分障害、躁うつ病を含む)とその性差(2011年10月)

 高齢者における認知症とうつ病との関連性についてはこれまでの研究からも示されてきており、うつ病や不安症状がレビー小体型認知症やパーキンソン病などの前駆症状である可能性も示唆される。臨床的にも、認知症の初期症状としてうつ病が認められる場合やうつ病性仮性認知症として知られるうつ病による認知症様症状を呈する場合なども多く、認知症とうつ病性仮性認知症との鑑別、ならびに認知症とうつ病が合併している可能性を検討することも重要である(表1)。初期の認知症とうつ病との鑑別の際には認知機能検査に加えてMRIによる精密な形態画像やSPECTなどの脳機能画像所見による評価を実施し、総合的に判断することが必要になる。

表1:うつ病性仮性認知症と認知症との鑑別1)より引用
うつ病性仮性認知症認知症
物忘れの自覚 ある 少ない
物忘れに対する深刻さ ある 少ない
物忘れに対する姿勢 誇張的 取り繕い的
気分の落ち込み ある 少ない
典型的な妄想 心気妄想(ボケてもうだめだ) 物取られ妄想(物が盗まれて困る)
脳画像所見 正常 異常
抗うつ薬治療 有効 無効

 また、高齢者のうつ病では、若い世代のうつ病に比べて憂鬱な気分が表出されにくい傾向がある一方で、物忘れについての自覚があり、時に誇張的でもあり、意欲低下や焦燥感、不安感も認めやすく、体の不調を訴えやすいなど心気症的症状を呈することなどもその特徴として挙げられる。また、本人も家族・介護者も歳のせいだからと、うつであることを見過ごしやすく、受診や治療の機会を逃してしまうことにもつながりやすい。こうした背景に加えて高齢者においてうつ病に伴う自殺者数も増加していることなどからも、早期発見・治療が一層重要な課題となっている。

 また、加齢に伴い身体機能、生理機能の低下とともに生殖内分泌器官の機能低下を認めることが知られているが、その際、性ホルモンをはじめとするホルモン動態にも大きな変化が生じてくる。最近の疫学研究などの知見から、地域在住高齢男性についての男性ホルモン(アンドロゲンの1つであるテストステロン)レベルと認知機能低下、うつ、フレイルとの関連性が示唆されるようになってきている。また、血清テストステロン濃度が低い男性において認知機能低下や認知症の発症・進行が早くなるとの報告もあり、アルツハイマー病の男性では血中テストステロン濃度が低値である可能性が指摘されている。

 地域在住健常男性の血中男性ホルモン濃度を平均19.1年間(4~37年間)観察したBaltimore Longitudinal Study on Agingでは、最終的にアルツハイマー病と診断された男性は観察当初の遊離テストステロン血中濃度が低値を呈し、また剖検による検討からもアルツハイマー病男性患者の脳内テストステロン量は年齢調整した正常脳と比較して低値であることが報告されている。こうした知見により、加齢に伴うテストステロンレベルの低下が男性におけるアルツハイマー病の発症に関与することが示唆された。

 長野県在住の軽度要介護高齢者を対象としたわれわれの検討では、血清総テストステロン濃度、遊離テストステロン濃度いずれにおいてもADL(R=0.292andR=0.282)、IADL(Instrumental Activities of Daily Living)(R=0.261andR=0.408)等の日常生活機能、HDS-R(Revised Hasegawa's dementia scale)(R=0.393andR=0.553)、Vitality index(R=0.246andR=0.396)との間に正の相関が認められた(表2)2)

表2:軽度要介護高齢男性における血清テストステロン濃度と認知・生活機能との関連性2)より引用改変
総テストステロン遊離テストステロンDHEA-SDHEAエストラジオール
Barthel Index 0.292** 0.282** 0.094 -0.058 0.110
Instrumental ADL 0.261* 0.408** 0.239 0.140 0.129
HDS-R 0.393*** 0.553*** 0.390* 0.393** 0.266*
Vitality Index 0.246* 0.396*** 0.210 0.297* 0.291*
GDS -0.103 -0.097 -0.181 -0.027 -0.060

 また要介護高齢男性において血清テストステロン濃度と生命予後との間に関連性も認められた。女性についても、アルツハイマー病を有する高齢女性患者における血中エストロゲン濃度が対象群に比べて有意に低下していたことや、エストロゲンを中心としたホルモン補充療法(HRT:Hormone Replacement Therapy)により認知症発症リスクが低下したとする報告等から、臨床的にも内因性、外因性エストロゲンが認知症予防効果を有する可能性が示唆される。

 この他、副腎ステロイドの一種であるDHEA(dehydroepiandrosterone)も性ホルモンと同様に加齢に伴って低下することが知られているが、要介護高齢女性を対象としたわれわれの検討では、血中DHEA濃度と基本的ADLとの間に関連性が認められ2)、また軽度認知障害を有する高齢女性を対象とした6か月間のDHEA投与により、非投与群と比較して有意な認知機能維持・改善効果が認められた。

認知機能障害・うつとフレイル

 フレイルについては、身体予備能の低下を基盤とし、健康障害のリスクを有する状態として脆弱化した心身を捉えている概念であり、すでに身体機能障害や併存症を有した状態とは区別される。また、フレイの概念には高齢者の身体的側面に加えて、精神・心理的側面、社会的側面も含まれていると考えられるが、Friedらによる指標では身体機能の表現型を主軸とした定義がなされている。そこでは1.体重減少、2.主観的な活力低下、3.握力低下、4.歩行速度低下、5.活動度低下からなる5つの症候が抽出され、このうち3項目以上該当した場合にはフレイルであると定義付けられた。今後、フレイルの概念やその評価を進めていくことは、高齢者の生命・機能予後の推定や包括的医療・ケアを推進する上でも重要である。

 高齢者においては身体機能、臓器予備能、ADLなどの低下によってフレイル、要介護状態に陥ることがよく認められるが、フレイルの発症・進展において認知機能障害などの精神心理的問題も密接に関連することが明らかになってきている。身体的フレイルに認知機能障害を加えて評価した場合には、将来のADL、IADL等の機能予測により効果的であることや、身体的フレイルが認知症の発症リスクにつながるなど、フレイルを考える際に精神・心理的因子を考慮することも一層重要になってきている。

 うつにおいても、体重減少、活力低下、易疲労感などは主な症状であり、また高齢者におけるうつはdisabilityや死亡の危険因子であることなどからも、うつと身体的フレイルとの間には双方向性の危険因子、連鎖の可能性が示唆される。

 このように身体的フレイルと精神心理的フレイルとの間には関連性が高く、認知機能障害やうつなどの精神心理的問題は身体的フレイルの重要な要素とも考えられる。また、こうした精神心理的問題とそれに伴う摂食量低下、活力低下、活動度低下、サルコペニアなど、フレイルの各指標、要素が互いに悪循環、連鎖(フレイル・サイクル)を形成することも示されている。こうしたことから認知機能障害やうつが発症、進行した場合には、転倒、歩行速度低下、活動度低下、基礎代謝低下が生じやすく、フレイルや要介護状態の進行につながる可能性が高くなる。今後、高齢者の身体的フレイルや精神心理的フレイルに対して一連の症候群として理解を進めるとともに、フレイル・サイクルを考慮した包括的アプローチ・対策が一層重要になると考えられる。

おわりに

 本稿では高齢者で認められる認知症やうつについて、その性差や鑑別、フレイルとの関連性について概説した。今後、フレイルのメカニズムや身体的フレイルと精神心理的なフレイルの関連性が明らかになり、バイオマーカーの開発が進むことで、認知症・うつやフレイルに対する新たな診断・治療指針の構築、ならびに効果的な介入法を含む臨床応用が一層進展するものと期待される。

参考文献

  1. 日本認知症学会編.認知症テキストブック p.161,中外医学社,20
  2. Fukai S et al: Association of plasma sex hormone levels with functional decline in elderly men and women. Geriatr Gerontol Int 9:282-289, 2009.

筆者

筆者_小川純人先生
小川 純人(おがわ すみと)
東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座准教授
略歴:
1993 年:東京大学卒業、1996年:日本学術振興会特別研究員、2001年:カリフォルニアサンディエゴ校細胞分子医学教室、2005年:東京大学医学部附属病院老年病科助手、文部科学省高等教育局医学教育課専門官(併任)、2008年:同病院講師、2013年より現職
専門分野:
老年医学。医学博士
秋下 雅弘(あきした まさひろ)
東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座教授
略歴:
1985年:東京大学卒業、1994年:同大学医学部老年病学教室助手、1996年:ハーバード大学ブリガム・アンド・ウィメンズ病院研究員、2000年:杏林大学医学部高齢医学講師、2002年:同助教授、2004年:東京大学大学院医学系研究科加齢医学准教授、2013年より現職
専門分野:
老年医学。医学博士
※筆者の所属・役職は発行当時のもの

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団 機関誌 Aging&Health No.72 2015年1月発行

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.72(新しいウィンドウが開きます)

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