健康長寿ネット

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フレイルの予防対策

島田 裕之(しまだ ひろゆき)

独立行政法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 生活機能賦活研究部 部長

フレイルの危険因子

 フレイルは高齢期における生活の自立を阻害する主要因であり、健康寿命の延伸のためにフレイルの予防や改善は重要な課題となっている。疾病、あるいはフレイルを含む老年症候群の予防のためには、それらの危険因子の除去や保護因子の促進をする必要がある。これらの因子を発見するためには、フレイルに焦点を絞った検査や調査を実施する必要がある。また、疾病予防の原則は、早期発見、早期対処であり、フレイルについても例外ではない。この実現には、地域で自立して暮らす高齢者を対象としたフレイルの早期発見を目的としたスクリーニング検査を実施することが必要であろう。

 フレイルに関して多くの業績を残したFried博士は、フレイルを体重減少、疲労、身体活動の低下、歩行速度の低下、筋力低下の要素を含むことと操作的に定義してフレイルを測定可能な5つの変数に構成した1)。フレイルを構成する要素間には関連があり、身体活動の低下によって総エネルギー代謝が減少し、食欲減少から低栄養状態に陥り、その状態が筋量減少を招き、筋力や有酸素能力の低下から歩行能力が低下し、さらに活動を制限させる結果となる。

 また、筋量の減少は基礎代謝量を低下させ、総エネルギー代謝の減少に影響を及ぼすといった関連が指摘されている。そのため、これらの要素を包括的に捉えることで問題点を特定することができ、集中的なアプローチが可能となる。対策が奏効すればフレイルの悪循環が解消され、状態の改善、予防が期待できる。

 測定値を解釈するためには、基準に照らし合わせて個人の値が相対的にどこに位置するかを明確にして、その位置が異常であるのかどうかを判断する必要がある。この異常の境界であるカットポイントの設定が測定値の評価のためには必要であるが、日本人高齢者を対象とした調査方法や測定値のカットポイントは十分に明らかとされておらず、早急に検討を進める必要がある。

 現在まで行われてきた大規模コホート研究のカットポイントを表に示した。各コホートによりカットポイントは異なるが、最も重大な違いは歩行速度のカットポイントである。歩行速度は、高齢者の健康状態をよく反映し、将来の問題の発生の予測に有益な指標である。米国の研究では0.65m/sが通常歩行速度のカットポイントとされているが、このレベルの歩行機能を持つ高齢者は地域にはほとんどいない(図1)。歩行速度0.65m/sは要介護2の対象者の平均と同値であり、障害の前段階に位置付けられるフレイルをスクリーニングするカットポイントとしては遅すぎると考えられる。

表:フレイルに関する大規模コホート研究のカットポイント
研究プロジェクト名
判定要素 Cardiovascular Health Study(CHS) Women's Health and Aging Study Study of Osteoporotic Fractures(SOF) Obu Study
体重減少 ここ1年間での4.54㎏以上、もしくは5%以上の意図しない体重の減少 60歳の体重からの10%以上の減少、またはBMIが18.5kg/m2以下 ここ2年間での5%以上の意図しない体重減少 ここ2年間での5%以上の体重減少
筋力低下 握力低下(性別と体格を考慮した下位20%)
(例)
男性・BMI24以→29㎏以下
女性・BMI23以下→17㎏以下
握力低下(CHSと同様) 腕を使わずに5回の椅子からの立ち上がりが不可能 握力低下
男性→26㎏未満
女性→17㎏未満
疲労 「過去1週間に何をするのも面倒だ」「過去1週間に物事が手につかない」
上記の質問(いずれもCES-D下位項目)に対して、「週3日以上」と回答
「過去1か月に非常に疲れを感じた」「過去1か月間で非常に弱くなったように感じた」
上記の主観的疲労の質問にいずれか1つに該当
「自分は活力が満ちあふれていると感じますか」
上記の質問(GDS-15の下位項目)に「いいえ」と回答
「自分は活力が満ちあふれていると感じますか」
上記の質問(GDS-15の下位項目)に「いいえ」と回答
歩行速度の低下 通常歩行時間(性別と身長を考慮した下位20%)
例)
男性:173㎝以下→0.65m/s以下
女性:159㎝以下→0.65m/s以下
通常歩行速度
身長159㎝以下→0.65m/s以下
身長160㎝以上→0.7 6m/s以下
なし 通常歩行速度
性別・身長問わず
1.0m/s未満
身体活動の低下 Minnesota Leisure Time Activity(消費カロリー)
男性では383kcal未満/週
女性では270kcal未満/週
Minnesota Leisure Time Activity(消費カロリー)
90kcal未満/週
なし 「軽い運動・体操をしていますか」「定期的な運動・スポーツをしていますか」いずれの質問とも「いいえ」と回答
判定 3つ以上に該当
(1~2つに該当で、"pre-frail")
3つ以上に該当
(1~2つに該当で、"pre-frail")
2つ以上に該当
(1つに該当で、"pre-frail")
3つ以上に該当
(1~2つに該当で、"pre-frail")
図1:地域で生活する要介護状態ではない高齢者と要介護2の認定を受けた高齢者の歩行速度の分布を表した図
図1:日本人高齢者の通常歩行速度の分布

 10,351名を対象としたわれわれの調査では、要介護認定者と自立して地域で生活する高齢者とを判別する歩行速度は、1.0m/sであり2)、その他の多くの研究でも歩行速度1.0m/sが健康上の問題を起こす境界とされており(図2)、フレイルの判別にもこの値を適用することが妥当であると考えられた。

図2:歩行速度と健康障害との関連を表す図

Abellan van Kan G,et al.J Nutr Health Aging.2009等を参照して作図

図2:歩行速度と健康障害との関係

フレイルに対する身体活動の効果

 フレイルは健康障害につながる心身の脆弱な状態であり、ストレスに対する予備力の低下に起因した状態であり、その構成要素には身体組成、身体機能、身体活動、疲労、精神心理状態、社会的問題などが含まれる3)。ここでは、社会的問題を除くすべての構成要素に効果を有する身体活動(運動)によるフレイル予防策について解説する。

 フレイルを有した高齢者に対する運動の効果には知見が集積しつつあり、いくつかのシステマティックレビューも報告されている4)5)。特に2002年にGillらによりNew England Journal of Medicineから報告されたフレイルを有する高齢者における機能障害予防のための運動プログラムの効果検証は重要な論文である6)

 この研究は、188名のフレイルを持つ高齢者を対象としたランダム化比較試験であり、介入群は家庭内でバランス、筋力、移動能力を向上するための理学療法を受け、教育プログラムのみを受けた対照群と日常生活動作についての障害度に関する比較検討がなされた。その結果、介入開始7か月後から群間に有意差を認め、運動の効果が確認された。ただし、この効果は中等度のフレイルを持つ高齢者に対して認められたものであり、重度のフレイルを持った対象者では、日常生活障害の悪化を介入によって防ぐことはできなかった。

 この結果は、フレイルが重度化する前に適切な運動指導の必要性を示唆するものであり、早期からの予防的取り組みの必要性が強調されるべきであろう。

フレイルの予防対策

1.運動開始に際しての目標の明確化

 高齢者は自己の機能の改善に対してあきらめている者が少なくない。特に慢性の疾病や障害を有する者では、「いまさら運動などしてもよくなるはずがない」といった否定的な見解を持つ者が多い。また、高齢者を取り巻く周囲の見方も「年なのだから無理しないように」といったように、運動に対して積極的ではないことがある。これは身体機能の改善に対する目標が明確化されていないときに生じやすい。

 高齢者の身体機能の低下は加齢変化と廃用とが混在しているため、少なくとも廃用に関しては運動介入によって改善可能であることを認識する必要がある。さらに、廃用症候群の予防に焦点を絞った目標を設定することで、指導者と対象である高齢者のエイジズムは排除され、具体的な行動目標を立てて共通の認識の下に運動介入を実施することが可能となる。

2.運動の実施手順

 高齢者に対して運動を安全かつ効果的に行うためには、1.運動の開始時は負荷の小さなものから開始して、漸増量も少なくする、2.理解が得られやすい簡単な運動から開始する、3.運動時の転倒事故を予防するため、手すりの使用や監視を強化する、4.運動強度の誤認を予防するため、心拍数に影響を与える薬剤の使用を確認することが重要である。

 高齢者は多様な疾病や障害を有している場合が多く、運動の実施に際してはリスク管理が重要となる。特に重篤な心疾患を有する者では細心の注意が必要であり、運動負荷試験を事前に行うことが望ましい。また、多くの高齢者が高血圧、動脈硬化を有しており、運動中の血圧上昇によって血管障害を引き起こす可能性があるため、運動時の血圧測定は重要である。血圧は変動が大きいため、一度みておけばよいというものではなく、毎回の運動時に定期的な測定が必要である。また、血圧の測定時に服薬の確認も行い、服薬の徹底を促すとよい。

3.運動の内容

 高齢者に対する運動内容は、有酸素運動、筋力トレーニング、バランストレーニング、ストレッチなどが中心的に行われ、多くの場合はこれらを複合したプログラムが提供される。高齢者に対する運動の効果は、実施した運動内容と改善する運動機能との対応関係が認められるため、運動処方をする際には対象者の機能状態を評価し、低下した機能に対する運動介入を実施することで効果的かつ効率的な取組みが可能になると考えられる7)

4.運動の習慣化

 運動によって向上した身体機能を維持するためには、運動を習慣化する必要がある。そのためには運動に対するモチベーションを高め、運動の必要性を認識する必要がある。そして実際に運動を開始するためには、運動方法を知り、運動場所や運動器具などの周辺環境の整備も重要である。

 運動の継続には、仲間づくりや他人からの励まし、運動効果の実感などの心理的な要因が大きく作用する。高齢者に対して運動介入を実施していくときには、単に運動することに留まるのではなく、身体に関する情報を提供して運動方法の理解を促すことや、運動に適した環境を整備すること、そして仲間づくりを促進して、目的を共有できるグループを形成するなどの支援をする必要がある。

まとめ

 フレイルの予防対策を講じるためには、対象とする高齢者のどの部分に問題があるかを明確にする必要がある。身体活動や運動の実施は、フレイルの予防や改善に有効であり、1.目標を明確化し、2.徐々に強度を上げつつ、3.複合的な運動を実施し、4.それを継続するための仕掛けを考えることが重要であろう。

参考文献

  1. Fried LP, Tangen CM, Walston J, et al. Frailty in older adults:evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2001; 56: M146-56.
  2. Shimada H, Suzuki T, Suzukawa M, et al. Performance-based assessments and demand for personal care in older Japanese people: a cross-sectional study. BMJ Open 2013;3.
  3. Xue QL, Bandeen-Roche K, VaradhanR, Zhou J, Fried LP. Initial manifestations of frailty criteria and the development of frailty phenotype in the Women's Health and Aging Study II. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2008;63:984-90.
  4. Daniels R, van Rossum E, de Witte L, Kempen GI, van den Heuvel W. Interventions to prevent disability in frail community-dwelling elderly: a systematic review. BMC Health Serv Res 2008;8:278.
  5. Theou O, Stathokostas L, Roland KP, et al. The effectiveness of exercise interventions for the management of frailty: a systematic review. J Aging Res 2011;2011:569194.
  6. Gill TM, Baker DI, Gottschalk M, Peduzzi PN, Allore H, Byers A.A program to prevent functional decline in physically frail, elderly persons who live at home. N Engl J Med 2002;347:1068-74.
  7. Shimada H, Uchiyama Y, Kakurai S. Specific effects of balance and gait exercises on physical function among the frail elderly. Clin Rehabil 2003;17:472-9.

筆者

筆者_島田裕之先生.jpg
島田 裕之(しまだ ひろゆき)
独立行政法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 生活機能賦活研究部 部長
略歴:
2003 年:北里大学大学院卒業、2003年:東京都老人総合研究所、2005年:Prince of Wales Medical Research Institute、2006年:東京都老人総合研究所、2010年:国立長寿医療研究センター室長、2014年より現職
専門分野:
老年学、リハビリテーション医学。医学博士
※筆者の所属・役職は発行当時のもの

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団 機関誌 Aging&Health No.72 2015年1月発行

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.72(新しいウィンドウが開きます)

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