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在宅高齢心不全患者の緩和医療と終末期医療

平原 佐斗司(ひらはら さとし)

東京ふれあい医療生活協同組合梶原診療所

はじめに

 心疾患による死亡は日本人の死因の第2位であるが、内訳としては心不全が最も多い。心不全で死亡した人の86.5%が後期高齢者であり、心不全による死亡のピークは85歳~90歳にある1) 。現在、国内の心不全患者は100万人、2025年には120万人に達すると推定されているが、その多くが85歳以上の超高齢者であろう。

 日本心不全学会は、2016年に「高齢心不全患者の治療に関するステートメント」2)を発表した。このステートメントの中では、心不全は後期高齢者のコモンディジーズ(日常疾患)であり、今後その絶対数が急増すること、後期高齢者の心不全は根治が望めない進行性、致死性の悪性疾患であること、そして、その大半が心疾患以外の併存症を有するという高齢者の心不全の特徴が記載されている。

 本稿では心不全の緩和ケアについて概説し、在宅医療における超高齢者の心不全患者の特徴について述べ、そのマネジメントと緩和ケアについて解説する。

心不全患者の末期の苦痛

 末期心不全においては多様な症状が出現する。非がん疾患の緩和ケアを推進する大きな契機になったRSCD(Regional Study of Care for the Dying )とSUPPORT(The Study to Understand Prognoses and Preference for Outcomes and Risks of Treatment )研究という2つの研究は、心不全患者の苦痛を報告した最初の研究でもあった。

 1990年代に英国で行われた大規模な遺族調査であるRSCDでは、非がん1,471名中683名の心不全死を解析した。彼らは、呼吸困難、疼痛、嘔気、便秘、うつなど多様な苦痛を持っていたが、それらは十分コントロールされておらず、多くは6か月以上の長期にわたり持続していたことを指摘している。また、心不全とがんとの症状の比較では、疼痛はがん88%に対し心疾患77%、うつはがん69%に対し心疾患59%と、頻度はがんに比べてやや少なかったが、6か月以上持続する疼痛では、がん58%に対し心疾患75%、うつはがん54%に対し心疾患82%と心疾患のほうが長期間にわたって持続していたことが明らかになった3)

 同じく1990年代に米国で実施されたSUPPORT 研究では、263名の心不全の急性増悪を解析し、末期心不全患者は最期の3日間に呼吸困難を65%、強い痛みを42%に感じていたことを報告している。また、最期の3日間に侵襲的な治療を受けた人は40%に及び、そのほとんどで医師に終末期という認識がなかったことが報告されている4)

 その後の研究で、心不全の多様な症状の中で呼吸困難と全身倦怠感は、心不全の2大症状であることが明らかになっている5)-8) (表1)。また、後ろ向き研究においては、末期心不全患者の苦痛として、四肢の浮腫、痛み、嘔気、不眠、動機、食思不振など21の症状が記録され、平均7つの症状を持っていたと報告7)されている。さらに、末期心不全の苦痛に関しての前向きの研究では、心不全患者は平均15.1個の症状を経験していることが報告されている9)

 このように末期心不全では、呼吸困難と全身倦怠感を中心とした多様な苦痛が長期間続くことが特徴といえよう。

表1:末期心不全の苦痛の頻度
症状有病率人数
呼吸困難 60~88% 372
全身倦怠感 69~82% 409
不安感 49% 80
疼痛 41~77% 882
うつ 9~36% 80
不眠 36~48% 351
食思不振 21~41% 141
便秘 38~42% 80
混乱 18~32% 343
嘔気 17~48% 146
下痢 12% 80

文献9より改変

超高齢者の心不全の特徴

 高齢者の心不全患者は、従来の心不全のモデルであった若年者の心不全とは異なる特徴を持っていることも明らかになっている。若年者では通常、「収縮不全型心不全(heartfailure with reduced ejection fraction :HFrEF)」が多いが、超高齢者では「左室駆出率が保持された心不全(heart failure with preserved ejection fraction :HFpEF)」が多い。従来、心不全は収縮力が保たれているHFpEFからHFrEFに移行すると考えられていたが、近年この2つの心不全は異なる病態であると考えられるようになってきている10)

 若年者に多いHFrEFでは、ARBや一部のβブロッカーのような生命予後の改善効果が認められた薬剤が存在するのに対して、高齢者に多いHFpEFでは生命予後の改善効果が認められた薬剤はない。また、高齢者に多いHFpEFの全死亡率・再入院率は、若年者に多いHFrEFと同様に不良であり、とりわけ85歳以上のHFpEFは予後不良である。HFpEFの死亡原因としては、HFrEFのような不整脈死などによる突然死は少なく、非血管死や合併症死が多いとされている。

 したがって、HFpEFでは心不全そのものの治療、心房細動、虚血性心疾患などの循環器疾患の管理に加え、栄養管理や糖尿病、脳血管障害、腎臓病、慢性肺疾患、睡眠時無呼吸症(SAS)、貧血などの併存症の管理や全身管理が適切に行われること、肺炎などの増悪因子を予防するなど総合的な管理が必要となる。

 そのため、超高齢者の多い在宅心不全患者のマネジメントでは、全身管理を行う在宅医と循環器専門医との連携が非常に重要となる。

在宅心不全患者の特徴と末期の苦痛

 在宅患者には潜在的心不全患者が少なくない。当院の全在宅患者231例のうちBNPあるいはNT-pro BNP(いずれも心臓に負荷が加わったときに心臓から分泌されるホルモン)を測定した106例中59例(約55.9%)に慢性心不全が疑われ(カットオフはそれぞれ100pg/ml、500pg/ml)11)、超高齢者の多い在宅医療では慢性心不全はコモンディジーズであると考えらえる。

 非がん疾患の在宅死亡連続例242例を対象とした多施設後ろ向き研究(非がん疾患研究)12)では、14例の在宅心不全患者の死亡時平均年齢は90.3±7.8歳であった。また、2009年1月~2013年5月に当院で在宅緩和ケアを受けて死亡した末期心不全患者18例(男性7例、女性11例)の死亡時年齢は77歳~106歳、平均年齢90.8歳±7.3歳で、ほとんどが85歳以上の超高齢者であった。つまり、一般的な在宅医療において緩和ケアの対象となる心不全患者のほとんどは超高齢者であろうと考えられた。

 在宅心不全患者のうち、労作性呼吸困難など典型的な心不全症状を伴っていたのは59例中27例(45.7%)であり、食思不振や意識障害などの非典型的な症状を伴っていたのは21例(35.6%)であった。典型的な心不全症状を伴っていた患者のうち認知症は37%、非典型的症状を伴っていた患者のうち認知症は63.6%、無症状であった患者のうち認知症は71.4%であり、認知症高齢者では、心不全の典型的な症状を呈しにくく、非典型的症状を呈したり、症状が出現しない場合が少なくない11)

 前述の非がん疾患研究において、在宅末期心不全看取り例において、中等度以上の苦痛を認めた者は25%であり、末期心不全患者で頻度の高い苦痛は、呼吸困難、喀痰(かくたん)、便秘の順であった12)

在宅末期心不全患者の合併症と軌道

 当院で在宅緩和ケアを受けて死亡した在宅末期心不全患者18例(男性7例、女性11例)の検討では、78%はADLが厚生省の寝たきり高齢者生活自立度Bランク以上(ベッド上生活)であり、活発に動ける患者は少なく、また、半数50% に中等度以上の認知症を認めていた。

 また、彼らは、老年症候群を中心とした平均4.6個の合併症を伴っていた。合併症として最も多かったのは、中等度以上の認知症、クレアチニン2.0㎎/dl以上の慢性腎不全が9例(50%)であり、次いで誤嚥性肺炎が7例(38.9%)、褥瘡、高血圧が6例(33.3%)、COPD、胸部/腹部大動脈瘤が4例(22.2%)、閉塞性動脈硬化症/重症下肢虚血、慢性呼吸不全が3例(16.7%)であった。認知症、せん妄、褥瘡、嚥下障害/誤嚥性肺炎の4つの老年症候群のいずれかを認めたのは13例(72.2%)にのぼった。

 老年症候群の合併が多い在宅末期心不全患者では、合併症の増悪時に心不全が悪化し、しばしば合併症が死因となる。死亡に影響を与えた心不全以外の合併症の発症・併存症の増悪を認めたケースは15例(83.3%)に及び、死亡に影響した合併症は、誤嚥性肺炎5例(27.8%)、慢性腎不全4例(22.2%)、慢性呼吸不全3例(16.7%)、大動脈瘤破裂2例(11.1%)、胆道感染症2例(11.1%)、下血1例(5.6%)(重複例あり)であった。在宅末期心不全患者では、合併症の発症や併存症の増悪に着目することにより、多くの事例(12例:66.7%)で予測的な看取りが可能であった点は、一般的な心不全の軌道とは異なると考えられた。

 末期在宅心不全患者は、85歳以上の超高齢者が多く、身体活動が低下(不動:immobility )しているため、NYHAⅢ度までの心不全では症状が現れにくい。また、主として認知症の合併が多いため、典型的な症状が出現しにくいという特徴がある。このような理由から、在宅高齢者の心不全は潜在的に進行し、心房細動や虚血性心疾患などの心合併症と肺炎などの心外合併症によって急速に顕在化し、増悪する軌道をとることが多いと考えられた。

在宅心不全患者の全体像をとらえる

 日本人の死亡原因のピークは男性では85歳、女性では90歳であるが、男性の90歳以上の死因の第1位は肺炎、女性の85歳から99歳までの死因の第1位は心疾患である。また、高齢者の入院の原因となる疾患で最も多いのは肺炎と心不全である。

 一方、高齢者の認知症の有病率は、高齢期に5歳ごとに倍加的に増加し、85歳以上では4人に1人、90歳以上では2人に1人となる。また、肺炎の死亡者数も同様に人口10万あたり、75~79歳で217.5人、80~84歳で527.2人、85~89歳で1143.9人、90~94歳2175.9人、95~99歳3796.1人、100歳以上5766.7人とほぼ倍加的に増加する13)

 つまり、在宅高齢者の場合、無動性と認知症のため、心不全があっても典型的な症状は出現しにくく、多くの例で潜在的に心不全が進行する。そして、在宅心不全患者は背景疾患として、嚥下障害や認知症、腎不全などの老年症候群を高率に合併しており、肺炎などの急性疾患を引き金に心不全も悪化し、複数の病と複数の障害・不全の連鎖の中で死を迎えているという全体像が浮かび上がる。

在宅心不全患者のマネジメント

 在宅患者の管理においては、在宅医療導入時に心不全のリスクについてアセスメントをしておくことが重要である。高齢者に多いHFpEFは身体診察だけでは検出できないことも多いので、85歳以上で高血圧などの既往がある場合などは、導入時にBNPなどをチェックしておくことが望ましい。心不全の背景がある在宅超高齢者に対しては、脱水による心房細動の予防、虚血性心疾患の管理、肺炎予防のための口腔ケアなど心不全の急性増悪の予防に努める。

 高齢者の末期心不全の管理としては、循環器の管理と全身管理、そして合併症のコントロールの3つが重要である。

 循環器の管理では、心不全そのものの治療と管理が重要で、特に血圧の管理、虚血性心疾患の管理(薬剤管理)、心房細動の予防や治療(心拍数のコントロール)が重要である。

 全身管理として重要なのは、とりわけ栄養管理である。心不全の場合、CONUT score などを用いて栄養評価を行うことが多い。これは、アルブミン、リンパ球数、総コレステロールの3つの血液項目で栄養評価する方法で、浮腫のため栄養評価に体重を用いることができないときも使用できる(表2)。                                        

表2:CONUT score
パラメーター正常軽度中度重度
アルブミン値(g/dl) ≧3.5
(0)
3.0~3.49
(2)
2.5~2.99
(4)
<2.5
(6)
リンパ球値(total/ml) ≧1600
(0)    
1200~1599
(1)
800~1199
(2)
<800
(3)
コレステロール値(㎎/dl) ≧180
(0)
140~179
(1)
100~139
(2)
<100
(3)
栄養不良レベル(評点) 正常
(0~1)
軽度
(2~4)
中度
(5~8)
重度
(>8)

 末期心不全には、糖尿病、肥満、脳卒中、腎臓病、慢性肺疾患、SAS、貧血、腎不全などさまざまな疾患が合併することがわかっており、これらの合併症の管理を適切に行う必要がある。また、肺炎などの感染症など心不全の増悪因子を予防、管理することも重要である。

 これらの医学的管理に加えて、適切な緩和ケアを提供することも在宅医の重要な役割である。呼吸困難に対しては適切に利尿薬を用いる。利尿薬としては一般的に用いられるループ利尿薬、ソルダクトンに加え、トルバプタンの内服も有用である。ただし、トルバプタンの導入には電解質管理のための入院を要する。心不全の呼吸困難に対してはモルヒネが有効なことが多い。通常1回2mg~3mgで投与を開始し、漸増していく。オプソ®とすべてのモルヒネ除放剤は保険適用外になるので注意を要する。呼吸困難に対しての酸素やマイナートランキライザーの効果に関するエビデンスは十分とはいえない。

 呼吸困難とともに末期心不全の2大苦痛とされるだるさについては、有効な方法はあまりない。低心拍出が原因と考えられる全身倦怠感には強心剤を試みる価値があるが、入院、中心静脈管理などが必要となる。

 うつについては、認知行動療法などの心理的介入やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が有効である。また、疼痛については、オピオイドの使用に加え、痛みの原因に応じた対応が必要とされている(表3)。

表3:心不全の緩和ケアに関するエビデンス
表3:心不全の緩和ケアに関するエビデンスを示す表

 在宅高齢者では、肺炎などの急性疾患によって心不全の増悪がみられることが多い。もともと、心不全、腎不全、嚥下障害、認知症などの老年症候群を併せ持つ超高齢者が肺炎を起こした場合、せん妄の発症、心不全の急性増悪、脱水、心房細動、腎不全の悪化、低ナトリウム血症や下痢の出現など、さまざまな病と障害・不全の連鎖が出現することが少なくない(図)。超高齢心不全患者においては、急性期においても、総合的な治療とケアが重要である。

図:老年症候群を併せ持つ在宅超高齢患者にみられる病と障害および不全の連鎖を示した図
図:在宅超高齢患者にみられる病と障害・不全の連鎖

参考文献

  1. 厚生労働省 平成22年人口動態統計月報年系(概数)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 高齢心不全患者の治療に関するステートメント 日本心不全学会ガイドライン委員会2016年(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. MaCarthy M, Lay, M, Addington-Hall J. Dying from heart disease. J of Royal College of Physician 30, 325-8 1996
  4. Levenson J. W., McCarthy, E. P., Lynn, J, et al. The Last Six Months of Life for Patients with Congestive Heart Failure. JAGS 48(5),S101-09 2000
  5. Walke, L., Byers, A. L., McCorkle, R. et al Symptom Assessment in Community-Dwelling Older Adults with Advanced Chronic Disease JPSM 31(1), 31-7. 2006
  6. Barnes S., Gott, M., Payne, S. et al Prevalence of symptoms in a community based sample of heart failure patients. JPSM 32(3),208-16. 2006
  7. Nodgren L,. Sorensen, S. Symptoms experienced in the last six months of life in patients with end stage heart failure.EJCN 2, 213-7(2003)
  8. Solano J. P, Gomes. B, Higginson I. J, et. al ; A Comparison of Symptom Prevalance in Far Advanced Cancer, AIDS, Heart Disease, Chronio Obstructive Pulmonary Disease and Renal Disease, Journal of Pain and Symptom Management P58-69 Vol.31 No.1 January 2006
  9. Zambroski C. H., Moser, D, K., Bhat, G. et al Impact of symptoms prevalence and symptom burden on quality of life in patients with heart failure status, EJCN 4, 198-206(2005)
  10. Steinberg BA, Zhao X, Heid enreich PA, , et al. Trends in patients hospitalized with heart failure and preserved left ventricular ejection fraction : prevalence, therapies, and outcomes. Circulation 126 : 65-75. 2012
  11. 斎木啓子、平原佐斗司:在宅医療の場における心不全・閉塞性動脈硬化症の診かた JIM.21(4):292-295. 2011
  12. 平原佐斗司他、「非がん疾患の在宅ホスピス・緩和ケアに関する多施設共同研究」 2006年度在宅医療女性勇美記念財団研究(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  13. 三木誠、渡辺彰.疫学-肺炎の疫学が示す真実は? 死亡率からみえてくる呼吸器科医の現状と未来.日本呼吸器学会誌 2(6): 663-呼吸器科医の現状と未来.日本呼吸器学会誌 2(6): 663-671. 2013

著者

写真:平原 佐斗司

平原 佐斗司(ひらはら さとし)
東京ふれあい医療生活協同組合梶原診療所
略歴:
1987年:島根医科大学医学部卒業、島根医科大学第二内科、1988年:六日市病院内科、1989年:平田市立病院内科、1991年:島根医科大学第二内科、帝京大学病院第二内科(肺研)、1992年より現職、2014年:東京ふれあい医療生活協同組合 オレンジほっとクリニック(兼任)
専門分野:
在宅医療、内科、老年内科

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.83

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.83(新しいウィンドウが開きます)

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