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高齢者に対する心不全チーム医療の考え方

佐藤 幸人(さとう ゆきひと)

兵庫県立尼崎総合医療センター循環器内科科長

はじめに

 近年、高齢化社会を迎え、心不全患者は増加しつつあるが、脳卒中と心疾患はがんに次いで患者数も医療費の投入も多い。また、心不全の平均年齢は80歳を超え、がん、認知症、腎不全などの併存症も多く、独居、低収入など社会背景に問題がある患者も増えている。

 自施設のデータベースをみると、心不全患者の60%は独居または2人暮らしであり、約半数は要支援、要介護の状態であった。このような患者群には単に医師が漫然と薬剤を処方するだけでは入院が回避できないことが多く、看護師、薬剤師、リハビリ指導士、栄養士、医療ソーシャルワーカー(MSW)などの多職種が多面的に介入する必要がある。その結果、薬剤コンプライアンスが上昇、運動能力の維持、生活態度が改善、セルフモニタリングが可能となり、その相乗効果が予後改善に結びつくと考えられている。

 2016年、日本心不全学会ガイドライン委員会は「高齢心不全患者の治療に関するステートメント」を発表した1)。本稿では、ステートメントの内容を踏えながら高齢化社会における心不全多職種チーム医療の考え方について解説する。

多職種チーム医療とは

 欧米での心不全多職種チーム医療の検討は古く、20年以上前から検討が行われている。そのメンバー、介入方法(どの職種が、どのタイミングで行うか)、介入場所(院内か、在宅か、遠隔モニタリングか)などは各施設によりすべて異なっており、それぞれの施設に見合った介入法を検討することになる。

 患者の介入内容は薬剤指導や生活指導を中心に、学会から提唱されている心不全疾病管理プログラムを参考に行う。多職種介入の評価法としては、ガイドライン遵守率の上昇、入院回避効果、QOL改善効果、医療費削減効果などがよく検討されている。生存率に関しては有用であるとする報告と、そうでない報告とが混在している2,3)

 一方、わが国での心不全多職種チーム医療の歴史は10年くらいと浅く、最近始まったばかりの施設も多い。慢性心不全認定看護師制度も最近始まった制度である。しかし日本は世界に先駆けて高齢化しており、日本独自の多職種チーム医療が検討され始めている。心不全患者は医療問題以外に、筋力低下、低栄養、または家族背景や社会的背景に問題があることも多い。

 チーム医療を実施する場所としては、従来は入院患者を対象とした院内介が主体であったが、外来通院患者を対象としたものとして、心不全認定看護師外来や外来での心臓リハビリ、さらに在宅介入など急性期から在宅までの切れ目ないチームでの介入が推奨される。終末期には緩和ケアの概念導入も必要である。

多職種チーム医療の準備

 各学会から提唱されている心不全疾病管理プログラムは、そのままでは患者・家族、またはケアマネジャーなどには難解で理解しにくい。そこで、疾病管理プログラムを参考に、各施設の特性に見合った平易な資料を作成する作業が必要である。

 当院ではチェックリストと教育資料の両方の機能を併せ持つ、「疾病管理プログラムに準拠した」心不全手帳を作成しているが、イラストを多用して視覚的に理解できるようにしている(図1)。なお、この共通資料を多職種で作成することにより、多職種間に最初は認められる指導内容のばらつきを修正できるという副次的効果もある。

図1:心不全を悪くする原因を分かりやすくイラストにして示している。服薬の中断、通院の中断、塩分、水分の採り過ぎ、血圧の上昇、過労、感染症にかかるが示されている
図1:当院で作成した心不全手帳の抜粋

院内連携の実際

1.入院中連携

 当院での院内連携は、急性心不全として緊急入院した直後から始まる。最近はCCU(循環器疾患専用の集中治療室)の入室患者も心筋梗塞よりは高齢の心不全患者が圧倒的に多い。患者自身は呼吸困難が強い時期なので、患者教育をするには向いているとはいえないが、経腸栄養を考慮した栄養介入やベッドサイドからの心臓リハビリは、早期退院に結びつくと予想される。

 そこで毎朝8時30分からのCCU回診に看護師、栄養士、理学療法士、MSなどの職種が参加し、それぞれの職種の視点で早期介入を試みている。特に急性心不全では入院後1日で血中アルブミンが低下し、その後の予後に影響を及ぼすことより、急性期からの栄養介入は必須と考えている4)(図2)。

図2:急性心不全で入院した患者の血中アルブミン値を入院1日目から7日目まで示したグラフ。入院後1日でアルブミン値の有意な低下が認められる
図2:急性心不全におけるアルブミン推移

通院中連携

 心不全多職種チーム医療は、退院後の外来レベルでも継続する必要があり、外来レベルでの連絡網の設置と患者教育の機会を複数回設けることができるようにしておくことが重要である。当院では心臓リハビリ室と慢性心不全認定看護師による心不全外来の2つが心不全患者の外来管理の中心となっている。

 外来患者で再入院のリスクが高い場合、医師は心臓リハビリ室または認定看護師外来に患者を紹介する。そこで患者の生活背景、薬剤内服状況、食事状況の把握などがなされ、必要に応じて薬剤部または栄養部へ連絡がいき、それぞれの部署が外来レベルで指導を行う(図3)。薬剤指導は、外来では診療報酬が認められないため、個別指導ではなく集団指導として薬剤部が患者教室を開催する。

図3:医師から連絡を受けた心臓リハビリ室と認定看護師を中心に、必要に応じて管理栄養士、薬剤部に連絡をする体制を示している
図3:当院の外来での心不全チーム医療の連絡体制

その他の当院での工夫

入院回避のための外来点滴

 重症心不全患者は水分貯留、肺うっ血による入退院を繰り返して徐々に状態が悪化していくため、入退院回避のための工夫が必要である。当院の外来で多職種チームによって行っている治療に外来点滴があり、外来点滴導入前後で入院日数の削減、入院回数の減少、コストの削減が認められる5)(図4、5)。また在宅看取りとなる症例も経験する。

図4:外来点滴導入前後で入院日数、入院回数、コストを比較したグラフ
図4:外来点滴の効果
図5:急性心筋梗塞で心不全症状による肺うっ血のため入退院を繰り返していた84歳男性の外来時に測定したBNP値の変動を表したグラフ。BNPの値が基準値を超えた日は、外来点滴を実施。
図5:外来点滴の実例

 具体的には収縮期血圧が保たれている間はカルペリチドを、血圧が低下している場合はカテコラミンをそれぞれ低用量で4時間点滴し、必要に応じてフロセミドを併用する。

 注意点として、収縮期血圧が低く腎機能が悪い症例にカルペリチドを投与しないことである。カルペリチドをこのような症例に無理に使用しても、血圧が低下し尿量も低下するだけでむしろ状態は悪化することが多い。急性心不全の治療と同じで、収縮期血圧が低い場合は、外来レベルでカテコラミンを使用せざるを得ない。また、起坐(きざ)呼吸がある症例や酸素飽和度が低下している症例も不向きであり、このような患者は入院して加療すべきである。イメージとしては、入院するほど状態は悪化していない水分貯留の患者が外来点滴の対象となり、安全性を担保するために低用量での点滴を行っている。

栄養介入

 体重過多の肥満患者は経過中に新規心不全を発症する可能性が高いことが知られている。したがって、従来の循環器の患者指導は体重を増やさないようにとする指導が中心であった。しかし、最近の臨床研究によると心不全患者は入退院を繰り返すうちに低体重となり、予後不良であるといった逆転現象が生じていることが明らかとなった。

 欧米では2008年にワシントンで開催されたカヘキシー コンセンサス カンファレンスにおいて心不全にみられるカヘキシーの概念が提唱された6)(表)。

表:2008年カヘキシー コンセンサス カンファレンスにおけるカヘキシーの診断基準6)
  1. 慢性疾患の存在
  2. 12か月における5%以上の体重減少またはBMI<20kg/m2
  3. 以下の1~5の項目のうち3つを満たすこと
    1. 筋力低下
    2. 倦怠感
    3. 食欲不振
    4. 低徐脂肪量指標
    5. 生化学指標異常(a,b,cのいずれか)
      1. 炎症亢進:CRP>5.0mg/l, IL-6>4.0pg/ml
      2. ヘモグロビン<12g/dl
      3. 血中アルブミン<3.2g/dl

 カヘキシーは交感神経系の亢進、炎症の亢進、インスリン抵抗性を基盤とする蛋 白異化、脂肪融解、骨量減少など多くの因子を包括した概念である6)(図6)。

図6:心不全によるカヘキシーの概念を示した図。心不全により炎症の亢進、インスリン抵抗性、蛋白異化の亢進など多くの因子を誘発し、骨格筋の筋肉量とともに、脂肪組織の減少を引き起こす。
図6 カヘキシーの概念6)

 重症心不全患者では、骨格筋の筋肉量とともに脂肪組織も減少するカヘキシーが生じていることが多い。インピーダンス体重計を用いると心不全で体重が減少していく患者は、筋肉量と脂肪量が減少して体重減少となっており、むしろ水分量は相対的に増加していることが多い(図7)。

図7:体重が減少している心不全患者のインピーダンス体重計による体成分の変化を示したグラフ。筋肉量と脂肪量が減少することにより体重が減少していることを示す。
 図7:InBodyによる体成分の変化

 このような背景から、欧米ではカヘキシーである心不全患者における高カロリーサプリメントを用いた検討が報告され始めた。当院でも心不全患者でアルブミン値が低く低栄養が疑われる場合には、積極的に経腸栄養剤や栄養補助食品を投与するようにしている7)

緩和ケア

 心不全の緩和ケアは社会的に重要な課題であるにもかかわらず、終末期との判断がしばしば困難であることやエビデンスに乏しいことなどから、具体的な記述が困難な領域となっていた。しかし最近、厚労省の指導する緩和ケアに心不全も包括されることが方向性として出された(リンク1)。

リンク1:厚生労働省 がん等における緩和ケアの更なる推進に関する検討会(外部リンク)(新しいウインドウが開きます)

 また、厚生労働省は「終末期医療」から「人生の最終段階における医療」と表現を変更したが、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」によると、人生の最終段階における医療およびケアのあり方は、担当医だけでなく医療・ケアチームの中で行うこととし、チームでの合意を求めている8)

 その状況を踏まえて2016年、日本心不全学会ガイドライン委員会は「高齢心不全患者の治療に関するステートメント」を発表し、その中の「終末期医療の指針」において、アドバンスケアプランニングと緩和ケアについての提唱を行った1)

 歴史的には終末期心不全患者の呼吸困難緩和のために、低用量のモルヒネ、オキシコドンの効果が検討されている。しかし、モルヒネには鎮静作用はないので、単独薬剤では呼吸困難を完全に取り去ることが困難な症例もあり、モルヒネの投与量を増量すると、かえって錯乱、せん妄などが出現する症例もある。この場合は、鎮静作用のあるミダゾラムなどを検討するが、鎮静作用のある薬剤を使用した場合は、そのまま看取りとなることも多い。

 したがって、これらの薬剤を使用する場合は、

  1. 体適切な心不全治療が行われていること
  2. 耐えがたい苦痛が患者にあることが大前提であり、安易なモルヒネやミダゾラムなどの使用は決してすべきでない

この2つの大前提を確認するためにも複数の医師もしくは多職種で検討すべきであり、医師単独でこれらの薬剤を用いることは医師の自衛のためにも勧められない1)

おわりに

 高齢化社会を迎えるにあたって、心不全患者は社会的な問題も多く抱えるようになる。このため今後の心不全のチーム医療は時代に合わせて変化し続け、社会的な発信力を持たなければいけない。われわれは「心不全チーム医療 研究会」を定期的に開催し、お互いの工夫を発表し共有している。ご興味のある方はぜひご参加いただきたい(リンク2)。

リンク2:心不全チーム医療研究会(外部リンク)(新しいウインドウが開きます)

参考文献

  1. 日本心不全学会「高齢心不全患者の治療に関するステートメント」(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. McAlister FA, Lawson FM, Teo KK, Armstrong PW. A systematic review of randomized trials of disease management programs in heart failure. Am J Med 2001 Apr 1;110(5):378-84.
  3. Sato Y., Multidisciplinary management of heart failure just beginning in Japan. J. Cardiol.,66, 181-188 (2015).
  4. Nakayama H, Koyama S, Kuragaichi T, Shiba M, Fujiwara H,Takatsu Y, Sato Y. Prognostic Value of Rising Serum AlbuminDuring Hospitalization in Patients With Acute Heart Failure. Am JCardiol 2016 Apr 15;117(8):1305-9.
  5. Nishi K, Sato Y, Miyamoto T, Toma M, Taniguchi R, Fukuhara R,Saijo S, Fujiwara H, Takatsu Y. Intermittent infusions of carperitide or inotoropes in out-patients with advanced heart failure. J Cardiol 2012 May;59(3):366-73.
  6. Evans WJ, Morley JE, Argilés J, Bales C, Baracos V, Guttridge D,Jatoi A, Kalantar-Zadeh K, Lochs H, Mantovani G, Marks D, MitchWE, Muscaritoli M, Najand A, Ponikowski P, Rossi Fanelli F,Schambelan M, Schols A, Schuster M, Thomas D, Wolfe R, AnkerSD. Cachexia: a new definition. Clin Nutr 2008;27:793-9.
  7. 中山寛之、志賀孝.栄養サポート.最強! 心不全チーム医療 P168-175.メディカ出版 2014/4/5.
  8. 厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

筆者

写真:佐藤幸人

佐藤 幸人(さとう ゆきひと)
兵庫県立尼崎総合医療センター循環器内科科長
略歴:
1987年:京都大学医学部卒、1995年:兵庫県立尼崎病院医長、2001年:京都大学循環器内科助手、2004年:兵庫県立尼崎病院医長、2015年より現職
専門分野:
循環器内科、心不全。医学博士

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.83

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.83(新しいウィンドウが開きます)

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