健康長寿ネット

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高齢者の食事と栄養の現状と課題

佐々木 敏(ささき さとし)

東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野教授

はじめに

 食事・栄養と健康について社会の興味はとても高い。特に高齢者においてはなおのことである。しかし、食事・栄養が高齢者の健康にどのように関連しているかを科学的に明らかにした研究は、他の年齢・世代と比べるとはるかに少ない。それは次の理由によると考えられる。

  1. 「健康」の定義がむずかしく、その測定もむずかしい(結果の問題)。
  2. 食事(食品摂取量や栄養素摂取量)を測定するのがむずかしい(原因の問題)。

 つまり、研究を行うための測定方法に関する方法論的研究をまず行い、次に原因を探索するための研究に着手し、その後、高齢者にとって適切な食事・栄養とは何かという結果が得られる。現状においては、高齢者の食事と栄養についてはまだ科学的な研究が十分には進められていないといわざるを得ない。

 そこで、その中である程度進んでいると思われ、かつ、社会的に大きな課題であると考えられるエネルギー(やせならびに肥満)とたんぱく質(筋肉量ならびに虚弱)を取り上げ、その現状と課題についてまとめることにする。

体格と寿命(総死亡)

 エネルギー摂取量の過不足は体重(肥満度)として示される。そこで、肥満度、特にボディ・マス・インデックス(BMI)について考えたい。がんを除く多くの生活習慣病が肥満と関連し、体重が多いほどそのリスクが上昇することが数多くの疫学研究で観察されている。総死亡率においても、肥満者ではそうでない者よりも有意に高いことが数多くの追跡研究で明らかにされている。

 ところが、このような結果が観察されるのは中年期であり、高齢者でも比較的に若い集団に限られる。高齢者では、このような肥満度が上がるにつれて総死亡率も上昇する様子は観察されず、逆に、やせている集団で総死亡率が高くなる傾向がほぼ一貫して観察されている。これらの例を図1に示す1 )2 )

図1:健康者を中心とした日本の代表的な2つのコホート研究における追跡開始時のBMIとその後およそ10年間における総死亡率との関連1),2)
図1:BMIと死亡率の関連を示す折れ線グラフ。中年期までは肥満者の死亡率が高いが、高齢期はやせている者の方が死亡率が高いことを示す。

体格と肺炎

 高齢者に特に多い疾患に肺炎がある。体格と総死亡率を死因別に検討した研究によると、体格と呼吸器疾患の死亡率の間には負の相関が観察されることが多い。そこで、呼吸器疾患の中でも罹患率の高い肺炎について、体格との関連をもう少し詳しくみておきたい。

 この関連を検討したコホート研究をまとめたメタ・アナリシスをみておく3)。この研究では、研究開始時のBMIと肺炎の発症または死亡との関連がそれぞれ合計およそ150万人を対象として検討されている。その結果(メタ回帰分析)の概要は図2(上:発症率、下:死亡率)のとおりである。BMIと発症率は正の関連を示すが、死亡率とは逆に負の関連が観察されている。特にBMIが高いほど総死亡率が低い現象は、最近、「肥満のパラドックス」と呼ばれることがある。これはなぜか。そして、発症率は肥満度と正の関連を示すのに死亡率は逆に負の関連を示すのはなぜか。これはなぜか。そして、発症率は肥満度と正の関連を示すのに死亡率は逆に負の関連を示すのはなぜか。これは次のように説明されている。

図2:肺炎の発症率ならびに死亡率と体格との関係 3)より改変
図2:肺炎の発症率および死亡率と体格の関係を示したグラフ。BMIと発症率は正の関連を示すが、死亡率とは 逆に負の関連が観察されている。

 肥満者には高血圧症、脂質異常症、糖尿病など生活習慣病が多く、そうでない人に比べて通院している確率が高いと予想される。逆にいえば、太っていない者は、軽い体調不良では受診せず、軽い場合なら自然に治ってしまう場合もあるのではないかと考えられる。すると、太っていない人の発症率は本当の発症率よりも少なめに見積もられてしまうことになる。つまり、肥満度と発症もれの間に負の関連があるとする考え方である。

 さらに、太っていない人は重症化してから受診する例が相対的に多く、治療開始が遅れる可能性も考えられる。すると、同じレベルの肺炎なら、肥満者のほうで治療機会が多く、太っていない人のほうで治療機会が少なくなる。つまり、死亡率はこの治療機会の差の影響を受けるとする考えである。以上から、発症率の結果も死亡率の結果とも、「真」の関連よりも強い関連が観察されたものと考えられる。他にも考えるべきことはあり、最終的な結論はまだ得られていないようである。

 そこで、少なくとも後者の問題を回避できるように、入院例について肥満度と死亡率との関連を検討した報告をみておきたい(図3)4)。肺炎で入院した15歳以上の日本人およそ3万人のデータを使い、入院後1か月(30日)以内の死亡と入院時の肥満度との関連を調べたものである。年齢や肺炎の重症度などによる影響は多変量解析を行うことで考慮されている。この図から、肺炎の治癒率は太っている人で高く、逆にやせている人で低い、すなわち死亡率が高いことがわかる。つまり、やはり、肥満度と総死亡率には負の関連が成立している。

図3:肺炎による入院後の死亡率と体格との関係4)
図3: 入院後30日以内の死亡と入院時の肥満度との関連を調べたグラフ。BMI18.5未満のやせの人の死亡率がBMI25以上の人と比べて高いことを示す。
  • 肺炎で入院した15歳以上の日本人3万5,297人の中からBMIのデータがなかった4,698人を除いた。
  • 3万599人のデータを使って、入院後1か月(30日)以内の死亡と入院時の肥満度との関連を調べた結果。
  • BMIが18.5〜24.9の人に比べた相対的な死亡率(相対危険)ならびにその95%信頼区間。
  • 平均年齢は78歳、1か月以内に2,041人が亡くなった。「年齢や肺炎の重症度が同じ」という仮定を設けて計算した結果。
  • 肺炎の重症度として、低酸素血症、意識レベル、収縮期血圧、炎症レベル(血清C反応性たんぱく質または胸部X線陰影によって判断した)などを用いた。

 これは肺炎が発熱を伴い、エネルギー消費量が増える。ところが、発熱時には食欲が減退し、エネルギーの確保がむずかしくなる。したがってこれは当然のように思える。そして、がんや循環器疾患と異なり、比較的に急に発病するから、「太っていること」は肺炎にかかった場合の死亡率を低く抑える重要な要素の1つと考えられる。

たんぱく質と虚弱

 高齢者にとって虚弱(frailty)は大きな問題である。虚弱は筋肉量だけの問題ではないが、筋肉の絶対量は欠かせず、その量的維持と機能維持には、運動だけでなく、適切な栄養摂取、特にたんぱく質の摂取も重要であろうと推測される。

 そこで、虚弱の問題を取り上げる前に、体内のたんぱく質量を保つ(体たんぱく質の出納を負にしない)ために必要なたんぱく質摂取量について触れておきたい。体たんぱく質の出納試験では、たんぱく質(正しくは窒素)量は既知の食事を摂取させ、尿中窒素排泄量を測定することによって得られる。

 図4は、高齢者を対象として実施された5つの出納試験のまとめである5)。点(ひし形)は対象者を示す。点線は回帰直線であり、出納が釣り合う摂取量は窒素にして136mg/kg体重/日となる。これはたんぱく質では0.85 mg/kg体重/日に相当する。個人差がかなりあることも同時に読み取れる。成人(主に若年者)を対象とした類似の研究によれば、出納が釣り合う摂取量は104mg/kg体重/日であり、これはたんぱく質では0.65mg/kg体重/日に相当する5)。このように、高齢者は若年成人に比べて3割程度多めのたんぱく質が必要であることがわかる。この事実に基づき、日本人の食事摂取基準(2015年版)では、たんぱく質の推定平均必要量を成人は年齢によらず一定(男性で50g/日、女性で40g/日)としている。推定必要エネルギーが加齢に伴って少なくなることを考慮し、このようにされているものと理解される。

図4:高齢者の窒素出納(5つの研究より)5)
図4:高齢者を対象とした窒素の出納を示すプロットグラフ。出納が釣り合う摂取量は窒素にして136mg/kg体重/日となり、たんぱく質では0.85 mg/kg体重/日に相当することを示す

※高齢者を対象として、窒素の出納を測定した5つの試験のまとめ。1つの◆(ひし形マーク)は1人の対象者を表す。

 さて、積極的なたんぱく質摂取は虚弱を予防できるのか。または、たんぱく質摂取量と虚弱の程度との間には関連はあるのか。この疑問に自信を持って答えられる研究はまだ十分ではないものの、それを示唆する研究成果が最近いくつか得られている。

 図5は、アメリカに行われたコホート研究とわが国で行われた横断研究の結果である6)7)。ともにかなり綿密に計画・実施され、解析された研究である。ただし、両方とも女性だけを対象とした研究であった。2つの研究ともに、たんぱく質摂取量と虚弱との間には負の関連が認められている。食事調査の方法が異なるため単純な比較は禁物であるものの、日本人の摂取量が全体として多いために、何グラム以上のたんぱく質を摂取するのが望ましいかの量を提案するのはむずかしい。さらに、わが国の研究ではたんぱく質摂取量と虚弱の罹患との間の関係は直線的ではなく、閾値があるようにみえる。したがって、「たんぱく質はたくさん食べるのがよい」というよりも、「少ないのがリスクである」と理解するほうがよいかもしれない。

図5:たんぱく質摂取量と虚弱の発症率または罹患率との関連5),6)
図5:たんぱく質摂取量と虚弱のリスクの関連を示す折れ線グラフ。たんぱく質摂取量と虚弱のリスクとの間には負の関連があることを示す。

たんぱく質摂取・運動習慣と虚弱

 たとえ十分な量のたんぱく質を摂取していても運動不足であれば虚弱が進行する恐れがあると考えられる。逆に、せっかく運動をしてもたんぱく質を必要量摂取していなければやはり虚弱が進行するのではないかと考えられる。この点を検討した横断研究がアメリカに存在する(図6)8)。この研究では、50 〜 85歳の男女、2,425人を対象として、腕や太ももの周り、皮下脂肪の厚さなどを測り、そこから、四肢(手足)全体の筋肉量を推定し、たんぱく質摂取量に加えて運動習慣との関連も合わせて検討している。運動習慣は、軽く汗をかいたり息がはずんだりする程度の運動(有酸素運動)と筋肉を鍛えるための運動(いわゆる筋トレ)に分けられた。

図6:運動習慣とたんぱく質摂取量が筋肉量に及ぼす影響8)
図6:有酸素運動たんぱく質摂取量の違いは四肢全体の筋肉量にほとんど影響しないが、有酸素運動の習慣がない人でたんぱく質摂取量が少ない人は筋肉量が特に少なかったことを示すグラフ。
  • 運動習慣・たんぱく質摂取量と四肢(手足)全体の筋肉量の関連、アメリカにおける横断研究。
  • 対象者は50歳から85歳の男女、2,425人。たんぱく質摂取量は24時間思い出し法、運動習慣は質問票を用いて調べた。
  • 四肢全体の筋肉量(kg)は次の式を使って推定した。
  • 男性:41.9-0.02×A+0.62×AC+0.46×CC-0.14×TST+1.96×R+17.79×H
  • 女性:24.91-0.01×A+0.21×AC+0.3×CC+0.4×TC+1.8×R+13.49×H
  • A=年齢(歳)、AC=上腕周囲長(cm)、CC=腓腹(ふくらはぎ)周囲長(cm)、TC=大腿周囲長(cm)、TST=上腕三頭筋皮下脂肪厚(cm)、R=人種(ヒスパニック系以外の黒人=1、他=0)、H=身長(m)。
  • さらに、身長の異なる人の間の比較もできるように、身長(m)の2乗で割って、インデックスとして表現した。

※ 70歳以上日本人の代表的な体重を用いて計算した(日本人の食事摂取基準[2015年版]の参照体重[男性は60.0kg、女性は49.5kg])。

 その結果、有酸素運動の習慣を有する人で四肢全体の筋肉量が多く、この集団の中では、たんぱく質摂取量の違いは筋肉量にほとんど影響を与えていなかった。一方、他の人たちの四肢全体の筋肉量は少なく、たんぱく質摂取量が少ない(40g/日に満たない)人たちで特に少なかった。この研究から、有酸素運動の習慣があればたんぱく質はそれほど気にしなくてもよいが、有酸素運動の習慣がない(または、できない)人はたんぱく質多めを心がけるとよいことがわかる。しかし、この点についても研究数は十分でなく、重要な課題だけにさらなる報告が待たれる。

現状と研究の方向性

 高齢者の栄養素摂取量を食事摂取基準と比較すると、今回取り上げたたんぱく質だけでなく、数多くの栄養素が不足している恐れがあると、欧米諸国の集団を対象とした研究のメタ・アナリシスが報告している9)。これは、ある限定された栄養素が問題なのではなく、数多くの栄養素が少しずつ高齢者の健康問題の原因となっている可能性を示唆しているのかもしれない。

 一方、高齢者ではわが国からの報告はないが、中高年(50〜69歳)の食習慣のほうが若年成人(30〜49歳)の食習慣よりも食事摂取基準が勧める摂取量に近いとした報告がある10)。これをもって日本人の高齢者の食習慣に問題がないとはいえないが、食習慣を健康維持・増進の立場からみれば、わが国における課題は高齢者よりも若年者のほうで大きいことは明らかである。また、中高年者群において大幅に食べ換え増やすべき食品群は、全粒穀物と低脂肪乳類(男性のみ)の2種類だけ、食べ控えるべき食品群は塩味調味料のみであり、改善すべきポイントが分かりやすい結果となっている。

 これらの研究結果は、特定の栄養素や物質に健康効果を求める実験的な研究や介入試験よりも、対象集団の食習慣を総合的に検討する観察疫学的な研究の推進が重要なことを示している。

まとめ

 高齢者の食事と栄養の現状と課題を科学的に明らかにした研究は乏しい。わが国においては特に乏しい。すでに高齢社会を迎え、1日も早い対策が求められるところであるが、急いでは事をし損じる。「何をどう食べるか」の前に、「何をどう調べたら近い将来、高齢者の健康を食事面から支えられるのか」を落ち着いて考え、研究を進めるべきときである。

参考文献

  1. Tsugane S, Sasaki S, TsubonoY. Under-and overweight impact on mortality among middle-aged Japanese men and women: a 10-y follow-up of JPHC study cohort i. Int J Obesity2002; 26: 529-37.
  2. Tamakoshi A, Yatsuya H, Lin Y, et al. BMI and all-cause mortality among Japanese older adults:findings from the Japan collaborative cohort study. Obesity2010;18:362-9.
  3. Nie W, Zhang Y, Jee SH, et al. Obesity survival paradox in pneumonia: a meta-analysis. BMC Med 2014;12:61.
  4. Uematsu H, Kunisawa S, Sasaki N, et al. Development of a risk-adjusted in-hospital mortality prediction model for community-acquired pneumonia: a retrospective analysis using a Japanese administrative database. BMC Pulm Med 2014;14:203.
  5. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定検討委員会、たんぱく質、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定検討委員会報告書、厚生労働省、2014:88-109
  6. Beasley JM, LaCroix AZ, Neuhouser ML, et al. Protein intake and incident frailty in the Women's Health Initiative observational study. J Am Geriatr Soc 2010;58:1063-71
  7. Kobayashi S, Asakura K, Suga H, et al. High protein intake is associated with low prevalence of frailty among old Japanese women: a multicenter cross-sectional study Nutr J2013;12:164-73.
  8. Morris MS, Jacques PF. Total protein, animal protein and physical activity in relation to muscle mass in middle-aged And older Americans.Br J Nutr 2013;109: 1294-303.
  9. ter Borg S, Verlaan S, Hemsworth J, et al. Micronutrient intakes and potential inadequacies of community-dwelling older adults: a systematic review. Br J Nutr 2015; 113: 1195-206.
  10. Okubo H, Sasaki S, Murakami K, et al. Designing optimal food intake patterns to achieve nutritional goals for Japanese adults through the use of linear programming optimization models. Nutr J 2015;14:57

筆者

佐々木敏
佐々木 敏(ささき さとし)
東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野教授
略歴:
1994 年:大阪大学大学院医学研究科博士課程修了、ルーベン大学大学院医学研究科博士課程修了、1995 年:名古屋市立大学医学部公衆衛生学教室助手、1996 年:国立がんセンター研究所支所臨床疫学研究部室長、2002 年:国立健康・栄養研究所栄養所要量策定企画・運営担当リーダー、2006 年:同研究所栄養疫学プログラムプログラムリーダー、2007 年より現職
専門分野:
栄養疫学。医学博士(公衆衛生学、疫学)

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.75

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.75(新しいウインドウが開きます)

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