健康長寿ネット

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日々の食生活からのフレイル予防-地域在住中高年者の栄養調査結果を踏まえて-

大塚 礼(おおつか れい)

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターNILS-LSA 活用研究室室長

はじめに

 介護予防は健康寿命延伸を図る上で重要な課題である。平成25年国民生活基礎調査によると、要介護度別の原因疾患として、要支援(要支援1と2の加重平均)では「関節疾患」が20.7%と最も多く、次いで「高齢による衰弱(フレイル)」15.4%、「骨折・転倒」が14.6%を占めている(図1)。フレイルとは、高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、転倒、ADL低下、要介護状態、死亡などの不幸な転帰に陥りやすい状態をさし、「可逆的」と位置付けられている1)

図1:要介護度別の原因疾患
図1:要介護度別の原因疾患を示す棒グラフ。要支援において関節疾患に次いで、フレイルが原因疾患となっていることをあらわす。

 フレイルの概念には、身体機能の低下に関連する身体的フレイルだけでなく、認知機能やストレス対処能力の低下を含む心理的フレイル、独居や経済的困窮など社会的に脆弱化しやすい社会的フレイルなど、高齢期に多発しやすい多面的な機能低下が含まれている(図2)。フレイルの成因や悪化に強く関連している要素として、食生活上の「低栄養」が注目されており、低栄養はフレイルの中核的な病態として捉えられる2 ), 3 )。つまり、低栄養を予防し、フレイルを軽減・改善することが、介護予防に繋がるといえる。

図2:身体的・心理的・社会的フレイル
図2:フレイルの概念を示すイラスト。フレイルは身体的フレイル、心理的フレイル、社会的フレイルの多面的な機能低下が含まれていることを示す。

 本稿では、日々の食生活からのフレイル予防と題して、特に低栄養予防に着目する。その際、地域在住中高年者の栄養調査結果をもとに、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」に掲載された各栄養素の推定平均必要量を満たす者の割合や、摂食量の加齢変化を紹介する。そして、高齢者本人のみならず、その周囲の者が高齢期の低栄養予防に対し心がけるべき点について概説する。

低栄養とは

 低栄養とは摂取する栄養素が、生体内で使用する量より少なく、生体維持に支障を来たすことをさす4)。一般に加齢に伴い咀嚼力が落ち、唾液分泌が減少し、消化管ぜん動運動や基礎代謝量、身体活動量が低下し、摂食量が徐々に低下する。摂食量の低下は、エネルギー摂取量の不足だけでなく、たんぱく質やビタミンなど微量栄養素の摂取不足を来たす。これらの栄養素不足はフレイルの成因・悪化要因になり、体力の低下、感染症リスクの上昇などを介し、生命予後を悪化させる。

 低栄養は摂食量の少ない「やせ」型の高齢者に生じやすいが、肥満者でもエネルギーは必要以上に摂取していても生体の機能維持に必要な栄養素が不足している「低栄養」が混在している場合がある。低栄養を有する高齢者の割合は自立した在宅高齢者で1~5%、在宅の要介護認定者では20~30%、老人施設などの入所者では30~50%と推定されている5)。このように、自立した高齢者では「低栄養」を有する者は少ないと見積もられているが、これらの自立高齢者は、食生活上、どのような点に気を付け、どのように低栄養を予防したらとよいのだろうか。

地域在住中高年者の栄養調査を踏まえて

各栄養素の推定平均必要量(食事摂取基準)を満たす者の割合

 地域在住の中高年者を対象とした「国立長寿医療研究センター ・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」では、愛知県大府市・東浦町に在住の40歳以上の住民から無作為抽出した男女約2,300名において、1997年以降、2年に1度、計7回にわたり、写真撮影を併用した3日間の食事秤量記録調査を実施してきた。

 表に、NILS-LSA第7次調査(2010-2012)における60~79歳男女998名の栄養調査結果を、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」6)の推定平均必要量と比較し、これらの必要量を満たす者の割合(%)を示した。

表:NILS-LSA第7次調査(2010-2012)における地域在住高年者(60-79歳)の食事摂取基準(2015年版)に基づく、推定平均必要量を満たす者の割合(%)
表:地域在住高年者(60-79歳)の食事摂取基準に基づく推定平均必要量を満たす者の割合を示すデータ

 NILS-LSAは国立長寿医療研究センター内の専用機器を用いた施設型調査であり、対象者は住民基本台帳をもとに無作為抽出されているが、調査参加者は施設型調査に参加することが可能な比較的健康な集団である7)。これらの者では、例えばたんぱく質摂取量やビタミンB12、葉酸などは、ほとんどの者が推定平均必要量を満たしているものの、ビタミンAやビタミンB1、カルシウム等は、約半数の者が推定平均必要量を満たしておらず、栄養素によっては必要量を満たしてない項目も認められた(表)。

 比較的健康な高齢集団における低栄養の割合は少ないと考えられるが、食事は個人のばらつきが大きいため、個人レベルで食事摂取基準の策定値を参照すれば、食生活上改善を促すべき項目は多種多様と考えられる。改善点を見つけ出す手立てとして、各種健康診断や保健センターなどで行う栄養士・管理栄養士の栄養相談があり、これら栄養専門職の力を借りることも良策である。高齢者個人が日々の食生活を客観的に振り返り、食生活を見直すことが、将来の低栄養予防に繋がる。

摂食量の加齢変化

 では、比較的栄養状態が良好と考えられる段階から、どのように低栄養に至るのであろうか。低栄養は健康状態や家族形態、心理的要因などさまざまな要因により来たされると考えられるため、これに明確に答えうる科学的知見は残念ながらない。しかし、急性の疾患発症や高齢期の急激な環境の変化(例えば配偶者との死別)を除けば、おそらく非常に緩やかな速度で低栄養が進行し深刻化していくと考えられる。

 図3は、NILS-LSAにおける40~79歳男女の12年間のエネルギー摂取量の経年変化を図式化したものである。ベースラインの性別に、集団として第1次調査から第7次調査のエネルギー摂取量の経年変化を検討したところ、男女ともに40歳以降エネルギー摂取量は低下し、男性では7~34kcal/年(年齢ごとの傾き)、女性では9~17kcal/年の緩やかな低下を示した。本図は集団としての平均を図式化しているため、個人レベルでは個人差が大きく、エネルギー摂取量が大きく低下した者と低下しない者が混在することを考慮すべきである。しかし集団としてみた場合、エネルギー摂取量は緩慢に低下するといえる。

図3:性別エネルギー摂取量の経年変化((NILS-LSA)第1-7次調査)
図3:NILS-LSAにおける40歳から79歳男女の12年間のエネルギー摂取量の経年変化を図式化したもの。加齢と共にエネルギー摂取量は減少していくことを示す。

 エネルギー摂取量の低下とともに、一般的に栄養素摂取量も低下するため、高齢期はたとえ健康状態が良好であっても、徐々に低栄養に近づく危険性が高い時期ともいえる。

低栄養を予防するために

早期発見の重要性

 栄養は本人が気付かないうちに深刻化する可能性が高く、例えば低栄養により体重減少や体力の低下が来たされた場合、それを元に戻すためには、本人のみならず、その周囲の多大な努力を必要とする。このため、できるだけ早期の段階で低栄養を発見し、食生活上の改善を促すことが、低栄養の深刻化を防ぐ上で極めて重要である。

 低栄養状態をスクリーニングする効果的な指標は多種類あり、臨床ではMNA®-SF(Short Form)など医療従事者が利用しやすい簡易質問票が用いられることもあるが8)、地域在住の比較的健康な高齢者において、最も簡単でかつ信頼性が高い方法として体重測定が挙げられる。個々の栄養素の過不足については、栄養士や管理栄養士のような人の食と健康に関わる専門職の助言を得ることが好ましいが、エネルギー摂取の過不足の評価に関しては、体重管理が最も容易である。「日本人の食事摂取基準( 2015年版)」6)においても、エネルギーの過不足の評価に、体格指数Body mass index(体重kg/(身長m)2)を 用いることが推奨されるようになった。70歳以上の目標BMIは21.5 ~24.9kg/m2とされ、虚弱(フレイル)予防の観点から70歳未満の目標BMIより下限値が高く設定されている点が特徴である。

 他にも馴染みが深い質問票として、厚生労働省作成の「基本チェックリスト」の栄養・口腔機能に関する項目も、簡易ながら低栄養ハイリスク者をスクリーニングできる優れた指標といえる。これらはいずれも、意図しない体重減少が生じているか否かを判定基準の1つとして用いており、日常的な体重測定により、低栄養を早期の段階で認識することができれば、より軽度な段階で低栄養の深刻化を抑制できるであろう。

日々の食生活をより豊かなものへ

 低栄養を回避する上で最も重要なのは、高齢期は低栄養に陥りやすい時期であることを認識し、日々の食生活をできるだけ豊かなものにする心がけ、努力を惜しまないことである。

 食事は単に栄養素を補給するためだけの行為ではなく、美味しさを感じたり、会食を楽しんだりといった日常生活を楽しむ上で重要なさまざまな心理・社会学的な側面の効用を持ち合わせた行為である。高齢者の食事においては、食事のこのような特性を意識し、本人あるいは周囲の者が、食事を単なる栄養補給の場と捉えず、1食1食をより豊かに、美味しく食べられるように努めることが、低栄養予防において極めて重要と考える。

 食事はさまざまな生活習慣の中でも、基本的に1日3回、生涯を通して永続的に営まれるという特徴を持つ。このような特徴を持つ生活習慣は他になく、日々の食事を単なる栄養補給の場と捉えず、より豊かな内容にすることで、低栄養予防のみならず心身の健康増進に有効活用できるであろう。

さいごに

 高齢期に誰もが陥りやすいフレイルを予防する1つの方策が、「低栄養予防」である。低栄養により一旦栄養障害が来たされると、その回復には個人の努力と家族の長期的なサポートが必要となる。人口の高齢化が進み、今後、低栄養を来たす高齢者数も確実に増加することが見込まれる。低栄養は早期に発見するほど容易に改善しやすく、高齢者本人のみならず、高齢者を取り巻く家族や保健医療従事者が、低栄養の予防・早期発見に努めていくことが、フレイル予防、ひいては介護予防に繋がる。

 高齢期の食生活は、若年期からの長期にわたる食習慣の形成に加え、健康状態や家族形態、心理的要因などさまざまな要因により形成されており9)、ある程度確立した内容となっていることが多い。個人のライフスタイルを崩さない範囲で、低栄養を予防しながら質の高い食事を美味しく食べることは、心身の健康維持・増進に有効である。

 誰しもが生きている限り毎日何らかの栄養摂取を行う。より永く、美味しい食事をとり続けるためには、日々の1食1食をより美味しく、より豊かな内容にすることが、高齢期の食生活において最も大切なことといえよう。

参考文献

  1. 荒井秀典. フレイルの意義. 日老医誌. 2014;51:497-501.
  2. Xue QL, Bandeen-Roche K, Varadhan R, Zhou J, Fried LP. Initial manifestations of frailty criteria and the development of frailty phenotype in the Women's Health and Aging Study II. The journals of gerontology. Sep2008;63(9):984-990.
  3. 佐竹昭介. フレイルと低栄養. フレイル超高齢社会における最重要課題と予防戦略 東京: 医歯薬出版; 2014.
  4. 葛谷雅文. 栄養. 日本老年医学会誌. 2013;50:46-48.
  5. Vandewoude MF, Alish CJ, Sauer AC, Hegazi RA. Malnutrition-sarcopenia syndrome: is this the future of nutrition screening and assessment for older adults? Journal of aging research. 2012;2012:651570.
  6. 「日本人の食事摂取基準(2015年度)」策定検討会審議会資料  厚生労働省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  7. Aging(NILS-LSA)NIfLS-LSo. MONOGRAPH, 1st to 7th study wave of NILS-LSA. MONOGRAPH2012 (外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  8. 栄養評価ツール ネスレヘルスサイエンス日本(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  9. 大塚礼、安藤富士子、 下方浩史. 高齢者の栄養に対する新しい考え方「高齢者の栄養に関する疫学研究」. Geriatric Medicine. 2013;51(4):365-369.

筆者

写真:大塚礼

大塚 礼(おおつか れい)
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターNILS-LSA 活用研究室室長
略歴:
東京水産大学(現・東京海洋大学)水産学部食品生産学科卒、食品メーカー品質管理課勤務、2004 年:名古屋大学大学院医学系研究科修士課程修了、2007 年:同大学院博士課程健康社会医学専攻公衆衛生学修了、日本学術振興会特別研究員 PD、2009 年:国立長寿医療センター研究所疫学研究部流動研究員、同栄養疫学研究室室長、2010 年:国立長寿医療研究センター認知症先進医療開発センター予防開発部予防栄養研究室室長、2013 年より現職(2015年4月より国立研究開発法人に変更
専門分野:
栄養疫学、公衆衛生学。医学博士

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.75

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.75(新しいウィンドウが開きます)

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