健康長寿ネット

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第4回 これからの住まいはトイレ・洗面・浴室が命

天野 彰(あまの あきら)

建築家


トイレ浴室をもっと広く贅沢な空間に

 この「100歳安心コラム」も終章を迎えた。もともと「すまい」は「棲む舞」で、「家」は「イへ」すなわち「寝戸」で、わが家は勝手気ままに安心して起きて寝るところと心得、何より自分自身のための空間。中でもトイレそして浴室は、自身の裸の人生に立ち向かう重要なところである。

 顔を洗うのが洗面器、身体を洗う風呂桶は洗体器?そしてトイレはまさしく用足しの便器。老いてこれからのトイレ浴室洗面はこの機能優先でよいのだろうか。

 トイレや浴室は狭い空間だが、用を足すだけではなく大きな役割がある。体調の変化を見つけ、ストレス解消の空間でもあり、人によっては創作のひらめき空間でもある。この狭い空間ながら個が開放され、固執や邪念もなくなり、かつわが身に集中できる。実際にこの浴室やトイレで大半の疾患や異常が発見されている。

 本欄第1回目のコラムで住まいは「狭い」といいながら、このトイレ浴室だけはその分広くする。どんなにゴージャスにして快適にしようとも倍の広さになっても、もともと狭い空間だけにたいした費用はかからない。

 そこであえて断熱と風通しをよくして明るく、床壁の仕上げも自然素材でリフォーム。これからさらに身体が弱まって家にいることが多くなる老いの住まいでは、バスルームの使用頻度は多くなる。ここはさらに贅沢にしても損はない。

 トイレや浴室のリフォームは昔からむずかしく割高なものと諦めている人も多い。特にマンションなど鉄筋の家の場合、トイレの太めの排水管がコンクリートの床下に設置されていて、これが階下の家を通って流れている。

 しかしトイレや浴槽の排水管の位置さえ変えなければ、便器や浴槽の交換は床上だけで可能。しかも最近は便器そのものがコンパクトになって、排水管の位置と便器の位置もある程度アジャストもでき、その位置から便器を回転させて方向を変えるなど、間取りを変えて広々とした空間にすることも可能となっている。

 最近は、設備機器メーカーがこうしたリフォーム用機器やシステムなどを開発し、水回りリフォームはさらに進化しもっと快適で楽しいものなっている。

這(は)ってでも行けるトイレ浴室リフォームで最期まで住める家に

 娘や孫などにも頑なに介護を嫌い、最期まで1人で暮らし続けた明治生まれの私の祖母の晩年の生き様を見て、60年になろうかという古い家を祖母に気付かれないように少しずつ改造したことがある。

 その経験から1つのテーマを持つこととなった。それこそ「老いて安全に暮らせる」ことはもとより、「最期までひとりでトイレに行ける!」ということである。実際これができるということは、かなりの運動をすることであり、さらに頭もはっきりすることでもある。「わが家でいかに自在に動くことができるか」、さらに「その生活をいかに持続させられるか」が重要なテーマとなる。

 弱った握力でも手をついて行動でき、這ってでも移動できるようにするための工夫が、ベンチ式の「手つきトイレ」(図1)であり、小さな段差をあえて付けた小上がりの畳床(ベッド)などである。

図1:壁と便器の間に便座より少し低い台が隙間なく据えてあるトイレのデッサン。
図1:握力がなくなっても腰かけたままで便座に移れる「手つきトイレ」

 祖母が1人で這って浴室に行って、洗い場のスノコの上でごろごろ転がってシャワーとブラシで入浴していたことも、大いに参考になった(図2)。

図2:すのこを敷き詰めた浴室の洗い場で、横になったまま身体を洗う様子のデッサン。
図2:洗い場のスノコの上でゴロゴロと1人で身体を洗う祖母

 そしていよいよとなったときは、ベッドとおまる(水洗トイレ)の一体化だった。まさしく「トイレの中のベッド!」となる。

「1人でトイレに行きたい!」ホームナーシングユニット登場

 「自分でトイレに行けなくなったらおしまいだ...」

これは親を看取ってきた人たちからもよく聞く言葉。確かに排泄や入浴は人にとって大切な行為で、きわめてプライバシーの高い行為である。ここに他人に入りこまれることは屈辱的なことである。意識のあるうちは本人も介護する側もつらく悲しいことだという。

 かといって、排せつは絶対にしなければならないことで、住む人の尊厳をどう支えるかということを改めて考えさせられることにもなった。バリアフリーとは、ただ段差をなくして車いすの生活ができればいいのか?しかし現実は車いすに自力で乗り移ることはおろか、トイレで便座に乗り移ることさえできない。

 私は在宅介護の時代に備え、家の天井に仕かけた自在走行クレーンで身体を支えて、たとえ手足が不自由になっても、ベッドの周りに配されたトイレや浴槽まで1人で移動し、1人ですべてができるというリフォームシステムを研究している。名付けて「ホームナーシングユニット」(写真)。今の寝室を改造したり、必要のなくなった駐車場な どに設置することもできる。

写真:男性が天井に設置されたクレーンから伸びたハーネスを身体に装着し、リモコンを操作しながらベッドから浴槽まで移動している写真写真:天井からのトランファーで自在「ホームナーシングユニット」(東京ビッグサイト)

 人に頼らず体を支えて動くことができる自在サポート、それがホームナーシングユニットの発想となった。ぜひ開発に協力を願う。まさしく介護難民の世にも必要と思う。(完)

筆者

筆者_天野彰氏
Photo/H.Nishida
天野 彰(あまの あきら)
建築家。一級建築士事務所アトリエ4A主宰。建築家集団「日本住改善委員会」を組織し、生活に密着した住まいづくりやリフォーム、医療・老人施設までを手がける。設計の傍らTV、講演、雑誌と多方面で活躍。

著書

『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『脳が若返る家づくり 部屋づくり』(廣済堂)など多数

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.75

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