第1回 コミュニティデザインと長寿社会
公開日:2026年4月15日 09時00分
更新日:2026年4月15日 09時00分
こちらの記事は下記より転載しました。
山崎 亮
studio-L代表、関西学院大学建築学部教授
2000年頃から「コミュニティデザイン」に携わっている。建築や都市計画の分野から生まれた言葉なので、その他の分野に従事される方々にとっては聞き慣れない言葉だろう。言葉自体は1960年頃から使われ始めている。ただし、その意味は少しずつ変化してきた。
コミュニティという言葉は、大別すると3種類の意味がある。(1)地域や地区の空間的な広がり、(2)地域や地区に住む人たちのつながり、(3)同じ興味を持つ人たちのつながり、の3種類である。建築や都市計画の分野では、1960年代から(1)の意味としてコミュニティデザインを実践してきた。つまり、郊外住宅地などの地区をまるごとデザインするというわけだ。そこには道路計画、公園計画、住宅計画などが含まれる。物理的な空間をどう配置するかということを考えるのがコミュニティデザインの役割だったのである。
しかし、物理的な空間としてのコミュニティがデザインされるだけでは足りなかった。大規模な郊外住宅地が建設されても、そこに住む人たちの中には孤立したり孤独を感じたりする人が多いことがわかってきた。そこで(2)のコミュニティ(地縁型コミュニティ)や(3)のコミュニティ(興味型コミュニティ)が重視され、(1)のコミュニティに公共施設を建設する場合、地域に住む人たちの意見を聞きながら、参加型で設計を進めることが求められるようになった。1980年代から盛んになったのが、この参加型設計によるコミュニティデザインである。これは、公共施設を設計することもひとつの目的だが、その過程で地縁型コミュニティや興味型コミュニティを醸成することも目的になっている。
1960年代から「地区をまるごと設計するコミュニティデザイン」が始まり、1980年代から「公共施設の参加型設計によるコミュニティデザイン」が始まった。それぞれをコミュニティデザイン1.0と2.0とすれば、2000年代からはコミュニティデザイン3.0が始まったといえよう。物理的な空間の設計を伴わないコミュニティデザインである。理由はいくつかある。ひとつは人口減少社会の到来だ。人口が減るなら「地区をまるごと設計する(1.0)」必要はない。税収も減るのだから「公共施設を参加型でつくる(2.0)」機会も減る。一方、人のつながりはますます希薄化している。だから、(2)地縁型コミュニティや(3)興味型コミュニティは醸成したい。そこで、空間をつくるのではなく、活動を生み出すことによる「コミュニティデザイン3.0」が始まったというわけだ。これは世界に先駆けて人口が減っている日本だからこそ誕生したコミュニティデザインだといえよう。
行政が食育推進計画をつくりたいと思っているのなら、地域住民に呼びかけてワークショップを開催する。そこで食育について学び合ったり、グループをつくって食育に関する活動を生み出したりする。その結果、ゆるやかなつながりが生まれるというわけだ。地域福祉計画、環境基本計画、教育大綱、総合戦略、総合計画など、行政がつくるべき計画があるのなら、それらを参加型でつくる。その過程で人のつながりを醸成する。あるいは生活協同組合が組合員や地域住民とともにまちづくりの活動を生み出したり、寺院が檀家や地域住民とともに活動したりする。
私は1990年代に設計を学び、2000年代からコミュニティデザインに携わるようになった。そして2005年にというコミュニティデザイン事務所を設立した。だからコミュニティデザイン2.0(公共施設の参加型設計)と3.0(参加型活動づくり)に携わってきたことになる。そんなわれわれの事務所に、2015年ごろから地域の保健や医療、福祉や介護に関する相談が寄せられるようになった。聞けば、高齢社会が医療保険や介護保険だけに頼りっきりになると、制度そのものが成り立たなくなる恐れがあるという。制度だけではない。高齢者自身にとっても、保険を利用して病室や介護施設に閉じこもってしまい、ベッドの上でテレビを見るだけの生活は質が高いとは思えない。
団塊ジュニア世代の私は、自分の親世代がしっかり働き、税金を納め、子育てをしてくれたことに感謝したい。それによって実現した長寿社会を悦びたい。しかし、立役者であるはずの団塊の世代が、人生の最終局面に差し掛かって質の低い生活を強いられるのは残念でならない。「長寿社会のコミュニティデザイン」に何が可能か。そのことを模索するうえで、設計しか学んでいない私は社会福祉について学ぶことにした。2015年から専門学校に通い、2017年に社会福祉士となった。勉強中に、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、グループホームなどで学ばせてもらうこともできた。そこで感じたことは、コミュニティとの関わり合いの少なさである。そのことが、介護施設を利用する人にも、そこで働く人にも、負担を強いているように思えた。
こうした経験が、その後10年間のコミュニティデザインの実践に影響を与えてくれたのである。
著者

- 山崎 亮(やまざき りょう)
- studio-L代表。関西学院大学建築学部教授。1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。著書に『コミュニティデザインの源流』(太田出版)、『縮充する日本』(PHP新書)、『ケアするまちのデザイン』(医学書院)、『面識経済』(光文社)などがある。現在、これまでに携わった101のプロジェクトをまとめた『前例集』の出版準備中。
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