第1回 マイナス15°Cはあたたかい?
公開日:2026年4月15日 09時00分
更新日:2026年4月15日 09時00分
こちらの記事は下記より転載しました。
香山 リカ
むかわ町国民健康保険穂別診療所 副所長
「この冬はあたたかいから助かるね」
診察室で女性がほほ笑みながら言う。「けっこう寒いですよ」と答える私に、80代後半でひとり暮らしを続け雪がないときは野菜づくりに励む彼女は、「そう?でもマイナス20°Cにはほとんどならないじゃない」とニッコリ。
私のいる北海道むかわ町穂別は、全国でも有数の寒冷地だ。冬には最低気温ランキングの1位になることもしばしばある。地域の人口は2,200人ほど。過疎化、高齢化が進み、町内外を結ぶ路線バスは昨年廃止となり、文字通り陸の孤島と化した。周囲数十キロ四方で、医療機関は穂別診療所ただひとつ。私はそこに総合診療医として勤務している。
「総合診療医」ときくと、テレビドラマなどに出てくるスーパードクターを想像する人もいるだろう。他の科で診断がつかなかったり見逃されたりしている疾患を探し当て治療につなげる医療の達人だ。しかし私はそうではない。医療のリソースがとても乏しいこの地域で、どんな人のどんな問題や不調でもいつでも診ますよ、場合によっては入院もできますよ、という"なんでも屋"をやっているにすぎない。
ただ、「陸の孤島の不便な地域」という言い方からはとても想像できないほど、穂別の住民はたいへんにたくましく元気だ。この「元気」というのは、「病気や障害がない」という意味ではない。たとえば、冒頭で紹介した女性も心臓弁膜症を患っており、ときどき息切れを訴える。遠く離れた都市部の専門医に紹介して受診してもらったこともあるし、穂別診療所でも年に一度は心エコーを行い、いろいろな薬も飲んでいる。それにもかかわらず、「マイナス20℃にならないからあたたかい」と言ってのけるその心意気は、私から見ればまさに元気そのもの。
基本は元気。でもそんな人の人生にもときには不調が生じるし、転んでケガをすることもある。加齢とともに慢性の疾患が悪化することだってあるだろう。そういうときには診療所がしっかりサポートしますよ。だから安心して人生を思いきり楽しんで─。
へき地の総合診療医の役割は、それに尽きる。私はそう思いながらマイナス15°Cでも震えながら今日も出勤するのである。
著者
- 香山 リカ(かやま りか)
- 1960年北海道札幌市生まれ。東京医科大学卒業後、精神科医として臨床に携わりながら帝塚山学院大学教授、立教大学教授などを歴任。2022年より北海道のむかわ町国民健康保険穂別診療所で総合診療医としてへき地医療に取り組んでいる。執筆活動と週末の東京での精神科医としての診療も継続中。『精神科医はへき地医療で"使いもの"になるのか? 〜私の転職奮闘記〜』(星和書店)、『人生を変える「新しい場所」の見つけ方』(青春出版社)など著書多数。
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