健康長寿ネット

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第2回 寿司屋での選択

公開日:2019年7月26日 09時00分
更新日:2024年8月13日 13時19分

立川 らく朝(たてかわ らくちょう)

落語家・医学博士


 私の講演会で時々取り入れているのが、「健康質問コーナー」。観客にあらかじめ質問用紙を配り、そこに健康に関する質問、悩み事などを書いていただく。そして途中の休憩時間にスタッフが回収、後半に私がステージでその質問にお答えするという、いわゆる"観客参加型"の企画である。

 これをやるとなると結構大変で、およそ十分足らずの休憩の間に観客に受けそうな質問をピックアップしなくてはならない。私にとっては休憩が休み時間でなくなる、というよりメチャクチャ大忙しの時間になるわけだ。でも評判がよいので時々やってみるのだが、一番多い質問は「長生き」に関することである。

 中にはこんな質問があった。「私はどうしても長生きということをしてみたいんです。どうしたら長生きができますか。長生きの秘訣を教えてください」。ふと年齢の欄を見たら86歳って書いてある。「もうしてんじゃん!」。こっちのほうが聞きたいくらいだよ。

 人間というのは、いくつになっても長生きがしたいものらしい。でもいくら質問されたところで、私などは長生きの秘訣などというものは知らない。よしんばそんなすごい秘訣を知っていたらまず自分が実践するだろうし、それを他人に教えるとなれば、「さて入場料はいくらにしよう」などと楽しくも不謹慎な想像をすることだろう。

 もっとも医学的には寿命を延ばす方法というのはわかっている。長生きの秘訣と言えば言えなくもない。実際に行っている先生方もいらっしゃる。どんな方法か知りたいでしょ。お教えしましょう、特別に入場料無料で。

 それは「あまりたくさん食べないこと」。毎日の食事の摂取カロリーを30%カットするだけで寿命は延びることが確認されている。カロリー制限をすることで長寿をもたらす遺伝子のスイッチがオンとなり、本当に長生きしてしまうのだ。

 これは最初ごく下等な生物で実験され、そしてマウスで、ついにはサルで実証され、今では人間様たちも長生きめざして頑張っている。

 でもこれはつらい。カロリー三割減ということは、空腹で寿司屋に行った時、目の前にトロとウニとアワビが出てきたら、どれか一つは諦めなくてはならないということだ。

 さて、あなたならどのネタを諦めるだろうか。え、「自分なら長生きを諦める」......ま、それも選択肢の一つだろう。

 「食べたいものも食べずに長生きしたって意味がない」、そう考える人は意外に多いものだ。ではそんな食いしん坊には長生きの方法がないのかというと、そうでもないことがわかってきた。もう一つ奥の手があるんだ、これが。

 これは山形大学看護学科基礎看護学講座が中心となって行われた研究だが、普段笑う回数と健康との関連を調査した。声を出して笑った回数が、週一回以上の人、週一回未満の人、そして月一回未満の人、この三つのグループに分けて健康状態を詳細に調べて比較した。なんと40歳以上の人、17,000人以上を対象にしたってんだから、大規模な調査である。

 さてどうなったか。月一回未満しか笑わない人たちは、週一回以上笑う人たちに比べて心筋梗塞などの発症リスクが高く、同時に全死亡リスクも高いことが判明した(2019年、J Epidemiol)。

 どうやらよく笑うことは病気を予防して長生きに貢献するらしい。こうなったら食事の時は、食べるのも忘れてずっと笑っていよう。自然とカロリー制限もできて、長生きすること請け合いだ。

 でも笑い過ぎて、喉にごはんを詰まらせることのないよう、それだけはご用心、ご用心。

編集部:立川らく朝さんは2021年5月2日にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.90(PDF:8.3MB)(新しいウィンドウが開きます)

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