健康長寿ネット

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高齢者のメンタルヘルス

公開日:2019年7月30日 09時35分
更新日:2020年5月14日 13時16分

メンタルヘルスとは

 メンタルヘルス(mental health)とは精神的健康、心の健康、精神保健、精神衛生などと呼ばれるものです。主に精神的な疲労や、ストレス、悩みなどの軽減・緩和やサポート、また精神保健医療のように精神障害の予防や回復を目的とする場面で使われています。

高齢者に多いメンタルヘルス不調(精神障害)とは1)2)

写真:メンタルヘルス不調をあらわすイラスト

 厚生労働省の「労働者の心の健康保持増進のための指針」によると、メンタルヘルス不調とは「精神や行動の障害とされる精神障害や自殺などだけではなく、ストレスや強い悩み、不安など、社会生活や日常生活の質に影響を与える可能性がある精神的問題や行動上の問題を幅広く含むもの」とされています。

老年期にみられるうつ病の特徴3)一部改変

  • 不安や焦燥感を訴えることが多い
  • 心気的な症状が多い
  • 身体の合併症が多い
  • 認知症との鑑別が難しい
  • 妄想を起こすことがある

 高齢者のうつ病でよく見られる特徴的な症状として、抑うつ気分という精神的な症状と共に、頭痛や腰痛、胃の不快感などが見られます。また身体的な不調以外に妄想や不安、緊張を訴えるケースもあります。日本では、高齢者のおよそ10%の人がうつ病であると考えられています。

高齢者のメンタルヘルス不調の原因1)

 高齢者のメンタルヘルス不調の原因となるものに、脳の老化そのものに関係する認知症と、老年期に特有なさまざまな喪失体験や慢性的なストレスによる抑うつ状態があります。これは老年期うつ病と言われる状態で、認知症と症状が似ていることから診断や治療が難しく、知らないうちに症状が進行してしまうというケースがあります。

 高齢者のメンタルヘルスを損なう原因には、次のようなものが考えられます。

重大なライフイベント

  • 家族や身近な人物との死別、ペットロス
  • 退職など社会的役割の低下、喪失
  • 経済不安
  • 生活環境の急激な変化(転居、施設入所など)

加齢による身体機能の低下

  • 健康不安、体の不調
  • 認知機能の低下(反応の早さや問題処理能力の低下など)
  • 視覚、聴覚、知覚(温度感覚を含む)など感覚の低下や喪失
  • 行動力の低下

 これらの変化が起こることで慢性的なストレスとなり、知らないうちにうつ病の症状へと進行してしまうことがあります。高齢者のうつ病の症状は、一般的な老化現象と考えられがちで、発症に気づくのが遅くなってしまうのです。

高齢者のメンタルヘルス不調への対応1)

 高齢者は心気的な訴えが多く、神経症的な要素を持っている傾向があります。高齢者が繰り返し身体の不調を訴えることがあっても「病気ではないから」と否定するのではなく、丁寧に話を聞いてあげることが大切です。

 その際は話を聞く姿勢にも気を付けましょう。高齢者の気持ちを素直に受け止めたうえで、心を通わせるような気持ちで向き合うことが大切です。単に話が通じればよいという気持ちではなく、相手のペースに合わせて話を進めましょう。また、高齢者の方とのコミュニケーションには声の大きさや高さ、抑揚も重要で、それによって誠実な態度で向き合っていることや相手に対する親しみや信頼なども伝えることができます。

うつにかかっている人に対する対応の仕方4)

  • 心配しすぎず自然にふるまう
  • 励まさない
  • 原因を追究しすぎない
  • 重大な決定は症状がよくなるまで先延ばしにする
  • ゆっくり休ませることでリフレッシュを試みる
  • 医師の指示のもとで薬をうまく利用する
  • 時には距離を置いて見守る環境を作る

 認知症とは違い、うつ病は適切な治療によって改善する病気です。「今までと様子が違う」と感じるときは、早めに医療機関の受診を勧めることが大切です。うつ病に対する誤解があるために、高齢者本人が医療機関への受診を躊躇することもあります。うつ病は誰でもかかる病気であること、治療ができることを伝えましょう。医師や看護師に話を聞いてもらうことで、高齢者の方が抱える不安や悩みが緩和されるケースもあります。

高齢者のメンタルヘルス対策

 高齢者の生活において、退職や近親者との死別などによる喪失感や、加齢による身体的機能の低下など、メンタルヘルス不調を招く要因を避けることは難しいのが現状です。このような状況においても高齢者のメンタルヘルスを健やかに保つにはどうしたらよいのでしょうか。

 人は、何かしらの目標を持って生きることで、自然と気持ちが前向きになるものです。定年退職後に家に閉じこもるのではなく、何か新しい仕事を見つけるのもよいでしょう。また、趣味や習い事を始める、新しいことに挑戦してみるのも周囲とのコミュニケーションにつながるきっかけとなります。

 また、グループや団体などが行っている社会や家族を支える「社会的な貢献活動」に参加することもできます。内閣府の平成29年(2017年)版の高齢社会白書によると、高齢者の中で社会的な貢献活動に参加している人は約3割です。高齢者の社会的な活動は豊かな地域づくりにつながるだけでなく、介護や認知症を予防したり、高齢者自身にとって生きがいを創出できるなど良い影響をもたらすと考えられています。また、社会的な活動をすることで「新しい友人を得ることができた」(56.8%)、「地域に安心して生活するためのつながりができた」(50.6%)という高い割合の回答が見られました。さらに、「社会に貢献していることで充実感が得られている」(38.2%)、「健康維持や身だしなみにより留意するようになった」(32.8%)という回答からも、高齢者にとって積極的に社会や周囲の人と関わることは、心の健康を保つために役立っていることが分かります5)

 このように社会的な活動に参加するのもひとつの対策ですが、外に出て散歩をしてみる、誰かとおしゃべりをするだけでも十分です。

 無理のないよう自分に合ったメンタルヘルス対策を心がけましょう。

参考文献

  1. 高齢者問題研究会:高齢者のメンタルヘルス, P3-19(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 厚生労働省 こころの耳 15分でわかるセルフケア, P24-30(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 一般社団法人 日本老年医学会(編):老年医学系統講義テキスト.初版,西村書店,東京,2013年,P81
  4. 厚生労働省 高齢者のうつについて, P1(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  5. 内閣府 平成29年版 高齢社会白書(全体版) 第1章 高齢化の状況 第3節3 社会的な貢献活動への参加(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  6. NHK 高齢者に特有なうつ症状とは(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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