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地域づくりによる転倒予防─転倒頻度の地域格差から学ぶこと

公開日:2022年1月14日 09時00分
更新日:2022年1月17日 11時12分

林 尊弘(はやし たかひろ)

星城大学リハビリテーション学部講師

はじめに

 転倒・骨折は、要支援および要介護状態になる原因の第4位(12.5%)に挙げられており1)、65歳以上の地域在住高齢者の3人に1人は少なくとも年に1回は転倒していることが報告されている2)。また、転倒は日常生活動作(ADL)の低下を引き起こす要因であるため、高齢者にとって重要な健康課題の1つとなっている。

 転倒発生に関連する要因は、年齢や過去の転倒経験、うつなどさまざまであるが、その中でも筋力低下やバランス能力低下といった運動機能低下は主要因として挙げられている3)。2020年のシステマティック・レビューにおいて、転倒予防のためには機能訓練やバランス能力の向上を目的とした運動介入が有効とされており4)、わが国においても転倒予防教室といった地域在住高齢者を対象とした運動介入を主とした事業が多くの市町村で実施されている。

 このように、これまでは転倒発生(リスク)が多い(高い)個人に対する研究がなされているが、厚生労働省が推進している地域づくりの視点から転倒予防戦略を考えるためには、転倒発生が少ない個人の関連要因だけでなく、転倒発生が少ない地域の要因を探り出す必要がある。本稿では、転倒が少ない集団や地域の存在およびその関連要因に関する筆者らの知見を紹介し、地域づくりによる転倒予防の可能性について述べる。

転倒頻度の地域格差~地域レベルの視点から~

 筆者らは、65歳以上の高齢者を対象にした自記式調査による日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study; JAGES)のデータを使用し、転倒が少ない集団や地域、またその関連要因について検討をした。なおJAGESとは、健康長寿社会をめざした予防政策の科学的な基盤づくりを目的とした研究であり、全国の40市町村と共同し、30万人の高齢者を対象とした大規模な調査(2019年度調査時)を実施している。

 まず、転倒発生が少ない市町が存在するのかをA県内の7つの市町(8,943名)でみたところ、転倒が「何度もある」と回答した者の割合(以下、転倒者割合)は、平均8.3%であり市町間で最小6.7%~最大10.1%の違いがあった。その関連は、転倒に関連する26もの変数(性、年齢、BMI、併存疾患、服薬数、ADL、歩行時間、環境因子など)の影響を考慮してもなお、最も転倒者割合が多い市町に対して、転倒発生オッズ比が約3割以上(オッズ比0.673)少ない市町が存在していた(図1)5)

図1:過去1年間の転倒率の地域格差を表す図。
図1 過去1年間の転倒率の地域格差(山田実, 松本大輔, 林尊弘 他,厚生の指標 20125)より筆者作成)

※性、年齢、Body mass index、教育歴、等価所得、既往歴(8疾患)、服薬数、日常生活動作(3動作)、手段的日常生活動作、物忘れ、うつ、1日平均歩行時間、スポーツグループへの参加、周辺環境(3種類)、可住地人口密度を調整したロジスティック回帰分析(G市町を基準)を実施し、転倒発生オッズ比を算出

 また、小地域でも転倒の地域格差の存在を明らかにするために、過去1年間の転倒が「1回以上ある」と回答した者の割合を、9市町の64小学校区で比較をした。その結果、小学校区間の人口高齢化の違いの影響を取り除くために分析対象者を前期高齢者かつ転倒リスクである「ADL低下」や「うつ」がない者(16,102名)に限定しても、転倒者割合は小学校区間で7.4~31.1%と4倍も地域格差が認められた6)

 なお、このような地域格差は、転倒だけでなく他の要介護リスク要因でも確認がなされている。29市町村(127,041名)を対象とした佐々木らの研究では、うつ傾向・状態の者の割合が市町村間で21.5~36.2%あったことを示している7)。また、認知症のリスクの1つである手段的日常生活動作(Instrumental Activities of Daily Living; IADL)について加藤らは、53市区町村(88,370名)を対象とした分析において、前期高齢者に限定してもIADL低下者割合が市区町村間で7.9~23.3%の格差があったことを報告している8)

地域格差に関連する要因

 どのような要因が転倒頻度の地域格差に関連するのだろうか。上述の研究において、転倒者割合が多い小地域の特徴をみてみると、中・高所得者が少ない地域(Spearman順位相関係数;rs=-0.54)、高学歴者が少ない地域(rs=-0.41)ほど転倒者割合が有意に高く、地域の社会経済状況の関連が明らかとなった。

 一方、高齢者の社会参加の1つで日常生活の中で身体活動量を増やすことができるスポーツグループへの参加割合に着目しその関連をみると(図2)、所得や教育水準の影響を考慮しても、スポーツグループへの参加(週1回以上)割合が高い小学校区ほど転倒者割合が有意に少ないことが明らかとなった(rs=-0.60)。

図2:過去1年間の転倒割合とスポーツ組織への参加割合との関係を示す図。
図2 過去1年間の転倒割合とスポーツ組織への参加(週1回以上)割合との関係(林尊弘, 近藤克則, 山田実他, 厚生の指標2014;61(7):p.4 6)より引用)

注:小学校区(n=64)の前期高齢者における割合
転倒率:7.4~31.1%と約4倍以上の差が小学校区間で認められた
転倒率とスポーツ組織参加割合の間に負の相関が認められた(rs=-0.60,p<0.01)

スポーツグループへ参加する高齢者は転倒リスクが少ないか~個人レベルの視点から~

 地域レベルでみられた関連が、必ずしも個人レベルで同様の関連がみられないというEcological Fallacy(生態学的誤謬(ごびゅう))の可能性がある。そのため、個人レベルにおいてもスポーツグループへの参加と転倒発生とに関連があるかについて検討した。対象は、全国31市町村の要介護認定を受けていない高齢者90,610名とし、性や年齢、社会経済的地位(教育年数、等価所得)、身体機能(歩行時間や外出頻度など)、精神機能(うつ)、周辺環境などの13変数の影響を考慮した分析を行った。

 その結果、スポーツグループに参加していない者に比べ、スポーツグループへ週1回以上参加している者では、転倒発生オッズ比が有意に低く、参加頻度が増えるにつれその値は低くなっていた(週1回程度:オッズ比 0.82、95%信頼区間 0.72-0.95、週2~3回程度:オッズ比 0.81、95%信頼区間 0.81-0.92、ほとんど毎日:オッズ比 0.67、95%信頼区間 0.52-0.88)(図3)9)

図3:過去1年間の転倒経験の主なリスク因子を表す図。
図3 過去1年間の転倒経験(複数回)の主なリスク因子(Hayashi T, et al., Biomed Res Int. 20149)より筆者作成)

注:同時投入した変数のうち、転倒経験(複数回)と有意に関連が認められた主なもの
上記以外に、身体機能(何もつかまらずに立てる、手すりをつたわらず階段を昇れる)で有意な関連あり

グループで行う運動のメリットは

 このように、スポーツグループへの参加による運動が転倒リスクの低下と関連することが明らかとなったが、運動形態の違い(例えば、グループによる運動と1人で行う運動)で効果が異なるかは明らかとなっていなかった。先行研究では、スポーツグループなどの誰かと一緒に行う運動は1人で運動することと比較して、身体活動量やメンタルヘルスを向上させ10)、うつの発生11)や、死亡リスク12)を減少させる可能性が報告されている。そのため、スポーツグループでの運動と1人で行う運動で転倒発生に違いがあるのかを検討した。

 その結果、スポーツグループで運動を行っている者は運動を1人で行う者と比較して、転倒発生オッズ比が25%(オッズ比0.75)低いことが明らかとなった(なお、運動を行っていない者は運動を1人で行う者と比較して、転倒発生オッズ比は21%高かった)(図4)13)。また、転倒不安感がない6,130名を3年間追跡とした分析では、性、年齢、教育歴、IADL、物忘れ、転倒経験、身体機能などの12要因の影響を考慮しても、転倒リスクの一因である転倒不安感の発生リスク比は運動をしていない者と比較して1人で運動する者よりスポーツグループで運動を行っている者で低下していた(リスク比:1人で運動 0.90、スポーツグループで運動 0.79)。

図4:過去1年間の転倒経験と運動の実施形態との関係を表す図。
図4 過去1年間の転倒経験(複数回)と運動の実施形態との関係(Hayashi T, et al., Int J Environ Res Public Health. 201813)より筆者作成)

※性、年齢、教育歴、等価所得、物忘れ、身体機能、要治療の疾患の有無、服薬数を考慮した解析

 では、高齢者がスポーツグループで行うスポーツの種目については、どのようなものが挙げられるだろうか。65歳以上の高齢者、男性62,224名、女性66,871名を対象としたTsujiらの報告では、男性ではゴルフ、ウォーキング、グランド・ゴルフ、女性では体操、ウォーキング、筋トレの順で実践者が多く、特に男性ではゴルフ、女性ではウォーキングのグループに参加している者で、社会心理的な健康状態がよいことが示されている14)。現時点で転倒発生との関連は明らかとなっていないため、今後はどのようなスポーツグループへの参加で転倒発生が減少するかを明らかにしていく必要がある。

地域づくりによる転倒予防の可能性

 スポーツグループへの参加が多いと転倒発生(割合)が少ないという関係が、地域レベルと個人レベルの両方で認められたことから、今まで主に行われている個人への運動介入だけでなく、スポーツグループへの参加が多い地域づくりをするといった地域介入が転倒予防になりうることが示唆された。先行研究では、スポーツグループでの運動が盛んな地域に暮らす高齢者では、自身がスポーツグループに参加しているか否かにかかわらず、うつや認知症のリスクが低いことが報告されている15),16)。そのため、転倒においても先行研究と同様の分析による検証や、最終的には地域介入研究により、実際に転倒発生の抑制効果が認められるか検証することが必要となってくる。

 また、そのような地域づくりを進めるためには、行政や専門家、スポーツグループに参加する地域住民それぞれが役割を持つ必要があると考える17)

 まず、行政の役割としては、スポーツグループへの参加機会が増えるよう、運動に適した広場や公園が近くにあるかといった物的環境の改善や、身近に参加できるスポーツグループの数や種類などの選択肢の豊富さ、活動費用の補助や専門家の派遣などの制度的支援を含む社会環境の改善といったゼロ次予防の視点による支援である。

 また、専門家の役割としては、住民が参加したくなるようなスポーツグループの仕組みづくりである。具体的には、スポーツグループに参加する住民が、転倒をしにくくなったなど健康になれたという実感や運動を楽しんで継続できる内容づくり、正しい運動方法の指導などが挙げられる。なぜなら、地域住民だけのグループ活動では、独学の知識になってしまう可能性があり、時には運動が逆効果になることも考えられるからである。そのため、専門家が地域に出向き、専門的な知識の啓発活動や参加者の状態に応じた動き方の指導など、「どのような運動をすると転倒しにくくなるのか」といった内容を伝え、参加者にそのことを実感してもらうことが必要である。

 このように、行政の支援や専門家の関与が必要であるが、スポーツグループに参加する地域住民が少なければ効果は限定的となるため、地域住民の役割が最も重要となってくる。その役割とは、住民が主体的に自主的なスポーツグループを運営し、参加者間の関係づくりをしていくことである。例えば、スポーツグループに友人が参加していて誘われれば、今までスポーツグループに参加してなかったとしても参加するきっかけとなる。また、共有の関心を持つ者同士が集まり自主的なスポーツグループ活動をすることで、新たなネットワークが形成され参加者同士の関係性が深まることが考えられる。その結果、参加者同士でお互いを助け合う人間関係の構築や、健康に有益な情報を得る機会の増加が期待される。そして、地域にこのような参加者間の関係性が良好なスポーツグループが充実し、多様な選択肢が生まれることで、誰もが参加しやすい地域になる可能性がある。

 つまり、地域づくりによる転倒予防を実現するために、行政や専門家、地域住民がそれぞれの役割を認識し連携していくことが必要となってくる。

さいごに

 転倒などの要介護リスクの要因には地域格差が認められている。そのため、地域づくりによる転倒予防をはじめとした介護予防を推進するためには、その地域の実情を明らかにし、どのような地域課題が存在するのかを把握することが重要となってくる。本稿では、地域づくりによる転倒予防の可能性の1つとして「スポーツグループへの参加が多い地域づくり」を取り上げたが、その地域の実情に適した介入の可能性がある地域介入研究を蓄積し、エビデンスのある取り組みを全国に普及していくことが望まれる。

文献

  1. 厚生労働省: 2019年国民生活基礎調査の概況. (2021年12月16日閲覧)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. Shimada H, Suzukawa M, Ishizaki T, et al.: Relationship between subjective fall risk assessment and falls and fall-related fractures in frail elderly people. BMC Geriatr. 2011; 11: 40.
  3. American Geriatrics Society British Geriatrics Society and American Academy of Orthopaedic Surgeons Panel on Falls Prevention.: Guideline for the prevention of falls in older persons. J Am Geriatr Soc. 2001; 49(5): 664-672.
  4. Sherrington C, Fairhall N, Kwok W, et al.: Evidence on physical activity and falls prevention for people aged 65+ years: systematic review to inform the WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. Int J Behav Nutr Phys Act. 2020; 17(1): 144.
  5. 山田実, 松本大輔, 林尊弘, 他:転倒発生の少ない市町はあるか:AGESプロジェクト. 厚生の指標 2012; 59(8): 1-7.
  6. 林尊弘, 近藤克則, 山田実, 他:転倒者が少ない地域はあるか : 地域間格差と関連要因の検討 : JAGESプロジェクト. 厚生の指標. 厚生労働統計協会, 2014; 61(7): 1-7. 
  7. 佐々木由理, 宮國康弘, 谷友香子, 他:高齢者うつの地域診断指標としての社会的サポートの可能性 : 2013年日本老年学的評価研究(JAGES)より. 老年精神医学雑誌 2015; 26(9): 1019-1027.
  8. 加藤清人, 近藤克則, 竹田徳則, 他:手段的日常生活活動低下者割合の市町村間格差は存在するのか:JAGESプロジェクト. 作業療法2015; 34(5): 541-554.
  9. Hayashi T, Kondo K, Suzuki K, et al. Factors associated with falls in community-dwelling older people with focus on participation in sport organizations: the Japan gerontological evaluation study project. Biomed Res Int. 2014; 2014: 537614.
  10. Seino S, Kitamura A, Tomine Y, et al. Exercise Arrangement Is Associated with Physical and Mental Health in Older Adults. Med Sci Sports Exerc. 2019; 51(6): 1146-1153.
  11. Kanamori S, Takamiya T, Inoue S, et al.: Frequency and pattern of exercise and depression after two years in older Japanese adults: the JAGES longitudinal study. Sci Rep. 2018; 8(1): 11224.
  12. Kanamori S, Takamiya T, Inoue S, et al.: Exercising alone versus with others and associations with subjective health status in older Japanese: The JAGES Cohort Study. Sci Rep. 2016; 6: 39151.
  13. Hayashi T, Kondo K, Kanamori S, et al.: Differences in Falls between Older Adult Participants in Group Exercise and Those Who Exercise Alone: A Cross-Sectional Study Using Japan Gerontological Evaluation Study (JAGES) Data. Int J Environ Res Public Health. 2018; 15(7): 1413.
  14. Tsuji T, Kanamori S, Saito M, et al.: Specific types of sports and exercise group participation and socio-psychological health in older people. J Sports Sci. 2020; 38(4): 422-429.
  15. Tsuji T, Kanamori S, Miyaguni Y, et al.: Community-Level Sports Group Participation and the Risk of Cognitive Impairment. Med Sci Sports Exer. 2019; 51(11): 2217-2223.
  16. Tsuji T, Miyaguni Y, Kanamori S, et al.: Community-level Sports Group Participation and Older Individuals' Depressive Symptoms. Med Sci Sports Exerc. 2018; 50(6): 1199-1205.
  17. 林尊弘, 近藤克則: 地域づくりによる介護予防のエビデンス(特集 地域包括ケア時代のリハビリテーション). 総合リハビリテーション2016; 44(4): 281-286.

筆者

写真:筆者_林尊弘先生
林 尊弘(はやし たかひろ)
星城大学リハビリテーション学部講師
略歴
2004年:社会保険中京病院リハビリテーションセンター理学療法士、2007年:名古屋大学医学部附属病院リハビリテーション部理学療法士、2012年:日本福祉大学健康社会研究センタ-客員研究所員、2013年:東海医療科学専門学校理学療法科専任講師、2015年:日本福祉大学大学院福祉社会開発研究科博士課程修了、2016年:名古屋大学未来社会創造機構抗老化ユニット特任助教、2017年:星城大学リハビリテーション学部助教、名古屋大学未来社会創造抗老化ユニット招へい教員、2020年より現職
専門分野
リハビリテーション学、公衆衛生学

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.100(PDF:6.8MB)(新しいウィンドウが開きます)

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