健康長寿ネット

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口腔ケアの必要性

公開日:2017年7月 5日 09時49分
更新日:2019年2月 1日 19時03分

在宅要介護高齢者の介護者の口腔ケアへの認識

 厚生労働省によると、日本の65歳以上の高齢者の人口は2025年には全人口の30.3%を占めると見込まれ、さらに2055年には約40%となると予想されています。今後、世界に類のない超高齢社会になることが確実です。高齢社会が進むにつれて要介護高齢者の数は増加し、1993年に約200万人だったその数は2025年には約530万人に増加すると推計されています。

 図1のとおり要介護状態では口の中の清掃がおざなりにされやすく、非常に不潔な方が多くなります。急増する要介護高齢者のQOL(生活の質)向上を目指した生活支援が必要となり、口腔領域では口腔ケアの普及が大変重要になっています。しかし、介護する人たちの口腔ケアへの認識は必ずしも十分ではありません。

図1:在宅介護高齢者の介護者の口腔ケアへの認識を示す円グラフ。設問は「口腔ケアをおこなったことがあるか」、「口が汚いと誤嚥性肺炎など全身疾患になることは?」。グラフの数値は表1、表2の通り
図1:在宅要介護高齢者の介護者の口腔ケアへの認識(医歯薬出版 5分でできる口腔ケアより)
表1:口腔ケアを行ったことがあるか
あるない
46% 54%
表2:口が汚いと誤嚥性肺炎など全身疾患になることは?
知っている 知らない
38% 62%

口腔ケアの目的

 口腔ケアの目的は、口の中を清潔にするだけでなく、歯や口の疾患を予防し、口腔の機能を維持することにあります。

 また、口腔ケアはQOLの向上のみならず誤嚥性肺炎(ごえん:異物を誤って飲み込むこと)などの全身疾患の予防、全身の健康状態の維持・向上にもつながります。

口腔ケアと全身の健康

 口腔内細菌と内科疾患との関連性、咀嚼の機能と老化・認知症との関連性など、口腔環境が高齢者の全身の健康と密接に関連していることが、近年明らかになってきました。

 細菌の塊である歯垢は、ムシ歯や歯周病の直接的な危険因子であると同時に、全身疾患を引き起こす菌の温床としての役割を果たす可能性が高いのです。口の中の細菌が関与すると考えられる代表的な全身疾患としては、

  • 感染性心内膜炎、敗血症
  • 虚血性心疾患
  • 誤嚥性肺炎

などがあげられます。

 要介護高齢者は、健康な人にとっては病原体とはいえないような細菌によって、日和見感染症、感染性心内膜炎や誤嚥性肺炎に陥ることがありますが、口腔ケアを行えばこれらの疾患を予防できることが分かってきました。

 つまり口腔ケアは、単に歯や歯ぐきのためだけではなく、生活援助に加えて全身疾患の予防など、生命の維持・増進に直結したケアでもあるのです。

※ 日和見感染症(ひよりみかんせんしょう):
日和見感染症(ひよりみかんせんしょう)とは、抵抗力が弱かったため、普通は病原性を示さない菌による感染症のこと。

口の状況からみた口腔ケアの必要性

 口の中は常に37度前後に保たれ、唾液という水分があり、定期的に食物が通過するので、細菌が増えやすい環境になっています。

 要介護高齢者は、口の中や義歯を自分で清掃することが難しくなるので、口の中には図2や図3のように細菌が多く棲息することになります。しかも高齢になると口腔内自浄作用は低下し、口の中を清潔に保つことはさらに難しくなっています。

 口の中の細菌が誤嚥されると、誤嚥性肺炎など高齢者にとって致死的な感染症が引き起こされやすくなります。この予防策としては、「誤嚥を生じにくくする」ことも大切ですが、たとえ誤嚥しても誤嚥性肺炎に移行しないように、口の中の細菌を取り除いて清潔にしておく、つまり口腔ケアを行うことが重要です。

図2:口腔ケア前後の口腔内の様子を示す写真。口腔ケア前は口腔内の歯肉周辺に汚れが溜まっており細菌が増えやすい環境を表す
図2:口腔ケア前後の口腔内の様子
図3:要介護高齢者によく見られる義歯の汚れを示す写真。義歯が汚れていることで最近が増えやすい環境であることを表す
図3:要介護高齢者によく見られる義歯の汚れ

口腔ケアの効果

 まとめると口腔ケアには以下のような効果があります。

  • 口腔感染症の予防
  • 口腔機能の維持、回復
  • 全身感染症の予防
  • 全身状態やQOLの向上
  • コミュニケーション機能の回復
  • 社会経済効果

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