健康長寿ネット

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第2回 小麦と砂糖を絶つと健康になる

白澤 卓二

白澤抗加齢医学研究所所長


小麦の品種破壊と中毒性

 最近、仕事で米国を訪れる機会が多くなった。日本でも肥満症が増えてきたと報告されているが、米国の街中でみかける米国人の肥満ぶりは中途半端ではない。米国社会が肥満という疫病で病んでいるという印象を受けるのは私だけではないだろう。確かに日本でも肥満症が増えてきたが、日本で米国人のような極端な肥満症をみるのは稀である。それでは、米国と日本の肥満症の根本的な相違点は何なのだろうか。

 米国ウィスコンシン州のミルウォーキーで予防循環器科の医師として活動するウイリアム・デーヴィス博士は、自らの体験から「全粒粉の小麦」にその原因があることに気づく。「小麦を断つことが健康で長生きをするための基本条件」と、著書『小麦腹小麦を断てば健康になる』の中で主張する。

 「全粒粉の小麦」といえば、健康的な炭水化物の代表であるはずだ。パンを選ぶなら全粒粉のパンやライ麦パン、シリアルを選ぶなら全粒粉のシリアルを選ぶように教科書や健康本に書かれている。これを仮に日本のお米に置き換えれば、全粒粉が玄米で精製小麦粉が白米という関係。博士の主張は日本で「玄米が諸悪の根源だ」と主張するのに近いものがある。私も『「砂糖」をやめれば10歳若返る!』(ベスト新書)という本を出版して多くの反響を呼んだが、博士の主張が米国社会に与える影響はそれをはるかに超えるものだろうと想像する。

 そもそも砂糖に中毒性があり麻薬のような作用があるのは、精製というプロセスが重要。天然食材にはどんなに甘みがあってもこれまでの長い食経験の中で中毒のような社会現象が観察されてこなかった。リンゴは確かに甘いが、これまで「リンゴ中毒」という報告はない。麻薬物質の代表である「コカイン」ですら、その原料であるコカの葉には中毒性はないのだ。しかし、今回の話は全粒粉の小麦であって、精製の過程である特定の中毒性物質の濃度が濃くなったという話ではない。

 それでは小麦という品種に何が起きたのであろうか。答えは「品種改良」。もし仮に、品種改良をしてその結果として病気をつくる品種になったとすれば、これは「品種改良」ではなく「品種破壊」であったという解釈になる。

 実際、米国では1960年代に食べていた小麦品種は今では市場に存在しない。現在、生産されている小麦品種は交配に交配を重ね、異種交配し、さらに遺伝子移入が重ねられた結果、獲得された品種で古来品種とは似て非なる新品種。つまり、新品種は中毒性があり、肥満症やメタボリック症候群を発症する新品種に進化したと博士は主張する。

 その1つの証拠が小麦に含まれるグルテンというタンパク質。このタンパク質にアレルギーを示し、小腸粘膜上皮に炎症が起きてしまう「セリアック病」の患者数が米国で急上昇している。驚くべきことに最近の報告では米国人の100人に1人がセリアック病を発症し、この頻度はこの20年くらいで急速的に増加しているという。

 最後に博士は小麦を断つ決断について、次のように述べている。「小麦という不誠実で暴力的なパートナーとの"離婚"に際して、私のアドバイスは、情けをかけるな、きっぱり決別する以外に道はない」

 博士が勧める方法は「小麦切除術」、つまりすぐに完全にやめること。親切なことに博士の著書の末巻に小麦フリーのレシピ集がついているので、小麦中毒の自覚がある人は自分が小麦中毒だと気がついたその日から実践できる(翻訳本は日本文芸社刊)。

砂糖と糖尿病の悩ましい関係

 糖尿病の歴史は古くは17世紀に英国医師トーマス・ウィリスによってその存在を記載されたことに端を発する。ウィリス医師は当時奇病とされていた多尿症を研究する過程で尿の成分を何としても知りたいと考え、患者の尿を舐めてみたところ甘かったことが糖尿病の発見につながったといわれている。

 実際、糖尿病を発症すると血液中のブドウ糖の濃度が上昇し、尿に大量の糖が排出されるので尿量が増えるとともに尿の糖分が増え、尿が甘くなる。一般に糖尿病を発症する前は体重が増える傾向にあるが、病気が進行するのに伴って、体の細胞は糖を取り込むことができなくなる。その結果、血糖が上昇し多量の糖が尿に排出されるようになるので、糖尿病の末期になると食べた栄養を吸収できずに、最後は体がガリガリにやつれてしまうのはこのためだ。

 糖尿病はこれまでにも、食べ過ぎが原因で発症することが知られていた。特に甘い物を食べたときには血糖が上昇しやすいので、糖尿病の患者さんには甘い物を控えるように医師は外来で指導している。しかし、糖尿病の発症に食事の摂取カロリーが関係しているのか、炭水化物が悪いのか、それとも炭水化物の中でも砂糖の摂取が糖尿病を発症させているのか、発症要因に関する大規模で本格的な研究調査はこれまでに報告がなかった。

 スタンフォード大学医学部疫学研究センターのサンジェイ・バス博士は、175か国で実施された砂糖の消費量と糖尿病の発症率に関するこれまでの調査研究論文を包括的にレビューして次のような結論に到達した。つまり、1日量にして砂糖の消費が150Kcal増えるごとに、2型糖尿病の発症率が1.1%増えることを明らかとし、砂糖の摂取が糖尿病の発症原因であると主張したのだ。

 これまでにも、肥満や摂取カロリーの増加が糖尿病の発症に関与すると報告した論文はあったが、はたして肥満の人が砂糖の摂取量が多いためなのか、あるいは砂糖の増加に伴うカロリーの増加が糖尿病の発症に関与しているか、砂糖と糖尿病の関係は必ずしも明瞭ではなかった。

 バス博士はこれらの可能性に関して明瞭な結論を導くために体重や摂取カロリーなどの諸因子を調整した結果、体重や肥満あるいは摂取カロリーではなく、砂糖の摂取量が単独で糖尿病の発症に関与している因子であることを明らかとした。

 バス博士らはさらに、野菜やナッツなどの食物繊維が豊富で炭水化物の含有量が少ない食材を摂取していれば、砂糖の摂取量が多くても糖尿病の発症が抑えられるのではないかと考え、野菜やナッツの摂取のある人とない人の間で砂糖と糖尿病の発症率との関係を検討した。

 その結果、野菜やナッツを摂っても砂糖の消費量を下げなければ、糖尿病の発症を抑えることができないことを明らかとした。興味深いことに、果物は相応の糖質を含むが、精製されていない砂糖とは違い糖尿病の発症に結びつかないようだ。

 バス博士はこの理由について、「砂糖の問題点は精製された点であり、摂取された糖質の量の問題ではない」と考察。もし、糖質の摂取量が糖尿病の発症の原因になっているとすれば、果物の食べ過ぎで糖尿病が発症するだろう。しかし、果物には糖質以外に食物繊維やミネラル成分や細胞のアンチエイジングに有効なフィトケミカルが豊富に含まれている。これらの糖質外成分が糖尿病の発症を抑えているのではないかと考察する。

 自然の甘みに戻れば、糖尿病を心配せずに糖質を楽しむことができそうだ。

筆者

写真:白澤卓二氏
白澤 卓二(しらさわ たくじ)
白澤抗加齢医学研究所所長
1958年生まれ。1990年、千葉大大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。東京都老人総合研究所を経て、2007年~15年、順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。米国ミシガン大学医学部神経学客員教授、獨協医科大学医学部生理学(生体情報)講座特任教授、白澤抗加齢医学研究所所長。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学、アルツハイマー病の分子生物学、アスリートの遺伝子研究。

著書

『腸を元気にしたいなら発酵食を食べなさい』『100歳までボケない101の方法』など200冊を超える。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.82

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.82(新しいウィンドウが開きます)

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