第2回 入居者、職員、地域住民
公開日:2026年7月13日 09時00分
更新日:2026年7月13日 09時00分
こちらの記事は下記より転載しました。
山崎 亮
studio-L代表、関西学院大学建築学部教授
先月は海外出張が続いた。前半の2週間はオーストラリアのメルボルン。帰国して数日後にはオランダの三都市(アムステルダム、ロッテルダム、ユトレヒト)とオーストリアのウィーンを巡った。優雅な生活を気取っているわけでも、忙しさを自慢したいわけでもない。オーストラリアと日本、ヨーロッパと日本を往復するたびに、10時間を超えるフライトを経験して泣きたい気分になったという話である。
あの長時間フライトは苦痛である。指定された座席に座り、機内食を食べて、映画を観て、寝て、起きたらまた映画を観て、もう一度寝ようと思うのだが眠れない。しかたがないから映画を観ようと思うが、すでに4時間以上も映画を観ているので画面を直視するのがつらい。目を閉じるけれど眠れない。そんな時間が延々と続く。少し機内を歩いて、ストレッチでもして、また席に戻るが眠れない。暗い機内で、天を仰いで、大きくため息をつく。これを1か月に4回も経験したのである。優雅からも自慢からも程遠い時間だった。
帰国して本稿を起草するにあたって、介護施設の入居者もこれに近い状態なのではないかと考えてぞっとした。1日8時間を睡眠に充てるとすると、残り16時間の大半は椅子に座って過ごさねばならない。座っていると食事が提供され、それを食べて、テレビを観て、座ったまま眠り、起きたらまたテレビを観て、もう一度寝ようと思うのだが眠れない。少し施設を出て歩こうものなら徘徊と言われて席に戻される。当然、夜は眠れないのだけれども、徘徊と言われたくないので施設内を歩き回るわけにもいかない。暗い部屋で、天を仰いで、大きくため息をつく。しかも、これはフライトではない。月に4回ではなく、毎日続くのである。自分の老後が心配になる。
だから、お願いしたい。入居型の介護施設で、長時間フライトのように座らせ続けないでほしい。だからといって「どうぞ、動き回ってもいいですよ」と言われても困る。やりたいことがないのに動き回るわけにはいかないからだ。私が高齢になったら、急に童謡が歌いたくなったり、ラジオ体操が好きになったりするとは思えない。長時間座り続けたくないとはいえ、興味がないことを延々とやらされたくもない。単純なことである。自分がやりたいことを、やりたい人と、やりたいのだ。
「入居者はそれぞれやりたいことが違うのです。それを全部用意しろというのですか」という反論があるかもしれない。「一緒にやりたい人を探してこいというのですか。介護職員はただでさえ忙しいんですよ」という嘆きが聞こえてきそうだ。もちろんそうではない。地域とつながるのである。地域の人たちが施設内に入ってくることと、入居者が地域に出ていくこと。このふたつが実現できれば、「やりたいことを、やりたい人と、やることができる」可能性が一気に広がる。まるで着陸した飛行機の扉が開いたときのような清々しさがある。
以下に、取り組みやすそうな順に具体例を並べてみよう。
- パートやアルバイトの仕事を、なるべく短時間のシフトにして多様な人に関わってもらう。多様な人に仕事内容を教えなければならないから効率が悪いと思われるかもしれないが、入居者が「あの人となら洗濯物をたたみたい」、「この人となら料理を作りたい」と思える相手を見つける可能性を高めるのだから、長い目で見れば効果的だといえる。
- 地域の人たちも利用できるカフェやレストランをつくる。入居者は、カフェやレストランを訪れる地域住民の姿を眺めているだけでもいい。話の内容を聞いているだけでもいい。常連客となら会話することもできるだろう。親しくなれば、互いの相談にのってあげることもできるかもしれない。もちろん、入居者の家族も施設を訪れやすくなるだろう。
- 地域住民が活動できる多目的空間を用意する。無料で使ってもらえる代わりに、希望する入居者がいれば一緒に活動してもらえるようにする。さまざまな活動が行われるようになると、そのなかから「やりたいこと」を見つける入居者が出てくるだろう。地域住民は「活動場所」が手に入るし、入居者も「やりたい活動」が見つけられる。
- 入居者が地域に出ていって、市民活動や仕事などを手伝う機会をつくる。特に、花壇の手入れ、公園の清掃、里山の管理など、自然を相手にする活動は尽きることがない。相手も変化し続けるからだ。地域の活動のなかに「やりたいこと」を見つけることができれば、席を立って、施設を出て、歩いて、活動しようという気持ちになる。
以上のようなことが実現できれば、入居者の満足度は高まり、健康は維持されるだろう。また、施設職員は専門職としての仕事に集中できるようになるだろう。離職率も下がるかもしれない。そして地域から感謝されるだろう。地域住民の家族や友人が利用する介護施設を検討する際は、あなたの施設が最有力候補になるはずだ。
こうしたことを実現しようと思うと、地域と施設の関係を丁寧に構築する必要がある。また、施設職員の何人かをコミュニティコーディネーターとして育成する必要がある。コミュニティデザインは、こうした役割を担うことが多い。
著者

- 山崎 亮(やまざき りょう)
- studio-L代表。関西学院大学建築学部教授。1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。著書に『コミュニティデザインの源流』(太田出版)、『縮充する日本』(PHP新書)、『ケアするまちのデザイン』(医学書院)、『面識経済』(光文社)などがある。現在、これまでに携わった101のプロジェクトをまとめた『前例集』の出版準備中。
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