第2回 恐竜のまちでへき地医になった私
公開日:2026年7月13日 09時00分
更新日:2026年7月13日 09時00分
こちらの記事は下記より転載しました。
香山 リカ
むかわ町国民健康保険穂別診療所 副所長
北海道むかわ町穂別でへき地医療に取り組み始め、もう5年目となった。今年の春は格別だ。念願の「穂別恐竜博物館」がオープンしたのだ。
いまだに初対面の相手には、「なぜむかわ町穂別に行ったの?」と尋ねられる。説明が長くなるのを避けるために、「へき地の医療機関の全国の公募を探したが、医師ひとりではなくベテラン医とふたり体制のところ、私の年齢でも採用してくれるところはあまりなかったから」と答えることが多いが、その回答は正確ではない。
穂別を選んだ本当の理由、それはこの地がカムイサウルスという恐竜化石が発掘されたところだからだ。私は、恐竜のまちの医者になりたかったのだ。
カムイサウルスは今から7200万年前、白亜紀後期と呼ばれる時代に生息していた草食竜だ。その尾骨化石がアマチュア化石愛好家により穂別の沢で見つけられたのが2003年、それが恐竜のものだと判明し、大規模な調査が行われてほぼ全身の化石が発掘されたのは2014年のことだ。化石が多く見つかっている穂別にはすでに博物館があったが、そこは手狭で全長8メートルにも及ぶカムイサウルスの全身化石や復元骨格が展示できない。博物館リニューアルの話は、2018年の北海道胆振東部地震で保留となっていた。穂別はその地震の震源に近く、大きな被害を受けたのだ。
2021年頃、大学教員だった私は、"転職先"つまりへき地医療を実践する地を探していた。そして、求人一覧に「穂別」という名前を見つけたとき、「2019年、国立科学博物館の『恐竜博』で見たカムイサウルスのふるさとだ!」とすぐに気づいたのだ。「博物館のリニューアルが道半ば?よし、穂別でその完成を見届けよう」と決心するまで、それほどの時間はかからなかった。
従来の博物館に加えて新しくできた「恐竜館」では、実物化石は床下に展示され、観覧者はその上に敷かれたアクリル板から雄大な姿を見下ろすことができる。目を上げれば2体の復元骨格がそびえるように立っており、白亜紀の世界に迷い込んだようだ。
「え、医者なのにそこに行ったきっかけは博物館?恐竜?」とひんしゅくを買うかもしれないが、そんな感じで赴任先を決めるへき地医がいてもいいじゃないか、と胸を張っている。ぜひ多くの人たちに「恐竜のまち穂別」を訪れ、私たちが誇るカムイサウルスに会ってもらいたい。そう願っている。
著者
- 香山 リカ(かやま りか)
- 1960年北海道札幌市生まれ。東京医科大学卒業後、精神科医として臨床に携わりながら帝塚山学院大学教授、立教大学教授などを歴任。2022年より北海道のむかわ町国民健康保険穂別診療所で総合診療医としてへき地医療に取り組んでいる。執筆活動と週末の東京での精神科医としての診療も継続中。『精神科医はへき地医療で"使いもの"になるのか?〜私の転職奮闘記〜』(星和書店)、『人生を変える「新しい場所」の見つけ方』(青春出版社)など著書多数。
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