第2回 デマンド交通への期待
公開日:2025年7月18日 09時00分
更新日:2025年7月18日 09時00分
こちらの記事は下記より転載しました。
鎌田 実
東京大学名誉教授、一般財団法人日本自動車研究所所長
前回、「移動困窮社会」にならないために、バスとタクシーの中間に位置するような乗合のデマンド交通の展開が有力な解であろうと述べた。今回、もう少しその点を深掘りしていく。
日本の地域を大まかに分けると、大都市中心部、大都市郊外部、地方都市、過疎地域といった形に整理できる。大都市中心部では、それなりに公共交通が整備されているが、数百m歩かないと駅やバス停にたどり着かないケースは少なくない。タクシーは初乗りは安いが一人で数km使うとそれなりの費用がかかるし、アプリで呼べば迎車料金を取られるので、乗合のデマンド交通の出番は十分ある。
大都市郊外部では、昔は団地輸送などでバス便が多くあったが、通勤通学者数の減少で減便が続き、ニュータウンがオールドタウンになってしまい、マイカーがないと移動が困難な状況になってきている。駅方向だけでなく、郊外型の大規模店舗へのトリップも期待されるので、乗合のデマンド交通の活用が期待される。
地方都市では、マイカー中心の社会になっていて公共交通はもともと貧弱である。バスのルートに近い居住者はいいが、遠いところに住んでいると移動の足がなく、タクシーの日常利用は費用が膨大になり現実的ではない。そんな中で区域運行である乗合のデマンド交通への期待は強い。
過疎地域ではもともと人口が少なく公共交通が行き渡らないところも多い。そこにおいて区域運行の乗合のデマンド交通を運行しても、個別輸送になりがちとなり、タクシー並みの利便性をバス並みの運賃で提供することになり、公的財源の投入が必須となるが、それなりの利用数を確保しているところでは、1人当たりの補助金額を以前に比べて半減できている事例もあり、モビリティ確保による間接的な効果(医療費低減や街の経済効果)などを考えると、意義あるサービスといえる。
このように、地域特性により運行・利用の形態は様々であるが、モビリティサービスの充実によりマイカーからの転換がはかれれば、事故や渋滞の懸念から解放され、出先でゆったり飲酒なども可能になり、これまでと異なる生活を実現できうると考えられる。もちろん、人口密度など地域特性により乗合率は様々であり、事業採算性も大都市以外では厳しいかもしれないが、公的財源をそれなりに投入しても、人々が集う場所ができて、賑わいを創出できれば、個人としても地域としてもいいことといえるのではないかと考えており、最近普及が進む乗合のデマンド交通の一層の拡充を期待している。
著者
- 鎌田 実(かまた みのる)
- 1987年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。東京大学工学部講師、助教授を経て、2002年東京大学大学院工学系研究科教授、2009年東京大学高齢社会総合研究機構機構長・教授、2013年東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。2020年より一般財団法人日本自動車研究所所長。専門は車両工学、人間工学、ジェロントロジー。
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