第3回 自動運転の現在地
公開日:2025年10月27日 15時21分
更新日:2025年10月27日 15時22分
こちらの記事は下記より転載しました。
鎌田 実
東京大学名誉教授、一般財団法人日本自動車研究所所長
最近のモビリティの世界では、自動運転に対する期待が強くある。バスもタクシーもドライバー不足に喘いでおり、無人で動くロボタクシーが米国・中国で実用化されていることから、日本での導入が求められている。国では、自動運転サービスを2025年に全国50か所、2027年には100か所以上の社会実装を目指すという目標が立てられ、技術開発や実証実験がなされている。2024年度には国交省の補助金で99か所の実証実験が実施された。
自動運転の実現には、技術的な対応はもちろんのこと、事故への責任体制などの制度整備、導入コストが妥当であること、それから社会の受容性が重要である。技術の面では、シンプルな環境で自動で動かすことは比較的容易であるが、混在環境において他の車や歩行者などの動きを予測して軌道生成や加減速を決めることは難しく、年々進歩を重ねてきているものの、まだ完璧にできるとは言い難い。また、センサーなどの異常時に、それを検出して安全に停止するとか、冗長性を確保することが道路運送車両法の保安基準で求められているが、それを十分にクリアできる車両がまだまだ少ないのが現状である。なお、実証実験で、レベル3とかレベル4とかを名乗っているものがあるが、ほぼすべて認可されたものではなく、レベル2での運行となっている。マスコミはその辺の事情を詳しく知らずに記事を書いているものが多い。
自動運転システムが引き起こす事故について、メーカーの責任なのか、認可をした国の責任なのか、責任は問えずに保険で対処すべきなのか、その辺がまだはっきりしないところがある。製造物責任を厳しく問うと、ものをつくって提供する企業がいなくなってしまうだろうし、どこまできっちり審査できるかについても完璧というのは無理であり、ベストエフォートで対応すればいいという仕組みにしなければ、なかなか普及がおぼつかない。実際、人が運転するより事故率が減るのであれば、完璧を求めずに広く普及させた方がいいと主張する識者もいる。
自動運転にはものすごく費用がかかる。そのためマイカーでは運転支援にとどまり、自動運転はサービスカーから普及が始まるといわれている。そこでもリーズナブルなコストになっていかないと事業性が成立しない。
さらに社会が自動運転という新しいものを正しく理解して受容していくことも必要である。そんなこんなを考えると、完全自動運転は国の目標どおりには進みにくく、もう少し時間がかかるような印象を筆者は持っており、ドライバー不足がますます加速する中で、うまく間に合っていくことを望みたい。
著者
- 鎌田 実(かまた みのる)
- 1987年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。東京大学工学部講師、助教授を経て、2002年東京大学大学院工学系研究科教授、2009年東京大学高齢社会総合研究機構機構長・教授、2013年東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。2020年より一般財団法人日本自動車研究所所長。専門は車両工学、人間工学、ジェロントロジー。
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