健康長寿ネット

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最新研究情報(機関誌Aging&Health No.71 2014秋号より)

公開日:2016年8月26日 09時00分
更新日:2019年2月 1日 22時20分

国内外で発表された長寿科学等の研究に関する新しい発表や開発を紹介します。

コンピュータゲームによる脳機能評価

 これまでにコンピュータゲームが脳の賦活に有効であることが論じられている。ここでは在宅で認知機能低下の早期発見を試みるものである。高齢者が自宅でコンピュータによる認知テストを定期的かつ頻繁に行うトレイルメイキングテスト(TMT)を模倣した点つなぎテストを考案し、想起、探索、運動制御の3段階について単に達成時間ではなく数学モデルを構築し、認知の低下を定量化した(Hagler S et al. IEEE J Biomedical and Health Informatics.18,1442-1452, 2014)。

αシヌクレイン免疫療法がレビー小体病モデルの病態を改善

 パーキンソン病や一部の認知症の脳においてレビー小体を形成するαシヌクレイン蛋白質は、神経細胞間を伝播することで病巣が広がる可能性が注目されている。

 今回、αシヌクレインの蓄積・伝播を示す培養神経細胞およびマウス個体に抗αシヌクレイン抗体を投与すると、レビー小体様病変の形成と細胞死が抑えられることが報告された。この免疫療法が花開くかどうか、今後の解析が待たれる(Tran HT et al. Cell Rep. 7.2054 -2065, 2014)。

パーキンソン病発症の新規メカニズム:WASH複合体の関与

 VPS35は成年発症型の家族性パーキンソン病の新たな病因遺伝子産物であり、WASH複合体と相互作用して一部の細胞内輸送経路を制御する。

 今回、パーキンソン病に連鎖するVPS35の変異によってWASH複合体との結合が阻害され、蛋白質分解機構に重要なATG9Aの細胞内輸送に異常を来たすことがわかった。WASH複合体の疾患発症における関与が注目される(Zavodszky E et al. Nat Commun. 5.3828, 2014)。

「若き血潮」は老いを防ぐ効果がある

 パラビオーゼという手法がある。2つの身体の一部を融合し、体液、特に血液の循環を図る。たとえば老若マウスで試みると、老齢動物の体内に若い動物の血が巡ることになる。対照は老老融合とすればよい。

 結果、若いマウスと融合した老化マウスでは脳の海馬ニューロンのスパイン形態がより高密度となり、シナプス関連の遺伝子発現も増強された。学習記憶の基礎となる長期増強(LTP)も増大し、生化学的にはニューロンを活性化するCREBの発現が強化された。実験の一部は若いマウスの血清を老化マウスへ導入して検討した。若い動物の血液は老化を防ぐ効果があると結論している。

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究だが、同様の研究が最近ハーバード大学からも出ている。その結果では成体脳での神経再生も増加していた。「若き血潮」の何が効いているのか、それが重要になる(Villeda SA et al. Nature Med. 20, 659-663, 2014;Katsimpardi L et al. Science 344, 630 -634, 2014)。

2型糖尿病では骨強度が低下しているため骨折頻度が高い

 2型糖尿病では骨密度から想定される以上に脆弱性骨折の頻度が高い。本研究では60名の閉経後骨粗鬆症患者(30名は罹病期間10年以上の2型糖尿病、残りは年齢が同等の非糖尿病)の脛骨の骨強度(bone material strength: BMS)を生体内マイクロ・インデント法で直接侵襲的に計測した。

 その結果、糖尿病では有意にBMSが低値(−11.7%; p <0.001)を示し、これはBMIや各種合併症の有無で補正しても同様であった(Farr JN et al. J BoneMiner Res. 29. 787-795, 2014)。

80歳以上のインスリン使用者では低血糖が倍増する

 インスリン使用者における救急部門に搬送が必要であった低血糖の頻度に及ぼす年齢の影響について検討した。全米の有害事象に関する公衆衛生サーべイランスに登録された8,100例の低血糖症例数から、またインスリン使用例数は全米健康インタビュー調査から推計した。

 その結果、80歳以上の救急部門に搬送が必要であった低血糖の頻度は34.9%(95% CI : 20.5−49.3%)と他の年齢層(18歳未満、18−44歳、45−64歳、65−79歳)の頻度( それぞれ、13.7%、24.3%、13.7%、16.3%)と比較し倍増した。低血糖の1/3は入院し、60%は後遺症が残った。また、低血糖の原因は食事摂取量の減少と、インスリン量あるいは製剤の過誤であった。

 以上より、80歳以上の高齢者でのインスリン使用は慎重であるべきと考えられた(Geller AI et al. JAMA InternMed. Published online March 10, 2014)。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.71

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