健康長寿ネット

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老いにみる男女の違い

公開日:2019年4月15日 13:00
更新日:2019年4月22日 15:17

袖井 孝子(そでい たかこ)

お茶の水女子大学名誉教授


はじめに

 老いの捉え方やプロセスは一様ではない。時代や社会によって異なるだけでなく、同じ時代、同じ社会であっても、階層や地域、そして性別によっても違っている。老いの受け止め方やプロセスにみられる男女差には、生物学的要因が働いていることは否定できない。男性ホルモンや女性ホルモンが心身の健康状態に与える影響についてはよく知られているし、そうした差異が疾病や死亡の原因に反映していることは確かだ。

 しかし、現代日本の高齢期にみられる男女の差異は生物学的な性別よりも、社会的文化的な性別(ジェンダー)によって形づくられている面が強い。つまり「男は仕事、女は家事育児、そして介護」という性別役割分業体制が生み出したものといってよいだろう。働きすぎの男性は仕事のストレスから病気になったり、自殺に追い込まれるが、男性に比べてストレスの少ない生活を送る女性には命長らえる確率が高まる。

 近年、男女の差がかなり接近している分野もあるが、どのように老い、どのように老いを受け止めるかには、今なお男と女で違いがある。容色の衰えを気にするのは、どちらかといえば女性であるし、体力や気力が衰えて仕事に支障を来たすようになることを嘆くのは男性だ。これは「男は仕事、女は家事育児、そして介護」といった性別役割分業や「女は見かけで評価され、男は仕事のでき栄えで評価される」といった社会的評価の基準の差異による。

 ここでは、老いにみる男女の違いに注目して、その要因を探ることにしたい。

女はなぜ長生きなのか

1. 長寿化する女性

 世界中どの国をみても、女性は男性よりも長生きである。UN, World Population Prospects:The 2017 Revisionによって平均寿命の男女差をみると、先進地域で7、8年、発展途上地域で3、4年、女性が男性を上回る。わが国では、戦前は男女とも平均寿命が50歳を超えることはなく、女性が男性を1、2歳上回る程度であった。戦後は男女とも急速に寿命が延びたが、とりわけ女性の延びが著しく、その差は年々拡大し、1947年には3.9年、60年には4.87年、70年には5.53年、1980年には5.41年、1990年には5.98年、2000年には6.88年である。男女の平均寿命差は2005年の6.96年をピークに以後は接近しており、2016年には6.16年となっている(厚生労働省「簡易生命表」)。

 戦後、寿命が急速に延びたのは、衛生状態や栄養状態が改善されたことに加えて、1961年に国民皆保険制度が確立して医療への接近が容易になったからである。日本が貧しかった時代には、医者にかかることのできない人びとがめずらしくはなかった。戦後、女性の寿命が著しく延びた理由としては、出産による死亡が少なくなったことがあげられる。

 日本人の寿命は今や世界のトップレベルに達している。「人生80年時代」と言われたのは、つい昨日のことのように思われるが、今や「人生100年時代」とまで言われるようになった。100歳以上人口は1970年にはわずか310人、うち女性は80%であったが、2017年には67,824人に達し、その87.9%が女性である1)

2. 生物学的に女性は強い?

 なぜ男に比べて女は長生きなのか。その理由として、先天的ないし生物学的要因と、後天的ないし社会文化的要因があげられる。アメリカの著名な老年学者であるロバート・バトラー博士は、女性が長生きである理由の4割が先天的で、6割が後天的と語っていたが、統計的に検証されているわけではない。

 どの年齢層をとっても、死亡率も自殺率も男性が女性を上回る。がん(悪性新生物)による死亡率についてみると、男性しか発症しない前立腺がんや精巣がん、もっぱら女性にみられる乳がんや子宮がんをのぞいて主要な部位別にみた死亡率をみると、圧倒的に男性が女性を上回り、その差は2倍以上である(表)。こうした男女の差について、若原正己は、がんにかかる率は男女とも同じ程度だが、女性のほうががんになりかかった細胞を取り除く免疫力が強いからと説明している2)

表:悪性新生物の主な部位別にみた死亡率(人口10万対)
1965年1975年1985年1995年2005年2015年2016年
59.4 55.6 51.1 52.6 53 50.5 49
10.4 12.2 23.3 37.4 37.7 31.1 30.4
11.2 19.6 35.3 54.8 73.3 87.2 86.1
大腸 6.8 10.6 17.1 28.4 35.9 43.9 44.4
35.5 34.4 30.6 28.5 27.4 24.7 24.4
7 6.5 8.5 14.1 17.1 15.4 15.6
4.6 7.2 12.7 19.5 26.1 32.9 33.4
大腸 6.7 10 14.6 22 28.9 35.6 35.9

注:大腸の悪性新生物は、結腸の悪性新生物と直腸S状結腸移行部および直腸の悪性新生物を示す

資料:厚生労働省「平成28年人口動態統計」月報年計(概数)

3.社会文化的要因が男性を短命にする

 人間だけでなく、他の生物についても、雌は雄よりも長生きである。これは子孫を残し、種を存続させるための自然の摂理といってよいだろう。しかし、人間の男女の寿命にかくも大きな開きがあるのは、後天的ないし社会文化的要因によるところが大きい。

 現在のところ完全に男女平等を達成した国は存在しないが、先進国の中で日本は男女格差が著しく、世界経済フォーラムが毎年発表するジェンダーギャップ指数において日本は100位以下であり、先進諸国中では最下位である。その最大の理由は、政治経済の分野において指導的地位を占める女性の比率が圧倒的に低いからである。女性は重要な意思決定をするようなポストに就かせてもらえないおかげで仕事のストレスや重圧から自由である。逆に男性はそうしたポストを独占し、女性に渡すまいとする結果、自ら命を縮めているといっていいだろう。

 現代の病の大部分がストレスによると言われているが、仕事のストレスから心身の健康を損ねるのは圧倒的に男性だ。仕事が忙しいために人間ドックに行く時間が取れない、体調不良なのに医者にかかる暇がなく、やっとかかった時には、かなり重症という働き盛りの男性も少なくない。

 ひと頃、中高年男性の自殺が問題になったが、その多くは仕事がらみである。倒産した自営業主、リストラにあったサラリーマン、中には昇進した結果、仕事の責任が増えて鬱状態に陥り自殺するというケースもある。上司の不祥事の責任を取らされて、自殺に追い込まれるというのも日本の官僚機構や企業組織の特徴といえよう。しかし、仕事の責任を負って女性が自殺をするという例は聞いたことがない。

 交通事故や労働災害に遭って命を失うのも、男性に多い。これは、男性のほうが長距離運転や建設作業といった危険な仕事に就く確率が高いからである。仕事を離れても、男性は危険なスポーツやレジャーに挑戦する。登山で遭難したり、波にさらわれたり、カーレースで命を失うのも、圧倒的に男性だ。

 生活習慣にみる男女差も、男性の命を短くする。仕事のストレスから酒やたばこの量が増え、外食が多いために塩分や脂肪分を摂取しすぎて高血圧やメタボになったり、アルコールの量が増えて胃や肝臓に障害を来たす。

 栄養学者の中村丁次は、女性が長生きである理由として、女性が自分で買い物し、調理し、お喋りをしながら食べることをあげ、長生きをするためには食生活を女性化することを勧めている3)

4.平均寿命と健康寿命

 日本は世界でもトップレベルの長寿国である。しかし、引き延ばされた人生が、心身ともに健康でなければ、決してQOL(生活の質)が高いとは言いがたい。そこで最近では、身体的にどれだけ自立しているかを測る健康寿命が注目されるようになった。

 健康寿命とは、他者の助けを借りることなく、日常生活を営める期間であり、ADL(入浴、着替え、食事などの日常生活動作)やIADL(買い物、料理、金銭管理などの手段的日常生活動作)によって測定する。図にみられるように、平均寿命では女性が男性を大幅に上回るが、健康寿命の男女差は少ない。2016年についてみると、平均寿命と健康寿命の差は、男性では8.84年であるのに対して、女性では12.35年。女性は、引き延ばされた人生の最終段階を要介護の状態で過ごす期間が長いということになる。

図:2001年から2016年までの平均寿命と健康寿命の推移を表す図。健康寿命の男女差は少ないが、平均寿命では女性が男性を大幅に上回ることを示す。
図:平均寿命と健康寿命の推移

資料:平均寿命:2001、2004、2007、2013、2016年は厚生労働省「簡易生命表」、2010年は厚生労働省「完全生命表」

健康寿命:2001、2004、2007、2010年は厚生労働科学研究費補助金「健康寿命における将来予測と生活病対策の費用対効果に関する研究」、2013年、2016年は「第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料」

出典:平成30年版高齢社会白書より筆者作成

 100歳以上の長寿者には、たしかに女性が圧倒的に多いが、その多くは自立した生活を営むことが困難な状況にある。要介護状態になった主な原因についてみると、男性が女性を上回るのは脳血管疾患(男性26.3%、女性12.6%)、女性が男性を上回るのは骨折・転倒(女性15.4%、男性6.0%)である(厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」)。女性の場合、閉経後は骨密度が低下して、骨折しやすくなる。食生活の改善や運動不足を解消して、骨折・転倒を防ぐことが、女性の要介護期間を短縮することにつながる。これまでは、いかに長生きするかが課題であったが、これからはいかに健康で長生きするか、すなわち、いかにして健康寿命を延ばすかが大きな課題である。

老いの受け止め方

1. 個人は老いをどう受け止めるのか

 老いをどのように受け止めるのかには、男と女で違っている。「もう年だから」とか、体力や気力の衰えを自覚し、「自分は若くはない。年寄りだ」と認知することを老年自覚(age identification)ないし老性自覚と呼ぶ。男性に比べて長生きであるにもかかわらず、女性は男性よりも早い年齢で老いを自覚する。それは、女性が男性よりも鏡を見る機会が多いからではなかろうか。男性の多くは、お腹が出て、しわやしみができ、髪の毛が薄くなっても老いを自覚することが少ないような気がする。ところが女性の場合には、鏡を見るたびに、しわやしみ、白髪などに嫌でも気づかされる。洋服を買う度に、試着室の鏡の前でためつすがめつ自身の体型の変化をチェックするのは、もっぱら女性だ。

 もう1つ、性別役割分業社会では、女性には弱音をはくことが許される。庇護されるべき性と位置づけられている女性は、年齢を理由にして責任のがれをすることが少なくない。それに対して、男性には弱音をはくことが許されない。とりわけ職場において心身の不調を訴えることは、ただちに降格や責任のないポストへの左遷につながる。弱音をはけない男性は、医療機関にかかることが遅れ、気がついたときには手遅れということになりやすい。

 お茶の水女子大学21世紀COEプログラムが小田原市の中年女性(45~64歳)とその夫を対象に実施した「ミドル期の危機移行に関する調査」(2003~2004年)4)では、どのような変化を老いのきざしとして自覚しているのかを尋ねている(複数回答)。夫妻とも、7割以上があげているのは、「白髪、髪が薄くなる、髪が抜ける」と「老眼、細かい字が読めない、目が疲れやすい」である。妻が夫を大幅に上回るのは、「しわ、しみ、たるみ」(妻66.5%、夫43.6%)や「おなかがでる」(妻53.9%、夫30.5%)で、容姿へのこだわりが強いのに対して、夫は「体力が衰える、疲れやすい、徹夜できない、疲労回復に時間がかかる」(妻56.4%、夫66.7%)などそれまでの活動が続けられなくなったことへの嘆きがうかがわれる。こうした相違は、「外形によって評価される女性」すなわち「見られる性である女性」と「仕事によって評価される男性」すなわち「活動する性である男性」という社会文化的につくられた男女のイメージ差に由来する。

2. 社会は老いをどう受け止めるのか

 老いをどのように受け止めるのかは、時代により、社会により異なる。西洋と東洋では、老いの受け止め方が違っている。若さを尊重する文化を持つ西欧諸国では老いて衰えゆくことへの抵抗感が強い。それに対して、長幼の序や敬老の精神を重んずる文化を持つ東洋の国々では高齢者は比較的高い地位を保つことが可能だと言われてきた。

 もちろん、こうしたステレオタイプ的な見方が、高齢者のすべてに当てはまるわけではない。食糧の少ない地域では、集団が生き延びるために、棄老という現象がみられたことが、世界各地で報告されており、日本にも姨捨(おばすて)伝説が存在した。

 社会における高齢者の位置づけには、その社会において高齢者がどのような役割を果たしているのかによって違っている。「男は外、女は内」あるいは「男は支配し、女はそれに従属する」という性別分業は、ほぼどの社会にもみられた現象であり、女性の社会的な地位の低さが、高齢女性に対する否定的なイメージに反映している。ひろたまさきは、近代以前の老人イメージには、老爺よりも老婆にマイナス・イメージが強いように思われると指摘している5)。日本の昔話では舌きり雀の意地悪ばあさんがよく知られているし、老女が鬼に化けるという話も伝わっている。

 男性の厄年は25、42、61歳だが、女性の厄年は19、33歳。女性は男性に比べて、早い年齢で人生の盛りを過ぎるとみなされてきた。また、生殖年齢に注目して人生を区切る見方もあった。女性は7の倍数で区切られ、14歳で月経が始まり、28歳でピークに達し、35歳で老化が目立ち始め、49歳で閉経する。これに対して男性の場合は8の倍数で区切られ、16歳で精通し、32歳でピークに達し、40歳で老化が目立ち始め、64歳で精が尽きるとされている6)。つまり男性はかなり高齢になっても子どもをつくることができるが、女性にはその能力が欠けており、より早い時期から老境に入るとみなされてきた。

 高齢者のイメージにおける西洋と東洋の差異は、近年少なくなってきている。高齢人口の増加に伴い、高齢になっても活躍し続ける人が増加した結果、西洋においても高齢者に対する肯定的なイメージが広まっている。他方、東洋においても、技術革新が進み、ICTAIが普及するにつれて、そうした新しい技術についていかれない高齢者を軽視ないし無視する傾向がみられるようになった。洋の東西を問わず、高齢者の地位は、かなり曖昧なものになってきている。

 女性についてはどうだろうか。「見られる性」「容姿によって評価される性」である女性は、高齢になればお役目ごめんとして、陰に追いやられるのが普通だった。映画やテレビにおいてヒロインは常に若い女性であり、時たま登場する高齢女性は祖母か使用人くらいであった。コマーシャルの主役はせいぜい30歳くらいまでの女性であり、高齢の男女はお呼びでないという状況が長く続いてきた。

 こうした傾向は、若者は消費するが、高齢者は金を使わないという思い込みが前提になっていた。しかし、高齢人口が増加する一方で、若者の貧困化が進行する今日では、むしろ高齢者のほうが消費傾向が高く、必然的に高齢者を消費の対象にせざるを得なくなっている。中高年男性を対象とした育毛剤のコマーシャル、高齢女性を対象とした鬘かつらや化粧品のコマーシャル、そして介護用品のコマーシャルには高齢の男女が登場する。消費者としての高齢者が注目されることは、高齢者イメージの変化につながるだろう。

おわりに

 本稿では、もっぱら老いにみる男女の違いを取り上げてきた。しかし、社会的文化的性であるジェンダーは、必ずしも男女に限ったものではない。性的少数者であるLGBTの老いについては、現在のところほとんど手付かずである。アメリカで開催される学会や国際会議を除いては、LGBTの老後生活や老後問題が取り上げられることはほとんどない。

 異性愛者を主流とする社会において、高齢になった時に、LGBTが直面する制度上の壁にも注目しなければならない。同性愛者のパートナーが、入院時の保証人になれるのか、手術の同意書や延命治療の中止願いに署名できるのか、遺産や遺族年金は受け取れるのかなどなど、問題は山積している。老いとジェンダーの問題は、やっと研究の緒についたばかりであり、今後の課題として残された部分が少なくない。

〔付記〕本稿は、袖井孝子:女の活路 男の末路、中央法規、2008と一部重複があることをお断りしたい。

参考文献

  1. 厚生労働省:百歳長寿者に対する祝状及び記念品の贈呈について、毎年9月1日現在(2017年9月15日発表分)
  2. 若林正己:なぜ男は女より早く死ぬのか、SB新書、2013
  3. 中村丁次:女はなぜ男より長生きなのか、はまの出版、1998
  4. お茶の水女子大学21世紀COEプログラム:中年女性のライフスタイルと危機的移行─第二次パネル調査報告書─、2007
  5. ひろたまさき:女の老いと男の老い、吉川弘文館、2005
  6. 新村拓:老いと看取りの社会史、法政大学出版局、1991

筆者

筆者_袖井孝子先生
袖井 孝子(そでい たかこ)
お茶の水女子大学名誉教授
略歴:
1970年:東京都立大学大学院博士課程修了、淑徳短期大学専任講師、1972年:東京都老人総合研究所主任研究員、1975年:お茶の水女子大学助教授、1990年:同教授、2004年:同定年退職、2004年より現職、2007年より東京家政学院大学客員教授
専門分野:
老年学、家族社会学、女性学。社会学修士

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団 機関誌Aging&HealthNo.89 2019年4月発行

Aging&Health(エイジングアンドヘルス)No.89(新しいウィンドウが開きます)

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