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食・運動と健康長寿 -生きがい・幸福感との関連から-

公開日:2020年5月29日 09時00分
更新日:2020年5月29日 09時00分

児玉 小百合(こだま さゆり)
相模女子大学短期大学部食物栄養学科 准教授


はじめに

 高齢者がイキイキと暮らせる健康長寿を実現していくために、多彩な分野を対象とする「長寿科学」を発展させる意義は極めて大きい。高齢者が生活する上で発生する様々な要因を同じ土俵にのせて研究を行い、そこから蓄積された科学的な根拠をもとに、支援方法を選択していくことが、実効がある健康長寿の支援につながると考える。

 日本は世界に誇る長寿国であり、どのような要因が長寿に寄与しているのか他国が注目している。医療技術や公衆衛生が向上し、日本食がヘルシーであることに加え、日本人に特有な心のあり方や生きる姿勢に感心が寄せられているようだ。「IKIGAI -The Japanese Secret to a Long and Happy Life1)(日本語訳本:外国人が見つけた長寿ニッポン幸せの秘密 (IKIGAI)」2)という本をご存じだろうか。この本は、スペイン人の著者らが沖縄県に暮らす「100人もの長寿者に、幸せに長生きする秘訣を聞き取り調査」2)したもので、世界の多くの読者が関心を寄せたという。長寿者の秘訣として、「生きがい」を持ち前向きに生きることや、身近な人との交わりを大切にしていることなどが紹介されている。

 「生きがい」「幸福感」「ポジティブ感情」など、これまで主に心理学などの分野で取り上げられてきた精神・心理的状況が、医学分野においても研究対象にされている。高齢期の心のあり方が疾病リスクを低減し、生存のみならず健康寿命の延伸にも影響が大きいことが報告されている3,4)。一方で、食・運動については、精神・心理的状況との関連を検討した「長寿科学」研究は希少である。食・運動は健康長寿との関連も大きく、科学的な根拠をもとに効果的な要介護予防の支援方法を選択することが、喫緊の課題とされている。

 筆者らは、沖縄県の農村地域ならびに全国25府県に在住する高齢者の方々を対象に、食事や運動、精神・心理的状況、そして死亡リスクや自立度との関連を分析してきた。本稿では、高齢者の精神・心理的状況と疾病リスクや生存との関連について、海外の研究も含めて概観した上で、筆者らの研究を紹介する。

主観的ウェルビーイングと健康長寿

 医学分野の研究において、主観的な精神・心理的状況を"subjective wellbeing"(以降、主観的ウェルビーイングと記す)という概念でとらえ、死亡リスク低下3)や健康長寿4)などと関連があることが明らかにされている。田中ら5)によると、主観的ウェルビーイングとは、「個人の"心理社会生物学的な側面での"生活に対する自分自身の評価の"良好さの程度"」と定義できるという。"Wellbeing"は「幸福」という訳を使うことがあるが、"happiness"という情緒的な側面に「健康」の要素も含まれることから、訳せずに「ウェルビーイング」と表現するのが望ましいと考える。

 この主観的ウェルビーイングの評価は、共通の指標が必ずしも確立していない。これまで報告された研究を整理すると、主に3種類の評価に分類されるという3)。この分類の主要な要素は、1.生活満足感、2.幸福感、3.人生の意味・目的である(図1)。わが国の「生きがい」は、3.人生の意味・目的の分類が最も近いのではないだろうか。また、これらの要素は互いに影響しあう関係にあると推察される。例えば幸福と感じている人は、生活にも満足し、生きがいのある人生を送る傾向があるということである。

図1:主観的ウェルビーイングの評価分類を表す図。

Steptoe A, 20153)を参照し作成

図1: 主観的ウェルビーイングの評価分類

幸福感の評価

 ここでは、主観的ウェルビーイングの要素の1つである「幸福感」について考える。まず、あまり考えこまずに次の質問に答えてみてほしい。

質問
「ご自分は幸福だと思いますか」
回答
  1. とても幸福である
  2. まあまあ幸福である
  3. あまり幸福でない
  4. 幸福でない

 さて、ご自分の幸福感を評価するにあたり、どのようなことをイメージされただろうか。回答の選択肢が4つの簡便な幸福感の評価ではあるが、現在のみならず過去も対象に、健康状態や生活状況なども含め、瞬時に総合的な評価ができたのではないだろうか。

 高齢期の幸福感は、PGCモラール・スケール(The Philadelphia Geriatric Center Morale Scale6)というLowtonが開発した評価法が用いられ、生存などとの関連7)が明らかにされてきた。この評価法は17項目(改訂版)で構成されており、日本版の標準化もされている8)。設問は、年をとることへの現在の気持ちを問う内容である。例えば「あなたの人生は、年をとるにしたがって、だんだん悪くなっていくと思いますか」に対して、「そう思う」「そう思わない」の2択で回答する。しかしこの評価法が改訂されたのは1975年6)であり、高齢者の幸福に対する評価に変化が生じている可能性がある。また、人の幸福感を決定する要因は多面的であることから、複数の設問が設定されていることは理解できるが、調査研究では対象者が負担なく回答できることが重要である。

高齢者の幸福感と3年後の生存との関連

 筆者らは、先ほど皆さんに回答いただいた4段階の選択肢による「幸福感」の評価が、沖縄県農村地域在住の自立高齢者の3年後の生存を予測する可能性を報告している9)。分析の対象は、アンケート調査の回答に欠損のなかった734人とした。幸福感の他に性・年齢、高齢期に関わる様々な要素を分析に加えた。「幸福でない」と回答した者を基準の1とした場合、「とても幸福である」と回答した者の3年後の死亡リスクは0.17と低値を示した(図2)。また、「転倒・骨折がないこと」と「喫煙習慣がないこと」も、3年後の死亡リスクを低減する関連が統計学的に認められた。

図2:幸福感と3年後の死亡リスクの関連を示す図。とても幸福であると回答した者の3年後の死亡リスクは0.17であった。

児玉, 栗盛, 星, 日本公衛誌20189)より作成

図2: 幸福感と3年後の死亡リスクの関連

食と主観的ウェルビーイングの構造的な関連

 東京大学高齢社会総合研究機構 機構長・東京大学未来ビジョン研究センター教授の飯島勝矢氏によると、「健康長寿のための3つの柱」は、「栄養(食・口腔機能)」「身体活動(運動など)」「社会参加(就労、余暇活動、ボランティアなど)」の3つに集約できるという10)。では、この柱を支えているのはどのような要素だろうか。前述の沖縄県農村地域の高齢者の研究結果では、「食の多様性」は3年後の死亡リスクを低減するものの、統計学的に強い関連ではなかった。つまり「食の多様性」は、他の要素の影響を受け間接的に死亡リスクを低減している可能性が考えられた。そこで、モデル図を使用した分析を実施し、直接的な関連が強いのか間接的な関連が強いのか、構造的に見ることとした11)

 沖縄県の農村地域に住む自立した高齢者1,525人を対象に分析を実施した。分析モデル図(図3,図4)のだ円形は、複数の要素で構成された「潜在変数」である。数値は関連の大きさを示し、1を最大としている。「経済的満足感」が高いほど「生活満足感」や「主観的幸福感」、すなわち主観的ウェルビーイングが良好であり、主食・主菜・副菜・牛乳・乳製品・果物がバランス良くそろう「食の質」を間接的に良好にするとともに、「主観的健康感」に影響を及ぼす構造的な関連が示された(図3:男性の前期高齢者326人、図4:女性の後期高齢者566人)。

図3:食と主観的ウェルビーイングの構造的な関連(前期高齢者男性)を示す図。

児玉, 栗盛, 星, 他. 201611)のデータにて分析

図3: 食と主観的ウェルビーイングの構造的な関連(男性・前期高齢者)

図4:食と主観的ウェルビーイングの構造的な関連(後期高齢者助成)を示す図。

児玉, 栗盛, 星, 他. 201611)のデータにて分析

図4:食と主観的ウェルビーイングの構造的な関連(女性・後期高齢者)

 健康長寿に関連の大きい食は、経済的な満足感が主観的ウェルビーイングを良好にすることを介して、間接的に影響を受けている可能性を示唆している。例えば、家族と同居していても食事を一人で摂られている高齢者は、フレイルのリスクが高かったという研究12)があるが、これは高齢者の主観的ウェルビーイングが影響した結果ではないかと推察される。さらに、筆者らは中年期を対象とした分析も行っているが、同様の構造的な関連が得られている。特に中年男性は年齢が上昇するほどに、「楽しみ生きがいの多さ」や「親しい人の多さ」による情緒面の健康が、「食の質」に及ぼす影響が増大する関連が認められ、興味深い結果であった13)

楽しみや生きがいの対象としての運動と3年後の自立度

 筆者らは、全国25府県に在住する健康な高齢者2,363人を分析対象として、楽しみや生きがいによる主観的ウェルビーイングが、「身体活動(運動など)」に対して影響が大きいことを報告している14)。「健康長寿のための3つの柱」10)の1つである「身体活動(運動など)」は、高齢者の転倒予防など筋力維持のために重要な支援であるが、ともすれば運動頻度の増加のみが強調されてしまうかもしれない。そこで対象者を、楽しみや生きがいの対象として運動を行っているグループとそれ以外に分類し、さらに運動頻度が「週2回以下」と「週3回以上」に分け、自立度との関係を分析した。

 4グループの3年後の自立度得点(12点満点)を比べると、運動頻度が高い上に楽しみ生きがいとして取り組んでいるグループは、運動頻度の低い「週2回以下」のグループより統計学的にみて得点が高く、3年後も自立度が維持されていることが示された(図5)。

図5:楽しみ生きがいのある運動頻度別にみた3年後の自立度得点。生きがいのある人は運動頻度が高いことを示す。

児玉, 栗盛, 山登, 薬師寺, 星, 201914)より作成

図5: 楽しみ生きがいのある運動頻度別に見た3年後の自立度得点

 性・年齢、高齢期に関わる様々な要素を加えた分析においては、「週2回以下」を基準の1とした場合、「楽しみ生きがい週3回以上」の3年後の自立度が全体の平均を下回るのは0.76と低値を示した(図6)。

図6:楽しみ生きがいのある運動頻度と3年後の自立度平均未満との関連を示す図。

児玉, 栗盛, 山登, 薬師寺, 星, 201914)より作成

図6: 楽しみ生きがいのある運動頻度と3年後の自立度平均未満との関連

 以上のことから、高齢者の「身体活動(運動など)」は、主観的ウェルビーイングに関連する楽しみや生きがいの対象として取り組むことによって、3年後の自立度低下に対し、より高い抑制効果が期待できるようだ。

まとめ

 健康長寿を実現していくためには、生活満足感や幸福感、そして生きがいなどの主観的ウェルビーイングへの支援を、食・運動への支援と組み合わせて実施することにより、本質的かつ実効が上がる可能性が、これまでの研究成果として提示できたと考えている。これは地域在住の多くの高齢者の方々に、研究にご協力いただいたお陰であり、あらためて感謝申し上げたい。

 地球規模で高齢化が進む現状において、さらなる研究が必要であることは言うまでもない。医学・栄養学・運動生理学・心理学・社会学をはじめとする多彩な分野を対象とする「長寿科学」の研究を、ますます発展させていきたいと考えている。

文献

  1. Hector Garcia, Francesc Miralles: IKIGAI -The Japanese Secret to a Long and Happy Life-. Hutchinson, LONDON, 2017, 103-118.
  2. エクトル・ガルシア, フランセスク・ミラージェス, 齋藤慎子(訳): 外国人が見つけた長寿ニッポン幸せの秘密 (IKIGAI). エクスナレッジ, 東京, 2017
  3. Steptoe A, Deaton A, Stone AA: Subjective wellbeing, health, and ageing. Lancet 2015; 385(9968): 640-648.
  4. Zaninotto P, Steptoe A: Association Between Subjective Well-being and Living Longer Without Disability or Illness. JAMA Netw Open 2019 Jul 3; 2(7): e196870.
  5. 田中芳幸,外川あゆみ,津田 彰. 健康や長寿に及ぼす主観的ウェルビーイングの役割. 久留米大学心理学研究13481029. 久留米大学大学院心理学研究科 2011; 10: 128-149.
  6. Lawton MP. The Philadelphia Geriatric Center Morale Scale: a revision. J. Gerontol 1975; 30(1): 85-89.
  7. Niklasson J, Hörnsten C, Conradsson M, et al. High morale is associated with increased survival in the very old Age. Ageing 2015; 44(4): 630-636.
  8. 前田大作,浅野 仁,谷口和江. 老人の主観的幸福感の研究-モラ-ル・スケ-ルによる測定の試み(老年者の社会心理特性<特集>). 社老年学 1979; 11: 15-31.
  9. 児玉小百合,栗盛須雅子,星 旦二. 沖縄県農村地域在住の自立高齢者における幸福感と3年後の生存との関連. 日本公衆衛生雑誌 2018; 65(5): 199-209.
  10. 飯島勝矢. より早期からの包括的フレイル予防. 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット
  11. 児玉小百合,栗盛須雅子,星 旦二,他. 沖縄県の農村地域における健常な高齢者の主観的健康感に対する認知的要因と食品摂取の多様性との関連構造. 日本栄養・食糧学会誌 2016; 69(4): 151-162.
  12. Suthutvoravut U, Tanaka T, Takahashi K, et al. Living with Family yet Eating Alone is Associated with Frailty in Community-Dwelling Older Adults: The Kashiwa Study. J Frailty Aging 2019; 8(4): 198-204.
  13. Kodama S. Chapter 9. SES, Dietary Quality, Emotional Well-Being, and a Five-Year Subjective Health in Middle-Age. Hoshi T, Kodama S eds. The structure of healthy life determinants - Lessons from the Japanese aging cohort studies. Singapore: Springer Nature Singapore Pte Ltd. 2018; 143-160.
  14. 児玉小百合, 栗盛須雅子, 山登一輝, 薬師寺清幸, 星 旦二. 自立高齢者の運動頻度における主観的ウェルビーイングと3年後の自立度との関連. 厚生の指標2019; 66(6): 1-8.

筆者

写真:筆者の児玉小百合先生
児玉 小百合(こだま さゆり)
相模女子大学短期大学部食物栄養学科 准教授
最終学歴
2015年 和洋女子大学大学院 総合生活研究科 博士後期課程 博士(学術)
略歴
1991年 東京女子大学 英米文学科卒。食品系企業を経て、2009年 管理栄養士免許取得。2012年 東京医科歯科大学大学院 修士(医科学)、2015年 和洋女子大学大学院 博士(学術)取得。2016年 相模女子大学短期大学部食物栄養学科・講師を経て、2019年より相模女子大学短期大学部食物栄養学科・准教授、現在に至る。
専門分野
公衆栄養学、栄養指導、栄養疫学、公衆衛生学

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