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「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の改訂について

公開日:2018年10月17日 12時00分
更新日:2022年11月29日 13時59分

堤 翼(つつみ つばさ)
厚生労働省医政局地域医療計画課在宅医療推進室長補佐


はじめに

 わが国においては、少子高齢社会の進行に伴い、医療ニーズが悪性新生物(がん)等を原因とする慢性疾患を中心とするものに変化しており、年間の死亡者数は増加することが予測されている。このような中、人生の最終段階を過ごされる方々をどのように支えていくのかについて、医療・介護従事者の果たす役割は、今後ますます大きなものになってくると考えられる。

 平成19年度の「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」(以下:ガイドライン)(平成26年度に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」に改称)の策定から約11年が経過し、今回、平成29年度「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」において、わが国の現状と今後の在り方を踏まえたガイドラインの見直しの必要性が提起され、「本人の尊厳を追求し、自分らしく最期まで生きる」ことの重要性を軸に、ガイドラインの改訂を行った。

平成19年版ガイドラインの概要

 厚生労働省では、昭和62年度から概ね5年ごとに「人生の最終段階における医療」に関する検討会を開催し、平成4年度からは国民の意識調査をあわせて実施している。平成19年の検討会では、人工呼吸器の取り外し事件の報道を発端に「尊厳死」のルール化の議論が活発化するという事態を背景に、患者に対する意思確認の方法や医療内容の決定手続き等についての標準的な考え方を整理し、「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定した。

 ガイドラインには、人生の最終段階における医療およびケアの在り方について、

  • 患者本人による決定を基本として進めること
  • 人生の最終段階における医療の内容は、医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すること
  • 可能な限り、疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和すること

が示された。

 また、人生の最終段階における医療およびケアの方針の決定の手続きについて、

  • 患者の意思が確認できる場合には、患者と医療従事者とが十分な話し合いを行い、患者が意思決定を行った上で、その内容を文書にまとめておくこと
  • 説明は、時間の経過、病状の変化、医学的評価の変更に応じてその都度行うこと
  • 患者の意思が確認できない場合には、家族が患者の意思を推定できる場合にはその推定意思を尊重し、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とすること
  • 患者・医療従事者間で妥当で適切な医療内容について合意が得られない場合等には、複数の専門家からなる委員会を設置し、治療方針の検討及び助言を行うことが必要であること

が示された。

「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」(平成19年版)策定の背景

  • 平成18年3月に富山県射水市民病院における人工呼吸器取り外し事件が報道され、「尊厳死」のルール化の議論が活発化。
  • 平成19年、厚生労働省に、「終末期医療の決定プロセスのあり方に関する検討会」を設置し、回復の見込みのない末期状態の患者に対する意思確認の方法や医療内容の決定手続きなどについての標準的な考え方を整理することとした。
  • パブリックコメントや、検討会での議論を踏まえ、平成19年5月に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」をとりまとめた。
    • ※平成26年度に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」に改称。

「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」(平成19年版)ガイドラインの概要

  1. 人生の最終段階における医療及びケアの在り方
    • 医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされた上で、患者が医療従事者と話し合いを行い、患者本人による決定を基本として終末期医療を進めることが重要。
    • 人生の最終段階における医療の内容は、多専門職種からなる医療・ケアチームにより、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断する。
  2. 人生の最終段階における医療及びケアの方針の決定手続
    • 患者の意思が確認できる場合には、患者と医療従事者とが十分な話し合いを行い、患者が意思決定を行い、その内容を文書にまとめておく。説明は、時間の経過、病状の変化、医学的評価の変更に応じてその都度行う。
    • 患者の意思が確認できない場合には、家族が患者の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
    • 患者・医療従事者間で妥当で適切な医療内容について合意が得られない場合等には、複数の専門家からなる委員会を設置し、治療方針の検討及び助言を行うことが必要。

今回のガイドライン改訂の経緯

 平成29年8月に、国民に対する情報提供や普及・啓発のあり方等について検討することを目的に、「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」を設置し、平成30年3月までに計6回の議論を経て、報告書1)が取りまとめられた。

 ガイドラインの改訂については、本検討会の議論の過程で、

  • 人生の最終段階における医療・ケアについては、患者本人のこれまでの人生観や価値観等をできる限り把握し、繰り返し話し合い、家族や医療従事者等で共有することが重要である
  • 人生の最終段階における医療・ケアにおける意思決定支援については、病院だけではなく、在宅の現場や介護施設等においても、さらに推進する必要がある

という課題や、

  • ガイドラインは平成19年の策定以降、内容の見直しがされていないこと
  • 診療報酬と介護報酬の同時改定のタイミングに「看取り」が大きなテーマとして取り上げられていた

ことも重なり、

  • 高齢多死社会の進行に伴い、地域包括ケアシステムの構築に対応したものとする必要があること
  • 英米諸国を中心として、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の概念を踏まえた研究・取り組みが普及してきている

といった現状を踏まえ、見直しについての議論の必要性が提起された。

 なお、ACPは、アメリカ、イギリス、オーストラリアなど諸外国において普及してきた取り組みで、人生の最終段階を迎えるにあたり、本人の望む形で"生をまっとう"していただくために、医療・ケアチームが本人の意思をあらかじめ繰り返し話し合って確認し、そのプロセスを共有していくというものである。このようなACPに関する取り組みについて、検討会では今後のわが国においても求められる内容であると確認された。

主な改定のポイント

 ガイドライン2)および解説編3)は、人生の最終段階における医療・ケアに従事する医療・介護従事者が、人生の最終段階を迎える本人や家族等を支えるために活用していただくものと考えている。

 前述した平成19年版のガイドラインの基本的な内容は残しつつ、今回の改訂においては、主に以下のような見直しや追加を行った。詳しくはご一読いただきたいが、特に今回の改訂では、本人の意思は変化し得るものであることや、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることを踏まえ、家族等の信頼できる者を前もって定め、繰り返し話し合い、その内容を記録し、共有することの重要性を記載した(図)。

「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」の改訂について(平成30年3月14日公表)

見直しの必要性

  • 富山県射水市民病院の人工呼吸器取り外し事件を踏まえ、平成19年に策定された「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」(平成27年に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」に名称変更)は、その策定から約10年が経過しており、
    • 高齢多死社会の進行に伴い、地域包括ケアシステムの構築に対応したものとする必要があること
    • 英米諸国を中心として、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の概念を踏まえた研究・取組が普及してきていること

を踏まえ、ガイドラインの見直しを行う必要がある。

主な見直しの概要

  1. 病院における延命治療への対応を想定した内容だけではなく、在宅医療・介護の現場で活用できるよう、次のような見直しを実施
    • 「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に名称を変更
    • 医療・ケアチームの対象に介護従事者が含まれることを明確化
  2. 心身の状態の変化等に応じて、本人の意思は変化しうるものであり、医療・ケアの方針や、どのような生き方を望むか等を、日頃から繰り返し話し合うこと(=ACPの取組)の重要性を強調
  3. 本人が自らの意思を伝えられない状態になる前に、本人の意思を推定する者について、家族等の信頼できる者を前もって定めておくことの重要性を記載
  4. 今後、単身世帯が増えることを踏まえ、3.の信頼できる者の対象を、家族から家族等(親しい友人等)に拡大
  5. 繰り返し話し合った内容をその都度文書にまとめておき、本人、家族等と医療・ケアチームで共有することの重要性について記載
図:人生の最終段階における医療・ケアに従事する医療・介護従事者が、人生の最終段階を迎える本人や家族等を支えるために活用されるガイドラインを示す図。
図:「 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
意思決定支援や方針決定の流れ(イメージ図)(平成30年版)

※本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、話し合いに先立ち特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めておくことが重要である。

※家族等には広い範囲の人(親しい友人等)を含み、複数人存在することも考えられる。

1.病院だけでなく、在宅医療・介護の現場で活用できるよう、

  • 名称を「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に変更
  • 患者・家族と話し合う医療・ケアチームに「介護従事者が含まれる」ことを明確化

 1つ目のポイントとして、今後、地域包括ケアの中で、在宅や介護の現場でもガイドラインを活用していただくため、表題や本文において「医療・ケア」に変更を行った。また、同様の理由から、「患者」という言葉も、すべて「本人」という表現に変更した。

2.心身の状態の変化等に応じて、本人の意思は変化し得るため、医療・ケアの方針や、どのような生き方を望むか等を、日頃から繰り返し話し合うこと(ACPの取組)の重要性を強調した。

 2つ目のポイントとして、本人の意思はさまざまな状況によって変化し得るため、あらかじめ繰り返し話し合っていただきたいということを示した。

3.本人が自らの意思を伝えられない状態になる前に、本人の意思を推定する者について、家族等の信頼できる者を前もって定めておくことの重要性を記載した。

 3つ目のポイントとして、本人が意思を伝えられなくなる場合を想定して、本人の意思を推定してくれる人を見つけることが望ましい、ということを述べている。

4. 単身世帯が増えることを踏まえ、家族だけでなく親しい友人等を含めた「家族等」が、本人の意思推定者であることを示した。

 4つ目のポイントとして、親族以外の方も、本人の意思を推定できる方となり得ることを記載した。現在、単身世帯が増えてきているということもあり、今後は自分の意思を推定してくれる人に近隣の親しい友人等も含み得ると示すことで、より本人の意思を生かせる場面も出てくるであろうことを見越し、「家族等(親しい友人等)」とした。

5. 繰り返し話し合った内容をその都度文書にまとめ、本人、家族等と医療・ケアチームで共有することの重要性を記載した。

 5つ目のポイントとして、話し合った内容は、文章にまとめ、皆で共有することで、認識のズレを起こさないようにしていきましょうという内容が記されている。文章は決まった様式があるというわけではなく、本人の意思や希望、本人が家族等や医療・ケアチームと話し合った内容を、皆が確認できる場所にまとめておき、かつ最新の内容がどれであるのか、わかる形にしておくことも大切なことだと考えている。

本ガイドラインの活用について

 今後、高齢多死社会を迎えるにあたって、医療・介護従事者の方々には、本ガイドラインや、その他学会の公表しているガイドラインなどを参考に、本人の意思が尊重される医療・ケアを実施していただきたいと考えている。

 ただし、本人が「死にまつわるようなことについては考えたくない」というような意思やサインを示される場合は、無理に話し合いを行うことは好ましいとはいえないと思われる。

 また、ACPについては、「当院では1週間に1度、30分間行う」など、ルーティン化して行うことは、ACPの本来の趣旨を損ないかねないため、留意が必要である。

 また、検討会では構成員より、「ACPという言葉は、最近、英米諸国から入ってきたものであるため、名称の認知度は低いかもしれないが、たとえば介護の現場で働く方に、『介護施設に入所している利用者の方に対して、本人の希望を何か聞くようなことを繰り返し行っていますか』と尋ねると、多くの場合、そうしていると答えられる。すなわち、ACPの中身については、これまですでに医療や介護の現場で、人生の最終段階に至る前の段階から、価値観・人生観も含めた十分なコミュニケーションを踏まえて医療・ケアの内容が決定されてきた実態の延長線上にあるのではないか」との認識が示され、共有された。

 その他、「ACPという新しい言葉が用いられるといっても、これまでの取り組みをひとつの言葉で表現して、それが表に出ていくだけのことであり、それほどハードルは高くなく、労力もかからない。むしろ、これまでやってきたことが認められるようなシステムである」との話も共有された。

 加えて、話し合いの時期についても、「人生の最終段階に至ってからというよりも、『今をどのようにしていこう』『その先はどうしていこう』という話し合いの延長線上に、最期のときの話になっていくのが自然ではないか」というような考えについても示され、共有された。

 ACPがわが国で、国民1人ひとりの生活の中に十分に浸透するまでには、長い年月が必要になるかもしれない。このため厚生労働省としては、医療・介護従事者や国民への周知活動を継続的に行っていくことで、日本の医療・ケアの現場や生活の場で、人生の最終段階における医療・ケアについての方針やどのような生き方を望むか等を、本人と家族等や医療・ケアチームが事前に繰り返し話し合っていける環境をつくっていきたいと考えている。

おわりに

 今回の検討会では、ガイドラインおよび解説編を改訂するにあたり、本人の尊厳を追求し、自分らしく最期まで生き、よりよい最期を迎えるため、人生の最終段階における医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合いを進めていくことが重要であるということを確認した。単に、延命治療をするかしないかという意思決定を迫る話し合いや、その決定結果を残すことだけでは、心身の状態の変化に応じて、本人や家族等の意思や気持ちの変化に対応することができないのではないか、という考えが共有された。

 厚生労働省は、人生の最終段階における医療・ケアについて、ACP等の概念を盛り込んだ意思決定およびその支援の取り組みの重要性の一層の普及・啓発に取り組んでいきたいと考えている1)

 医療・ケアチームの一員の皆さまにおかれては、平成30年版ガイドラインの趣旨をご理解いただき、日常的に話し合える環境づくりや、本人・家族等と事前に繰り返し話し合う中での意思決定へのご支援をお願いしたい。

参考文献

  1. 厚生労働省 人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会:「人生の最終段階における医療・ケアの普及・啓発の在り方に関する報告書」(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 厚生労働省 人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方関する検討会:「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 厚生労働省 人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会:「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」解説編(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

筆者

堤 翼(つつみ つばさ)
厚生労働省医政局地域医療計画課在宅医療推進室長補佐
略歴:
2009年:久留米大学医学部卒、自治医科大学付属病院初期臨床研修、2011年:久留米大学消化器内科、2017年より現職

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.87(PDF:4.0MB)(新しいウィンドウが開きます)

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