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高齢者の孤立は男性問題か?

公開日:2017年7月12日 09時00分
更新日:2019年2月 1日 21時58分

小池 高史(こいけ たかし)

九州産業大学国際文化学部講師

はじめに

 高齢者の孤立を防止するための活動をしている地域の現場で頻繁に聞くのが、男性高齢者の不参加という課題である。「男はだめよー」「参加してくれるのは女性ばっかり」「いかに男性を巻き込んでいくかが今後の課題なの」。地域でのコミュニティ活動に取り組む女性リーダーたちの口から、こんな言葉をよく耳にしてきた。

 男性は女性よりも社交的でなく、友人関係をつくるのが下手。とくに「会社人間」として働いてきた男性は、定年退職後に地域で孤立してしまう。日本の高齢者を男女別にみたとき、このようなイメージを持っている人も多いのではないだろうか。実際に、地域住民の交流のためのイベントに参加する人は、たいてい女性のほうが多く、男性高齢者の人間関係の乏しさが指摘されることも多い。

 近所付き合いや友人との付き合いに関する社会調査の結果をみれば、ほぼ毎回男性は女性よりも付き合いが少ないという結果が出ている。孤立死のリスクも圧倒的に男性のほうが高いという説もある1)

 高齢者の社会的孤立に関するこれまでの研究でも、女性より男性が孤立に陥りやすいという知見が積み重ねられてきている2-4)

 女性が若いうちから不連続な職業経歴や家庭役割の中で、友人や近所の人、子どもの親同士など多様な人間関係を形成しやすいのに比べて、男性は現役時代に1つの仕事を中心とした生活を送ってきて、地域での人間関係もなかったりする。定年退職後の人間関係は一緒に暮らす妻だけに限られてしまい、妻にまとわりつく"濡れ落ち葉"と揶揄(やゆ)されることもある5)。そして、職業引退後の男性をいかに"地域デビュー"させるかが、地域社会の課題とされてきた。

 これは男女間のライフコースの違いからくる老後生活の違いだが、男性の老後がこのような状況に至ってしまうとすれば、それは一緒に暮らす家族以外との交流がないという意味での社会的孤立の状態である。

男性の独居高齢者の増加

 一方、独居高齢者の増加という問題においても、男性高齢者の存在感が増してきている。これまで、1人で暮らしている高齢者は、男性よりも圧倒的に女性が多いという状況であった。その中で、男性で1人暮らしをしている人が特に「あぶない」とされてきたのだが、最近の統計では男性の独居高齢者数の増加が目立つようになってきた。

 国勢調査の結果をみると、2005年には男性の独居高齢者は女性の3分の1ほどであったが、2015年にはそれが2分の1ほどに差が縮まってきている(図)。女性の独居高齢者の数ももちろん増えているが、増加の勢いとしては、実は男性の伸び方のほうが急激なのである。

 孤立しやすいのが女性よりも男性とされる中、男性の独居高齢者の数も増えてきている。そうすると、男性高齢者の孤立の問題はこれまで以上に大きな社会問題となっていくことが予想される。

図:男女別の独居高齢者の推移を示す棒グラフ。1980年から2015年の国勢調査から。男性よりも圧倒的に女性の一人暮らしが多いが、2015年には男性の独居高齢者は女性の2分の1にまで差が縮まっていることを示す
図 男女別の独居高齢者の推移(1980~2015年国勢調査の結果より)

「男らしさ」と孤立

 ところで、女性よりも男性が孤立に陥りやすいことは、ジェンダー規範としての「男らしさ」ということからも考えることができる。

 社会的な性(ジェンダー)の視点から、男性の問題を扱う「男性学」という研究分野においては、「男らしさ」とはどういうものかということについての議論が重ねられてきた。そこでの議論をまとめると、男性は、強くあることや自立することを求められる。また、他人との感情的な共感能力に欠けていたとしても、クールで冷静であることが評価される。周りの人と関わりを持って、助けてもらいながら生きるよりも、1人で自立して強く生きていくのが「男らしい」ことだとされるのである6)

 介護の専門家である三好春樹7)は、脳卒中による手足の麻痺といった障害を負ったときに、家から出なくなり自我を崩壊させていくのは男性のほうが多いとし、その理由を男性が女性よりも「自立した個人」であったからだと述べている。男性は、自立していない自分を人目にさらすのが嫌で、人から介助されるのも耐えられない。さらに自立していたために、人間関係が希薄で、人に依存することがうまくできないということだ。

 手足の麻痺などの障害を負っていないとしても、高齢期には誰しもが少しずつ衰えていき、社会的な役割も小さくなっていく。加齢に伴って、健康状態や経済状況が悪化すれば、「人と関わること」が次第に「人に助けてもらうこと」になっていく。男らしさの規範からすると、人に助けてもらうことは望ましいことではない。そのため、他人を遠ざけたり、なるべく関わることをしなくなったりするということもあるのではないだろうか。

 困ったときに他人に助けを求めたいと思うかどうかを示す「被援助志向性」を、高齢者の男女別に比較した研究では、やはり男性よりも女性のほうが被援助志向性が高いという結果が出ている8)

 また、助けを求めたい相手が誰なのかという点では、女性が家族や親せき(インフォーマル・サポート)に助けを求めようとするのに対し、男性はどちらかというと家族ではなく行政(フォーマル・サポート)に助けを求めようとするといった傾向がある9)

 人に助けてもらうことは、その人にとってありがたい経験であると同時に、自分自身の能力が助けてくれる人よりも低いことの証拠にもなる。社会学者のアーヴィング・ゴッフマン10)は、他人に知られてしまえば信頼を失うことになる自分についての情報を操作することを「パッシング」と呼んだ。

 加齢に伴って、自身の社会的地位が下がり、それを隠すために他人と関わらなくなる、いわば「パッシングとしての孤立」が高齢者の孤立の1つの要因となっているとすれば、それはやはり女性よりも男性の問題として浮上してくることになるだろう。

男性の付き合い方

 「男性」と「女性」と単純に2つに分けて考えることはもちろんできないのだが、それでも高齢者の孤立という問題に親和性が高いのが、男性というジェンダーだということをここまで述べてきた。

 しかしながら、男性と女性の他人との付き合い方を同じ基準で測って比べることは、はたして妥当なことなのだろうか。

 以前、ある団地に暮らす高齢者の人間関係を調査する中で、家族や親戚、親しい友人といった親密な(あるいは濃密な)関係の相手だけでなく、知り合いや顔見知りといった、ちょっとした関係の相手の人数を調査したことがある11)

 そこでは、「どのくらい相手のこと知っているか」ということを基準に、同団地内での人間関係を「住所と名前を知っている人」「名前だけ知っている人」「住所も名前も知らない顔見知り」の3種類に区別することにした。

 1つの団地の中での人間関係であるため、相手の住所を知っているということは、すなわち「何棟の何号室の人か」を知っているということだ。団地内の友人や近隣の人など、ある程度関わりの深い人だと予想できる。

 団地の中で住所は知らないけれども、「名前だけ知っている人」とは、たとえば自治会や団地内のイベント、交流スペースで出会った人の他、かつてお互いの子どもを通して親同士として知り合った人なども考えられる。

 名前も知らない顔見知りの人というのは、何となくよく見かける人、団地に住んでいるということは知っている人、会えば挨拶を交わしたりするが、話し込んだりはしないような相手ということになるだろう。

 調査の結果をもとにどういった人がそれぞれの種類の人間関係の相手が多いかを分析したところ、性別は意外にもどの種類の知り合いの数にも関連していなかった。女性よりも男性のほうが地域での知り合いや顔見知りが少ないということにはならなかったのである。

 このことは、男性に地域で親密な人間関係を持っていない人が多いとしても、ただの知り合いや顔見知りのような人のことも含めて考えてみれば、男性のほうが女性よりも孤立しているとは必ずしもいえないということを意味しているのかもしれない。

 「男性は人付き合いができない」というとき、そこでいわれている人付き合いとは、どの程度のものを想定しているのだろうか。もしかしたら、男性は女性よりも人付き合いが少ないのではなく、女性の人付き合いとは違った内容の人付き合いをしているのだと捉え直せるのかもしれない12)

男性の居場所

 また、男性が人との交流や人に助けてもらうことを苦手としているとしても、たとえば公民館や集会所で囲碁や将棋、麻雀の会を開けば、そこで会話があまり生まれないとしても、女性より男性がよく集まってくることや、高齢期の就労の場には男性が多く参加していること、自治会や町内会での役職や役割を与えられれば、男性も精力的に活動することなどはよく知られていることだ。

 地域の交流イベントや交流拠点で、コーヒーやお茶だけでなく、お酒を出すようにすると男性が参加するようになるという話も聞いたことがある。「ビール出すというと、男の人が来てくれるんですよ」。これもやはり、地域でのコミュニティ活動に取り組むある女性リーダーの口から聞いた言葉である。

 熊本地震の中心的な被災地となった益城町で最大規模の仮設住宅団地「テクノ仮設団地」では、全国訪問ボランティアナースの会「キャンナス」の熊本支部が、入居者の孤独死を防ぐための支援を行っている。

 見守り訪問や交流イベントとともに、男性入居者の孤立を防ぐため、男性限定の交流の機会として「BARキャンナス」(写真)という取り組みを始めたところ、多くの男性の参加を集めるようになった。会費500円で料理がふるまわれるが、アルコールは各自で持ち込む形式の「飲酒可の男性だけの集いの場」である。男性がなかなか外に出てこないことが課題となって始まった試みだ。

写真 「BARキャンナス」の会場となる集会場「みんなの家」

 都市社会学者のレイ・オルデンバーグ13)が提唱した「サードプレイス」は、自宅(第1)や職場(第2)とは隔離された、心地のよい「第3の居場所」のことを指すが、オルデンバーグは、それがコミュニティのもう1つの核になっているのだと指摘する。

 具体的には、イギリスのパブやフランスのカフェなどを、彼はサードプレイスの例として挙げているが、日本でいえばやはり居酒屋なのではないかと思う。それも、どちらかといえば小規模で、いつも常連が集まっているようなお店である。

 男性たちは1人で居酒屋に行き、そこで何度も顔を合わせている他の客(名前を知っている知り合い)や、それほどでもないが何回か会ったことのある人(ただの顔見知り)と会話をする。お店を出れば、それ以上に付き合うことはないかもしれないが、これも1つの人付き合いといえるだろう。

 そこで交流する相手は、これまでの孤立研究でその有無が孤立の基準とされてきた「緊急時に来てくれる人」や「週1回以上会う友人や近所の人」ではないかもしれない。また、居酒屋は「研究」の目が届きにくい、調査がむずかしい場所であり、男女別の高齢者の人間関係を検証する舞台にはなりにくいかもしれない。

 それでも、たとえばこういった居酒屋での人付き合いのようなものは、男性高齢者の人間関係の重要な一部になっているのではないだろうか。

おわりに

 「高齢者の孤立」は男性問題なのだろうか。本稿で述べてきたことをまとめると、男性高齢者は女性よりも近所付き合いや友人との付き合いが少なく、社会的に孤立した傾向にあるとされてきた。「男らしさ」の規範が高齢期の男性の人付き合いを妨げている側面があることも考えられる。

 その一方で、男性には男性なりの人との付き合い方があり、居場所があったりもする。そう考えると、必ずしも孤立が男性問題であるとはいえないのかもしれない。

 また、「男らしさ」の規範が特に強いのは、現在60歳代後半にあたり、人口が最も多い団塊の世代までであり、それ以後の世代の男性では規範が弱まるという研究結果もある14)。それを考えれば、今後の男性高齢者の人間関係は変わっていくのかもしれない。

 いずれにしても、ジェンダーの視点から高齢者の孤立を考えるときには、もう少し広い視点から男性高齢者の人間関係を捉えていくことが必要なのだろう。

参考文献

  1. 水無田気流『「居場所」のない男、「時間」がない女』日本経済新聞出版社、2015
  2. 河合克義『大都市のひとり暮らし高齢者と社会的孤立』法律文化社、2009
  3. 斉藤雅茂・冷水 豊・山口麻衣ほか「大都市高齢者の社会的孤立の発現率と基本的特徴」『社会福祉学』50(1)、2009、110-122
  4. 斉藤雅茂・藤原佳典・小林江里香ほか「首都圏ベッドタウンにおける世帯構成別にみた孤立高齢者の発現率と特徴」『日本公衆衛生雑誌』57(9)、2010、785-795
  5. 多賀 太『男らしさの社会学-揺らぐ男のライフコース』世界思想社、2006
  6. 伊藤公雄・樹村みのり・國信潤子『女性学・男性学[改訂版]-ジェンダー論入門』有斐閣、2011
  7. 三好春樹『なぜ、男は老いに弱いのか?』講談社、2005
  8. 高橋知也・小池高史・安藤孝敏「団地に暮らす独居高齢者の被援助志向性-横浜市公田町団地における調査から」『技術マネジメント研究』13、2014、47-55
  9. 高橋知也・小池高史・安藤孝敏「独居高齢者は誰に援助を求めるか-高齢者における被援助志向性と援助要請を行う対象との関連の検討から」『技術マネジメント研究』14、2015、23-31
  10. アーヴィング・ゴッフマン(石黒毅訳)『スティグマの社会学-烙印を押されたアイデンティティ』せりか書房、1963=2001
  11. 小池高史・安藤孝敏「団地に暮らす独居高齢者の周縁的社会関係」『応用老年学』8(1)、2014、23-30
  12. 小池高史『「団地族」のいま-高齢化・孤立・自治会』書肆クラルテ、2017
  13. レイ・オルデンバーグ(忠平美幸訳)『サードプレイス-コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』みすず書房、1989=2013
  14. 天野正子編『団塊世代・新論』有信堂、2001

筆者

写真:小池高史

小池 高史(こいけ たかし)
九州産業大学国際文化学部講師
略歴:
2012年:横浜国立大学大学院環境情報学府博士課程修了、東京都健康長寿医療センター研究所非常勤研究員、2013年:日本大学文理学部助手、2016年より現職
専門分野:
老年社会学。博士(学術)

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.82

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