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高齢者が活躍する持続可能なまちづくり─多世代共生アプローチから発進する重層的支援体制整備事業─

公開日:2021年10月13日 09時00分
更新日:2024年2月 8日 12時00分

藤原 佳典(ふじわら よしのり)
東京都健康長寿医療センター研究所社会参加と地域保健研究チーム研究部長(チームリーダー)

 国連が2030年の実現に向けて提唱するSDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」は、今日、国や民間企業はもとより、自治体の総合計画の基盤としても、重視されている。地域の健康福祉分野における持続可能性とは、コミュニティの存続やその構成要素である、多様なステークホルダーの継続・発展を意味する。その実現に向けては、子ども・子育て世代から高齢者までをシームレスにつなぎ、世代から世代へと継承・循環する全世代型の包括的な地域戦略が求められる。

重層的支援体制整備事業と地域包括ケアシステム

 2020年6月、地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律(令和2年法律第52号)が厚生労働省から公布された。市区町村においては、既存の相談支援等の取り組みを活かしつつ、地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する重層的支援体制を構築するため、世代や属性を問わないⅠ相談支援、Ⅱ参加支援、Ⅲ地域づくりに向けた支援を実施する事業を創設することが求められている。

 重層的支援体制整備事業が重層的たる所以は、以下のイメージ図11)に示すように、上記の3つの支援事業が相互に連動している点にある。

図1:重層的支援体制整備事業の枠組みを表す図。
図1 重層的支援体制整備事業の枠組み
(厚生労働省社会・援護局: 令和2年度 地域共生社会の実現に向けた市町村における包括的な支援体制の整備に関する全国担当者会議. 会議資料31)より引用)

 これら3つの支援事業は、現行の地域包括ケアシステムにおける地域支援事業を多世代・多領域に拡張したものといえる。実際、筆者が関与する複数の基礎自治体の第8期介護保険事業計画においては、その3か年(2021年度~2023年度)を地域共生社会づくりに向けた準備期間と位置づけている。具体的には、社会福祉協議会などと連携して重層的支援体制整備事業を睨(にら)んだ、業務体制を敷いている事例も散見される。

地域共生社会実現の入り口は多世代型ポピュレーション・アプローチ

 一方では、重層的支援体制整備事業においては、困難事例を抱えるハイリスク者への対応に比重が置かれるあまり、ハイリスク者を増やさないといった予防の概念が極めて弱いように思われる。自治体の限られた財源や人材を困難事例に重点配分するには、ハイリスクの住民を可能な限り増やさないポピュレーション・アプローチも同時に構築することが有効と考えられる。身近な事例としては、介護予防事業が、2014年より従来のハイリスク・アプローチ主導からポピュレーション・アプローチへと方針が転換され、「地域づくりによる介護予防」による「通いの場」づくりが推進されていることが挙げられる。

 こうしたポピュレーション・アプローチの理論基盤としてソーシャル・キャピタルが着目されてきた。国は、地域保健対策の推進に関する基本的な指針改正(平成24年7月31日厚生労働省告示第464号)において、「地域保健対策の推進に当たって、地域のソーシャル・キャピタル(信頼、社会規範、ネットワークといった社会関係資本など)を活用し、住民による自助及び共助への支援を推進すること」と明示している。地域のソーシャル・キャピタルとは、Ⅲの共生型の地域づくりに他ならない。具体的には、世代や属性を超えて住民同士が交流できる場や機会を生み出すための、「仕組み」と「仕掛け」が求められる。

 これらの「仕組み」と「仕掛け」づくりは、理論上、さほどハードルの高い事業だとは思わない。現況の高齢者対象の地域包括ケアシステムにおける地域支援事業を共生型に拡充していけば、おのずからゴールに達成できるものと考えられる。まず、世代や属性を問わない入り口は多世代のポピュレーション・アプローチであり、そのゴールは地域全体のソーシャル・キャピタルの醸成である。

 しかし、専門職は、ともすれば「共生」を、さまざまな社会的弱者へのハイリスク・アプローチと捉えがちである。かつて、「我が事、丸ごと」と称された地域共生社会のスローガンが、必ずしも国民に浸透しなかったのはなぜだろうか。例えば、テレビのドキュメンタリー番組で難病と闘う子どもとその親を観ると、多くの人は感動するであろう。しかし、身内にそうした人がいなければ、現実生活においてはなじみが薄く、「我が事」化は容易ではない。後述の高齢者による学校ボランティアが通う公立学校では、高齢者が自身の子どもの頃や子育て時代を回想するとともに、さまざまな家庭環境や国籍の子、さらには障害を持つ子にも直面する。逆に、数年間にわたる高齢者ボランティアとの交流の中で子どもは自然に「老い」を学ぶ。

 つまり、多世代型のポピュレーション・アプローチの中で、何気なくハイリスク者に出会い、無意識に相互理解へと進展するのである。「子供叱るな、来た道だもの。年寄り笑うな、行く道だもの」という多世代型ポピュレーション・アプローチを示唆する仏教の教えこそが、「我が事」「丸ごと」の原点ではなかろうか。

一般介護予防事業における「通いの場」を多世代交流の場へ

 一方、核家族化の進行や社会の縦割り化などの影響から、世代間の関係は、むしろ断絶が進んでいる可能性がある。そのため、古きよきコミュニティさながらの自然発生的な世代間交流を期待することは、容易ではない。世代間交流が創出される仕掛けが必要であり、その機会として、地域のサロンや通いの場における取り組みがある。 

 厚生労働省「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」の取りまとめ(2019年12月13日)2)において、さまざまな地域高齢者のニーズに応えるためには、子育てサロンや子ども食堂で活躍する高齢者による世代間交流もまた住民主体の介護予防事業として勧奨されている。

 こうした時勢に先行して、筆者らは、ポピュレーション・アプローチとしての世代間交流の互恵的影響について実証してきた。筆者らは2004年に高齢者ボランティアによる絵本の読み聞かせを通じた世代間交流プロジェクト「REPRINTS」(Research of Productivity by Intergenerational Sympathy3)をモデル開発した。地元の小学校、保育園、サロンなどでの世代間交流活動を継続することにより、高齢者ボランティアの心身機能の維持向上、子どもの情操教育、保護者の育児支援、さらには、地域全体へのソーシャル・キャピタルの向上に寄与した(図2)4)

図2:REPRINTSプロジェクトによるシニアと受け手への世代間の互恵的効果を示す図。
図2 REPRINTSプロジェクトによる世代間の互恵的効果
(Yasunaga M, Fujiwara Y, et al. Geriatr Gerontol Int. 20164)より引用)

 REPRINTSプロジェクトでは2010年以降、ボランティア養成研修のプログラム内容を多くの自治体の保健福祉部局のニーズに応えて改訂し、読み聞かせ手法の習得を通じた認知症予防・介護予防プログラムへとカスタマイズした5)。その結果、2014年の介護保険法改正による介護予防・日常生活支援総合事業における一般介護予防事業「絵本読み聞かせ認知症予防講座」としての委託事業ニーズが高まった。

 2021年度は、コロナ禍においても19自治体に展開するに至った。その理由としては、第1に多様な価値観・趣向を持つ高齢者のニーズに応えるべく、運動型プログラムを補完する事業としてエビデンスが確立されていることが挙げられる。第2に、モデル研究と同様に講座修了後には、すべての自治体で小学校や保育園、子育てサロンなどの子どもへ読み聞かせを行うボランティア団体へと移行した点がある。一般介護予防事業を入口に多世代共生型地域づくりの担い手として期待できるからであると推察される。

 シニアボランティアとの交流の対象は年少児だけではない。筆者らの研究では、次世代を担う中高生において、自己効力感の維持・向上6)や地域活動への参加志向に寄与する7)可能性が示唆された。世代間交流が健康やQOLにもたらす影響は、ボランティア活動によるものだけでなく、一般住民においても然りである。筆者らが実施した首都圏在住の一般住民への郵送調査によると、高齢者(65歳以上)、現役世代(20~40歳代)ともに世代を問わず、世代内交流のみしている者に比べて世代間交流もしている者は、さらに精神的健康度が高いことが示された(図3)8)

図3:世代間、世代内交流の有無と精神健康の関連を示す図。
図3 世代間・世代内交流の有無と精神健康の関連
(根本裕太, 藤原佳典 他. 日本公衆衛生学雑誌 20188)より引用)

※1 性、年齢、教育年数、婚姻状況、居住地域、婚姻状態、子/親/祖父母との同居、主観的経済状態、地域活動への参加、就労、健康度自己評価、生活機能(高齢者のみ調整)、既往歴(脳卒中、心臓病)を考慮した解析

※2 家族や仕事関係の人以外で会話をする機会を問い、「よくある、ときどきある」と回答したものを「交流あり」とした。

 これにより、世代間交流は幅広い世代に対して、ボランティアプログラムという特定の人々や地域による「線」としてのソーシャル・キャピタルを醸成するだけでなく、広く一般地域住民間での「面」に発展できる可能性がある。こうした仮説を検証すべく、筆者らは、東京都北区および川崎市多摩区内のそれぞれ1つの地域包括支援センター圏域において、地元行政保健師や生活支援コーディネーターなどと連携し、多世代交流サロンプロジェクトを試行した。

 同プロジェクトは、地域包括ケアシステムの地域支援事業を基盤とし、多世代に拡大する事業であるが、重層的支援体制整備事業(図1)における、地域づくり事業にあたる。その核となる多世代交流の場(=サロン)を支援する専門職からは、ハイリスク住民の社会参加・孤立防止を目的としてサロンを勧奨する。その一方で、この種のサロンは、同世代のみの交流に疎外感を抱く潜在的なリスク層が利用していることもあり、こうした人を個別支援に結びつけることも期待し、支援していると言う。つまり、専門職による相談支援と地域づくりは相補的に機能するのである。

「3つのS」でコロナ禍を乗り越える

 東京都北区および川崎市多摩区の両サロンともに、REPRINTSシニアボランティアは運営メンバーとして参画し、サロンにおける幼児と母親に向けての読み聞かせタイムは好評を博していた。ところが、2020年3月以降、新型コロナウイルス感染症の蔓延(まんえん)により、サロンは休止を余儀なくされている。

 同様に、全国の大半のサロンや通いの場は休止した。そのような状況を鑑み、筆者らは「通いの場×新型コロナウイルス対策ガイド(第2版)」と「通いの場の活動再開の留意点」を公開した。その中から、再開前に考えたい8つのポイントを示した9)。その要点は、①活動団体の目的・意義を再確認、②活動内容の工夫と練習・学習、③活動団体を取り巻くネットワークづくり──である。

 今しばらくは、「withコロナ」の生活が続くとともに、今後、新種の感染症や自然災害にさらされる可能性もある。これからの通いの場の運営は、社会参加活動と健康危機管理をセットで進める必要がある。上記3つの要点に示すように、自粛期間は、感染症予防に注意した工夫が求められる。例えばREPRINTSシニアボランティアにおいては、読み聞かせ場所をサロンから公園に移したグループもある。花壇を挟んで2m以上の距離を保って、懐かしき街頭紙芝居のごとく保育園児を出迎えている(図4)10)

図4:公園で園児に紙芝居式読み聞かせを行う様子を表わす写真。
図4 コロナ禍でのアイデア─公園での紙芝居式読み聞かせ
(藤原佳典. 北区地域包括ケア推進計画. 2021, p6610)より引用)

 また、自粛期間は通いの場自体の目的や運営体制について振り返る充電期間でもある。この機に役員ボランティアはオンライン会議の手法を何とか習得した。パソコンモニターに、隣町のメンバー数人の顔が初めて並んだ時に、「文明開化!と叫んだのよ」と語る80歳の女性の笑顔が忘れられない。「通いの場」はともすれば、3密の場として近隣や関係者から不安視される可能性がある。そのような時であるからこそ、これまであまり関わりがなかった町会・自治会など地域団体の理解を得ることや、「通いの場」を支援する地元の地域包括支援センター、社会福祉協議会などの関連機関と連携することの重要性を再認識しているとの声を聞く。

 サロンや通いの場の主催者の大半は、地域のシニアボランティアである。筆者は彼らに対して、「3密」を避けて、センス(工夫し)、シナジー(協働効果)、スマイル(明るく)の「3S」で、通いの場を再開すべく勧奨している。工夫し新しいことにチャレンジすること自体が、何より認知機能の維持に寄与する11)。こうした機会を支援する多様なステークホルダーとのネットワークを構築する。そして、コロナ禍の不自由・不安は1人の高齢者としては当然のことである。しかし、それをプラス志向で対峙する明るさ、この「3S」。これこそが、幾多の困難を乗り越えてきたシニアボランティアから現役世代が学ぶべき、持続可能な地域戦略のヒントではなかろうか。

文献

  1. 厚生労働省社会・援護局: 令和2年度 地域共生社会の実現に向けた市町村における包括的な支援体制の整備に関する全国担当者会議. 会議資料3 重層的支援体制整備事業における具体的な支援フローについて. (2021年9月24日閲覧)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 厚生労働省老健局老人保健課: 一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会取りまとめ(本文)p6, 2019. (2021年9月24日閲覧)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 藤原佳典, 西真理子, 渡辺直紀 他: 都市部高齢者による世代間交流型ヘルスプロモーションプログラム─"REPRINTS"の1年間の歩みと短期的効果.日本公衛誌 2006; 53(9):702-714.
  4. Yasunaga M, Murayama Y, Takahashi T, Fujiwara Y, et al.: Multiple impacts of an intergenerational program in Japan: Evidence from the Research on Productivity through Intergenerational Sympathy Project. Geriatrics & Gerontology international. 2016;16(1): 98-109.
  5. Suzuki H, Kuraoka M, Yasunaga M, et al.: Cognitive intervention through a training program for picture book reading in community-dwelling older adults: a randomized controlled trial. BMC geriatrics. 2014; 14: 122.
  6. 村山陽, 安永正史, 竹内瑠美 他. 小学生時の世代間交流が中学入学後の地域交流参加意識に及ぼす影響: 絵本の読み聞かせ高齢者ボランティアREPRINTSの実践報告から. 老年社会科学 2012; 34(3): 382-393.
  7. Murayama Y, Yamaguchi J, Yasunaga M, et al.: Effects of Participating in Intergenerational Programs on the Development of High School Students' Self-Efficacy, Journal of Intergenerational Relationships. (in press) doi.org/10.1080/15350770.2021.1952133
  8. 根本裕太,倉岡正高,野中久美子 他:若年層と高年層における世代内/世代間交流と精神的健康状態との関連. 日本公衆衛生学雑誌 2018; 65(12): 719-729.
  9. 東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム: 「通いの場×新型コロナウイルス対策ガイド(第2版)」と「活動再開の留意点(第2版)」(2021年9月24日閲覧)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  10. 藤原佳典: 住民から発進する地域共生社会の実現に向けた取り組み. 北区地域包括ケア推進計画. 東京都北区. 2021, p66. (2021年9月24日閲覧)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  11. Park DC, Lodi-Smith J, Drew L, et al.: The impact of sustained engagement on cognitive function in older adults: the Synapse Project. Psychol Sci. 2014; 25: 103-12.

筆者

写真:筆者_藤原佳典先生
藤原 佳典(ふじわら よしのり)
東京都健康長寿医療センター研究所社会参加と地域保健研究チーム研究部長(チームリーダー)
略歴
1993年:京都大学病院老年科、1994年:兵庫県立尼崎病院内科、1996年:東京都立大学都市研究所、2000年:医学博士(京都大学)、東京都老人総合研究所地域保健部門、2011年より現職、2020年より東京都介護予防・フレイル予防推進支援センターセンター長(併任)
専門分野
公衆衛生学、老年医学、老年社会科学
過去の掲載記事

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.99(PDF:7.0MB)(新しいウィンドウが開きます)

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