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地域包括ケア時代におけるライフコースに応じた社会参加と健康

公開日:2020年3月31日 09時00分
更新日:2020年3月31日 09時00分

藤原 佳典(ふじわら よしのり)
東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム研究部長(チームリーダー)


1.地域包括ケアシステムと社会参加

 日本は、諸外国に比類ないスピードで少子超高齢化が進行している。

 65歳以上の人口は、現在、人口の約4分の1にあたる3,000万人を超えており、2042年の約3,900万人でピークを迎え、その後も、65歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されている。

 このような状況の中、約800万人を占める団塊の世代が75歳以上となる2025年以降は、国民の医療や介護の需要が、さらに増加することが見込まれている。

 このため、厚生労働省においては、2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、人生の最期まで自分らしく暮らし続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制「地域包括ケアシステム」の構築を推進している。

 地域包括ケアシステムにおいては、「介護」、「医療」、「予防」という専門的なサービスと、その前提としての「住まいと住まい方」と「生活支援・福祉サービス」が相互に関係し、連携しながら在宅の生活を支えるというものである。

 以上の地域包括ケアシステムの5つの構成要素に加えて、厚生労働省は、既に、2015年から開始した第6期介護保険事業計画における介護予防・日常生活支援総合事業の根幹として「自助・互助・共助・公助」の必要性を明示している(図1)。

図1:地域包括ケアシステムの介護・医療・予防・住まいと住まい方・生活支援・福祉サービスに加えて、「自助・互助・共助・公助」の必要性を明示した図。
図1:「自助・互助・共助・公助」からみた地域包括ケアシステム1)

 費用負担による区分の観点から、「公助」は行政サービスなど税による公の負担、「共助」は介護保険などリスクを共有する人同士(被保険者)の負担であり、「自助」には「自分のことを自己責任のもとでおこなう」ことに加え、市場サービスの購入も含まれる。これに対し、「互助」はボランティアや町会・自治会、近隣などが相互に支え合っているという意味で費用負担が制度的に裏付けられていない自発的なものとされる。

 次に、時代や地域による違いはあれ、2025年までは、全国的に高齢者のひとり暮らしや高齢者のみ世帯がより一層増加する。それに伴い、「自助」「互助」の概念や求められる範囲、役割が新しい形になる。例えば、都市部では、強い「互助」を期待することが難しい一方、民間サービス市場が大きく、「自助」によるサービス購入が可能であろう。一方、都市部以外の地域は、民間市場が限定的であるが故に一層「互助」の役割が大きくなるであろう。いずれにせよ、少子高齢化や財政状況から、「共助」「公助」の大幅な拡充を期待することは難しく、「自助」「互助」の果たす役割が大きくなることを意識した取組が必要である。

 特に、「自助」「互助」に加えて、介護福祉業界を含む、労働力人口の減少への対応という側面から「共助」「公助」においても担い手としての高齢者による社会貢献への期待は大きい。

 このように、一言で社会参加・社会貢献といっても高齢者はサービスの担い手としての立場もあれば社会的に孤立しないために社会参加を維持するサービスの受け手としての立場もある。一方、社会参加の形態も就労、ボランティア・NPO、地域活動、近所づきあいと多岐にわたる。また、高齢者が社会参加・社会貢献活動を開始し、継続するためには、本人あるいは家族の健康・介護の問題や死別離別といった多様なライフイベントと対峙していく必要がある。そうした高齢者の社会参加を長く支援するための地域のネットワークやシステムも欠くことができない。

2.サクセスフル・エイジングと社会参加のステージ

 Schrockは、高齢者の健康度を生活機能の側面から見た分布を示した。高齢期における健康度の推移は加齢に伴うライフコースと換言できる2)。一方、社会参加についての統一された語義はないが、実践的な活動と置き換えた場合には、「他者との相互関係を伴う活動に参加すること」と定義すると考えやすい3)。本来、高齢者の社会参加活動とは長い人生の中で徐々に対象や形態を変えながらシームレスに移行し継続されていくべきものである。

 そこで、筆者はその分布図をもとに、ライフコースに応じた社会参加活動の枠組みを体系的に示した(図2)4)

図2:ライフコースに応じた社会参加活動の枠組みを体系的に示した図。
図2:高齢者の機能的健康度による分布と社会参加活動の枠組み4)

 高齢期の望ましい生き方を「サクセスフル・エイジング」と呼び、その条件を1)長寿、2)高い生活の質、3)社会貢献(productivity)としている5)。本稿では、高齢者の社会参加・社会貢献をproductivity6)の理論に基づき操作的に(1)就労、(2)ボランティア活動、(3)趣味・稽古・学習・保健活動、(4)友人・近所づきあい等のインフォーマルな交流、(5)要支援・要介護期のデイ(通所)サービス利用の5つのステージと定義する。

 高齢者の社会参加のステージは重層的であり、求められる生活機能により高次から低次へと階層構造をなす。例えば、雇用や金銭的報酬による責任が伴う就労を第一ステージとすると、就労が困難になった者の主な社会参加のステージは、次に原則として無償の社会貢献である第二ステージのボランティアへ移行する。他者への直接的な貢献に負担を感じるようになると自己研鑽・自己完結する第三のステージである趣味・稽古・学習・保健活動へと移行する。第一ステージから第三ステージの活動の多くは、団体・組織活動あるいは、他者との協調・連帯が強く求められる場合が多い。更に生活機能が低下した要介護状態の前段階である、フレイルな状態7)でもこれらの制約に縛られない第四ステージの友人・知人などとの私的な交流や近所づきあいは継続しやすい。更に、要支援・要介護状態に進むと専門職や世話人ボランティア等のスタッフによるサポートを受けながらも利用者やスタッフらと交流が可能である第五ステージの通所サービス(デイサービス)や地域のサロン、カフェの利用へと移行する。

 逆に、ステージを上る場合もある。いわゆる、地域デビューでは、友人・知人などとの私的な交流がきっかけで趣味・稽古をはじめ、熟練してくるとボランティア活動へ至る人もいる。

 いずれにせよ、高齢者の社会参加については介護予防の観点から見ると、より上位の活動を維持することが長期的な生活機能の維持に寄与する可能性がある。

3.これからの社会参加と健康

 従来は、高齢者の健康増進にむけた社会参加・社会貢献の方策の一つとしてボランティア活動が着目されてきたが8)、近年では、第一ステージである就労も注目する必要がある。その背景には、高齢者の経済的自立や生きがいを促す点9)や、女性に比べて社会的孤立傾向が強いとされる男性の社会参加活動10)として支持される可能性がある点が考えられる。

 近年、老年学・老年医学、公衆衛生学領域等の研究では、高齢者の社会参加、ひいては社会貢献が健康増進や介護予防に資するエビデンスが蓄積されてきた。一方では、第8期介護保険事業計画に向けた一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会11)においては、多様な通いの場の展開が期待されている(図3)。その背景には、地域共生社会を目指す我が国には、あらゆる世代や背景を持つ人々がおり、社会の一員として高齢者も時には担い手となり、時には支えられる立場となることが明示されている。

図3:第8期介護保険事業計画に向けた多様な通いの場の展開図。
図3:介護予防に資する通いの場の取組み11)

 本特集では、高齢者の社会参加と健康長寿について社会参加のステージに準じて、当該分野の第一人者に寄稿頂いた。もって、我が国の高齢者における社会参加の現状やトレンド、それがもたらすエビデンスを明らかにするとともに、実社会における多種多様な高齢者の社会参加・社会貢献の現場・モデルを紹介したい。

文献

  1. 三菱UFJリサーチ&コンサルティング:地域包括ケアシステム構築に向けた制度及びサービスのあり方に関する研究事業報告書『地域包括ケア研究会報告書 地域包括ケアシステムと地域マネジメント』.2016.(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. Schrock, M. M. (1980) Holistic assessment of the healthy aged, Wiley, New York,7-9.
  3. Levasseur, M., Richard, L., Gauvin, L., & Raymond, E. (2010) "Inventory and analysis of definitions of social participation found in the aging literature: proposed taxonomy of social activities", Social science & medicine, 71(12): 2141-2149. doi: 10.1016/j.socscimed.2010.09.041.
  4. 藤原佳典(2014)高齢者のシームレスな社会参加と世代間交流―ライフコースに応じた重層的な支援とは.日本世代間交流学会誌,4: 17-23.
  5. 柴田博(2002) サクセスフル・エイジングの条件. 日本老年医学会誌,39:152-154.
  6. Kahn,R.(1983) "Productive behavior: assessment, determinants, and effects" J Am Geriatr Soc, 31,pp.750-757.
  7. 日本老年医学会(2014) フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  8. 藤原佳典, 杉原陽子, 新開省二 (2005) ボランティア活動が高齢者の心身の健康に及ぼす影響-地域保健福祉における高齢者ボランティアの意義-, 日本公衆衛生雑誌, Vol.52,No.4,p.293-307
  9. 藤原佳典, 小池高史 (2010) ジェロントロジー・ライブラリーII: 高齢期の就業と健康,定年後も働き続ける秘訣, 社会保険出版社
  10. Fujiwara,Y., Nishi,M., Fukaya,T., Hasebe,M., Nonaka,K., Koike,T., Suzuki,H., Murayama,Y., Saito,M., Kobayashi,E. (2017) Synergistic or independent impacts of low frequency of going outside the home and social isolation on functional decline: A 4-year prospective study of urban Japanese older adults. Geriatrics & Gerontology International, vol.17,no.3,p.500-508
  11. 厚生労働省老健局老人保健課(2019) 一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会取りまとめ(本文)P6(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

筆者

写真:筆者の藤原佳典先生
藤原 佳典(ふじわら よしのり)
東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム研究部長(チームリーダー)
略歴
1993年 京都大学病院老年科、1994年 兵庫県立尼崎病院内科、1996年 東京都立大学(現・首都大学東京)都市研究所、2000年 京都大学大学院医学研究科修了、医学博士、東京都老人総合研究所地域保健部門、2011年より現職。
専門分野
公衆衛生学、老年医学、老年社会科学

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