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ボランティア・生涯学習活動と健康長寿

公開日:2020年3月31日 09時00分
更新日:2020年3月31日 09時00分

鈴木 宏幸(すずき ひろゆき)
東京都健康長寿医療センター研究所 研究員(係長)


はじめに

 高齢期における社会参加活動は、生きがいに寄与するだけでなく、心身の健康や寿命に好影響を及ぼすことが期待される。科学研究による検証に頼るまでもなく、外出の機会があれば身体的な活動量が増加することは容易に想像できる。出先で友人・知人と交流すれば会話が生まれ、何気ない内容であろうとも「相手の様子・表情を含めて話しの内容を理解する」、「自分の知識、経験、考えから返答する」という知的な活動が付随することとなる。長期間にわたって使用していないことが機能低下を招く、いわゆる廃用症候群を鑑みれば、社会参加活動と健康長寿に関連がみられることは自明であろう。これを前提とし、高齢期における社会参加と健康長寿に関する研究は「何をどうすれば何に良いのか(もしくは悪いのか)」という事を個人の状態を踏まえて言及することとなる。健康状態が良好なシニア世代に着目すると、社会参加活動には多様なニーズに基づく多様な形態が想定できる。本稿では社会参加活動としてのボランティア活動および生涯学習活動について取り上げる。

ボランティア活動と健康長寿の関連

 ボランティア活動と健康長寿の関連に着目してみると、高齢期におけるボランティア活動は身体的制約の減少、抑うつ症状の減少、認知機能の向上、主観的幸福感の向上、死亡率の低下などにつながることが報告されている1)。ボランティア活動を実践するために必要となる心身機能は幅広く、求められる水準も比較的高度であることから、社会参加活動の中でも豊富な刺激を受けるボランティア活動は広範に良好な状態をもたらすことが考えられる。とはいえ、ボランティア活動にも様々な取り組みがある。例えば毎月定期的に開催される子ども食堂のボランティア活動と、年に数回だけ近所の側溝を掃除する町会のボランティア活動を同等のものと評価するには無理がある。

 どのようなボランティア活動をどれくらい行えば健康長寿に有効かということについて、Nonakaらによる報告がある2)。首都圏A市の65歳以上かつ要介護度4以上と入所施設者を除く約1,300名の住民を対象とした4年間の追跡研究にて、4種の社会参加活動グループ(ボランティア活動、趣味・学習活動、町会、老人会)の活動頻度と生活機能の関係について検証が行われた。性別および初回調査時の年齢、主観的経済状態、主観的幸福感、生活機能を調整して分析した結果、いずれのグループにも所属していない人達に比べて、趣味・学習活動に月1回以上参加しているグループは1.57倍、ボランティア活動に月1回以上参加しているグループは3.87倍、生活機能を維持する可能性が高くなっていた。さらに、分析の調整に学歴(教育年数)を加えると趣味・学習活動の効果は消失してしまうが、ボランティア活動に月1回以上参加しているグループはその有効性が保たれていた。町会や老人会も主要な社会参加活動ではあるが、生活機能の維持という点では関連がみられなかったことから、社会参加活動の中でもボランティアのような様々な刺激が含まれる活動が健康長寿をもたらすことが示唆される。また、月に1回未満、すなわち年に数回程度のボランティア活動や趣味・学習活動にも関連はみられなかった。おそらく、生活機能の維持に好影響をもたらすような良い活動であったとしても、友人や知人に声をかけられた時だけ従事するような活動では、その効果は発揮されないことが考えられる。ボランティア活動の総時間に着目した米国の研究では、心身の健康維持のためには活動時間は長いほどよいが、好影響をもたらす最大時間は年間で100時間ほどとの指摘がある3)。これらの事から、健康長寿のためには定期的かつ無理のない範囲でボランティア活動に取り組むことが重要となる。この研究を拡大解釈すれば、ボランティア活動に匹敵するような他の活動、例えば新たな取り組みに挑戦するような町会や、多方面で盛んに活動している活発な老人会の活動を月に1回以上定期的に行っている場合には生活機能の維持効果が期待できる。

 ただし、ボランティア活動と健康長寿が関連するからといって、嫌々参加する、他者を無理矢理に参加させるというような形での参画ではその効果は期待できない。ボランティア活動のモチベーションと死亡率を調べた研究では、頻繁なボランティア活動は4年後の死亡率を低下させるものの、その効果は「誰かのためになる」という他者志向を動機としている人に限ってみられ、自己優先的な理由(例えば、義務的にやる)のみの人ではボランティアをしていない人と同等の死亡率であったことが報告されている4)。同じボランティア活動に取り組んでいたとしても、文字通り自発的かつ他者との関係性を意識して取り組むことが必要であることがうかがえる。

 高齢者を無理にボランティア活動に従事させるのではなく、適切な形で定期的な活動に誘導することで健康長寿にとって有益な活動となる。このような誘導の優良事例として、絵本の読み聞かせ方法の習得による認知機能低下抑制プログラムが挙げられる5)。このプログラムは認知的予備力仮説(認知的予備力仮説では認知機能を反映する脳内神経ネットワークは頻繁に使用することによって強固になり、病的な神経ネットワークへの侵襲に備えることができると想定されている)に基づいて開発されており、参加者は認知機能低下抑制を目的として、知的活動が豊富に含まれる絵本の読み聞かせ方法の習得に取り組むこととなる。プログラムは絵本の知識、選書方法、読み聞かせに必要な身体づくり、感情表現などをテーマとして、週に1回、約3ヶ月間にわたって行われ、最終回では参加者同士でのグループ発表会が行われる。プログラムの介入効果を無作為化比較試験により検討したところ、記憶機能の向上を示す介入効果が認められ、認知機能の低下抑制に寄与することが示された。参加者は自身の健康増進を目的に参加していたものの、プログラム受講後には9割以上の参加者が地域で活動を実践したいとの希望を示し、5割以上の参加者が自主グループを結成しボランティア活動を実践しており、自身の健康増進を目的としてスキルを習得し、そのスキルの獲得によってボランティア活動へと導くことが可能となっていた。

生涯学習活動と健康長寿の関連

 絵本の読み聞かせ方法の習得による認知機能低下抑制プログラムでみられたような社会参加活動のきっかけとなる新しい学びは生涯学習活動でもあり、知的活動が中心となることから、上述の認知的予備力仮説に基づく認知機能の低下抑制という形での健康長寿への好影響が期待できる。この知的活動という観点から生涯学習活動について取り上げる。

 知的活動が認知機能の低下抑制に有効であることは認められつつあるが、知的活動であれば何でも良いというわけではない。例えば、新しい道具の使い方を学んでいる時や好きな音楽を聴いているときでも脳は使われている。具体的にどのような知的活動が認知機能にとって良い刺激をもたらすかを検討した研究では、音楽鑑賞やDVD鑑賞、パズルなどに取り組むグループと比較して、カメラの撮影技術をプロカメラマンに教わり、撮影した写真をパソコンで編集する技術を学習したグループは3ヶ月後に記憶機能の向上がみられたことを報告している6)。この研究から分かることは、慣れたことを実践したとしても脳の刺激にはならず、新しいことを集中して学習するということが認知的予備力にとって重要であるということであろう。考えてみれば当然のことで、音楽鑑賞やDVD鑑賞のような負荷が低い刺激を繰り返したとしても神経ネットワークの強化に繋がるとは考えにくい。一方で、これまでに経験したことがないことを学ぶというのは、取り組む時には非常に大変だが、その大変さこそが負荷となって、神経ネットワークの強化に繋がっていると考えられる。

 新しい学習のような「高度な知的刺激」には「コミュニケーション」が伴うことが多く、これまでの研究では知的刺激が重要なのか、コミュニケーションが必要なのかを明確にすることができなかった。しかし、近年の情報機器の発達により、インターネットや動画を用いることで交流を持たない形での学習の効果について検討することが可能となった。そこで、認知機能低下抑制に効果的とされる高度な知的刺激とコミュニケーションの要素を含む題材である卓上ゲームとして日本文化に根付いている囲碁を活用した介入プログラムの開発と効果評価を行った7)。囲碁の経験があまり無い高齢者の方に研究協力を依頼し、通常の囲碁教室のようにグループで学習する「集団群」と、人との接触を伴わずにタブレットPCを用いて個人で学習する「個人群」、囲碁に関連する学習をしない「対照群」に無作為に振り分けた。各群を対象にプログラムの実施前後に認知機能検査を実施した結果、集団群と個人群ではどちらも対照群と比較して視覚情報処理に関する記憶機能が向上していた。そして、その効果は個人群よりも集団群でより大きくみられた。また、1年後に実施したフォローアップ調査の結果では、集団群の方が囲碁を継続して実施していたほか、囲碁を継続している人は精神的健康が向上することも併せて示された。集団群と個人群のどちらも記憶機能が向上していたことから、新しい学習そのものが認知的予備力の向上に役立っているものと考えられるが、人とのコミュニケーションが伴う形で学習する方がより有効であるということが示された。また、活動の継続という観点からは集団で学ぶことが必要であることも示唆された。神経の働きに着目する認知機能低下抑制においては、単純に高度な知的刺激があるだけでなく、コミュニケーションを伴うグループ活動型であること方がより有効であることがうかがえる。

まとめ

 本稿では健康なシニア世代を想定してボランティア活動および生涯学習活動がもたらす健康長寿への好影響について述べた。総じて言えば、自分がやりたいと思える活動を通して「身体をつかう」、「頭をつかう」、「気をつかう」ことが健康長寿にとって重要であり8)、ボランティア活動や生涯学習活動はそのような機会が豊富に含まれている。このような社会参加活動は地域への貢献や波及効果も見込むことが出来ることから、個人の健康長寿を超えた好影響を見込む事が出来る。

文献

  1. Anderson ND, Damianakis T, Kroger E, et al. The benefits associated with volunteering among seniors: a critical review and recommendations for future research. Psychol Bull. 2014;140(6):1505-1533.
  2. Nonaka K, Suzuki H, Murayama H, et al. For how many days and what types of group activities should older Japanese adults be involved in to maintain health? A 4-year longitudinal study. PLoS One. 2017;12(9):e0183829.
  3. Morrow-Howell N, Hinterlong J, Rozario PA, Tang F. Effects of volunteering on the well-being of older adults. J Gerontol B Psychol Sci Soc Sci. 2003;58(3):S137-145.
  4. Konrath S, Fuhrel-Forbis A, Lou A, Brown S. Motives for volunteering are associated with mortality risk in older adults. Health Psychol. 2012;31(1):87-96.
  5. Suzuki H, Kuraoka M, Yasunaga M, et al. Cognitive intervention through a training program for picture book reading in community-dwelling older adults: a randomized controlled trial. BMC Geriatr. 2014;14:122.
  6. Park DC, Lodi-Smith J, Drew L, et al. The impact of sustained engagement on cognitive function in older adults: the Synapse Project. Psychol Sci. 2014;25(1):103-112.
  7. Iizuka A, Suzuki H, Ogawa S, et al. Does social interaction influence the effect of cognitive intervention program? A randomized controlled trial using Go game. Int J Geriatr Psychiatry. 2019;34(2):324-332.
  8. 鈴木宏幸, 渋川智明. 認知症対策の新常識. 日東書院. 2018.

筆者

写真:筆者の鈴木宏幸先生
鈴木 宏幸(すずき ひろゆき)
東京都健康長寿医療センター研究所 研究員(係長)
最終学歴
2011年 中央大学大学院 文学研究科心理学専攻 博士課程修了
略歴
2008年 老人総合研究所 非常勤研究員、2012年 東京都健康長寿医療センター研究所 研究員、2014年 東京都健康長寿医療センター研究所 研究員(主任)、2018年 現職に至る。
専門分野
心理学

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