健康長寿ネット

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要支援・要介護期の社会参加と健康長寿

公開日:2020年3月31日 09時00分
更新日:2020年3月31日 09時00分

小川 敬之(おがわ のりゆき)
京都橘大学健康科学部作業療法学科 主任教授


はじめに

 1986年、カナダのオタワにて開催された第1回健康づくり国際会議にて採択されたオタワ憲章(WHO作成)1)、2)では健康づくりに向けた5つの活動領域を1.ヘルスサービスの方向転換、2.個人的なスキルの開発、3.コミュニティの活動強化、4.支援的な環境の整備、5.健康的な公共政策づくり、としてまとめている。

 これらは30数年を経てもなお、今日のヘルスプロモーションの礎として、様々な施策にも反映されており、日本においては健康日本21で強調されているソーシャルキャピタルの概念や地域共生社会の創生、地域包括ケアシステムの構築、認知症施策推進大綱のテーマである「共生」と「予防」などはその流れを汲む具体的な行動指針だと思われる。しかしながらそれらの指針を地域社会の中で具体的にどのように展開するかは課題としてあり、地域における実践の中で方策を考え、試行錯誤の中から形作っていくことも必要だと考える。

 以下にそうしたことを意図として行った一つの実践をご紹介する。

1.内職的作業(仕事)プロジェクト

 宮崎県の諸塚村は高齢化率50%を超えた約1,700人が住む集落であり、診療所、デイサービス、特養がそれぞれ1か所と社会資源の限られた村である。その村で公民館など集会場を利用した内職的作業(デリバリー作業)が認知症の方たちも含んだ高齢者の人たちを元気にしている。

 筆者がこの村に関わるようになって13年以上経過するが、当初、16ある集落を保健師と一緒にヘルスプロモーションの機運を高めることを意図としながら巡回し、健康体操や認知症の話を行っていた。しかしながら、話や体操をした後の数日は自主的な活動があるものの継続しないことが悩みの種だった。そこでまずは継続的に一定の場所に来る行動を誘発できないかと、地域包括支援センター、社会福祉協議会(社協)、行政職員(村職員)、診療所スタッフと協議を重ね、もともと農業やシイタケ栽培、林業など数少ない産業を村人が一丸となって支えてきた歴史があり、働く意識がとても高いことがわかり、「仕事」を介した活動を提供してみてはどうかという話になった。そこで村内にある企業を回り、ようやくたどり着いたのがめんぱ(檜、杉の木で制作する弁当箱)制作の職人さんの会社であった。高齢者でも可能な作業としてお櫃にセットで作っている「しゃもじ」を商品になるように磨いて仕上げてもらう作業はどうかとの案をいただく。サンドペーパーで磨く作業であれば少しの工夫でほぼ全員が可能であると村職員、地域包括支援センター職員と合意した。

 まずはモデル的に1か所の公民館で実施することにした。事前に回覧にて告知をしておき、当日は6名の参加者があった。村の担当職員が仕事の概要説明し、筆者が実際の作業について説明を行い、弁当箱の作成の職人が現物を見せながら工程を説明した。はじめは怪訝そうな表情であったが、近所に住んでいるとはいえ、こうして皆で集まるのは久しぶりとのことで、話が弾みながら手作業を実施していた。また、仕事としての活動であり、いくらかの収入があることも後押しになったようである。以後、週1回、10時から12時の2時間実施、サポートは地域包括支援センター、社会福祉協議会、村職員、家族で交互に担当して行うことにした(図1)。

図1:宮崎県の諸塚村での内職プロジェクトのイメージ図。
図1 プラットフォームでの協議(イメージ図)

 デリバリー作業の参加者の中に、レビー小体型認知症のAさんがおられた3)。パーキンソンなどの身体症状は無かったが、幻視があり、家族もこの幻視に悩まされて軽いうつ状態になっていた。「はやく入院治療をしてほしい」との要望もあり、多少距離を置いたほうが家族全体としては良いだろうと考え、主治医とも相談したうえ、病院を探すことになった。そこで、病院が見つかる間、デリバリー作業に参加することを提案し、参加することになった。

 作業初日、Aさんははじめ慣れない手つきで作業をしていたが、すぐに要領がわかり、次第に会話をしながらの「ながら作業」に変わっていった。「これは何になるのか?」などの質問もあり、「しゃもじを作って、店に置いてもらい、売れるとその分の給与が、出るのです(職員)」「それは一生懸命磨かないといかんな!」と会話も弾み、初日の作業を終えた。次回の日程と時間を書いた用紙を渡し、その日は解散した。Aさんも周囲と談笑しながら、特に問題なく作業を行っており、手伝いに来ていた家族もいつもと違う表情をひさしぶりにみた様子で、微笑みながら眺めていた。

 その後は独居の参加者がときどき参加することを忘れ不参加になることがあったが、作業日にはほぼ全員が公民館に集まり作業を行った。

 Aさんは作業の参加をとても楽しみにするようになり、作業がない日にも公民館まで行くことがあった。しかし集まりがないからといって落胆する様子もなく、公民館周辺の草むしりを行い家に戻っていた。作業がある日は公民館内で作業を行い、ない日は草むしりや周辺の散策を行い家に帰るという行動が習慣化した。作業に行く日には「今日は稼いでくる!」と冗談交じりに語りながら家を出て行くようになる。

 デリバリー作業開始1か月後のこと、Aさんの家族(嫁)から相談があると言われ、面談を行った。デリバリー作業開始前には入院を希望していたが、仕事に行くと言って出かける元気な母を見ていると、もう少し家で看てみようと思う、との話であった。結局、その後2年間は在宅での生活が継続した。

 作業中にも幻視が見え、作業を行っているテーブルに知らない人が座っているなどの話をすることがあるが、作業仲間は「はい、はい」と聞き流すようにしてAさんの話を聞き、作業に打ち込んでおり、幻視がみられてもグループ全体の動きに大きな影響がなく作業が進んでいく。これまでも何度となく、同じような場面があり、当初は参加者一同も驚いて心配そうにAさんを見ることが多かった。しかし、何度か経験するうちに幻視そのもので作業場面において困ったことが起こるわけではないこと、幻視やもの忘れもうまくかかわれば、昔のままのAさんであることが同じ作業を行う場を通して皆に意識されることで、認知症の症状も包み込むコミュニティができていた。認知症に対する地域包括ケアシステムの縮図を見たような思いであった(図2)。

図2:しゃもじの磨き作業の風景写真
図2 しゃもじの磨き作業の場面

 その後、Aさんの認知機能や介護負担を経時的に測定したのが表1である。認知機能やBPSDの変化はほとんどないが、家族の介護負担が徐々に減少している点は、在宅支援を行う際の重要な視点を示している。つまり当事者の障害の程度は在宅生活継続に大きく関係するが、症状があっても双方の関係性を再構築することで生活を共にする可能性は広がるということである。

表1 Aさんの認知機能等の経過
評価項目平成26年5月平成26年8月平成27年4月
MMSE※1 15点 14点 16点
DASC21※2 41点 41点 45点
DBD13※3 18点 16点 18点
Zarit8※4 9点 5点 3点

 人の役に立つこと、稼ぐこと、ひとから頼りにされること、さらにはその土地の文化を誇りに思うこと、土地に根付いた産業などは年齢や病気に関係なく人の心や体を動かし、本来の健康で素朴なその人のあるべき姿を活性化する、まさにヘルスプロモーション推進のキーワードであるように思われる。

※1 MMSE:
MMSE(Mini-Mental State Examination)は時間の見当識、場所の見当識、3単語の即時再生と遅延再生、計算、物品呼称、文章復唱、3段階の口頭命令、書字命令、文章書字、図形模写の計11項目から構成される30点満点の認知機能検査です。
※2 DASC21:
DASC21は地域包括ケアシステムにおける認知症の評価であり、21の質問から構成されており、一日の計画や服を選ぶ、交通機関の使用、買い物、金銭管理、電話、食事の準備、服薬管理、問題解決などの項目が含まれています。
※3 DBD13:
認知症の行動・心理症状(BPSD)を鋭敏に感知できる評価尺度として28項目からなる認知症行動障害評価尺度(Dementia Behavior Disturbance scale: DBD)があります。DBDは、1990年に開発され、広く臨床,介護現場で使用されているものです。町田らは、28項目あるDBDから因子分析を用いて13項目を選び、DBDの短縮版としてDBD13を作成しました。
※4 Zarit8
米国のZaritは介護負担という概念を定量的に評価する指標を開発し、1980年にZarit介護負担尺度を発表しました。この尺度は、介護によってもたらされる身体的負担、心理的負担、経済的負担を総括して介護負担として測定することを可能にしています。荒井は1997年に日本版を作成し、さらに実際の介護の現場でより簡便に介護負担を測定できるようにZarit介護負担尺度日本語版の短縮版(J-ZBI8)を開発しました。

2.自助、互助の芽生え

 この村ではさらに面白い取り組みが加速している。しゃもじ磨きをしている高齢者と関わっている地域包括支援センターの提案で、村で使用するごみ袋の制作はどうかとの提案が持ち上がる。「自分たちの村で使用するごみ袋は自分たちで!」という思いのもと、自治体、業者と相談をし、ごみ袋に村のシールを張る作業と10枚一組のセットを作る作業を仕事として活動することになった(図3)。

図3:ごみ袋セットの制作風景写真。
図3 ごみ袋セットの制作場面

 また、第3弾としてクヌギの木から作る絵馬の作成にも取り組んでいる。シイタケ栽培が主要な産業の一つであるこの村では、古くなった大きなクヌギの木から作成した苦抜き(クヌギ)地蔵を村の要所に祭っている。小さなクヌギの木は破棄していたが、それを破棄せずスライスにして絵馬を作り、そこに苦抜き地蔵の焼き印を押して販売してはどうかとの提案がされ、現在その制作にも多くの高齢者が関わっている(図4)。それぞれの活動では大きな収入にならないが、仕事的作業として対価が払われる仕組みと内職を通してつながっているコミュニティは、村民の主体性を動かす要因になると思われた。

図4:クヌギの木から作られた苦抜き地蔵と絵馬の写真。
図4 クヌギの木から作られた「苦抜き地蔵」と絵馬

 地域包括ケアシステム構築において必要とされている「自助」「互助」「公助」「共助」の「自助」「互助」の醸成が地域づくりには要だと思われるが、この村ではデリバリー作業を通して自然と「自助」「互助」の動きが活性化した印象であった。

 地域特性や町の大きさによりその形や実施形態も違ってくるであろうが、前述したように1.地域のつよみを活用(その地域の特産、歴史)、2.参加者の役割感(仕事でもなんでもよいが自分の出番がある)、3.その役割に対する対価(社会と繋がっている)、4.作業するよろこび(効力感)は地域包括ケアシステムの構築を推進する重要な概念だと思われる。

 このしゃもじの作業は当初2つの公民館で開始した。約6年経過した現在、表2に示すように5か所の公民館で実施するまで広がっている。

表2 仕事的作業の経過
年度地区頻度平均参加者しゃもじごみ袋※5絵馬その他収支(円)※6
平成25年度 A地区 1回/週 3.4名 約600本 235,500
B地区 1回/2週 3.5名 約130本
平成30年度 A地区 不定期 4名 288本 162枚 87本
(木べら)
176,050
B地区 1回/月 4.4名 1,039セット 474,504
C地区 1回/週 4.9名 927セット
D地区 2回/月 10.2名 700セット
E地区 1回/月 3.6名 188セット
令和1年7月 A地区 2回/週 3名
B地区 1回/月 7名
C地区 1回/週 10名
D地区 2回/月 15名
E地区 1回/月 5名
個人宅1 不定期 1名 10本
個人宅2 実施予定 1名

※5 参加人数が多くても、出席しているだけの人もあり、作業効率と参加人数は比例していない。

※6 仕事の対価は制作数に応じて、上半期、下半期にてお支払いしている。

 さらに興味深い動きとして、それまで公民館までが遠いので行くことができない、みんなでワイワイやるのが苦手という方たちに対しても、仕事的な作業のうわさが耳に入り、地域包括支援センターの職員の巧みな紹介により、公民館に行くことができない方たちには在宅に作業(仕事)をデリバリーして、一定の作業が終われば後日回収して、その分の工賃をお支払いする仕組みができつつある。既存の仕組みに合わせるのではなく、それぞれの参加の仕方に合わせた活躍の場を様々なセクターと協議をして提供する動きが出てきていることは、対象者も含んだそれぞれのセクターとの信頼関係を構築することにもなり、まさにこの村のソーシャルキャピタルを推進するうえで大切な要素だと感じた(図5)。

図5:自治体・専門職・診療所のプラットフォームと地域の産業を地域包括支援センターおよび自治体職員と企業がデザインし作業者に作業を発注。製品を観光協会と連携し道の駅等で販売する仕組みを示す図。
図5 プラットフォームを起点にした村(中山間地域)での具体的な取り組み

3.ハイブリットワーキングシステム

 介護保険で認定されている要支援者1および2、要介護者1の方たちはケアを受ける度合いもさほど高くなく、自分でできる事も多い。前述のAさんのように持てる力で自分のできる事に精を出して活躍する機会があると、生活に潤いができ、よりよく生きていくきっかけになる可能性も高い。疲れた時にはケアを受け、元気な時には働くなど状況に応じて、自分の最大限の力が発揮できるハイブリッドなワーキングシステムの構築が必要である。

 厚生労働省は2018年に「若年性認知症の方を中心とした介護サービス事業所における地域での社会参加活動の実施について(平成30年7月)」(介護保険サービスを受けていても有償ボランティアとしての活動を行うことも可能)を各都道府県などに事務連絡として通達している4)。国としてもそうした動きを後押ししている。

 ただ、これらの動きも、これまで働くということで福祉と企業がしっかりと話し合う歴史も浅く、デイサービスでもどのように動いてよいのかわからず、手をこまねいている現状を耳にする。はじめは公的機関が主導しながら、双方の仲立ちをしていく緩やかな(意見が出やすい雰囲気の)プラットフォームを構築し、双方で「やれそうだ」との意識の醸成を図っていく必要がある。まずは共通言語をもってしっかりと話し合う場がたくさんできると良いのではないだろうか。

最後に

 2019年11月東京都は「都民の就労の支援に係る施策の推進とソーシャルファームの創設の促進に関する条例」の議案を提出した5)。様々な理由から就労に困難を抱える人が、必要なサポートを受けながら、他の従業員と共に働く社会的企業を推進するものである。こうした動きが出てきたことは誠に喜ばしいことであるが、企業と連携するのであれば、企業側にとってもメリットが必要であり、そのメリットとは収支のバランスであろう6)。福祉とビジネスモデルは一見相いれない要素のように感じるが、持てる力を最大限発揮しながら楽しく元気に生きるという発想のもと、障害などを持ちながら生活に困難を抱える方たちの「働く」も考えていくべきである。大切にケアを受ける、慢性的な治療を受けるだけではなく、自分で役割を持ち、社会と繋がっている(仕事をしている、稼いでいるなど)ことのほうが、かえって人を健康的にし、よりよい生き方を後押しするように思える。ともあれ国レベルの大きなものではなく、自治体レベルでその土地、文化、そこに住む人のことをわかった者たちが集う企業、医療、福祉、その他関係者による緩やかなプラットフォームの早急の構築を望む。

文献

  1. 田島 明子、いとう たけひこ:介護予防においてソーシャルキャピタルを活用した研究に関連する文献のレビュー 聖隷社会福祉研究 11, p64-72 2018
  2. 小川 敬之 認知症の作業療法 医歯薬出版株式会社 p231-238 2015
  3. 厚生労働省 認知症施策関連ガイドライン(手引き等)、取組事例(2019/12/23閲覧)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 厚生労働省老健局 若年性認知症の方を中心とした介護サービス事業所における 地域での社会参加活動の実施について(事務連絡 平成30年7月27日)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  5. 東京都 都民の就労の支援に係る施策の推進とソーシャルファームの創設の促進に関する条例(新設)(2019/12/23閲覧)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  6. 寺島 彰:わが国のソーシャル・ファームを発展させるための考察 浦和論叢 第50号 p63-83 2014-2

筆者

筆者:小川敬之先生の写真。
小川 敬之(おがわ のりゆき)
京都橘大学健康科学部作業療法学科 主任教授
最終学歴
2016年 宮崎大学大学院 医学研究科卒
略歴
1986年 労働福祉事業団 神戸労災病院、1989年 日本赤十字社 今津赤十字病院、 1998年 日本赤十字社 特別養護老人ホーム豊寿園、2000年 九州保健福祉大学健康科学部作業療法学科、2013年 NPO法人 地域支援センター つながり 理事長、2016年 合同会社 SA・Te黒潮 副代表 兼 ダイバーシティ開発部長、2018年 京都橘大学健康科学部作業療法学科 教授、2019年 京都大学 非常勤講師。
専門分野
老年期の作業療法、認知症の作業療法と就労支援

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