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高齢者と食とコミュニケーション

公開日:2022年10月14日 09時00分
更新日:2022年11月 9日 13時45分

熊田 孝恒(くまだ たかつね)

京都大学大学院情報学研究科教授

はじめに

 2020年1月頃から始まった、新型コロナウイルス感染症の蔓延(いわゆる「コロナ禍」)は、われわれに、他者とのコミュニケーション、とりわけ、会食を通じたコミュケーションの重要性をあらためて認識させることとなった。われわれは、常日頃から他者との交流を望んでおり、それによって心身の状態の安定を保っている。しかしながら、コロナ禍以前には普通に行われていた他者との交流が、コロナ禍においては大幅に制限されることとなった。他者との交流は、高齢者にとっては、とりわけ重要な意味を持っている。ここでは、「食事」を切り口として、高齢者と食とコミュニケーション、特に、他者との食事を通じたコミュニケーションの意義やそれらとテクノロジーとの関係を考えてみたい。

高齢者における社会的相互作用※1の重要性

 加齢に伴う認知機能の低下を避けることは困難である。認知機能の低下には、さまざまな要因が複雑に関与していることが明らかになっているが、一方で、その低下を防ぐ要因もいくつか知られている。そのうちの1つが社会的活動や他者との交流である。たとえば、家族や友人との社会的相互作用をしている高齢者や家族や友人から感情的サポートを受けている高齢者は、そうでない高齢者に比べて高い認知機能を示すことが知られている1)

※1 「社会的相互作用」とは、個人間やグループ間において、お互いに働きかけやコミュニケーションがあり影響し合うこと。

高齢者の食事におけるコミュニケーションの重要性

 ここでは、社会的交流の1つとして、誰かと一緒に食事を取ること(いわゆる「共食」)を取り上げる。共食は、人間のさまざまな心理面に影響を及ぼすことが知られているが、特に、高齢者における共食の効果は、以下のような2点にまとめることができる。

 第1に、1人での食事(いわゆる「孤食」)は、特に高齢男性において、うつ病などの精神疾患の危険因子の1つである2)。一方で、高齢者では、食事の楽しみはQOL(Quality of life)と負の相関がある。つまり、食事を楽しんでいる高齢者ほどQOLが高い3)。したがって、共食は、高齢者の精神的、心理的な健康を維持・改善する可能性がある。

 第2に、高齢者では食欲不振の訴えが多く、結果的に栄養状態の不良からフレイルに至る危険性がある。一方、誰かと一緒に食事を取ると食欲が増進され、結果的に食事の摂取量が多くなり4)、また、食事の味覚が好ましい方向に変化すること、つまり、より美味しくなることも知られている5)。ゆえに、共食には高齢者の栄養状態の悪化を防ぐ可能性もある。

高齢者と共食

 共食はすべての高齢者がこれまで経験し、その楽しさを実感し、また、多くが望んでいる行動である。われわれがコロナ禍の始まる直前に実施した調査(2020年2月)とその2年後のコロナ禍の最中に実施した調査(2022年2月)では6)、いずれも、男性では年齢が上がるにしたがって共食を希求するようになり、女性では若齢者(20-30歳代)と高齢者(60歳以上)で共食の希求が高くなった(図1)。このコロナ禍の前と最中で比較すると、男性の20歳代と40歳代で希求性が高まったのに対し、女性では40歳代、50歳代で希求性が低下した。高齢者では、男性、女性ともに希求性が高く、コロナ禍の影響はみられない。

図1、性別・年代別の供食への希求性について、2020年と2022年の比較と変化を表す図。
図1 共食への希求性

「家族や友人と一緒に食事した良い思い出がある」、「1人で食事をするよりも、家族と一緒に食事をしたい」、「1人で食事をするよりも、友人と一緒に食事をしたい」、「1人で食事をするよりも、顔見知りの人とでも一緒に食事をしたい」、「できるだけ1人で食事をしたい(逆転項目)」に対して、「全くそう思わない」、「そう思わない」、「そう思う」、「とてもそう思う」の4選択肢からそれぞれ1つを選択。得点を合計しスコアとした(20点満点)。全体で2,076名のデータに基づく。

 実際、高齢者は、どの程度、共食をしているのであろうか。図2は、コロナ禍の直前の2020年に実施した調査で、朝食、昼食、夕食、それぞれを「どれぐらいの頻度、1人で取るか」という設問に対して、「ほぼ毎日」と回答した場合を孤食に分類し、それ以外の回答を共食に分類した。結果は図2のようになった。3食孤食者は、年齢によらずほぼ一定であり、男性の方が多い(男性は40%、女性は30%程度)。また、3食孤食者は70歳代女性で増加しているが、これには配偶者との死別などの要因が考えられる。一方で、3食共食者は60歳以上で男女ともに増加の傾向がある。これは、退職などに伴い、家庭などで食事を取る頻度が高くなったことによると考えられる。いずれにしても、高齢者は他の年代に比べて3食とも共食する割合が高い。とはいえ、30~40%の高齢者は、3食ともほぼ毎日1人で食事を取っているという実態が明らかになった。

図2、性別・年代別の1日3食中の孤食頻度について、0食、1~2食、3食の割合を表す図。
図2 1日3食中の孤食頻度

ほぼ毎日3食取ると回答した人(3,168名)に対して、それぞれの食事を1人で取る頻度を問い、「ほぼ毎日ひとり」と回答した食事の数を集計したもの。

介護予防としての共食の可能性

 食事は、視覚や味嗅覚、舌などの触覚を刺激し、加えて他者との会話は聴覚を刺激する。このように、食事は、感覚を十分に刺激する効果があり、結果的に脳のさまざまな部位を活性化させることになる。共食が脳機能に影響するという直接的な証拠はないが、感覚刺激が認知機能の維持にも有用であるという知見から類推すると、そのような可能性は十分ありうる。また、食事は、幼少期を含めた過去の記憶を想起させる。記憶の回想が、高齢者の認知機能の維持に効果があることも知られている。

 家族や友人との共食を意識することで、日常生活への影響も期待できる。たとえば、定期的に孫との共食の機会を持つ高齢者では、食事時の話題を探すために積極的に外出したり、孫を楽しませるために、地元のめずらしい食材を取り入れた食事を用意したりするなどの行動変容が見られることが予想される。このように、誰かと食事を一緒に取るためには、それに向けて自分のスケジュールを調整したり、あるいは、これまで経験したことがない、新しい行動を計画立てたりといった、認知機能の中でも前頭葉が関与するといわれる実行機能(あるいは遂行機能)を働かせる必要がある。

 さらに、以下のような理由から、食事の支援、とりわけ共食の支援は、介護予防にも適切である。まず、食事は、すべての高齢者が必ず毎日、しかも、少なくとも1回は自宅でする行動であり、どこかに出かけて行う必要がない。また、新しい体操を覚えるといったような、新たな行動の学習やその習慣化を必要としない。ゆえに、どこかに出かけて新しいことをするというような他の一般的な介護予防プログラムよりも、実施や継続のための障壁が低い。

オンラインでの共食支援

 オンラインでの会議システムの普及により、高齢者にとっても遠隔会議システムを通して離れたところに住む家族などとオンラインで食事の時間を共にすることが可能となってきている。これまで、高齢者がソーシャルネットワークサービス(SNS)を利用しない理由として、プライバシーやセキュリティに関する懸念があるとされてきたが7)、一方で、高齢者がSNSを利用するきっかけに、離れて住む家族(特に子や孫)との交流目的があることが報告されている8)。オンラインでの遠隔に住む家族との共食は、高齢者がSNSを利用する大きな動機づけにもなり得る。

 オンラインでの共食支援を行ううえでの現実的な問題点としては、2点が指摘される9)。1つは、生活時間帯の相違によって、共食の時間を調整するのがむずかしいという問題である。これに対し、小幡らは、非同期での共食の方法を提案している。これは、一方が日常生活での出来事をビデオメッセージとして相手に送り、相手は食事をしながらビデオを視聴し、コメントなどビデオメッセージとして相手に送り返すというようなことを容易にできるシステムである。食事時にテレビや動画配信サービスを利用するような感覚で、家族からのメッセージを視聴することで、各自の自由なタイミングで擬似的に共食を実現しようというものである。もう1つの問題は、共食の機会を重ねるにしたがって話題が枯渇し、いわゆる、マンネリになってくるという問題である。小幡らは、話題の枯渇に対応するため、話題をランダムに選択するようなシステムの提案も行っている。

 オンラインでの共食支援の実践的な試みは、まだ端緒についたばかりである。実際に、オンラインでの共食を盛り上げるアイディアが蓄積されてきている。これらを高齢者の遠隔共食場面に応用し、その効果を検証するような研究も期待される。コロナ禍によって、オンライン会議の技術が普及、発展した結果、遠隔での共食の実施は容易となってきており、今後のさまざまな実践の蓄積が期待できる状況である。特に、介護施設などでは、家族とのオンラインでの共食の機会を提供するサービスメニューなどが実現可能であろうと思われる。

まとめ

 コロナ禍によって、期せずして、他者との社会的交流の重要性が再認識されることとなった。また、高齢者にとっては、遠隔に住む家族などとの対面の機会も減少しているなど、社会的交流の機会が減少し、その結果として、心身への影響も懸念される。共食は、さまざまな側面で高齢者の心身の健康の維持、増進に効果がある。また、コロナ禍によるオンラインでのコミュニケーションの技術の進展と普及により、遠隔での共食が容易に行える環境も充実してきている。オンラインコミュニケーション技術を用いた遠隔での高齢者の共食支援の試みはまだ多くはないが、上述のような効果を鑑みれば、今後、大いなる発展が期待できるであろう。

文献

  1. Evans IEM, Martyr A, Collins R, et al.: Social Isolation and Cognitive Function in Later Life: A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of Alzheimer's Disease 2019; 70(s1): S119-S144.(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2022年10月14日閲覧)
  2. Tani Y, Kondo N, Takagi D, Saito M, et al.: Combined effects of eating alone and living alone on unhealthy dietary behaviors, obesity and underweight in older Japanese adults: Results of the JAGES. Appetite 2015; 95: 1-8.(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2022年10月14日閲覧)
  3. Vailas LI, Nitzke SA, Becker M, Gast J: Risk indicators for malnutrition are associated inversely with quality of life for participants in meal programs for older adults. American Dietetic Association. Journal of the American Dietetic Association 1998; 98(5): 548-553.
  4. Higgs S, Thomas J.: Social influences on eating. Current Opinion in Behavioral Sciences 2016; 9: 1-6.(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2022年10月14日閲覧)
  5. Boothby EJ, Clark MS, Bargh JA: Shared experiences are amplified. Psychological science 2014; 25(12): 2209-2216.
  6. 熊田孝恒, Huang Te-Chi, 岩井 律子, 綾部 早穂: 食行動と心理状態・特性との関係. 電子情報通信学会HCGシンポジウム 2021.
  7. Bixter MT, Blocker KA, Mitzner TL, et al.: Understanding the use and non-use of social communication technologies by older adults: A qualitative test and extension of the UTAUT model. Gerontechnology : international journal on the fundamental aspects of technology to serve the ageing society 2019; 18(2): 70-88.(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2022年10月14日閲覧)
  8. Nef T, Ganea RL, Müri RM, Mosimann UP: Social networking sites and older users-a systematic review. International psychogeriatrics 2013; 25(7): 1041-1053.
  9. 小幡佳奈子, 中村裕一, 陳龍飛, ジョンオージェリ: 非同期遠隔共食のためのメッセージづくり支援~好みと偶然性をとり入れて継続させる~. 電子情報通信学会技術研究報告, 信学技報 2019; 119(190): 19-20.

筆者

くまだたかつね氏の写真
熊田 孝恒(くまだ たかつね)
京都大学大学院情報学研究科教授
略歴
1991年:筑波大学大学院心理学研究科修了、日本学術振興会特別研究員(PD)、1992年:通商産業省工業技術院製品科学研究所研究員、1993年:通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所研究員、1995年:同主任研究官、1997年:同グループリーダー、2001年:産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門視覚認知機構グループグループ長、2005年:同認知行動システム研究グループグループ長、2010年:産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門認知行動システム研究グループグループ長、2012年:理化学研究所脳科学総合研究センター認知行動科学連携ユニット連携ユニットリーダー、2013年より現職
専門分野
認知心理学、心理情報学

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2022年 第31巻第3号(PDF:5.4MB)(新しいウィンドウが開きます)

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