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オーラルフレイル・口腔機能低下症の診断

公開日:2023年1月13日 09時00分
更新日:2024年2月 8日 11時44分

高橋 賢晃(たかはし のりあき)

日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック医長

オーラルフレイルと口腔機能低下症の位置づけ

 オーラルフレイルは、わずかなむせや食べこぼし、滑舌の低下といった口腔機能の低下から食べる機能の低下、さらには心身の機能の低下までつながる負の連鎖に警鐘を鳴らした概念である1)。また、国民に口腔機能の重要性を啓発するための用語としての意味合いも含んでいる。一方、口腔機能低下症は、2018年に新たな医療保険病名として保険収載された歯科疾患である。口腔機能低下症は、オーラルフレイル概念図※1の「第3レベル:口の機能低下」に位置づけられている1)。このレベルは、地域の歯科医院での対応が求められており、口腔機能低下症と診断された場合は、検査結果に基づき個々の口腔状況に応じて口腔機能管理を行う必要がある。

※1 「オーラルフレイル概念図」は、本特集「オーラルフレイルの概念とフレイルとの関係」(渡邊裕)の図2を参照。
オーラルフレイルの概念とフレイルとの関係 渡邊裕 図2(新しいウインドウが開きます)

オーラルフレイルの判定について

 東京大学の飯島らによる大規模高齢者虚弱予防研究(柏スタディ)ではオーラルフレイルの判定方法として6つの指標が提唱されている2)。具体的には残存歯数、咀嚼(そしゃく)能力、舌圧、滑舌の客観的指標4項目と半年前と比べて硬いものが食べにくい、お茶や汁物でむせるという主観的指標2項目のうち3項目以上の該当でオーラルフレイルと判定する方法であるが、正式な評価方法として確立はされていない。オーラルフレイルは4つのレベルと全体のフェーズを指した概念として捉えて、国民に口腔機能の検査が必要であることを啓発し、口腔機能低下症の検査につなげることが重要である。

口腔機能低下症の診断方法(表)

表 口腔機能低下症の検査
(出典:日本歯科医師会,歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル2019年版1)
検査項目 検査内容 検査法・検査機器 該当基準
口腔衛生状態不良(口腔不潔) 舌苔付着程度 視診(Tongue Coating Index 50%以上
口腔乾燥 粘膜湿潤度 口腔水分計(ムーカス) 27.0未満
口腔乾燥 唾液量 サクソンテスト 2.0g/2分以下
咬合力低下 全歯列最大咬合力 感圧フィルム(デンタルプレスケールⅡ) 500N未満
咬合力低下 残存歯数(残根、動揺度3の歯を除く) 視診 20本未満
舌口唇運動機能低下 オーラルディアドコキネシス(/pa/,/ta/,/ka/それぞれの音節の発音回数) 自動計測機(健口くんハンディ) どれか1つでも、6回/秒未満
舌口唇運動機能低下 オーラルディアドコキネシス(/pa/,/ta/,/ka/それぞれの音節の発音回数) IC法、電卓法、ペン打ち法など どれか1つでも、6回/秒未満
低舌圧 最大舌圧 舌圧測定器(JMS舌圧測定器) 30KPa未満
咀嚼機能低下 グミ咀嚼後のグルコース溶出量 咀嚼能力検査システム(グルコセンサー) 100mg/dL
咀嚼機能低下 グミ咀嚼後の視覚的粉砕度判定 咀嚼能率スコア法(咀嚼能力測定用グミゼリー) スコア2以下
嚥下機能低下 主観的嚥下機能評価 自記式質問紙法(EAT-10) 3点以上
嚥下機能低下 主観的嚥下機能評価 質問紙法(観察記録でも可)(聖隷式嚥下質問紙) Aが1つ以上

検査方法が2種類用意されている項目は、いずれかの検査を行います

 口腔機能低下症は、疾患であり、7つの評価項目[①口腔衛生状態不良(口腔不潔)、②口腔乾燥、③咬合力低下、④舌口唇運動機能低下、⑤低舌圧、⑥咀嚼機能低下、⑦嚥下機能低下]を用いて診断する。7項目中3項目以上で低下が認められた場合に口腔機能低下症と診断される。7つの下位項目と各項目から読み取れる口腔機能の問題点について解説する3)

1.口腔衛生状態不良(口腔不潔)

 口腔の衛生状態は、Tongue Coating Index(TCI)4)を用いて、舌苔の付着程度を評価する。舌表面を9分割し、それぞれのエリアに対して舌苔の付着程度を3段階(スコア0、1、2)で評価する。合計スコアが9点以上(TCIが50%以上)で口腔不潔と評価する。

 舌苔は舌表面に白色または黄褐色のこけ状に見えるものである。舌苔の付着原因は、喫煙、薬の副作用による唾液分泌低下、免疫力低下による口腔内常在細菌叢の変化などさまざまであるが、特に注目すべきは、舌の運動機能低下に伴う自浄作用の低下を疑うことである。

2.口腔乾燥

 口腔水分計(ムーカス®(新しいウインドウが開きます))を用いて評価する。舌尖から10mm後方の舌背中央部における口腔粘膜湿潤度を計測する。測定器の先端に設置してあるセンサー部分を舌背部に押し当てることで測定する。カットオフ値は27.0未満を口腔乾燥とする。3回測定して、中央値をその測定値とする。また、代替として、唾液量をサクソンテストで計測する。医療用ガーゼを舌下部に置き、咀嚼様の運動を2分間行わせ、その間に分泌された唾液をガーゼに浸み込ませて、吸収される唾液の重量を測定して唾液の分泌量を測定する。2分間で2.0g以下の重量増加を口腔乾燥ありとする。

 食物を細かく粉砕し、食塊としてまとめるうえで唾液は重要な役割を果たす。唾液分泌が低下すると食塊をまとめるのに時間がかかり咀嚼時間が延長する。また、味覚が感じにくくなるため食べる楽しみが低下し、食思不振や食欲低下につながることがある。

3.咬合力低下

 感圧フィルム(咬合測定システム用フィルム:デンタルプレスケールⅡ、株式会社ジーシー(新しいウインドウが開きます))と専用分析ソフト(咬合力分析ソフト:バイトフォースアナライザ、株式会社ジーシー)と連動したスキャナーを用いて、歯列全体の咬合力を計測する。測定値が500N未満を咬合力低下とする。なお、義歯装着者は、義歯を装着した状態で計測する。

 残存歯数を用いる方法は、動揺度Ⅲの歯※2、残根、ブリッジのポンティック、インプラント上部構造を除く残存歯数を測定する。20歯未満の場合に咬合力低下と判定する。

※2 「動揺度」とは、歯のぐらつき(揺れ)を表す数値のこと。

 咬合力の低下は咀嚼能力と相関が高く、残存歯数や咬合支持と関連が強いが筋力の低下にも影響を受ける。

4.舌口唇運動機能低下

 オーラルディアドコキネシスの計測で検査を行う。オーラルディアドコキネシスは自動測定器(健口くんハンディ、竹井機器工業株会社)を利用すると容易に測定できる。その他の計測方法としてペン打ち法、電卓法がある。「パ」、「タ」、「カ」の音を5秒間計測して1秒間当たりの回数を算出する。「パ」は口唇の動き、「タ」は舌前方の動き、「カ」は舌後方の動きを評価している。いずれか1つでも6回/秒未満の場合に舌口唇運動機能低下と判定する。

 舌口唇運動機能低下は、口腔周囲の運動速度や巧緻性が低下した状態の指標となり、会話や食事に影響し、生活機能やQOLの低下にも影響を及ぼす可能性がある。

5.低舌圧

 舌圧は、JMS舌圧測定器(株式会社ジェイ・エム・エス)※3を用いて測定することが可能である。JMS舌圧測定器は、舌圧プローブ、デジタル舌圧計、連結チューブから構成されている(図1)。測定時は、硬質リング部を上下顎前歯で軽く挟むようにして、唇を閉じ、プローブ先端部のバルーンを舌と口蓋で押しつぶす。日常生活において義歯を使用している場合は、義歯を装着した状態で測定する。最大舌圧が30kPa未満で低舌圧と判定する。

※3 「JMS舌圧測定器(株式会社ジェイ・エム・エス)」は、医療関係者は以下「医療関係者向けサイト」を参照。
医療関係者向けサイト(新しいウインドウが開きます)

図1、JMS舌圧測定器(株式会社ジェイ・エム・エス)の画像。
図1 JMS舌圧測定器(株式会社ジェイ・エム・エス)

 低舌圧の原因は、脳血管障害やパーキンソン病などの疾患、舌がん術後などの直接的な原因と廃用症候群、低栄養等の相互作用的な影響が考えられる。舌は口腔周囲器官と協調して咀嚼、嚥下、構音に関わる非常に重要な器官である。また、舌は筋肉の塊であるため、低舌圧は舌の筋力低下を意味する。舌圧が低下して20kPa未満となると摂食嚥下障害に相当すると考えられている5)。舌圧と食事形態の関係について調査した研究では、舌圧が30kPa以上ある人は全員常食を摂取しているのに対して、20kPa未満の半数以上が調整食を摂取していたことを報告している。よって、常食を摂取するためにはある一定以上の舌圧が必要である6)

6.咀嚼機能低下

 咀嚼機能低下の検査は、咀嚼能力検査(グルコース含有グミゼリー、グルコセンサーGS-ⅡN、GC-Ⅱセンサーチップ、株式会社ジーシー)で計測する(図2)。グミゼリーを咀嚼した後に水を含嗽(がんそう)して吐き出させて、吐出水中に溶出したグルコース濃度を測定する。グルコース濃度が100mg/dL未満を咀嚼機能低下と判定する。

図2、咀嚼能力検査キット(ジーシー株式会社)の画像。
図2 咀嚼能力検査キット(ジーシー株式会社)

 咀嚼能率スコア法は、グミゼリー(咀嚼能力測定用グミゼリー、UHA味覚糖)を30回咀嚼後、粉砕度についてスコア表をもとに評価を行う。スコア2以下を咀嚼機能低下と判定する。

7.嚥下機能低下

 EAT-10※4は、信頼性と妥当性が検証された摂食嚥下障害のスクリーニングテストである7)。方法は、嚥下スクリーニング質問用紙を用いる。10項目の質問で構成され、それぞれ5段階で回答し、合計点が3点以上であれば問題ありと判定し、専門医療機関での精査が必要となる。また、EAT-10は主観的な評価であるが、個々の質問項目に注目すると患者のQOLを評価する項目があるため、介入効果の判定にも有効である。

※4 「EAT-10」(嚥下スクリーニング検査)の質問用紙は、長寿科学振興財団ホームページを参照。
高齢者の食事と栄養,口腔ケア 第3章 食事,摂食・嚥下 3.摂食・嚥下障害の評価(新しいウインドウが開きます)

 聖隷式嚥下質問用紙(新しいウインドウが開きます)8)を用いた場合は、より頻繁に起こる、または、重症を疑わせる解答項目(Aの項目)が1つ以上の場合を嚥下機能低下と判定する。

口腔機能低下症における今後の課題

 口腔機能低下症に関する先行研究において、各検査項目で低下に該当する者の割合に大きな差があることが報告されている9),10)。特に舌口唇運動機能低下、低舌圧の項目における低下群の割合が多いため、特定の検査によって口腔機能低下症が診断される傾向にある。よって、各検査項目のカットオフ値の再検討が必要とされている。また、口腔機能低下症は「第3レベル:口の機能低下」に位置づけられているが、「第4レベル:食べる機能の障がい」との線引きは明確になっていない。

 口腔機能低下症のその先には摂食嚥下障害やサルコペニアなど他の病態を合併する場合も考えられ、地域歯科医院では適切な対応が求められるが、7項目中の該当項目が2項目以下であれば、20kPa未満の低舌圧を示したとしても口腔機能は維持していると判断されるために、摂食嚥下障害の予備群を見落としてしまう可能性も危惧される。

 さらに、摂食嚥下障害の背景には重大な疾患が隠れている可能性があるため、摂食嚥下のスクリーニング検査の実施や専門医療機関への紹介を行う等の対応が必要であると考えられる。オーラルフレイル、口腔機能低下症を広く普及していくためには、長期にわたるエビデンスの蓄積が今後も必要である。

文献

  1. 日本歯科医師会編: 歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル2019年版,2019.(PDF)(新しいウインドウが開きます)(2022年12月16日閲覧)
  2. Tanaka T, Takahashi K, Hirano H, et al.: Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly. J Gerontol A Biol Sci Med Sci.2018;73(12): 1661-1667.
  3. 菊谷武: チェアサイド オーラルフレイルの診かた 第2版.医歯薬出版,2018.
  4. Shimizu T, Ueda T, Sakurai K: New method for evaluation of tongue-coating status. J Oral Rehabil.2007;34(6):442-447.
  5. 菊谷武:歯科診療室におけるオーラルフレイルへの対応.老年歯科医学 2017;31(4):412-416.
  6. 田中陽子, 中野優子, 横尾円, 他: 入院患者および高齢者福祉施設入所者を対象とした食事形態と舌圧,握力および歩行能力の関連について. 日摂食嚥下リハ会誌 2015;19(1):52-62.
  7. Belafsky PC, Mouadeb DA, Rees CJ, et al.: Validity and reliability of the Eating Assessment Tool (EAT-10). Ann Otol Rhinol Laryngol. 2008; 117(12): 919-924.
  8. 大熊るり,藤島一郎,小島千枝子,他:摂食・嚥下障害スクリーニングのための質問紙の開発.日本摂食嚥下リハ会誌 2002;6(1):3-8.(PDF)(新しいウインドウが開きます)(2022年12月16日閲覧)
  9. 池邉一典, 八田昂大, 三原佑介, 村上和裕: 「口腔機能低下症」に関する論点整理. 老年歯科医学 2020; 34(4): 451-456.
  10. 岩崎正則: オーラルフレイルと口腔機能低下症.Geriatr Med.2022;60(6):505-511.

筆者

たかはしのりあき氏の写真。
高橋 賢晃(たかはし のりあき)
日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック医長
略歴
2004年:明海大学歯学部歯学科卒業、日本歯科大学附属病院臨床研修医、2005年:日本歯科大学附属病院総合診療科臨床助手、口腔介護・リハビリテーションセンター併任、2012年:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科博士課程修了、日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科助教、2013年:同講師、2018年:アメリカフロリダ州セントラルフロリダ大学留学(~2019年3月)、2020年:日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科医長、2022年より現職
専門分野
老年歯科医学、摂食嚥下リハビリテーション

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2023年 第31巻第4号(PDF:6.3MB)(新しいウィンドウが開きます)

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