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フレイルや認知症になっても参加し続けられる「通いの場」づくりを目指して

公開日:2023年7月14日 09時00分
更新日:2023年8月24日 14時42分

植田 拓也(うえだ たくや)

東京都健康長寿医療センター研究所
東京都介護予防・フレイル予防推進支援センター副センター長

『通いの場』はなぜ必要なのか?

1. 健康づくり、介護予防施策の変遷

現在の介護予防における主な戦略は通いの場である。2014年より従来のハイリスクアプロ―チからポピュレーションアプローチへと方針が転換され、「地域づくりによる介護予防」に向けた通いの場づくりが推進されている。では、なぜこの通いの場づくりが必要なのか。これを考えるうえで参考になるのが、介護予防の目的である。

 介護予防の目的は、個人レベルと社会レベルに分けられる。介護予防マニュアル第4版1)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)によれば、個人のレベルの目的は、身体機能や栄養状態の改善により、生活機能(活動や社会参加)の向上と生きがいや自己実現により、生活の質(Quality of Life: QOL)の向上につなげることである。さらに、社会レベルでは、要介護状態等になっても、生きがいを持って生活できる地域を実現することであり、個人のQOLの向上と、QOLの向上を期待できる社会や地域づくりが介護予防の真の目的といえる。これが実現される地域は、あらゆる住民にとって住みよい地域であることは言うまでもない。

 つまり、高齢になり、フレイルや要支援・要介護になっても、たとえ認知症になっても、誰もが時には担い手となり、時には支えられる立場となりながらも、最終的にQOLの向上を期待でき、望めば暮らし続けられる地域づくりの1つの手段として、通いの場の推進が必要なのである。その点から言えば、真に推進が必要な通いの場は、フレイルや要支援・要介護、認知症など、何らかの支援を必要とする人たちが参加し続けられる場である。

 厚生労働省が推進してきた、「地域づくりによる介護予防推進支援事業」における通いの場は、1.高齢者が容易に通える範囲に住民主体で展開、2.何らかの支援を要する者が参加可能、3.住民による自律的拡大、4.後期高齢者や要支援高齢者が行えるレベルの体操などを実施、5.週1回以上の頻度の5項目をコンセプト2)としており、介護予防の目的に合致する。

 この通いの場の展開の要点は、従来の介護予防教室とは異なり、「住民が主役(運営者)で、行政や専門職は黒子(支援者)」という点にある。それを前提に、心身機能の維持・向上に資する活動の実践と、住民同士の交流や支え合いの機能、住民にとっての新たな役割の創出、ひいては見守りや互助などによる生活支援の実践にもつながる場であることが期待されている3)

2. 現在のキーワード─多様な通いの場

 2019(令和元)年度の「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」取りまとめ4)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)において、多様な通いの場の展開が示された。この取りまとめでは、活動内容として、体操に限らない、自治体の介護保険の担当以外の部局が行うスポーツや生涯学習、防災・防犯、民間企業・団体など多様な主体と連携したプログラム、有償ボランティア・就労的活動、多世代交流、公園・農園を活用した多様な事例が選択肢として紹介されている。

 この多様な通いの場の推進の背景には、住民の選好の多様性がある。例えば、運動や体操には興味がない住民でも、興味のある活動であれば「参加する」という選択をする可能性が考えられる。そして、参加した通いの場で介護予防・フレイル予防に資する活動も実践していくことにもつなげられることから、まずは、地域での活動に参加していくという「選択」を引き出すための幅広い入り口として「多様な通いの場」の推進が必要となる。

 この多様な通いの場の類型について、2020年12月に筆者らは、通いの場の主目的(タイプⅠ~Ⅲ、タイプ0)による類型5)を示した(図1)。この類型は主目的により分類され、タイプⅠ「共通の生きがい・楽しみを主目的にした活動」、タイプⅡ「交流(孤立予防)を主目的とする活動」、タイプⅢ「心身機能維持・向上などを主目的とした活動」としており、特に、地域づくりによる介護予防の通いの場はタイプⅢにあてはまるものが多い。一方、タイプⅠ、Ⅱについても、タイプⅢの要素を加えるような機能強化としての「ちょい足し」の戦略と、いつまでも一緒に活動できるようなグループ運営のための支援の実施により、支援が必要な人も参加しうる通いの場へのバージョンアップが求められる。

図1、通いの場の主目的による類型を表す図。東京都介護予防・フレイル予防推進支援センター版、令和2年12月。
図1 通いの場の主目的による類型 (東京都介護予防・フレイル予防推進支援センター版:令和2年12月)
(出典:植田拓也ほか. 日本公衛誌 20225)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)より作成)

 また、この類型には、タイプ0「住民を取り巻く多様なつながり」も示されており、運営されているタイプⅠ~Ⅲの通いの場に参加したくない住民の選択肢としての機能があるとされる。

誰もが参加し続けられる『通いの場』をつくるための運営者の4つの留意点

1. 運営者(リーダー・サポーター)は先生にあらず

 通いの場の運営者として、リーダーやサポーターという役割が住民に付与されることが多くある。しかし、リーダーという響きから、「リーダーだから頑張らないと!」と気負い過ぎて、通いの場の運営自体が心身の負担と感じているリーダーが多くいるのが現状である。筆者らが実施した通いの場の参加者への調査において、グループ活動における課題認識は、グループ内でのリーダー・サポーターと参加者という役割によっても異なることが明らかとなっており(図2)、リーダーの孤立などの懸念が指摘された6)。このような運営状況においては、リーダーが体調不良などで活動できなくなった場合には、グループの解散につながるなどの大きな影響が出る。通いの場は、リーダーだけでなく、参加者全員が何らかのちょっとした役割を持ちながら運営されることで、参加者それぞれの健康効果や通いの場自体の継続性が高まると考えられる。リーダーは、参加者それぞれの強みを生かし、やりがいや楽しみを引き出すファシリテーターのような役割と考えると、心の負担が少し減るのではないだろうか。

図2、通いの場での役割による課題認識の差を表す図。東京都内の155グループ2,367名に対する調査結果。
図2 通いの場での役割による課題認識の差 (東京都内の155グループ2,367名に対する調査結果)
(出典:江尻愛美, 植田拓也ほか. 日本公衆衛生雑誌 20226)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)より作成)

2. 何らかの支援が必要な人も参加し続けられるグループづくり

 趣味活動などは、元気な高齢者が中心の活動も多く、フレイルや要支援、認知症になった場合に継続できない場が多い。しかし、フレイルに関連する生活機能の加齢変化には4つのパターンがあり、高齢者においては、現在は元気でも加齢に伴い多くの方がフレイルになることが明らかになっている(図3)7),8)。また、長期に活動継続しているグループにおいての課題として、「運営者・参加者の高齢化」、「健康状態の低下」が報告9)されている。このことからも、何らかの支援が必要になっても一緒に活動していくために、お互い様の雰囲気や、みんなで一緒に楽しむ雰囲気を持ったグループ運営を目指す必要がある。そのために、例えば、グループ全員で市町村が実施している認知症サポーター養成講座を受講するなど、主な活動以外にも、実際にグループ内で何らかの支援が必要な方が出ても、対応できるための事前準備が重要となる。

図3、生活機能の加齢変化パターンを表す図。65~90歳の男女2,675名の10年間の繰り返し測定データによる。
図3 生活機能の加齢変化パターン(65-90歳の男女2,675名の10年間の繰り返し測定データ)
(出典:東京都福祉保健局,介護予防・フレイル予防ポータルサイト8)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます))

3. 長く参加を継続するための介護予防・フレイル予防の要素の「ちょい足し」

 フレイルになる方を減らしていくための方策として、通いの場のプログラム内容の機能強化が必要である。運動を実施している通いの場では栄養、口腔の要素を、文化系の趣味活動の通いの場では運動、栄養、口腔の要素を「ちょい足し」することで、長く参加し続けられる体づくりにもつながる。1回の主な活動にかける時間は少し減ってしまうかもしれないが、長期的に活動を続けられるという点ではメリットも少なくないと考えられる。

4. 「ちょっと生活の様子が......」と感じた時は専門機関、地域包括支援センターへ相談

 通いの場は、住民の皆さんが定期的に一緒に活動しているからこそ、それぞれの参加者の生活の様子や心身の変化に気がつくことが可能となる。例えば、「最近、Aさん、グループに来るのを忘れてしまうことがある」と感じた時には、地域包括支援センター等の専門機関に相談するのも勧められる。早期に生活や心身の様子の変化に気がつき、早期に対処することで、通いの場に継続して通い続けることにもつながるため、「ちょっと生活の様子が......」と感じた時には、専門職に頼るのもよい。

文献

  1. 令和3年度老人保健健康増進等事業 エビデンスを踏まえた介護予防マニュアル改訂に関する研究事業 介護予防マニュアル第4版. 株式会社野村総合研究所, 2022(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2023年6月20日閲覧)
  2. 厚生労働省老健局:地域づくりによる介護予防を推進するための手引き(ダイジェスト版), 2017(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2023年6月20日閲覧)
  3. 植田拓也, 藤原佳典:地域包括ケアにおける介護予防の役割. 老年科 2022; 5(3): 209-213.
  4. 厚生労働省老健局: 「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」取りまとめ. 2019(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2023年6月20日閲覧)
  5. 植田拓也, 倉岡正高, 清野諭ほか: 介護予防に資する「通いの場」の概念・類型および類型の活用方法の提案. 日本公衛誌2022; 69(7): 497-504(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2023年6月20日閲覧)
  6. 江尻愛美, 河合恒, 安永正史, 白部麻樹, 伊藤久美子, 植田拓也, 大渕修一: 住民主体の通いの場における参加者の役割の違いによる課題認識と心理社会的健康の関連: 横断研究. 日本公衆衛生雑誌 2022; 69(10): 805-813(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2023年6月20日閲覧)
  7. Taniguchi Y, Kitamura A, Nofuji Y, et al.: Association of Trajectories of Higher-Level Functional Capacity with Mortality and Medical and Long-Term Care Costs Among Community-Dwelling Older Japanese. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2019; 74(2) :211-218.
  8. 東京都福祉保健局:東京都介護予防・フレイル予防ポータルサイト(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2023年6月20日閲覧)
  9. 江尻愛美, 河合 恒, 安永正史, 他: 住民主体の通いの場における活動期間に応じた継続支援方法の考察. 日本公衆衛生雑誌 2021; 68(7): 459-467.

筆者

うえだたくや氏の写真。
植田 拓也(うえだ たくや)
東京都健康長寿医療センター研究所
東京都介護予防・フレイル予防推進支援センター副センター長
略歴
2010年:北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻卒業、2021年:桜美林大学大学院老年学研究科博士後期課程修了。2010年:医療法人社団涓泉会山王リハビリ・クリニック(~2018年)、2016年:北里大学大学院看護学研究科非常勤講師(~2020年)、2018年:東京都健康長寿医療センター研究所東京都介護予防推進支援センター副センター長、2020年より現職(センター名称変更)、2022年より桜美林大学健康福祉学群非常勤講師、昭和大学大学院保健医療学研究科兼任講師
専門分野
老年学、理学療法学

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2023年 第32巻第2号(PDF:8.4MB)(新しいウィンドウが開きます)

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