「共生社会」とは何か
公開日:2025年10月29日 09時00分
 更新日:2025年10月29日 09時00分
粟田 主一(あわた しゅいち)
東京都健康長寿医療センター 認知症未来社会創造センター センター長特任補佐
社会福祉法人浴風会認知症介護研究・研修東京センター センター長
「共生社会」とは何か
2024年1月に「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行され、同年12月に「認知症施策推進基本計画」が閣議決定された。現在は、これを踏まえて、都道府県・市町村の認知症施策推進計画の策定が進められている。
ところで、「共生社会」という言葉は、わが国の法制度改革の中で繰り返し使用されてきた用語であるが、その定義は必ずしも一致していない。
たとえば、国連の障害者権利条約の批准に向けて2011年に改正された障害者基本法では、その第1条に、「全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」と記されている。ここで言う「共生社会」という用語の背景には、ノーマライゼーションの思想がある。それは、障害がある人を排除することなく、障害がある人もない人も同等に生活できる社会が正常な社会であるとする考え方である。
一方、2016年に閣議決定されたニッポン一億総活躍プランにおいて掲げられた「地域共生社会」は、「制度・分野ごとの『縦割り』や『支え手』『受け手』という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会」と定義されている。その背景には、超少子高齢化の進展による人口減少社会の中で、地域社会存続の危機への対応という観点から「地域創生」の取り組みを推進しようという考え方がある。
認知症基本法が示す「共生社会」は、障害者基本法の場合と同じようにノーマライゼーションの思想をその背景に持つものである。したがって、「地域共生社会」との用語上の混乱を避ける必要がある。しかし、今日の社会状況を踏まえると、「地域共生社会」という視点も重要であることに変わりはない。そのようなことから、「地域共生社会」の理念・概念を人権の確保という観点から再整理する動きも現れている。
本特集では、総論で認知症施策推進基本計画の概要を解説し、各論で基本的施策に係る計画を進める上での重要なポイントを3名の有識者に解説していただいた。
筆者

- 粟田 主一(あわた しゅいち)
- 東京都健康長寿医療センター 認知症未来社会創造センター センター長特任補佐
 社会福祉法人浴風会認知症介護研究・研修東京センター センター長
- 略歴
- 1984年:山形大学医学部卒業、東北大学医学部附属病院神経科精神科研修医、医員、助手、講師、医局長を経て、2001年:東北大学大学院医学系研究科精神神経学助教授、2005年:仙台市立病院神経科精神科部長(兼)認知症疾患医療センター科長、2009年:東京都健康長寿医療センター研究所研究部長、2013年:同センター認知症疾患医療センター長、2020年:同センター研究所副所長、同センター認知症未来社会創造センター長、2023年:認知症介護研究・研修東京センターセンター長(現職)、2025年:東京都健康長寿医療センター認知症未来社会創造センターセンター長特任補佐(現職)
- 専門分野
- 老年精神医学
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