健康長寿ネット

健康長寿ネットは高齢期を前向きに生活するための情報を提供し、健康長寿社会の発展を目的に作られた公益財団法人長寿科学振興財団が運営しているウェブサイトです。

第4回 余生なんてありません

公開日:2024年1月30日 09時00分
更新日:2024年2月22日 09時50分

名取 芳彦
もっとい不動 密蔵院住職


 父は大正12年生まれ。大学生の時、死を覚悟して特攻隊に志願しましたが、飛行機がなくなり命を長らえました。50歳からは胃がんの手術、数年後に顔面けいれん治療のための頭蓋骨に穴を開ける手術など、何度も死を覚悟する治療を受けました。

 そんな父に寄り添っていた母は、父を残して57歳でなくなりました。

 母の新盆で、ある檀家さんが「奥さまがいなくてお寂しいでしょうけど、お子さんたちも立派に成長されたのですから、どうか余生を楽しくお過ごしください」と父を励ましてくれました。

 死を何度も覚悟した、下町の和尚の父から出た言葉は「ありがとう。でもな、人の人生に、余った人生なんかないんだよ」でした。その通りだと思いました。

 第一、第二の人生があったとしても"余った人生"など、あるはずがありません。

 以来、「余生」とおっしゃる方がいると、私は「余生なんて言うの、よせぃ!」とダジャレまじりにお伝えするようになりました。

 昭和生まれの人は(私を含めて)、始めたら最後までやることを是とする傾向があります。第一線や現役をリタイアすると、「生涯現役を貫けなかった」「最後までやり遂げられなかった」ような気がして、惨めな気持ちになる人もいるでしょう。

 しかし、何があろうと、私たちはいつでも自分の命の第一線を生きていますし、我が人生の最前線を生きているのです。その中で、始めることより終わりにするのが大切な時があるのです。

 体が弱ってくれば「自分が死んだら、残された家族はどうなるのだろう」と心配になることもあるでしょう。しかし、大丈夫です。人は死ぬまで、ちゃんと生きています。死んでからのことを心配するより、生きている間にできることを考えたほうがずっと賢明です。

 私たちはだれでも余りのない人生の最前線を、死ぬまでちゃんと生きているのです。

図、「大丈夫、死ぬまでちゃんと生きてます」。お地蔵さんのイラスト(なとりほうげん氏作)。

著者

名取 芳彦(なとり ほうげん)
 1958年東京都江戸川区生まれ。大正大学を卒業後、英語教師を経て、江戸川区鹿骨のもっとい不動密蔵院(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)住職。真言宗豊山派布教研究所研究員。『ぶれない心をつくる ポケット空海 道を照らす言葉』(河出書房新社)、『人生をもっと"快適"にする 急がない練習』(大和書房)など著書多数。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2024年 第32巻第4号(PDF:5.1MB)(新しいウィンドウが開きます)

無料メールマガジン配信について

 健康長寿ネットの更新情報や、長寿科学研究成果ニュース、財団からのメッセージなど日々に役立つ健康情報をメールでお届けいたします。

 メールマガジンの配信をご希望の方は登録ページをご覧ください。

無料メールマガジン配信登録

寄附について

 当財団は、「長生きを喜べる長寿社会実現」のため、調査研究の実施・研究の助長奨励・研究成果の普及を行っており、これらの活動は皆様からのご寄附により成り立っています。

 温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

ご寄附のお願い(新しいウインドウが開きます)

このページについてご意見をお聞かせください