健康長寿ネット

健康長寿ネットは高齢期を前向きに生活するための情報を提供し、健康長寿社会の発展を目的に作られた公益財団法人長寿科学振興財団が運営しているウェブサイトです。

最新研究情報(機関誌Aging&Health No.72 2015冬号より)

公開日:2016年8月26日 10時00分
更新日:2019年2月 1日 22時20分

国内外で発表された長寿科学等の研究に関する新しい発表や開発を紹介します。

3分でせん妄を診断する新たな指標を開発

 せん妄は高齢者入院患者の10~40%、術後患者の30~40%に出現する。せん妄の診断に標準的に用いられてきたCAM指標は160調査項目からなり、実施には60~90分の時間を要した。そこで、4,598症例を用いて160項目のうち最も診断的価値の高い20項目を抽出し3D-CAMを作成。その有用性について201例を用いて検討した。実施所要時間は3分、感度95%、特異度94%、再現性95%であった。見逃されることの多い低活動性せん妄、認知症のある例のせん妄の診断率も高かった。なお、3D-CAMの調査項目・実施マニュアルはhttp://www.hospitalelderlifeprogram.org/delirium-instruments/3dcam/に詳しい(Marcantonio ER et al. Ann Intern Med.161. 554-561, 2014)。

レーダ信号による室内転倒モニタの開発

 ドプラ・レーダの原理を応用して高齢者の見守りをするシステムが開発されている。天井に設置したレーダによって高齢者の転倒を検知するシステムは高い精度で掲出が可能であるという。時間周波数解析を用いてレーダ信号から転倒、非転倒を識別し警告を出すものである。10日間の老人施設での試行で精度は83%、16回の誤報があった。対象者の動作が早い場合、物を取る姿勢が転倒に類似していたなどの誤報が4回で、あとは環境によるものであった(Su BY et al.Doppler radarfall activity detection using the wavelet transform. IEEE Trans Biomed Eng,2014)。

ヒト培養神経細胞を用いたアルツハイマー病三次元モデル創出 

 ハーバード大のChoiらは、ヒト神経前駆細胞株ReN細胞をマトリゲル中で三次元培養し、家族性アルツハイマー病遺伝子をウィルスにより導入することにより、新しいアルツハイマー病培養モデルの作成を試み、細胞外にアミロイド蓄積、細胞内にリン酸化タウの蓄積を再現した。今後モデルをさらに改良し、ヒト脳病態に近付けることにより、治療薬スクリーニングや病態解析への応用が期待される(Choi SH et al. A three-dimensional human  neural cell culture model of Alzheimer's disease. Nature, 2014)。

カロリー制限効果の世代伝播少食の人の子孫は長寿になる?

 カロリー制限すると長寿化する。これはマウス、線虫、ショウジョウバエ、そして霊長類(サル)でも確認された科学的事実である。今回、大変不可解だが興味深い研究結果が米国コロンビア大学のHobert一派から出ている。「絶食」の記憶、それは第三世代へ伝播する。しかもそれはpiRNAなどの小型RNAによって精子を伝わって世代伝播して長寿化するという。これはいわゆる獲得形質は遺伝するということになる。進化論上のラマルク説を支持する実験的証左となるのか。ただし、これはまだ実験動物モデルの線虫での話であり、哺乳動物ではまだ検討が必要である(Rechavi O et al.Cell .158. 277-287, 2014)。

蛋白質のN末アセチル化とストレス応答

 IGF1シグナル経路は動物の寿命制御に中心的な役割を果たす。それは線虫ではDaf-16、哺乳動物ではFOXO1という転写因子を介する。このDAF-16/FOXO1はストレス応答にも関わるが、米国セントルイスのワシントン大学のグループがNAT複合体という蛋白質のN末のアセチル化修飾に関わる酵素が重要な介在因子であることを示した。NAT複合体(Natc-1)欠損ではストレス耐性が機能しなくなる。環境ストレスへの応答の可否は寿命に影響する。その新たなルートが見え始めた。まだ線虫での話だが、進化的普遍性があるかどうか今後の研究が待たれる(Warnhoff K et al. PLoS Genet. Oct16 2014)。

縦断研究でも心肺機能低下は認知機能低下のリスク

 横断研究では身体活動度と認知機能との正相関が認められているが、本研究では縦断研究で両者の関連を明らかにした。約1,400名(19~94歳)を対象に最大酸素摂取量(VO2max)を測定し、その後18年間にわたって記銘力、注意力、感覚運動反応時間、言語能力、高次脳機能を含む包括的な認知機能の推移を追跡調査した。その結果、VO2max低値と経時的な認知機能低下との間に有意(p < 0.05)な相関が認められたとしている(Wendell CR et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 69.455-462, 2014)。

大腿骨頸部骨折のリスクは大動脈石灰化の重症度と関連

 心血管疾患と骨粗鬆症との関連が男性でも報告された。本研究では5,994名の高齢男性(>65歳)の腹部大動脈石灰化を半定量的にスコア化し、平均10年半の追跡期間中に発生した大腿骨頸部骨折との関連を検討した。年齢、BMI、大腿骨頸部骨密度、転倒歴、既往骨折、喫煙、合併症、人種を調整して解析した結果、腹部大動脈石灰化スコア上位4分位の下位4分位に対する大腿骨頸部骨折のハザード比は2.33(95%CI 1.41-3.87)であった(Szulc P et al. J Bone Miner Res. 29. 968-975, 2014)。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.72

無料メールマガジン配信について

 健康長寿ネットの更新情報や、長寿科学研究成果ニュース、財団からのメッセージなど日々に役立つ健康情報をメールでお届けいたします。

 メールマガジンの配信をご希望の方は登録ページをご覧ください。

無料メールマガジン配信登録

寄附について

 当財団は、「長生きを喜べる長寿社会実現」のため、調査研究の実施・研究の助長奨励・研究成果の普及を行っており、これらの活動は皆様からのご寄附により成り立っています。

 温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

ご寄附のお願い(新しいウインドウが開きます)

このページについてご意見をお聞かせください