健康長寿ネット

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最新研究情報(機関誌Aging&Health No.75 2015秋号より)

公開日:2016年8月26日 13時00分
更新日:2019年2月 1日 22時20分

神経活動がアミロイド蓄積に及ぼす影響を光遺伝学で実証

 アルツハイマー病脳におけるAβペプチドの分泌と老人斑の形成過程の解明は、治療法開発の上で最も重要である。近年、Aβの分泌と神経活動との関連が示唆されてきたが、われわれ(東京大学、岩坪研究室)は、光遺伝学によりアルツハイマー病モデルマウス脳の海馬における神経活動を慢性的に高めることで、アミロイド蓄積が増加することを見出し、長期間に及ぶ神経活動の亢進がアルツハイマー病の病理を促進することを初めて示した(Yamamoto K et al. Cell Rep 11. 859-865, 2015)。

遺伝子発現の正確さが寿命に関係

 仕事は正確でなければならない。雑な仕事でミスが起きるとムダも生じ、それが蔓延すれば社会全体の活力も落ちる。どうも、生体内でもそうらしい。米国のペンシルバニア大学のBergerらの報告だが、彼らは酵母で老化や寿命の研究をしている。どの生物でも遺伝子発現の制御はかなり厳密なのだが、酵母では細胞核の中で遺伝子DNAをつつみこむヒストンH3の36番目のリジン(H3K36)のメチル化の有無がDNAからRNAへの転写という遺伝子発現のステップの精度に影響を与える。ここのメチル化がない状況ではRNA転写が雑になり寿命も短くなる。いわゆるエピゲノムの制御が寿命に関わるのだが、その根幹は遺伝子発現の正確さに起因するというのである(SenPetal.GenesDev29.1362-1376,2015)。

ニューロペプチドY:視床下部でオートファジーを促進

 オートファジーという現象が細胞の自浄作用として注目されている。成人でも非分裂の脳内のニューロンであればなおさらだ。脳では視床下部という領域が身体制御の中核だが、ここにはさまざまなニューロペプチド(NP)が発現している。中でもNPYレベルは幼若期に高く、老化脳では低い。今回、ポルトガルの大学のCavadasらが、このNPYがマウス脳の視床下部でのオートファジーを亢進することを報じた。Y1とY5受容体の活性化を介してPI3Kなどもろもろのリン酸化シグナル系を活性化する。NPYが老化脳保護の一役を担うらしい(Aveleira CA et al. Proc Natl Acad Sci USA112.E1642-1651,2015.Epub 2015 Mar 16)。

カルシウム製剤は冠動脈疾患と総死亡を増加させない

 骨折予防目的のカルシウム製剤服用は妥当な処方であり高齢者で広く行われているが、近年、心血管イベントを増加させるとするメタ解析報告が相次ぎ物議を醸している。これらの報告に関して解析手法に疑念が示され、この度、1966年1月から2013年5月に施行された全てのランダム化比較試験のデータを厳正に評価した包括的なメタ解析が行われた。その結果、カルシウム補充が冠動脈疾患と総死亡を増加させるとする仮説は支持されなかった(Lewis JR et al. J Bone Miner Res 30. 165-175,2015)。

プロトンポンプ阻害剤を服用しても骨密度は低下しない

 胃酸分泌抑制作用を持つプロトンポンプ阻害剤(PPI)を服用している高齢者は多いが、PPIと骨密度低下や骨折リスク増加との関連性が指摘されている。そこで、閉経前後の地域在住者を平均9.9年間追跡したSWANコホート研究で、PPI新規服用者207名、ヒスタミンH2受容体拮抗薬新規服用者185名、非服用者1,676名の骨密度の経年変化を比較したところ、各群間に差違はなかった。従ってPPI服用が骨密度低下の原因となっている可能性は低いと結論された。(Solomon DH et al. J Bone Miner Res 30. 232-239, 2015)。

地中海食は認知機能低下を予防する

 スペインバルセロナ在住の認知機能正常かつ高い心血管リスク(糖尿病、肥満、高血圧、脂質異常症、喫煙など)を有するが血管障害未発症の高齢者447例(55-80歳の男性および60-80歳の女性)を対象に、地中海食の認知機能に対する影響につき介入期間中央値4.1年のRCTを用いて検討した。その結果、オリーブオイル(1L/週)やナッツ(30g/日)を加えた地中海食は認知機能の低下を有意に抑制した(Valls-Pedret C et al. JAMA intern Med 175. 1094-1103. 2015,published online 11 May 2015)。

握力低下が循環器疾患の危険率を高める

 筋力低下が循環器疾患を含むいろいろな疾患のリスクを高めるといわれていた。ここでは疫学研究により17か国、35-70歳の範囲で139,691人を対象として握力を4年間わたり計測した。その結果、5kgの握力減は、循環器疾患や脳卒中の発症の危険率が高いことを示した。握力計は簡便で廉価な危険率予知機器である。今後、筋力の決定因子の解明と死亡率を低下させる筋力の向上法を考案する必要がある(Leong DP et al.Prognostic value of grip strength:findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) study, published online 13 May 2015)。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.75

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