健康長寿ネット

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最新研究情報(機関誌Aging&Health No.73 2015春号より)

公開日:2016年8月26日 11時00分
更新日:2019年2月 1日 22時20分

国内外で発表された長寿科学等の研究に関する新しい発表や開発を紹介します。

カルシウム補充は頸動脈の動脈硬化を促進しない

 カルシウム(Ca)補充が心血管イベントを増加させる可能性が物議を醸している。CAIFOS研究(1,460名の高齢女性を対象に1.2g/日のCa補充が骨折に及ぼす影響を5年間追跡したランダム化比較試験)の追跡3年目に、総頸動脈内膜・中膜厚を超音波で計測し得た1,103名について検討すると、Ca摂取量が多いほど頸動脈硬化は抑制された(上位3分位の下位3分位に対するオッズ比0.67)ことから、Ca補充は頸動脈硬化を促進しないと結論された(Lewis JR et al. JBone Miner Res 29.534-541, 2014)。

血清中miRNAは骨折リスクのバイオマーカーとして有望か?

 マイクロRNA(miRNA)はmRNAの分解促進や翻訳阻害を介して細胞機能に影響を及ぼす。さまざまな生命現象ならびにがんや心臓病など疾患発症にも関わることが報告されているが、最近、骨粗鬆症患者の血清中ならびに骨組織で発現が増加している5種類のmiRNA(miR-21, miR-23a, miR-24, miR-100, miR-125b)が報告された。これらのmiRNAが骨リモデリングに及ぼす影響が明らかになれば、将来、有望なバイオマーカーとなり得る(Seeliger C et al.J Bone Miner Res 29.1718-1728, 2014)。

高齢者糖尿病では治療負担による害が治療によるベネフィットを上回る

 糖尿病治療による有害事象および負担と糖尿病治療によって得られるベネフィットに及ぼす年齢の関係を、米国NHANES 2009--2010に登録された糖尿病をシミュレーション対象として検討した。ベネフィットは、複数のRCTおよび観察研究から、HbA1cの低下と糖尿病網膜症、神経障害、微量アルブミン尿症、冠動脈疾患などの発症頻度の低下率をQALYs(Quality-adjusted lifeyears)の変化量として算出し数値化した。有害事象および負担については、死亡を0、健康を1として数値化した効用値から算出される非効用値(1-効用値)および失われるQOL日数により数値化した。その結果、HbA1cの改善は、若年患者により大きなベネフィットをもたらし、治療負担がやや大きくなると(非効用値0.01、QOL損失日数3.7日)、75歳糖尿病例では、HbA1cを1%低下させることにより生じる治療負担による害が、治療により得られるベネフィットを上回った(Vijan S et al . JAMA Intern Med174.1227-1234, 2014)。

服薬順守システムの開発

 高齢になると服薬忘れや服薬拒否などが多く見受けられる。タブレット内や表面、カプセル内にマーカを埋め込み、服薬状況を確認する服薬順守システムが開発された。システムはマーカ、体外から信号を読み取るパッチ型の受信器、その信号を表示するスマートフォンにより構成される。胃液によりマーカが電気化学的に反応してμAオーダーの信号を発信し、体外で受信する。電気的、機械的、化学的安全性が実証され、すでにFDA、CEマークの認証を受けているという(Hafezi H etal.An ingestible sensor for measuring medication adherence. IEEE Trans Biomed Eng 62. 99-109, 2015)。

リポタンパク受容体sorLAがAβペプチドを分解する仕組みを解明

 sorLAはアルツハイマー病(AD)に連鎖し、患者脳で発現量の低下が認められることなどから、ADに対する保護的効果が示唆されていた。大阪大学高木らは2014年、sorLAがADの原因物質であるAβと結合し、細胞内でライソソームに運搬することで分解を促進することを明らかにした。今回、sorLAのVps10p領域が10枚羽βプロペラ構造を取り、その中心トンネルにAβが結合することを結晶構造解析により示し、sorLAがアミロイドペプチドを結合・除去するクリアランス受容体である可能性を提唱した(Kitago Y et al. NaStruct Mol Biol. Published online 2 Feb, 2015)。

Myc:がん遺伝子が寿命制御遺伝子となる

 Mycといえば誰もが知るがん遺伝子である。その遺伝子が片方の染色体で機能しない状態になるとマウスの寿命が延びた。MYCという蛋白質は通常の遺伝子発現においても重要な役割を果たす転写因子なのだが、その発現レベルを半分に落とすと健康寿命が延びる。脂肪代謝が改善し、エネルギーや栄養の調節能も上がった。元気で健康な長寿マウスになった。だが、ストレス応答系の改善はない。この背景にはもともとMYCが蛋白質生合成を促進する働きがあったが、それをセーブすることで長寿化している可能性もある。米国のブラウン大学を中心とした共同研究成果である(Hofmann JW et al.Cell 160.477-488, 2015)。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 Aging&Health No.73

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