健康長寿ネット

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最新研究情報(機関誌Aging&Health No.76 2016冬号より)

公開日:2016年8月26日 14時00分
更新日:2019年2月 1日 22時20分

臭いセンサによる肺がんリスクのスクリーニング

 呼吸中のトルエン、キシレン、ベンゼン、ホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物の成分を臭いセンサで計測することにより、肺がんのリスクを知ることが可能となった。191人の被験者(うち25人は肺がん患者、166名は喫煙者)での計測結果から感度80%以上で識別ができた。呼気ガスを簡単に計測できる臭いセンサは肺がんリスクのスクリーニングに有効であることが示唆された(McWilliams A et al. IEEE Trans Biomed Eng 62(8). 2044-2054, 2015)。

コンタクトレンズを用いたグルコースモニター:涙からグルコース値を計測

 グーグルが血糖値検出可能なコンタクトレンズのパテントを取得した。糖尿病は自己管理が重要である。従来型の血糖モニタリングは1滴の血液を採取して直接的に血糖値を計測していた。コンタクトレンズ型はグルコースセンサ、計測回路、無線アンテナはコンタクトレンズの2層間に組み込み、極小の穴から涙を取り込み、グルコース値を毎秒計測するというものである。この方法は採血より侵襲性は低く、より高い頻度で簡単にグルコース値を計測、管理できる。血糖値真値との換算、計測時間遅れなどの課題は大きいが、健康モニタリングとして普及が期待される(グーグルが糖尿病関連事業を強化: Brian Buntz. MEDTEC Japan online2015/09/03、原著:Yao H et al.Biosens Bioelectron 26. 3290-3296 ,2011)。

脳のリンパ管が発見される

 これまで脳にはリンパ管は存在しないと考えられてきた一方、脳は免疫細胞による監視を受けていることも知られていた。バージニア大Louveauらは、髄膜の硬膜静脈洞に近接して走るT細胞に富む脈管を発見し、これがリンパ管であることを組織学的に明らかにした。さらにこのリンパ管は脳脊髄液から深頸リンパ節へとつながることも示した。この教科書を書き換える発見により、多くの神経疾患における免疫応答に対する理解が進むと期待される(Louveau A et al. Nature 523. 337-341,2015)。

グリッド細胞の機能低下がアルツハイマー病発症を予測する?

 昨年、空間把握を司る脳のグリッド細胞の発見に対しノーベル医学生理学賞が授与された。グリッド細胞はアルツハイマー病の病変が初期から認められる嗅内皮質に存在する。Kunzらは、アルツハイマー病の危険因子であるApoEε4アレルを保有する人では、30歳以下の段階からこの細胞の機能が低下していることをfMRIにより新たに示した。グリッド細胞の機能の差が、アルツハイマー病発症の早期マーカーとなるかどうか、さらなる研究が期待される(Kunz L et al. Science 350. 430-433,2015)。

新たな長寿薬へのヒント

 長寿薬へのヒントはこれまでにもいくつかみつかっている。IGF1経路を抑える、mTORを抑える、あるいはオートファジーを活性化するなど。英国ロンドン大学でショウジョウバエを対象に老化研究を進めるLinda Partridgeらが、今回また新たな経路の重要性を指 摘した。Ras-Erk経路の遮断である。このシグナル伝達経路の下流にはETS型の転写因子Aopがある。この経路の阻害剤であるトラメチニブを投与すると、ショウジョウバエはそれだけで長命化した。実はこの薬は日本のJTが開発し欧米で抗がん剤として認可されている。今後、線虫やマウスなどでも調べていく必要があるが、このシグナル系路も健康長寿への新たなドラッグターゲットとなる可能性がある(Slack C et al.Cell 162(1). 72-83, 2015)。

2型糖尿病では血糖管理の良否と骨折リスクが関連している

 2型糖尿病は骨粗鬆症性骨折の危険因子であるが、血糖コントロールとの関連性は十分に明らかではなかった。台湾で約2万人の高齢2型糖尿病患者を平均7.4年間追跡した縦断データを後ろ向きに解析したところ、1,514例の大腿骨頸部骨折が発生し、登録時のグリコヘモグロビンA1c(HbA1c)と骨折発生率には有意な正相関が認められた。HbA1c 6 から7%に対して9 から10%でハザード比1.24(95%CI 1.02-1.49)、10%以上で1.32(1.09-1.58)であった(Li CI et al. J Bone Miner Res 30. 1338-1346,2015)。

高齢期発症であっても糖尿病は認知症のリスクとなる

 66から105歳のカナダ オンタリオ州住民において1995年から2007年に新たに糖尿病と診断された225,045人と、その間糖尿病と診断されなかった668,070人を2012年まで追跡し認知症の発症率を比較した。その結果、新規発症糖尿病における認知症発症率は、非糖尿病に比較し16%高値であった(HR : 1.16, 95%CI : 1.15-1.18)。糖尿病は認知症のリスクとされているが、この研究により高齢期発症の糖尿病のみを取り上げた場合でも、糖尿病が認知症のリスクとなることが明らかとなった(Haroon NN et al. Diabetes Care 38. 1868-1875, 2015)。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.76

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