健康長寿ネット

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最新研究情報(機関誌Aging&Health No.78 2016夏号より)

公開日:2016年8月26日 16時00分
更新日:2019年2月 1日 22時19分

汗の複数の成分を同時に計測できるウェアラブルセンサーの開発

 汗の中の複数の成分を同時に計測できる、実環境で利用可能なウェアラブルセンサーが開発された。これまで単成分を検出できるものは存在したが、グルコースや乳酸等の代謝物とナトリウムやカリウム等の電解質を実用的に計測できるものは世界初ではないだろうか。継続的にこれらのデータを生活場面で取得できれば、健康や医療に革新をもたらすであろう。Natureでこのような応用研究の論文が掲載されたことにも注目である(Gao W et al. Nature 529. 509-514, 2016)。

ライフコースを通じた身体活動の重要性

 InCHIANTI研究において1998年~2000年から2007年~2008年まで追跡された高齢者1,149名を対象にして、20~40歳、40~60歳時および1年前の身体活動を不活発(0点)、中程度(1点)、活発(2点)に分類し、その合計点を算出し、3年、6年、9年目の追跡調査における身体機能と移動能力障害、さらには2010年末までの死亡との関係を分析した。その結果、身体活動の合計点が高いものほど高齢期の移動能力障害や死亡の発生率が低かった。本研究はライフコースを通じた身体活動の重要性を指摘している(Stenholm S et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 71. 496-501, 2016)。

先進国における認知症発症率の低下

 先進国では人口高齢化に伴う認知症患者数の増加が社会的問題となっている。しかし英国医学研究会議MRCの報告では、英国内における65歳以上の認知症の罹患率は、1990年から約20年間でほぼ20%低下し、特に80歳以上の男性では約40%低下したことが示された。また米国フラミンガム心臓研究においても、過去30年で60歳以上の認知症発症率の低下が認められている。その要因を明らかにすることで、有効な認知症予防策の発見に繋がることが期待される。(Matthews FE et al. Nat Commun 7. 11398, 2016;Satizabal CL et al. N Engl J Med 374.523-532, 2016)。

アルツハイマー病脳のPETイメージング:Tauの蓄積がみえる

 アルツハイマー病(AD)脳でのアミロイドβ(ベータ)の蓄積は、近年PIB化合物での脳内イメージングが可能である。しかし、一方、認知能との相関がより高いタウのイメージングについては長らく信頼できるPETトレーサーがなかった。今回、カリフォルニア州立大学バークレー校のグループが18F-AV-1451という化合物で非常に信頼性の高いPETイメージングに成功した。年齢に応じた相関があり、AD脳では顕著に高いシグナルがみられ、特に側頭葉でのシグナル強度は認知能の低下度とよく逆相関し、AD脳の進行度の指標となるいわゆるBraakステージともよく一致した。今後の応用展開が期待される(Schöll M et al. Neuron 89. 971-982, 2016)。

レスベラトロールは脳にもよい:老化ラットで神経突起を保護

 抗酸化作用のあるポリフェノール、中でも赤ワインに含まれるレスベラトロールがアンチエイジングにいいことは今や常識だ。レスベラトロールはSIRT1などの長寿遺伝子サーチュインを活性化し、核内転写因子のアセチル化修飾に作用して遺伝子発現系の変化を誘起する。生体内では主に代謝変動を促すと考えられていたが、神経の保護作用もある。今回、メキシコの研究グループが20か月齢の老齢ラットにレスベラトロールを2か月間投与して、大脳新皮質や海馬のニューロンの樹状突起の形態をゴルジ染色法で精細に調べた。その結果、やはりいい。投与群では大脳新皮質でも海馬でも樹状突起の長さもスパインの密度も上昇。高齢期でもレスベラトロールの長期投与でニューロンの形態が若返る。これはヒトでのアルツハイマー病脳へも少し助けになるかもしれない。(Monserrat Hernández-Hernán dez E et al.Synapse 70. 206-217, 2016)。

カロリー制限は寿命を延長する可能性はあるが、骨は大丈夫か?

 米国の非肥満(平均BMI25.1)若年成人(平均年齢37.9歳)218人を対象に、25%カロリー制限(CR)とアドリブ摂食(AL)を比較する2年間のランダム化試験が行われた。その結果、CR群では体重-7.5キロ、体脂肪-5.3キロ、筋肉(除脂肪軟部組織)-2.2キロ、腰椎骨密度-0.013g/cm2、大腿骨頸部骨密度-0.015g/cm2と、AL群に比し有意(P < 0.001)に減少した。カロリー制限は骨の健康を犠牲にする可能性がある(Villareal DT et al. J Bone Miner Res 31. 40-51, 2016)。

骨形成不全症原因遺伝子のレアバリアントと骨粗鬆症との関係

 アイスランド人2,636例を対象に大規模全ゲノムシークエンスを施行し、骨粗鬆症と関連するレアバリアントを探索したところ、I型コラーゲンα2遺伝子(COL1A2)上のアミノ酸置換を伴う2変異(p.Gly496Ala、p.Gly703Ser)が、低骨密度と骨折の両者と有意に関連していた。本遺伝子は常染色体優性遺伝形式を示す骨形成不全症の原因遺伝子であるが、今回、骨粗鬆症との関連を認めた変異を有する個体には低骨密度以外の表現形はなかった(Styrkarsdottir U et al. J Bone Miner Res 31, 173-179, 2016)。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.78

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