健康長寿ネット

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最新研究情報(機関誌Aging&Health No.77 2016春号より)

公開日:2016年8月26日 15時00分
更新日:2019年2月 1日 22時20分

歩行速度は高齢期の余命および健康余命を予測する

 すでに大規模な統合研究により、歩行速度は高齢期の総死亡の予測因子であることが示されている(JAMA 2011;305:50-58)。本研究では、既存の7つの前向き研究のデータを統合して大規模サンプル(n=27,220)を作成し、これを用いて初回調査時の歩行速度が3年後の障害の発生を予測する独立因子であることを示した。歩行速度は、高齢期の余命および健康余命を予測する優れた尺度といえ、今後、臨床現場での応用が期待される(Perera S et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 71. 63-71, 2016)。

ハンチントン病においてRANTが起きていることを発見

 近年、前頭側頭葉変性症の病因遺伝子C9orf72で開始コドン非依存的な翻訳(repeat-associated non-ATG translation,RANT)が見出されていた。今回、RANTがハンチントン病におけるハンチンチン遺伝子の異常伸長したCAGリピートでも生じており、poly-Gluのみならず、poly-Ala、Ser、Leu、Cysペプチドも翻訳され、脳に蓄積していることが示された。この発見はトリプレットリピート病の病因解明に重要な知見を与えるものである(Bañez-Coronel M et al.Neuron 88. 667-677, 2015)。

FUS変異はliquid dropletからhydrogelへの位相を促進する

 FUSの点突然変異は家族性ALSを発症させることが知られている。トロント大学のMurakamiらはFUSのlow complexity(LC)領域が、可逆的なlipid droplet様構造を取ってhydrogelに位相すること、またFUSの変異はhydrogel化を促進して、不可逆なhydrogelを形成することを見出した。同グループは線虫モデルでFUSのLC領域が神経毒性を発揮することも見出し、FUSによる神経変性機構解明に重要な手がかりを与えた(Murakami T et al. Neuron 88. 678-690, 2015)。

大脳新皮質が薄くなる:その分子背景を探る

 老化すると頭が薄くなる。髪の毛の話ではない。脳の新皮質、つまりニューロンの層の厚みの話で、より深刻な問題である。それが年とともに薄くなる。実はそれは成熟期以降に薄くなるというのではなく、生後からどんどん薄くなっていく。大脳のほぼ全領域である。しかし脳の領域ごとに詳しく解析すると、その減退速度、年齢ごとのスリム化のパターンは領域ごとに異なる。それは遺伝的な組織形成の根源的な原理に起因するという。ノルウェーのオスロ大学を中心とした研究結果だ。4歳児から88歳の老人まで、約1,000人のMRI画像を総合的に解析している(Fjell AM et al. Proc Natl Acad Sci USA 112. 15462-15467, 2015)。

ゲノム解析からみえてくる長寿化への新たな遺伝子候補

 人はみな同じ遺伝子セットをもっているが、遺伝子の配列はそれぞれの人ごとに微妙に異なる。いわゆるSNP(スニップ)という蛋白質機能に影響を与えないレベルでの非常に些細な塩基置換だ。今回、米国のスタンフォード大学とイタリアのボローニャの大学の共同研究で、何万人、何十万人のゲノムデータを比較解析するGWAS(ジーワス)という解析手法にアルツハイマー病などの老年性疾患への関連性を強化したiGWASという方法を開発。百寿者と一般老人のゲノムを比較して長寿に関連する候補遺伝子を、従来から知られていたAPOE以外に新たに3つ見出した。その中にSH2B3というシグナルアダプターの遺伝子がある。これは糖尿病や高血圧、炎症などとの関連性も指摘されており、老年病へのリスク因子であると同時に長寿化遺伝子でもある可能性がみえてきた(Fortney K et al.PLoS Genet. Dec 17, 2015)。

果物と野菜の日常的摂取は大腿骨頸部骨折の予防にも有益

 果物や野菜の摂取が健康長寿に有益であるとする研究は多いが、大腿骨頸部骨折との関連性が初めて報告された。スウェーデン在住地域住民75,591人(男性40,644人、女性34,947人)を対象に、果物と野菜を合わせて101グラムを1単位として1日当たりの摂取量を求め、平均14.2年間追跡した結果、5単位までは容量依存的に大腿骨頸部骨折の発生を抑制した。1日5単位摂取した場合に比較して、摂取量ゼロでは骨折リスクのハザード比が1.88(95% CI:1.53-2.32)であった。(Byberg L et al. J Bone Miner Res 30. 976-984,2015)。

新規骨粗鬆症治療薬ブロソツマブ(抗スクレロスチン抗体)

 骨粗鬆症治療薬の進歩はめざましい。スクレロスチンは骨細胞から分泌され骨形成を抑制する骨代謝調節因子であるが、それに対するヒト型モノクローナル抗体(ブロソツマブ)が骨形成促進薬として開発され、閉経後骨粗鬆症患者を対象に第2相試験が完了した。総計120名(平均年齢65.8歳)に2~4週ごとにブロソツマブ180~270mg皮下注を1年間行った結果、プラセボ群に比しブロソツマブ群では用量依存的に有意な骨密度増加効果が認められた(Recker RR et al. J Bone Miner Res 30. 216-224, 2015)。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.77

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