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フレイルとは―その概念と定義を中心として

葛谷 雅文(くずや まさふみ)

名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学分野教授

はじめに

 「フレイル」は今年の5月に日本老年医学会からのステートメントで、欧米で使用されているFrailtyの日本語訳として初めて使用された言葉である。"Frailty"は老年医学の専門家の間では周知された概念であり、認知された言葉であったが、これまで日本語では「虚弱」「衰弱」などが使用されることが多く、ネガティブな印象が強かった。日本老年医学会では、Frailtyは超高齢社会に突入したわが国において、高齢者の健康長寿を実現するためにも、また健康寿命を延伸するためにも大変重要な概念であると捉えている。そのため、これを広く国民に周知することが必要と考え、ワーキンググループ(荒井秀典座長)を立ち上げ、初めの仕事として、まずはFrailtyの日本人によりなじみやすい日本語訳を検討し、「フレイル」を使用するに至っている。

フレイルの概念の変遷

 1981年にカリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)のRubensteinは、高齢者総合機能評価が必要な対象者をfrail elderlyとし、その特徴を「多くの慢性疾患と同時に精神心理問題を抱え、社会的な孤立を併せ持つ状態」とした1)。また、Fiskはfrail elderlyを包括的な医療提供の必要となる対象者として、「著しく身体的、精神的、社会的に障害を持ち、多くのサービス供給が必要な高齢者」としている2)。さらに、老年学の分野においても種々の障害のため施設入所が必要な高齢者を"frail elderly"と一般的に呼称されていた。実際、Knightらは「Who are the frail elderly?」の問いに対して、「心身の障害があり、既存のサポートシステムでは在宅療養が困難であるような高齢者」としている3)

 1988年にWoodhouseらは高齢者を2つに分け、fit elderlyを「自立した生活が可能で、肝腎機能に問題なく、検査でも異常がなく、定期的な服薬もしていない高齢者」とし、frail elderlyを「移動に関しても自立しておらず、日常生活上で何らかの介助を要し、多くは介護施設に入所している65歳以上の高齢者──対象者の多くは重篤な心肺疾患、肝腎疾患、代謝疾患に罹患しているわけではないが、検査上は軽度のさまざまな異常が観察され、定期的な投薬が必要な状態にある。一般にアルツハイマー病、多発脳梗塞、パーキンソン症候群、骨粗鬆症、変形性関節症、骨折後などを基礎疾患として持っていることが多い」としている4)

 このように、当時はフレイル、フレイル高齢者を基本的日常生活動作(ADL)障害があり、さまざまな基礎疾患を抱え、在宅療養の継続がむずかしい高齢者として捉えられていた。

現在のフレイルの概念へ

 1990年代になり、frailtyを種々の介入が可能な状況、すなわち可逆的な状態と捉え、老年医学的な介入により恩恵を受ける対象者をfrail elderlyとして定義付ける流れが出始めた。言い換えるとfrailtyphysically independent(自立)とdependent(要介護状態)の中間に位置する状態として定義する流れである(図1)。BuchnerとWagnerは、1992年にfrailtyを初めて「体の予備力が低下し、身体機能障害に陥りやすい状態」とし、障害の既にある状態とは明確に区別し、ADL障害の前段階として定義付けた5)。これらは「加齢に伴う症候群として、多臓器にわたる生理的機能低下やホメオスターシス(恒常性)低下、身体活動性、健康状態を維持するためのエネルギー予備能の欠乏を基盤として、種々のストレスに対して身体機能障害や健康障害を起こしやすい状態」との概念が基盤に存在する6)7)(図1、2)。1997年にCampbellBuchnerはフレイルの評価として、1.骨格筋機能、2.持久力、3.認知機能、4.栄養状態評価の4つの重要性を提案した6)

要介護状態に至るまでを疾病モデルと区別し、フレイルが体の予備能力低下によるADL障害の前段階であると定義された図
図1:要介護に至る疾病モデルとフレイルモデル
加齢に伴う様々な機能の低下に対する健康状態を保持するエネルギーとフレイルとの関連を表す図
図2:フレイルとエネルギー不足

 その後、Friedらは身体的frailtyの定義として、1.体重減少、2.疲労感、3.活動量低下、4.緩慢さ(歩行速度低下)、5.虚弱(握力低下)の5項目を診断基準として、3つ以上に当てはまる場合はfrailとして診断し、1つまたは2つ該当する場合はprefrailとした8)。このフェノタイプ(肉眼で見える生物の形質)は明らかに先の3年間におこる転倒、移動障害、ADL障害、入院、生命予後に関連していることが明らかにされた。Friedはさらにこのfrailtyをサルコペニア、予備力低下(恒常性低下)と関連させる理論を提示した9)

 これらの概念は超高齢社会に突入しているわが国が直面している要介護高齢者の増加予防策である、介護予防事業とリンクして考えることができ、大変わかりやすい。高齢者が要介護状態に至る過程は脳血管障害などの疾病が要因になるケース以外に、フレイルを要因としているケースがあり、これは若年者にはない高齢者特有のものである(図1)。また、これら身体的フレイルを抱える対象者はその背景に大きな種々の問題を抱えており、その1つひとつが要介護状態に至るリスクであることも間違いがない。すなわちフレイルの診断された高齢者には、その問題以外の表面化していない問題が山のように存在することを認識しなければならない。図3は、それを模式的に表した概念図(氷河モデル)である。

身体的フレイルとその他のフレイル

 現在、一般的に使用されるのが身体的フレイルであるが、フレイルが要介護態になる前段階と考え、介入が必要な対象者ならびにその時期と考えると、フレイルは身体的なものだけではなく、社会的、さらには精神・心理的な部分を考慮に入れる必要がある。実際、CampbellBuchnerの提案には認知機能評価が含まれている6)。さらに要介護に至る要因の中で社会的孤立(家縛り状態)、ならびに認知機能低下、抑うつなどが要介護状態の独立した危険因子であったり、身体的フレイルの引き金になったりすることはよく知られた事実である(図3)。

身体的フレイルと包括的フレイルとその背景を表した図
図3:身体的フレイル・包括的フレイルとその背景(氷山モデル:ceberg mode

 したがって、フレイルを考える時には身体的フレイルと同時に精神・心理的フレイル、社会的フレイル(包括的フレイル)が背景に存在する可能性を考えて対応する必要がある。

フレイルの評価法

 表に今までの代表的なフレイル評価法、ならびに組み込まれている項目をまとめた。Rockwoodらが提唱しているように包括的な因子(70項目もの症候、疾病、身体機能障害、検査異常なども含む)10)を評価するものもあれば、SOFのように3項目の評価で済むものもある15)。この中で、上記の三要素(身体的、精神心理的、社会的)すべてを包括的に組み込んでいる評価法は意外と少ない。

表:種々のフレイル評価法とその刻目
フレイル評価法と項目がまとめられた表

 日本で介護予防事業の一環として現在使用されている基本チェックリストにはこれらのコンポーネントが組み込まれている。

参考文献

  1. Rubenstein LZ. Specialized geriatric assessment units and their clinical implications. West J Med. 1981;135:497-502.
  2. Fisk AA. Comprehensive health care for the elderly. JAMA. 1983;249:230-6.
  3. Knight B, Walker DL. Toward a definition of alternatives to institutionalization for the frail elderly. Gerontologist. 1985;25:358-63.
  4. Woodhouse KW, Wynne H, Baillie S, et al. Who are the frail elderly? Q J Med. 1988;68:505-6.
  5. Buchner DM, Wagner EH. Preventing frail health. Clin Geriatr Med. 1992;8:1-17.
  6. Campbell AJ, Buchner DM. Unstable disability and the fluctuations of frailty. Age Ageing. 1997;26:315-8.
  7. Hamerman D. Toward an understanding of frailty. Ann Intern Med.1999;130:945-50.
  8. Fried LP, Tangen CM, Walston J, et al.; Cardiovascular Health Study Collaborative Research Group. Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56:M146-56.
  9. Xue QL, Bandeen-Roche K, Varadhan R, et al. Initial manifestations of frailty criteria and the development of frailty phenotype in the Women's Health and Aging Study II. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2008 ; 63 : 984-90.
  10. Theou O, Brothers TD, Rockwood MR, et al. Exploring the relationship between national economic indicators and relative fitness and frailty in middle-aged and older Europeans. Age Ageing. 2013;42:614-9
  11. Schuurmans H, Steverink N, Lindenberg S et al. Old or frail: What tells us more? J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2004;59A:M962-M965."
  12. Gobbens RJJ, van Assen MALM, Luijkx KG et al. The Tilburg Frailty Indicator: Psychometric properties. J Am Med Dir Assoc 2010;11:344-355.
  13. Rolfson DB, Majumdar SR, Tsuyuki RT et al. Validity and reliability of the Edmonton Frail Scale. Age Ageing 2006;35:526-9.
  14. Abellan VKG, Rolland Y, Bergman H et al. The I.A.N.A. task force on frailty assessment of older people in clinical practice. J Nutr Health Aging 2008;12:29-37.
  15. Ensrud KE, Ewing SK, Taylor BC, et al. Comparison of 2 frailty indexes for prediction of falls, disability, fractures, and death in older women. Arch Intern Med. 2008 ;168:382-9.
  16. 新開省二、渡辺直紀、吉田裕人ら.要介護状態化リスクのスクリーニングに関する研究.介護予防チェックリストの開発 日本公衆衛生学会誌 57: 345-353, 2010.

筆者

筆者_葛谷雅文先生
葛谷 雅文(くずや まさふみ)
名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学分野教授
略歴:
1983年:大阪医科大学卒業、1989年:名古屋大学大学院医学研究科卒業、1991年:米国国立老化研究所研究員、1996年:名古屋大学医学部附属病院(老年科)助手、1999年:同病院講師、2002年:名古屋大学大学院医学系研究科健康社会医学専攻発育・加齢医学講座(老年科学分野)助教授、2007年:同大学大学院准教授、2011年より現職、2013年:名古屋大学医学部附属病院地域医療センターセンター長(兼務)
専門分野:
老年医学、栄養・代謝、サルコペニア、動脈硬化、認知症、地域在宅医療。医学博士

※筆者の所属・役職は発行当時のもの

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団 機関誌 Aging&Health No.72 2015年1月発行

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